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僕、乗り越える。

急に読み手が増えて驚いています。期待に添えるように進めたいと思います。

 能力差が絶望的なまま時間を過ごせるかが今の僕の課題だ。仕掛けたスキルが確定するまでに時間がかかりすぎる。それまでヴィルバンが飽きず、いつでも倒せると思わせたまま、かつ企みを悟られないことが重要になる。彼の百年の戦闘欲をいかに刺激し、満たし、そして楽しませ続ける。そしてこの計画が完遂されても勝率は五分より少しましというのが悲しいところだ。時間稼ぎを露骨にしてはいけないと思いつつも思考の為若干待機時間が発生する。しかし足を止めるとすぐにヴィルバンは動き出し僕の懐までやってくる。おそらく彼の優先順位の一つだと思うが、僕に長い思考時間を与えないというのがあると考えられる。ヴィルバンは僕に対して戦闘力よりも、思考により弱点を突かれ倒されることを懸念していると予想している。ヴィルバンの戦闘能力も無欠に見えて何かしら欠点を抱えているのだろう。そこを突かれるともしかすると負ける可能性があると考えている、かもしれない。緊張感は楽しみたいがそれは勝つことが大前提という支配者の驕りを感じざるを得ない。その楽しみに付き合うためにも剣を合わせヴィルバンの攻撃を流す。ただこれだけでも単純な腕力差を感じる。受け流すべき剣の動きは重く、僕の剣技ではギリギリもしくは次に繋がらない動きでしか無い。ヴィルバンが素早く剣を翻し追撃をかけてくる。僕の剣はその動きのついでにわずかに弾かれ戻しが間に合わない。このままで戦い続けるなら間合いを離してリセットする案件だが楽しませるために付き合う。左手に円盾を出しながらヴィルバンの剣速が乗り切る前に踏み込みと共に前に出す。腕に固定せず手持ちでの押し出しは力はかけやすいが決して良い使い方とは言えない。盾と剣が接触した瞬間に接触部で爆発が起こり剣と盾を衝撃で引き離す。わずかに予想外といった表情を出し、僕は苦し紛れに笑う。あくまで斬らないと魔法は破壊できない。一、もしくは零距離からの魔法は通せる可能性が出てくる。戦いの中における両者のわずかな逡巡。積極か応対か。僕は意思を曲げて積極に、ヴィルバンは自らの指針にしたがってか積極に。僕の弾かれた剣が斬り上がる。ほぼ同時にヴィルバンの左手から横一線に剣が振られる。力の差か剣技の差か、甲高い音と共に僕の剣は弾かれそのまま横一線を胸元に受ける羽目になる。やってらんない。衝撃を殺すように、勢いに乗りながら後ろに後退する。ヴィルバンの左手にすでに剣はなく、倒れかかるように踏み込み右手の剣を振り下ろす。体勢が崩され反撃の目も無いとどうしようも無い状態だからこそリセットを行う。そう見せる。正面を起爆し間合いをお互い離すように仕掛ける。当然右手の剣がそのまま魔法を切り裂く。距離に達していなかろうと剣閃が爆発に届けば魔法は斬られる。接触後剣が前進すればそこから魔法は瓦解していく。それと同時に僕を打ち上げ、ヴィルバンを後押しするように起爆。ほぼ五点を同時爆破し僕は剣からの一撃を逃れる。宙に放り出されても手は緩めない、緩められない。爆炎煙る中でヴィルバンの位置を決めつつ逆さになりながら弓を出し矢を放つ。煙の中からどうやって見ているかも分からないがヴィルバンは風と共に剣を振り矢を落とす。一瞬切れた隙間から目が合う。僕が苦況、苦し紛れに戦っているのを見透かすように笑う。目線の意思交換は煙により一瞬で終わる。煙の動きに不自然な所は無くやはり魔力視覚だと思うのだけどと予測を立てて一撃タイプの槍型、大球型の魔法を全力で生成し投げ込む。紛れ込ませるように矢を放つが矢が届く前に徒労に終わる。ヴィルバンの気配が動いたと思った瞬間に無数の斬撃が生まれ境界付近にあった魔法が全て一瞬で切り裂かれる。まじかーと心の中で嘆息しながらも追加で矢を放つ。六本の矢は力量差もあってかいとも簡単に切り落とされる。

 

「やはり惜しいな。どんな敵にも相対できるように満遍なくかつジャンルを絞って優良なレベルまで育てているようだな。総合的にみればかなりの戦闘力なのだろうが。ある意味これも相性か。一芸に絞っていればあるいは私と対等に戦えたかもしれないのに。」

 

 ヴィルバンは残念そうに首を振るが言葉は軽い。

 

「その一芸が魔法だったら貴方に手も足もでなかったろうに。」

 

 僕は話に乗って愚痴る。飽きられるな、と。

 

「確かにその可能性もあったかもしれないな。」

 

 ヴィルバンは軽く笑う。僕はもう人の可能性に賭けて話を進めている間に魔力構成を隠蔽しながら遅延魔法を構成していく。少ない可能性ではあるが剣で切り捨てる以上それを超える飽和攻撃なら技術より非効率とはいえ魔法もその防御を通せるはずなのだ。

 

「考え方は間違っていないが・・・私とてそれを許すつもりは無い。」

 

 体に風を感じ言葉を聞いた時には準備を始めた構築中の魔法すら切り捨てられた。考えは合っているようだが当然それを許すことだけは無いようだ。ヴィルバンが興味を持ち可能性がありそうな攻撃はあと一つ。不意に近づいてきた今がチャンスといえた。剣を構えたままお互いの間合いの内側に入る。

 

《影踏み》

 

 名称とは裏腹に影を踏む必要はなく準接触距離を条件にお互いを移動できなくする呪術である。僕は剣を収納し左肘でヴィルバンの脇腹を撃つ。ヴィルバンは左手を畳みそれを防ぐ。

 

「安易な。剣の間合いでなければどうにかなると」

 

 ヴィルバンの言葉が終わる前に接触箇所から『多重衝撃』の魔法をたたき込む。飛び上がるだけで効果が激減するような魔法ではあるがお互いの距離を条件に固定化されている今、その力は逃げられないままヴィルバンの体を駆け巡る。そのまま腰を回し右拳で腹を打つ。衝撃にあおられ身動きが取りづらいのか目線で反応しているが手が間に合っていない。拳が腹の鎧を撃つがそれ自体に大きな意味は無い。体術スキルからの浸透勁、そして重ねて『多重衝撃』。僕はヴィルバンの行動を制限しながら乱打を続ける。小さなダメージを積み重ねヴィルバンの焦りを誘い慎重にさせるつもりだったが。思った以上に効果がありすぎたようだった。ヴィルバンの左手の短剣が自身の腿を刺す。ヴィルバンの中で暴れていた魔法はそれを境に一切消え、攻撃行動に全振りしていた僕の隙を動かないはずの蹴りが滑り込む。思った以上の衝撃が僕の体を駆け抜け呼吸ができないまま吹き飛ばされる。

 

「あぁ・・・これほどまとまってダメージを受けたのはどれだけぶりか。」

 

 ヴィルバンは大きく息を吸って自分を戒めるように低い声でつぶやく。ヴィルバンの体が薄く光る。魔力が流れているようだが僕は呼吸を整えるのに必死でうまく確認できない。自傷した傷はいくらか塞がり赤い痕を残しているだけだ。彼の剣を持つ手に力が入る。

 

「まだ手を残しているなら出し切ることだ。君にまだ次があるかもしれないことを忘れるところだったよ。」

 

 余力がある内にとヴィルバンが動く。ヴィルバンの貴重な手駒が減ったことに対して僕はやられても次があり戦力を整えられる。盤面中なら僕は手駒を取り戻しさらに強くなる余地があるのだ。現状でも自身に迫る能力があるならここで止め、さらに追い打ちをかける必要があるとヴィルバンは判断した。風を感じヴィルバンが消える。僕は側にいるはずと確信して方盾を構えて攻撃方向を制限する。さらに横薙ぎに剣を振って近接を制限する。その甲斐も無く正面から、届かないと思っていた間合いから斬られる。驚く間も無く一撃、二撃と斬撃を重ねられる。盾を引き戻してその斬撃を一度弾くと、一瞬の後に後ろから斬られる。

 

「さすがに見ていられませんえ。」

 

 背中合わせになって金糸雀が割り込む。それを気にすることなくヴィルバンは剣を振る。

 

「これはまたやっかいな。」

 

 金糸雀が口調だけ慌てながら円盾を巧みに動かしヴィルバンの斬撃を弾く。

 

『あとどれだけですか?』

 

 金糸雀が念羽で確認をしてくる。

 

『十分か・・二十分か・・・』

 

『やはり厳しい賭けでありんすなぁ。』

 

 僕の返答に呆れるように言葉を返す。ヴィルバンの剣が金糸雀の盾を切り飛ばした。どういう原理かも分からない。力任せなのかスキルなのか、二つに切り裂かれた盾が宙を舞う。

 

「いやいや、つようおますなぁ。」

 

 平然と予備の盾を構え続けて斬撃を受け流す。僕は守られながら治療を進め隙を見て《全知》を仕掛けるが器用に斬撃を変化させて切り捨てられる。ヴィルバンは無表情に剣戟を繰り出し続ける。その素早い攻撃群を盾を消費するも無難に捌き続ける。ヴィルバンも何を考えて攻撃を繰り返すのか怪しんだところで一つの心当たりが浮かび上がる。

 

「金糸雀!下がるぞ。」

 

「いえいえ、無茶いいなさんな。」

 

 金糸雀が一歩後ろに下がればヴィルバンが逃がさないとばかりに力強い一撃を繰り出す。ヴィルバンも意図に気がつかれるいなや一瞬だけ攻撃を止める。フェイント的に大きな一撃を警戒させて僕らを身構えさせ、とっさに逃げることを封じる。戦いの手管においては圧倒的に相手が上であることを思い知らされる。相手の次の大技を予想しながらもそれを回避する手段を持てなかった。

 

「よくぞ気がついたと言いたいが、それも織り込み済みだ。」

 

《追憶の剣舞》

 

 菫との戦いでお互いがぶつけ合ったアーツ。キャラにできてヴィルバンにできない道理は何も無かった。どれだけの履歴を参照しているか分からないがそれこそ目の前を埋め尽くすほどの斬撃が全方位から襲いかかる。

 

「これは・・・困りましたなぁ。」

 

 金糸雀がため息と共に斬撃に飲み込まれる。続けて僕もその斬撃を無数に受ける。しかしその斬撃の痛みを感じるのはいくばくか後のことだった。遅延発動による緊急防御、治療が解放されかろうじて命を繋いだと思う。

 

「まだ生きていたか。その部下は想定以上に堅かったのだな。」

 

 無数の斬撃を受けねじ切れたような金糸雀の残骸が目の前にあった。途中まで痛みを感じなかったのは金糸雀が肩代わりしていたおかげであることも理解した。金糸雀の死を嘆く間もなくヴィルバンは僕に襲いかかる。一撃を盾でいなし、続く攻撃を剣で弾き、むしろ二つの攻撃で防御を丸裸に去れ最後の一撃が僕を斬る。振り下ろされた攻撃は相当な衝撃と共に僕を地面に押しつける。飛んで逃げさせないという堅実な攻撃でもあった。鎧を替える間もなく回復した身体防御も削られあとはその剣に倒れるだけだったはずだった。

 

「まだ終わりませんえっ。」

 

 死んでいたはずの金糸雀が後ろからヴィルバンを吹き飛ばす。うっすらと輝きを放つ金糸雀が僕の前に立っている。しかし配下である金糸雀がどんな状態であるかは僕には即座に理解できた。

 

「すまない・・・」

 

「いや、これでええんですよ。主様。」

 

 金糸雀のステータスはすでに死を示している。ステータスにあるはずの無い『幻想』のスキル。

 

「あれだけ騙されておいて、まだ騙されましたなぁ。だからこれでええんですよ。」

 

 金糸雀は悟ったような優しい笑顔で僕に言った。

 

「霊体?単純な蘇生では無いようだな。」

 

 吹き飛ばされたヴィルバンが向き直り金糸雀を見て警戒する。

 

「まぁ時間制限付きですよって勘弁してくださいませ。」

 

 金糸雀は笑いながら滑るように動き僕とヴィルバンの間に立つ。

 

「無いものを有るように、無かったものを持っていたかのように。無から有に変換する『幻想』。仕掛けはあれどタネはない手品。最後の大舞台をご覧あれ。」

 

 金糸雀の手から鞭が放たれる。届くはずのない鞭は手から放たれた勢いを失わないままヴィルバンに襲いかかる。ヴィルバンはその先端を冷静にたたき落とし前にでる。

 

《Snake whip》

 

 以前説明した事柄ではありえない。出来た行動を繰り返すことでそのように見せかけているアーツであるはずのそれは、落とされた鞭の先端がまるで生きているかのように持ち上がり、横を通り過ぎるヴィルバンに襲いかかる。若干驚くヴィルバンだが反応できないわけでもなく、今度はたたき落とさずに鞭を切り捨てる。しかし鞭は切れずにその勢いのまま剣に絡みつき、そして蛇のように剣を巻き、その先の腕を巻く。その鞭の先端は今まさに蛇の頭になりヴィルバンの首に食らいつく。ヴィルバンは左手で蛇の頭を握り捕縛する。

 

「器用な芸を。」

 

 ヴィルバンは左手に力を込めながら蛇の様子をうかがっているようだ。金糸雀は笑みを浮かべ鞭を持ったまま軽く引き合いながら様子を見ている。

 

「そのまま持っていてくださっても問題ないのですが・・・」

 

 金糸雀が鞭に左手を添えて素早く振る。鞭は瞬時に激しく燃え上がる。ヴィルバンはその炎の光と熱に驚きとっさに手を振って鞭を吹き飛ばそうとする。しかし炎の塊になったままでも鞭の蛇は生きていた。自由になった頭を振りかぶり再びヴィルバンに襲いかかる。

 

「ほほほほ、滑稽でございますなぁ。」

 

 金糸雀がころころと笑う中、ヴィルバンは蛇の噛みつきを首と腕の動きで回避しつつ、左手に短剣を持ち蛇の頭と戦い始める。ヴィルバンの短剣は蛇の首を捉え切り飛ばす。炎をまき散らしながら重力に従い鞭がだらりと下がる。

 

《Eight head viper》

 

 金糸雀は指を鳴らして宣言する。斬られた鞭の先端から今度は八つの蛇が伸びヴィルバンを襲う。不意に多方向からの攻撃を受けヴィルバンが短剣を振るう。三つをたたき落とすも五つの蛇がヴィルバンを捉える。蛇は更に激しく炎を吹き上げ、燃え尽きる。ヴィルバンは何が起こったか分からないまま一瞬呆けたように動きを止める。そして勢いよく首を振り金糸雀を見る。金糸雀はその姿を見て笑いを我慢するように体を曲げている。我慢するように見せかけて実のところ茶化すように笑っている。

 

「気がつきはりました?実は毒も何も、攻撃力すらも無いんですえ。」

 

 炎は確かにヴィルバンに傷をつけているが、対処に苦慮していた蛇は実際には何も効果がない囮だったようだ。無いものを有るようにする。幻覚のようで実体があるそれはまさしく『幻想』であった。ヴィルバンは怒りを抑え風を巻き上げ姿を消す。その風は僕の横に来る。

 

「それはいけずですわぁ。」

 

 金糸雀は残念そうに言うが何もしない。何もする必要がないと言ったところか。実際にヴィルバンの剣は僕を切り裂いたはずだが、金糸雀に守られているのか一切のダメージは無い。そして金糸雀のHPは0のままだ。

 

「死んではいますが生きて動ける。動けるからには庇える。私が動いている限り主様には一切手出しができませんえ?」

 

 時間制限付きの無敵モードだ。このままノーガードで戦ってもいいのではないかと思わせる。しかし本当に僕が斬られ続けても金糸雀に全く影響が無いかも分からない。知らない事を盾に無謀になるわけにもいかなかった。しかしヴィルバンとしては僕を斬り続けて意味があるかも分からず、そして僕らが時間稼ぎをしていることもある意味明白になった。僕か金糸雀か。どちらを攻撃する方が早いか決断を迫られている。二秒で決断し翻して金糸雀に襲いかかり、再び斬撃を浴びせかける金糸雀は盾を振りかざし剣をいなしかち上げ、先ほどと変らない行動を繰り返す。ただ一つ違うことは盾が破壊されないことだ。何十と繰り返される斬撃だが、その手応えを不思議に思ったのかヴィルバンがふと手を止める。そして一撃振るう。金糸雀はそれを防ごうとするが剣は盾も金糸雀もすり抜けていく。

 

「あら。」

 

 金糸雀がさも不思議そうにその剣を見る。

 

「ばれましたか。」

 

 離れた虚空から金糸雀が姿を現し、元いた金糸雀が消える。何が起こっているかさっぱり分からない。

 

「幻覚ではない。実体はあった。性質は動く障壁のようなものか。」

 

「正解ですえ。お団子を差し上げましょう。」

 

 金糸雀が振り上げた手の先から串団子が飛びヴィルバンに向かって緩やかに飛ぶ。団子はヴィルバンの足下に落ちる。ヴィルバンは軽く息を吐き、そして姿を消す。金糸雀が盾を上げてヴィルバンの剣を弾く。ヴィルバンは更に回り込み斬る。両手に盾を持ち斬撃を弾く。ヴィルバンが一歩引いて上段に剣を構える。

 

「ふふふ、また騙されましたね。」

 

 くすくすと笑う金糸雀を見てヴィルバンの動きが一瞬止まる。

 

《Sword dance》

 

 以前見せたアーツは落ちた短剣が踊り狂うものだった。だが今発動したものはヴィルバンの放った斬撃が今一度戦場を駆け巡った。その攻撃はヴィルバンもそして金糸雀をも襲った。

 

《Curse reflect wound》

 

 そして受けた攻撃を相手に返す呪いのアーツ。理不尽な呪いは周辺に発生した斬撃を全てヴィルバンへと仕向けた。

 

「騙されたと聞いて躊躇しはりましたな?思ったより素直ですなぁ。」

 

 金糸雀は笑ってヴィルバンを煽る。怒りに震えるヴィルバンだが剣を納めて体の治療を始める。自らの再生力を活性化させ傷を癒やしていく。

 

「お前自身の攻撃力はその実高くないのだろう。その姿が時間制限であると信じるなら、私がそもそも動くこと自体が悪手なのだな。」

 

「ご明察。」

 

 金糸雀は両手で大きな丸を作りヴィルバンを称えた。ヴィルバンも軽く笑って息を吐く。

 

「ある意味この場の勝者は貴様だ。その意に従おう。」

 

 次の戦いに備えてヴィルバンは自らの回復に注力するようだった。金糸雀は僕に振り返る。

 

「主様。もう分かっているかと思いますが神の介入により降り立ちました『調整役』でございます。」

 

 金糸雀は静かに笑う。

 

「途中から反応が変って気がついたよ。もう直接介入はないと思ってたんだけどね。」

 

 僕は答えた。

 

「そこが騙されはったということです。もう少しお気をつけなさりませ。」

 

 金糸雀はころころと笑う。

 

「本来なら主様の動きの方向や成長を制限する目的でございましたが、思わぬ障害がありました故結果的にはといった所でしょうか。」

 

 笑いながら話を続ける。

 

「初めは本当に指示だけでしたが、スキルの発動が顕著になるとそうもいかなくなりまして、早い段階でこうした方がよろしいかなと。」

 

 金糸雀は少し悲しそうに自虐的に胸を刺すポーズをとった。僕は金糸雀の行動を理解した。

 

「主様を助けられるのはようございましたが、邪魔をするのはまっぴらごめんです。これは私が決めた事です。短い間ですがお世話いたしました。」

 

 金糸雀はあくまで笑う。

 

「そこはお世話になりました、だろうに。」

 

 僕は笑えていただろうか。

 

「もう準備ができたころかと思います。私の、私達の計画が実ることを、他ならぬ主様に祈りますわ。」

 

 金糸雀が霧散していく。

 

「神様に祈らない所がいいね。尤も僕に祈るのもどうかと思うけど。」

 

 僕は立ち上がる。

 

「その願い叶えよう。」

 

 僕は宣言し、形の無い金糸雀が笑う。僕はヴィルバンを見る。

 

「茶番は終わったかね。そして最後の手は成るのかな。」

 

 ヴィルバンが不敵に笑い、剣を構える。

 

「「それは汝を映す鏡。時と見をもって我が身に落とす。」」

 

 僕と金糸雀の声が重なる。

 

-シェイプシフト-

 

 僕の体が変化しヴィルバンと変わりない姿へと変る。そしてそのステータスとスキルとアーツ、それらの知識を得る。

 

「これが貴方に勝つ手段、格上に勝つ可能性を一定に得る職シェイプシフターのスキルだ。」

 

「私になったところで私に勝てると?浅はかな。」

 

 ステータス、スキル、アーツは同じ。だけど装備と知識、経験は違う。金糸雀の幻想は虚空に消えすでに世界には無い。

 

「確実に勝つ手段じゃないのは分かってるさ。だけど貴方も自分と戦った経験はないでしょう。」

 

 陽光石の剣を持ち鏡あわせのように構える。

 

「同じ職ならやったことはあるがね。さて、後半戦といこうか。」

 

 風を巻き上げお互いの剣が交差する。

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― 新着の感想 ―
[良い点] カナリア?キンシジャク?の違和感はこういう事だったかぁ 違和感はあったけど、チェイスに影響されてるとは気付けなかったー 良い意味で作者様にやられましたw [一言] トキもだけどカナリアも、…
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