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変容する盤面

 ヴィルド配下のバーノレ。自由奔放に生き、何かを見定めるように世界を歩きそして死ぬ。最後の命になってようやく神の望みを聞きとげ盤面としての動きを見せる。フォルディア王家に保護された彼は知識を小出しに与えて王家の力を誘導していく。初めは私利私欲を満たすように助言を行うが、信用が高まればそれをわずかずつ外に向けるように誘導する。その行為が王家の心証を多少落としても、結果として更に欲を満たすようになればもう逆らうことは無い。アルカイドには適切な力と助言を与えたが、王家に対してはただ助言を与えるだけだった。その助言は国を繁栄させると共にバーノレへの依存度を加速度的に増加させていき、早い段階で国そのものがバーノレの傀儡と化した。アルカイドは騎士爵から男爵へ、そして子爵に返り咲く。急激な出世に警戒を強めたがそんな些細な嫉妬を一蹴できるほどにアルカイドの下地は強くなっていた。この調子で貢献していけば伯爵までは間違いないだろうと言われている。しかし逆にアルカイド不審に思った。手柄を立てられているのは事実だがさすがに早すぎると。かつての盟友が手を回していることは確実だろうが、それにしてもと。実際の所アルカイドの出世は周囲の状況からすれば順当だった。ただ貴族社会の力関係や根回しが出世に大きく影響を与えているのが慣習だったからだ。バーノレはそれを正常化しただけで、アルカイドがその恩恵を一番大きく受けただけだ。急激な体勢の変化は反発を呼ぶが、それを理解しているバーノレはその反発を押さえるだけの力を事前に準備していた。バーノレは反発心の強いものを裏から意図的に焚きつけ潰す。時流を読めずにあぐらを掻いていたおおくの貴族が粛正された。古い貴族の流れであるアルカイドはさすがに盟友に口を出した。

 

「これでは恐怖で支配するものと何も変らないでは無いか。」

 

「恐怖もあるが、実績には答えている。不満があるものを押さえつけたのでは無い、口しか出ない無能を排除しただけだ。」

 

 王家を中心とした支配体制はより強固なものとなり二年程度で周辺国家一つ二つでは相手にならないという所まで来た。しかし国を二分する反乱が今一度起きる。旗頭はアルカイド。命を助けられたにもかかわらずまた反乱するかと避難も多い中、それでもアルカイドに味方するものは多かった。

 

「今の王家は外部からきた獣に操られた傀儡である。獣を排除し正当な姿を取り戻さなければならない。」

 

 アルカイドは王家への反乱ではなく王家を助けるための反乱と宣誓した。結果の所バーノレは秘匿していたミーバ戦力を表に出すこと無く、そして王家を助けることもせず反乱軍の勝利で幕を下ろす。

 

「君の力ならこんな状況になる前に覆せたはずだろうに。」

 

「それで国が傷つき滅んでは目もあてられんよ。」

 

 玉座で気絶している王の前にたたずむバーノレ。それに対峙するアルカイド伯爵。

 

「人は精霊ほど強くは生きられない。やはり君とはありようが違うようだ。」

 

「それが私の失敗か。」

 

 バーノレは収納から炎が揺らめく短杖を取り出しアルカイドの前に投げる。

 

「私が死ねばお前に渡した力は消える。その杖はその代わりだ。城の地下に封印してある扉がある。それはその鍵であり、その先にあるものの為にある。未来は無理かもしれないが、今のお前達には必要になるだろう。」

 

「抵抗しないのか?」

 

 小さく丸まったバーノレを見てアルカイドは尋ねた。

 

「私はお前に賭けて今回の盤面に望んだ。今ここでつまずくようではこの先もままなるまい。多くの知識と知恵を持っても世界を進むことは難しいのであろう。」

 

 アルカイドにバーノレの言うことの多くは理解出来なかったが、アルカイドはその獣が全てを諦めたことを悟った。アルカイドはバーノレのコアを突き刺しとどめを刺す。この瞬間バーノレは盤面における最初の脱落者となった。アルカイドが短杖を持ち指定された扉を開ける。そこには十万に及ぶミーバ兵。アルカイドは改めて手加減されていたことを知る。掘り返された地下空間には無数の武具、財宝、資源がありとてもこんな小国で扱われるような量では無かった。

 

「あいつは最後の最後まで俺の盟友だったんだな。」

 

 その後アルカイドは王家と再度和解。体制を何一つ変更すること無く、反乱軍の地位や財を保証することを条件に、全ての支配権を返上した。多少の混乱はあったものの国は元の姿に戻った。王家の自堕落は多少続いたものの周囲の助けもあり立ち直りは早かった。アルカイドは全てを放棄し責任をとって隠遁もしくは処刑されるつもりだったが、王家を含めて周辺のものがそれを止めた。バーノレと接触が長かった王との話し合いによりアルカイドは貴族でもなく平民としてでもなく王家付きの相談役として残留することになった。国はバーノレの残した力と共に国力をさらに伸ばし周辺を制圧し大国として片隅に語られる程度には発展していった。

 

 一方で光輝の精霊フィアはしばらく地下組織を操りながら次の獲物に狙いを定める。しかし粗暴な地下組織といえど力だけで解決することは少なく信仰に比べるとその広がりは圧倒的に少ない。明らかに邪魔をされている気配があり思うようには進まない。フィアは今一度地上の探索を進めきっかけを探す。情報を見、目をつけたのはプレセア-ル率いる『深き森の大都市(ティーファーヴァルド)』であった。すでに勢力圏は森からはみ出している所もあり深き森ではなくなっていたが、乗っ取れば手間が省けるとフィアが動き始める。フィアは都市に侵入し洗脳まがいの話術で信徒を増やしていく。以前と違い都市が広くなりすぎておりプレセアールはこの時点ではフィアを認識していない。フィア自体は直接攻撃をしているわけではないので都市防衛機構が動いていないということもあった。ただ都市が大きくなったとは言えプレセアールの都市内での人気は高く、フィアも簡単に民衆を洗脳出来たわけではない。以前と違い光満教という支援も無い為、その洗脳力は決して大きくない。それでもわずかずつではあるがフィアは自らの手駒を増やす。狂信者が百名ほどに増えた頃、その異常性がようやく都市警備隊の耳に届く。フィアが洗脳しやすい人間を中心に集めてしまった為、人間の比率が三割り程度と低めであるこの都市において人間の集団という存在が異常事態に映ったからである。その時は反乱する意図はまるでなかったが、都市の成り立ちの関係上それは反乱分子と見られてしまう。都市警備隊に見とがめられフィアも動きが取りづらくなり信徒の増加は一時停止する。フィアと警備隊であるリザードマンやトロールといった知的魔獣種との価値観の相違から警備隊を取り込むことが難しくフィアの計画は難航する。業を煮やしたフィアは外から自らの信徒を流入させ、異分子が侵入したことで対立は激化した。治安が極端に悪化しようやくプレセアールに問題だけが認識される自体になる。最近では珍しいがこれまで無かった事が無いわけでは無い問題であることからプレセアールはまだ指示だけにとどまる。三ヶ月たっても問題は沈静化どころか拡大するばかりでプレセアールが行った興味本位の精神探知魔法によりようやく敵対選定者という存在が明るみに出る。明確な敵の攻撃と認識され都市からの行動は鎮圧から討滅に瞬時に切り替わる。混乱に乗じて都市民衆の取り込みを図っていたフィアは信徒と共に一度撤退。犠牲と共に追跡振り切り体制を整える。千対五十万という小競り合いにも成らない戦力差から戦いは一瞬で終わると思われたがフィア単独での戦闘によりプレセアール軍の被害はただ増加した。都市機能に問題が出るとプレセアールが動き両者が相対する。

 

「なるほど、無意味に敵対すると思えば選定者か・・・。気配を察して離れていった小精霊がマシに見えるのぅ。」

 

「小物の話などどうでもいい。お前を倒してここを頂くだけだ。」

 

 フィアは閃光を放ちプレセアールを攻撃する。プレセアールは攻撃を回避すること無くその身に受けて肩を四散させる。フィアは手応えを感じながらも傷とも言えない惨状を一瞥すると興味なさそうにフィアに向き直る。

 

「所詮は光か。」

 

 プレセアールはめんどくさそうにため息をつく。避けた肩口から新たに手が生える。フィアからすればその再生力は驚異だが、無限に生えることがないのだから死ぬまで砕けばよいと高をくくる。プレセアールが小声で何かをつぶやけば無数の闇塊がフィアを襲う。性質を把握したフィアは全ての攻撃を受け止め吸収する。

 

「その侮った精霊に貴様は敗れるのだ。」

 

 フィアはすぐさま巨大な光線で反撃する。プレセアールも慌てること無く暗幕を張り光線を遮断する。プレセアールは属性、威力を変え多彩にフィアに攻撃を仕掛けるがどれもフィアに効果は無い。フィアの展開する無敵の防御壁がすべてを阻む。

 

「はぁ確かに面倒な手合いですね。」

 

 あらゆる攻撃を無効化されたプレセアールはだるそうにつぶやく。フィアもこれだけ攻撃を無力化しダメージも与えているのに焦りもしないプレセアールに内心焦ってはいたが都市へのアピールとしては問題ないとも考える。ただそろそろ終わらせるべきだと力をためる。

 

『天を地に。光を無に。力あるものに無力を。』

 

 プレセアールはフィアが余裕をもって動きを止めた瞬間に詠唱を行う。フィアは術が完成する前に攻撃する手を選んだ。予定通りではないとはいえプレセアールの半身を吹き飛ばすほどの力はある。輝く光球がプレセア-ルに襲いかかる。フィアは術の完成前にと攻撃を放ったが実際にはすでにプレセアールの術は完成していた。プレセアールから広がる無色の領域は光球に触れると速やかに小さくなりふよふよと漂うように飛び始める。その力なき飛行は重力に引きずられるように地面にぶつかり霧散する。フィアが状況の解析を行おうと観察を始めた時には広がり続ける領域に巻き込まれ、その力を大きく失い地面に落ちる。

 

「な?」

 

 フィアは驚き立ち上がろうとするがそれすらもままならず地面の上でジタバタ動く。プレセアールがゆっくりとフィアに近づく。

 

「本当にめんどくさい。光るか遮断するかしか脳が無く、何を恐れてか近づいても来ない。安全を確保してしか戦えない小物。」

 

「何をしたっ。」

 

 プレセアールが実にだるそうにフィアを蔑む。悪あがきと言わんばかりにフィアはむやみに動きながら叫ぶ。

 

「何をしたも言った通りよ。この呪いに包まれれば空は飛べず、光は消え、強い力を失う。私も弱体化するけど、貴方は無力化するわ。」

 

 フィアは言われたことを理解した。プレセアールは懐からまがまがしい木の枝を取り出す。それを躊躇無くフィアに突き立てる。防壁がなぜ効果が無かったかなど考える間もなく激痛に包まれる。それをなした後プレセアールはまたその場を離れ寝床を作るかのようにカーペットを敷きそこに寝転がる。

 

「貴方が滅ぶまで付き合うわ。何か言いたいことがあれば聞くわよ。」

 

 プレセアールは興味がなさそうにつぶやき目を閉じる。フィアは激痛に包まれたまま大きな抵抗も出来ずに光を失い霧散した。そのまま朝目覚めたプレセアールは何事もなく城に帰還した。フィアは復活残数が残っていたにもかかわらずこの時点で棄権。二人目の脱落者が確定した。

 

 ゲラハドは不毛なにらみ合いが続く中、忠臣を使って水面下で貴族軍とやりとりを始めた。忠臣も人間を信用しているわけでは無いが主が望むならと妥協の結果だ。貴族側も魔物討つべしと息巻いているが、結局の所湿地帯の希少品を狙っての打算的なパフォーマンスだ。中には正義感から本気でそう考えている者もいるが少数派である。当然金銭面において消費の激しい戦線維持を好きにやっているわけでは無く引くに引けなくなっているだけである。ゲラハドは両者の思惑が面子の問題になっていることを挙げて特に利益を求めて戦いに参戦している貴族を中心に交渉を始める。ゲラハド的には湿地帯を保持したいが湿地帯の特産品が貴族の主目的である以上そこはすっぱり切り捨てた。貴族軍の利益と面子を保持するために湿地帯の放棄を決定する。これには忠臣達も大反対であったが、その後の展開を聞けばそう悪い話では無いということに至る。湿地帯ほどの利益があるか分からないがある貴族の領地内にある山岳地帯に穏便に移り住むことを提案する。動物や魔物の住処となっている森と山は当貴族では開発が困難で数世代にわたって放置されている。湿地帯を放棄する代わりに山岳地帯を事実上の認定支配地域にするという案がお互いで交わされる。物資の取引は今まで通りお互いの価値観に基づいて行い、両者は原則不干渉の関係になる。領地を保有貴族から不満はでるが優先的な交渉権を得られるということもあり、開発が滞っている地域が金を生み出すならと結果的に折れる。貴族側には密かにこの情報が展開され貴族軍のほとんどが裏交渉に合意する。ゲラハドは配下の魔物達に生き残るために撤退と銘打って行動を共にすることを呼びかける。当然反発しか生まれないが種族ごとに説得を行い友好な種族とは概ね同意が取れる形になった。力で従えていた種族達はどうか。どちらの目線から見ても生け贄にされたという形になる。ゲラハドは残される魔物達が最も不活性になる時間、早朝前を見計らって同意した種族を連れて夜逃げする。十万近い魔物の大移動となればばれないわけは無い。しかし事前に準備が終わっておらず意識が目覚めきっていない、朦朧としている状態ではそれに抵抗することもできず、そして朝日と共に動き出した貴族軍の侵攻を受けて四散した。施設は焼き払われ湿地帯はある意味古き時代の姿を取り戻した。資源の位置を詳細に知らされていた貴族達は先を争うように湿地帯をむさぼり尽くした。小さな危険生物など細かに記されたその情報はちょっとした対策さえあれば素人の人間でも湿地帯の攻略を容易にした。そして希少品を刈り尽くした貴族はその小さな手柄をもって笑みを浮かべて撤退した。湿地帯は再び無価値な地域となり、周辺の村は騙された、ほどでは無いが結局あのトカゲ人の手のひらで踊らされたのでは無いかと感じた。貴族が笑いながら集めたものはたかだか二年分の量しか無かっただろう。あの魔物をうまく定住させておけば長くうまく金を生み出したのでは無いかと。村人が疑問に思っても支配者たる貴族がそれに気がつくのはもっと先の話になる。ゲラハドは不満が募る魔物達を引き連れ移住先にたどり着く。

 

「諸君を騙すような形で連れてきたのは非常に申し訳ない。だが、あのままあそこで争っていても問題視する人間達の数は増え続け遠くない未来我らは敗北していただろう。今回は事実上の敗北だが、我々は新たな土地を彼らの公認の元得た。彼らの法のみればここは我らの土地ではないだろうが、少なくとも今支配するのは我々だ。ここは湿地よりも遙かに大きな土地だ。隠れ住むも自由、そして力を蓄えるのもそう難しくない。諸君らにはこれまで以上の(・・・・・・・)奮起を期待する。」

 

 ゲラハドは連れてきた配下に目的を明言せずに匂わせた。理解出来ない魔物達も多かったが、その真意を察した者達も少なくない。ゲラハドは速やかに森を支配下に置き、山岳地帯を制圧していく。これまで通り従う種族とは共存を探り、抵抗する者は滅ぼす。動物たちは森の端に追いやり逆に人間達への防壁に利用する。湿地帯環境を作り上げ、持ち寄った植物を根付かせる。

 

「なあ、次は我慢しなくていいんだな?」

 

 不満を持つ魔物はゲラハドに問う。

 

「我慢しなくていいかはお前ら次第だ。」

 

 ゲラハドはそういった者達に発破をかけて強化を促す。森は制御されたにもかかわらず不穏な空気を醸し出す。現地民はますます森を忌避し、関わらないように努めた。そして竜達が集う。

 

 グラージは領地を拡大しつつ亜人種を中心に取り込み人間と対立する。一方、計画的に強襲され追い詰められたベゥガは自らの命を代償にリセットを試みる。かつて遊一郎がしたように配下と資源を逃しつつ再起を図る形である。持ち出せる資源は少なかったが重要な進化体と懇意にしていたゴブリン達は逃がすことに成功した。距離は離れたものの一年をかけて合流する。しかしこの大移動をグラージの配下に見つけられていたため、良くも悪くも同陣営との合流を果たすことになる。

 

「困窮したゴブリンの移動かと思えばお仲間とはなぁ。」

 

「神が定めた駒という点では仲間かもしれないが、こういう手荒な真似はやめてほしかった所だな。」

 

 グラージとベゥガが対峙する。追跡調査したグラージの配下がベゥガの一団を報告。ミーバを支配下に置いていたのを確認したので敵だと判断し報告がなされた為、グラージが討伐隊を派遣する。ベゥガは討伐隊と交戦し少なくない犠牲でこれを撃破する。ベゥガもミーバ兵が侵攻してきたことで早々に敵に見つかったと判断する。抗戦か逃走か選択肢を迫られ、最低でも敗北前提で相手と位置の割り出しだけはと一旦抗戦という形を取る。敗戦した部下の報を聞きグラージは警戒段階を上げ、更に大きな討伐隊を編成し仕掛ける。ベゥガはこの第二討伐隊との接触を回避し敵の行軍を逆算しグラージの拠点へ迫る。そしてその結果が。

 

「ご主人様。あちらの支配者はオーガでしたよ。おそらく同僚だと思いますねぇ。」

 

 斥候型の進化体である蒼玄型レズレーは偵察から返ってきて報告する。

 

「同僚?神ラゴウの配下ってことか?」

 

 ベゥガは報告を聞いて驚く。事実なら無駄な争いをしているという事になる。

 

「他の神様のカテゴリがどうかはわかりませんけど、オーガが鬼族に類する神以外に属するのは希ですし、ご主人様がラゴウ様の駒ということから恐らくは。」

 

 推論を聞いてベゥガは頭を抱える。

 

「どうするぅ?収まりそうなら納めちゃった方が。」

 

 護衛である柑渇型シュニルがゆるやかに尋ねる。

 

「抗戦するよりは無駄がありませんし、なにより現戦力では抵抗が困難であると考えます。」

 

 汎用攻撃手である紅紺型ニュイが意見を述べる。

 

「無駄なら和解すべきであろうよ。我らが全力で戦えば被害を与えることはできようが、盤面としては不毛であろう?」

 

 黒玄型の万能魔法使いブラウが結論を導く。

 

「降伏して話が通じるとはおもえんが・・・親書くらいは送ってみるか。菫のような潜伏型の者がいればよかったのだが・・・」

 

「無い物ねだりはいかんにゃよ。」

 

 ベゥガが頭を悩ませているところにシュニルが首に巻き付くようにひっつく。それを無言でツェルナが引き剥がす。

 

「私が空からばらまいてもよいですが。」

 

 片手に猫のようにシュニルを持ちながらツェルナが言う。

 

「ここは矢文で問題ないでしょう。私の力ならそれほど問題なく。」

 

 ニュイが別案を上げる。先を争うように役に立とうと前に出る。

 

「ここは安全に矢文でいこう。ニュイの能力の方が的になりにくい。」

 

 ニュイがにやりと笑い恭しく礼をする。対するツェルナは少し悔しそうに大地を蹴る。かくしてベゥガの意図は伝わりグラージとの対峙となる。

 

「お前には奇妙な部下が多いな。」

 

「進化体のことか?元はミーバだぞ。身体は似ているが血肉はかなり違う。そっちにはいないのか。」

 

 グラージとベゥガは意見交換を行い当面は協力して動くことを決める。ベゥガは周辺現地民に対する防御が薄く、敵対者が多いとはいえ盤石となっているグラージの庇護に入るのは悪い選択では無かった。ベゥガはその中でグラージに無い知識を与えることで、グラージと対等に近い地位を自然に得た。両者が合流しさらに巨大な組織が構成されていく。

 

 神々の円卓。十八回にしてヴィルドの陣営は浮き上がる目を失った。残存は一、そしてその最後の駒もただ生き残っているだけという状況だ。基礎能力は高くともやはり精霊種という気まぐれが強い生態がこの盤面にかみ合わなかった。しかし逆にヴィルドの顔はすがすがしく、無能に悩まされることが無くなったという開放感に満ちていた。

 

「概ね世界に問題はないが・・・システムの不具合がでているな。」

 

 ヴィルドの解説の元問題が提示される。順位はチェイスがトップ、そしてラゴウ、フレーレと続く。ラゴウとフレーレは差が開いたり縮んだりしているがチェイスとラゴウの差はわずかずつとはいえ開くばかりである。ただそのラゴウ陣営の一つに問題が出ている。

 

「盤面中の不具合は次回に修正。その回の内はそのままが通例だろう。」

 

 有利な恩恵を受けているラゴウは当然のように慣例を踏襲することを求める。

 

「さすがにアレをそのままにするのは問題があろう。すでに変動値も著しい値になっておるぞ。」

 

 フレーレは当然是正を求める。従来の不具合とは比べものにならない問題であることは全体が認識していることだ。

 

「死霊を回収する措置がああなるとはねぇ・・・」

 

 システムに関して知識が多いチェイスですら、読み返すたびにため息がでるほどである。こんな間抜けな不具合が残っていたとはと。問題の中心は死霊のシャドウレイスであるユーキが無限に死に続け、同じ数だけの死霊になっていることである。システム的には同一存在と取られているため自由に分裂したりは出来ないのだが、存在としては一であり多数というまさにバグというべき存在になっているのだ。

 

「現在も意図的に術を維持し順調に個体を増やしているね。今・・・七千九百二十四体かな。」

 

 外部からの攻撃で倒すことは可能だが、重なっている存在の数だけ倒さなければシステムがユーキを死亡と見なさない。接触判定は一と扱われているため範囲攻撃で倒せるのも一体だけ、そのくせ数量判定には一とも多数とも取られない。一体倒れても前面にでてくるのは完全に無事な個体であり、無限によみがえるようにも見えるだろう。

 

「異常な個体だ。一度回収して恩恵を与えてから出直させるべきであろう。」

 

 フレーレ側からすれば相対するに詰んでいるとも言え、事実上勝利の目がなくなるのは困る。ヴィルドはチェイスを見る。勝利に影響がなくなったヴィルドは正直どちらでも良いと言った所。場が混沌とすれば自分も益が得られる可能性もあり、気は進まないが容認しても良いとも思っている。

 

「んー・・・致命的じゃないから続行かな。」

 

 チェイスはシステムの状況を見ながらそう答える。逆に容認された事でラゴウを含めて全員が驚く。ユーキを放置していてはチェイスの順位すら危うくなるのだ。いくら勝ちへの執着が薄いとは言え拾えるものを拾わないような性格でも無い。

 

「あと三十年も続くと世界負荷が壊滅的だけど、ユーキが勝つならそこまで時間がかからないだろうし・・・誰が倒すにしても世界が壊れるまでじゃないかなと。」

 

 このままユーキが儀式を維持すれば世界変化量が十五倍になる計算だが、ユーキ自身を回収すれば変化量自体は即座に収束できる上にそこまで異様になる前に盤面が収束するだろうとチェイスは説明する。

 

「まぁ勝つ(・・)手段が無いわけじゃないし。今回はラゴウが丸儲けってことでよくないかね。いや、運が良かったね。」

 

 チェイスが茶化すように拍手する。そこまで余裕を持たれると逆にラゴウは怪しむ。しかし全員がその方法に気がついている以上勝利が確定とは確かに限らない。あとはいかにそれを匂わすように伝えるかである。

 

「まぁ結構差が開いちゃったし、ここらでかき回してもらうにはいい現象じゃないかな。私としては現状維持で構わないよ。追加で異常が出たら追って修正しよう。」

 

 チェイスがそう宣言し、ヴィルドが採択を取るも維持二、是正一。天秤も維持に傾き問題はそのままとなった。不穏な空気を漂わせつつ円卓は解散。その空気を無視するように軽い足取りでチェイスは席を離れた。

 

「ハンディのつもりか?いくらあの小僧でもアレは倒せねぇだろう・・・」

 

 ラゴウは立ち去ったチェイスの方を見ながら唸る。フレーレも怒りのまま退席していった。ヴィルドもラゴウに分からないと首をかしげ別の意味で気楽に退席する。恩恵を受けたラゴウだけが喜ぶべき所を疑問に満ちた不可解な感情に包まれていた。

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