僕、震える。
出発したところでエグシルにメッセージを送り状況と方針を確認する。
『現在は遅滞戦術を行っており消極的に攻撃中です。主が来られるなら一度合流しましょう。』
エグシルは最後に大きな仕込みを済ませてから撤退すると追伸してくる。僕らは指定位置に向かって進軍する。お互い位置のちょうど中間ほどだったはずだが指定位置にはすでにエグシル軍が駐留していた。
「それなりに急いだつもりだったが遅れたか。」
「問題ありません。こちらの方が軍も小さく周辺も把握しておりますから。」
エグシルは少々の時間など些細なことだと一蹴し、援軍の構成を確認してくる。基本は第五軍だが本陣の予備軍と入れ替えてミーバ兵が増加されている。騎兵を主とした騎兵二万と軽装兵二万、軽騎兵五千、重装騎兵一万、斥候兵五千、弓兵八千、魔術師五千、直轄軍として重装兵千、治療術士千である。約七万とエグシル軍二万五千が現戦力である。
「主らしい機動部隊ですな。これなら問題ありますまい。」
「相手の構成はもう見えてるの?」
「レイスタン王国軍は把握しておりまして、騎士二十万と民兵十五万ですな。」
急によくそんなに集めたものだと感心する一方で、主力八万近くがミーバ兵であることを考えれば戦力は過剰であるとも思える。
「問題はさらにその後ろか。」
「さようで。一般兵の強度を加味すると破軍が絡んでいることは確定なのですが、クラファル王国軍自体の動きが見えません。」
動きを見せない。むしろクラファル王国軍に対する暗黙の了解で協調路線をとっていたレイスンタン王国が急に動いたとなればクラファル王国軍が何かしら干渉したことは間違いない。親書程度で動くならもっと早く敵対しているだろうし、そのタイミングはあった。つまりは従来通り実力行使でレイスタン王国を下し出兵させたに違いない。破軍の効果範囲を見誤っていることもあるが現最前線すべてに破軍が影響を与えているとなるとその範囲が広すぎる。世界の魔法的な常識と比較すればあり得ないと言える。英雄の効果を加味してもさすがに広い。ともすれば近くに来ているには違いないのだがそれが見えないというのが恐ろしい。
「見えないものは仕方が無いので、強襲されることを前提にレイスタン王国軍を排除、もしくは撤退させることを第一目標にいたします。」
エグシルは説明しながら恐縮そうに僕を見る。
「できれば僕が直接能力を行使することは控えたいんだけど。」
「いつ来るかわからない敵に一日を温存するのは厳しいでしょうか。」
「違うね。いつ来るかわからない相手に対して一度でもミスをしたら挽回が不可能だから徹底してるんだ。手の内をさらさないうちに決めてしまいたいのが本音だね。」
「では不安が残りますが私が排除します。クラファル王国軍が相手できない場合はお願いいたします。」
「問題になるのは破軍だけだと思うけどね。そちらは蘇芳を呼んで対処するかな。」
エグシルは思案する顔を正し軍に向き直る。
「では指揮権を頂きます。」
「頼むよ。」
指揮権を譲渡されたエグシルはミーバ兵を動かし騎兵で雁行陣を組む。最終列には騎士軍を配置、後方に直轄軍と弓兵、魔術師で横陣を組む。
「指定位置まで進軍。」
統率された軍は素早く進んでいく。そこにいることが予定の内であるかのように切り開かれた平原で両軍が停止する。
「余裕がありませんので排除になりますがよろしいですね。」
「そこも含めて任せる。こっちもあまり余裕は無いみたいだ。」
エグシルはあえて最終確認をとる。力を使うことを知って僕も仕方ないと了承する。接敵間際に動きを見せなかった吹雪の英雄が猛威を振るっているらしい。鶸からは被害を押さえるのが難しいとの愚痴が出ている。英雄の運用が散発的すぎて正直足止めされて時間稼ぎをしているようにも感じられる。それとも露払いか。あわよくばどちらの矢が命中しても構わないとしているのか。思考で周囲が見えなくなるころに鬨の声があがり現実に引き戻される。
-反撃の呪言-
エグシルが行う初手の定番。自軍に行う強化術だがその効果は軽微。効果の本旨は攻撃を受けた際に等価で自動攻撃、そして同値を次回攻撃に加えるといううまくいけば二倍反撃といった効果を持つものである。少々のリスクで効果範囲が大きいのがいいところだ。エグシルは軍全体を運用しながら呪いを絡めた強化、弱体を駆使して戦う純指揮型の英雄である。個人で戦ってもその呪いの力は抜群に効果を発揮する。苦手なのは三十~千といった半端な数で戦うことである。呪いの性質上単体に強く、もしくは広く弱めになるのがエグシルの大きな特徴である。そして戦うと知られていると対策がとられやすいというのも一つの欠点である。戦場では雁行で先行する騎兵が前に出ている。対して相手の先陣は同じく騎兵で鋒矢で構えている。その後ろにはさらに鋒矢と二重傘になっている。前衛を突破して後陣を叩こうとしている意図だけ見える。エグシルは雁行の進行軸をずらし鋒矢の先端を雁行の中央より後方よりにぶつかるように動かしている。こちらの意図は明確で受け止めて側面を突くつもりだろう。エグシルの動きに対応してレイスタン王国軍は進行方向を急転換し、若干隊列を乱しながらも二部隊とも自軍右方向に進路を向ける。角度にしてみれば三十度程度かもしれないが事前の移動速度と旋回半径を考えれば相当な負荷だろう。雁行が形状に沿うように斜めに移動していたこともあってか相対する形は相手の鋒矢二陣に対してこちらは横に動く横陣のようになってしまっている。鋒矢前面に固まっていた騎兵が加速し鏃が放たれるように敵陣が分離する。後方部隊はそこから矢を放ってきているが届く距離ではなさそうだ。矢方向の乱れも多くとりあえず撃っている感じか。練度の少ない民兵らしい動きが見て取れる。本隊はそのまま不利な形でぶつかるかと思えば雁行は最後尾の騎士を除いて相手側に踏み込むようにずれる。騎士隊は大きめに右旋回しながら雁行の後背を通り進んでいく。雁行は動く速度を各部隊、各個体ごとに調節しW型、鋒矢に対する並列鶴翼にスムーズに移行する。人、乗騎の動きからすればこれほど理不尽なことはあるまいと思うほど、両指揮官の予測と化かし合いは予測負けながらもミーバ兵の圧倒的な運用度によりエグシルに軍配が上がった。エグシルが人の軍を率いていたならもっと別の動きだったのかもしれないが、ミーバ兵を使っている動きである現在では意味の無い仮定とも言える。相手の指揮官は納得いかないだろうなと感想を思う。騎士隊は周り回り戦闘から離れるように旋回を続けている。ミーバ兵はマスゲームのように進み下がり鋒矢が着弾しないまま綺麗に矢弾を包み込んだ。エグシルの号令が矢を押しつぶすように両脇から突撃をかける。兵の質もさることながら防御しづらい側面を突かれレイスタン王国軍は一瞬で瓦解する。旋回でぐるぐるしていた騎士隊はそのまま敵陣後方の残りの部隊に攻撃を仕掛ける。騎士二万に対し相手は民兵が中心とはいえ十五万。力の差はあれどさすがに厳しい戦力差だと思うが、本陣の魔術師その民兵を『落雷』の魔法で攻撃を仕掛ける。広範囲にわたり轟音を鳴り響かせ定期的に雷に焼かれる様は士気の低い民兵が混乱するに十分な効果だっただろう。浮き足立っている民兵に向かって騎士隊が勢いづいて突撃する。しかし民兵は思った以上に早く混乱から立ち直り接敵前には槍を構えるまでになっている。騎士隊は冷静にそれを見ていたようで手前で大きく旋回し始め突撃を避ける。当然そこに矢による攻撃が加えられる。それに対応して騎士隊から巻き起こる竜巻のような風が矢を絡め取り巻き上げる。騎士隊は悠々と旋回を続けその場から離れる。民兵の対応の為か鋒矢の包囲を早々に解き突き抜けて後方に出る。鋒矢を構成してた騎士達は逃げるように散っていく者と、それをチャンスとばかりに後陣に突撃を仕掛ける者が出てくる。さすがに数が少ないとはいえそれでも一万強は後方にいるのである。散発的に十数人がやってくるのはただの的でしかない。弓兵が危なげなく突撃隊を落としていく。僕も暇つぶしに何も細工せずにスキルだけ乗せて騎士を倒していく。残る民兵はほとんど数を減らしていない敵軍を見てさすがに士気が崩壊し檄を飛ばす指揮官をよそにちりぢりになるかその場で降伏していく。さすがに戦力差がありすぎたかと気を抜いていると首筋にひんやりとした空気を感じ始める。空を見ても黒く曇る事も無く青い空が多く見える。本来の進行方向である現在の右側面から霧が晴れたかのように軍様が現れる。そして左側面からは冷気の大本であろう白い霧。ドライアイスの雲をかき分けるように屈強な体を持つ巨体が数十体見られる。空はそのままに風が強まり、その風の中にきらきらとした輝きが混じり始める。いつしか人が吐く息は白くなりそして太陽の輝きを受けてきらきらと光を散らす。左側の巨人群から雄叫びがあがり擬音が出ていると思わせるほど周囲を震わせながら走り込んでくる。そして右側からも鬨の声が上がり重装騎兵が轟きを立てながら迫ってくる。エグシルの対応は軽装兵を分散して残しながら残りの者で迅速に後退、後方の陣と合流を図る。エグシルとしては戦力を集める意味合いよりも僕を守る意味のほうが強そうだ。さすがに出し惜しみが厳しくなってきたかと思案していると、気温の性とも思えない鋭く冷たい視線を感じ反射的にそちらを見る。太陽を追うように虚空を見ることになるが直感的に感じる一に向かって僕は解呪を放つ。直感通りに視線が消え霧散する魔力を見る。ついに来たと気温と相まって身震いする。
「時間のようですえ?」
金糸雀が一連の行動を見てそうつぶやく。
「友軍を見捨てるのは心苦しいな。」
「そういう場合でもあらしませんやろ。拾えるものには限度がありますえ?」
今ある緊急手段をを使えばこの場は助かるが、それ以外が立ちゆかなくなる。自分たち以外の友軍を見捨てることになる。まずは落ち着きを取り戻そうと鶸にクラファル王国軍の第二陣と遭遇したことを伝える。エグシル軍が合流し手早く三層の方陣を構築する。
『もうアレが来ているのでしょう?早々に呼びなさい。』
鶸も周りの状況を気にせず僕のためだけに進言する。悩んで躊躇する間に敵攻撃の第一波である重装騎兵の突撃を受ける。エグシルは巧みに相手の進路をずらし正面で受け止めることなく被害を最小にするように務める。突撃が一段落すれば矢や魔法による遠隔攻撃が始まる。重装兵や魔術師がそれらを弾いていく。
『遊一郎殿。こちらはもう我らだけで大丈夫でございます。吹雪も何やらこちらを素通りしていきましたゆえ。何やら手があるのは聞きました。やってください。』
急にエドモンドからメッセージが送られる。現場の鶸に何か言われたのか落ち着いた声での報告と進言だった。霜を纏った八mの巨人の拳が陣形を殴り甲高い音と氷片をちりばめる。
『その言葉信じるぞ。死んでたら許さんからな。』
強い口調でエドモンドにメッセージを返し収納から魔法水晶を出す。
『招集』
無茶な魔力を投入しあらかじめ作っておいた緊急対応用の一つ。キーワードと共に水晶の周りに十一の小さな水晶片が遊離する。一つが即座に砕け続いて一つ二つと塵になり光を散らす。
「ここからが本番ですえ。決断が遅すぎますやろ。ほんにそれが手遅れにならんように・・・」
金糸雀の諭すような言葉と共に最後の一つが砕け散る。
『回帰』
水晶から莫大な魔力が渦を巻き攻撃を仕掛けていた巨人すらその動きに躊躇する。
『すばらしい。』
弾けるように聞き覚えのある声が聞こえた。渦が水晶に収束し塊が霧散する。輝く塵の中に僕らの仲間が集う。菫、桔梗、萌黄、鶸、紺、蘇芳、金糸雀、神谷さん、ユウ、トウ、ヨル、クロ。
「すべてはこの時の為に。」
「我らが仇を払う。」
「とうちゃくー。」
「遅いですわよっ。」
「敵だらけであるな。」
「で、つえーヤツはどこにいんだ?」
「皆様おかえりなさいまし。」
「あー、ドキドキする。」
「あー、狂乱のやつおいて来ちまった。なんとかなっかなぁ。」
「わざわざ危険に飛び込まなければならないとはね。」
「周りは、と・・・うわ、いきなり壊されたぁ。」
「はぁ・・・気が進みませんわねぇ。」
魔力の渦が指向性を持ち皆を呼び寄せた。そして指示を出すまでも無く周辺を見た瞬間にクロが動く。
《爆炎陣》
方陣に沿うように赤い霧が現れる。攻撃を再開しようとしていた巨人が爆発に巻き込まれ体をよろかせながら後ろに下がる。
「識別は?」
菫が膝を緩め足に力を入れながら声に出す。
「熱い痛いだけで済みますわ。」
クロが髪をかき上げながらぶっきらぼうに答える。
「上等。」
菫が大地を蹴りその場から姿を消す。そして爆発。近くで拳を振り上げていた霜巨人の首筋から血が吹き上がる。驚きと激痛で大声を上げる巨人だが首筋が凍り付き血の流れは即座に止まる。
「む、器用な。」
菫が独り言と共に着地しさらに跳躍。
「おっまっかせー。」
萌黄がその霜巨人に向けて散弾を放つ。球数が少なめの十六ゲージ。巨人の肌に着弾した散弾は巨人の顔をゆがませ燃え上がる。熱は巨人を焼かずに氷を溶かし、流れる血液は火も消せず。巨人は首筋を押さえながらその現象を理解できずに膝をつき地面に崩れ落ちた。
「ご主人様よぅ、楽しそうなのはどこにいるんだい?」
「蘇芳がどこに楽しみを見いだせるかだけど・・・近いのは多分あそこの軍の中かな。」
蘇芳が小さな背で精一杯しなを作って僕に問いかける。
「あそこの中にいるのはただの英雄じゃないのかい?」
僕の答えにつまらなそうに蘇芳が確認をとる。
「彼の能力の予測が正しければ、この瞬間は相当な強さになっているはずだよ。それこそ僕らと同程度以上にはね。」
「んじゃ、その予想・・・信じましょうやっ。」
蘇芳は語気を強めて飛び上がり回転するヒトデのようなものに乗り、飛び去る。
「あの子一人じゃ、後詰めに潰されますわよ。」
「今からみんなでいくさ。」
「簡単にいけばいいですわねっ。」
菫と萌黄、そしてユウが参加し霜巨人二十七体を追い立てる。矢や魔法は桔梗とヨルが打ち払い、迫り来る騎兵はクロが無力化していく。紺はいつしか姿を消すが、遠くえもいわれぬ悲鳴を聞く限りでは敵陣に潜り込んでいると思われる。それなら蘇芳も簡単には死なないだろう。
「エグシル。戦力はそろった。進め。」
「え?私が指揮をとるんですか?鶸様が動かした方が効率がよろしかろうと。」
僕の指示にエグシルが拍子抜けな声を上げる。
「それでもいいけど、ここにいるのは今はお前の軍だろう。」
「・・・そうですね。そうでしたね。鶸様、補佐をよろしくお願いいたします。」
「最初からそう言えばいいのですわ。」
主人の指示を断ったのが気に入らないのか鶸は少しご機嫌斜めだ。だが、エグシルの指示に対して適度に微調整を加え軍の動きを最適化していく。
「軽装兵は・・・側面にまわしますわよ。」
「足止めのつもりでしたが、その方がよろしいですね。」
散らして置いて来た軽装兵を遠隔で招集し動かす。後方となった霜巨人達は本陣を狙うこともできずに菫、萌黄、ユウの対処に苦戦を続けている。
「そこまでにして頂きましょう。」
霜巨人達の後ろから白いローブの女性が現れる。女性の語りが終わるや否や菫の剣が女性の首を飛ばす。女性の体は氷となって砕け散り輝きをまき散らす。
「英雄、終焉の吹雪。」
菫はつぶやくと同時にその場から飛びすさる。その場には白い霧が立ちこめ瞬時に氷柱と化す。
「なんなの?」
萌黄は状況が読み込めずに少し混乱しながら周囲を伺う。
「何だろうが向かってくるなら叩きのめすだけだろ。」
ユウが倒れた霜巨人から剣を抜き、振るって張り付いた血氷を吹き飛ばす。
「そういって雑にするぅ。」
「お前に言われたかねぇぇあぁ?」
ユウの軽口に萌黄が突っ込み、ユウがそれに噛みついてる途中で萌黄がユウを蹴り飛ばし、その反動で自らもその場から離れる。元いた場所は白い霜がはびこり氷柱が現れる。
「ありがとよっ。にしてもせこいヤツだな。」
「多数対一なら数を減らそうとするのは普通じゃない?」
ユウと萌黄が小話を始める。そうしながらも周囲に気を配るが敵の姿は見えない。
「わかんないときはー・・・ぶっぱーっ。」
萌黄が多弾の散弾を四セット周囲にばらまく。多くが地面に弾かれ小さな音を鳴らす。一部は宙に小さなひびを作り、
「みーつけたっ。」
萌黄の追い打ち的な散弾が集約される。ひび割れた空間はそれらをすべて受け止め砕け散る。中から現れた女性は周囲に盾を張るように即座に氷壁を構成する。菫が作られた氷壁を足蹴にしてまた距離をとる。
「くだらない話をしているかと思えば堅実な方法で見つけ出す。聞くほど馬鹿ではないようですね。」
吹雪に言われて萌黄は照れるように破顔する。
「ま、馬鹿は俺でも、見えてりゃ関係ねぇ。」
ユウは踏み込みからつなげるように振りかぶった一撃を吹雪に放つ。
「愚鈍な。」
さらに正面に氷壁が増えユウの一撃を受け止める。受け止めた氷壁に向けて萌黄がさらに散弾を加える。
「くそいってぇっつうの。」
氷壁はひび割れユウのさらに加えられた力により砕け散る。驚く吹雪をその勢いのまま切り裂く。ローブの表皮を切り裂きそれなりの手応えをユウは感じていた。
「く、変態さんめっ。」
「味方に言われるとは思わなかったよっ。お前はお前で容赦なく背中に当てやがってぇ。」
女性の肌を露出させたことについて萌黄が苦言を呈し、ユウがそれまでの事について併せて文句を言う。ユウはその場から飛び退きすかさず加えられた無数の氷の矢を回避する。
「くだらない話も構いませんが、さっさと倒しますよ。」
菫がユウの後ろに隠れながらも静かに諭す。
「おーこえぇ。にしても手応えが変なヤツだったな。堅いのは堅いでいつも通りだと思うんだけどな。」
菫がその言葉に首をかしげながら再び存在をぼやけさせながら移動する。総力戦と思っているのは僕だけか。ヴィルバンもそうだと信じて冷え込んだ世界で一歩一歩駒を進めていく。その王の前を目指して。




