動く戦況
「ご主人様から指示が届きました。第一、二軍の間に侵入した無血を討伐せよとのことです。」
桔梗は周りにいる者たちに静かに告げる。
「無血の討伐ですか。まぁこのメンバーなら心配などないでしょうが・・・討伐ですか。」
命令を受諾したアリアは少し頭をひねりながら言葉を反芻する。桔梗も引っかかってはいるようで考え込むようにうつむく。萌黄だけが何か問題があるのか理解していない顔で考え出した二人を見て、何をしているのか考えている。
「ま、殺すことは最後でも良いのではないでしょうか。無力化する分には師匠も困りますまい。」
アリアは指示をどう深読みして考えても答えが出ないと結論付けると、いつも通りやればよいと提案する。
「そうですね。今は指示を追行しましょう。」
アリアに言われて桔梗も納得して動き始める。しかしお互いの一歩目が分かれた。お互いが見当違いの方向に踏み出したことで顔を見合わせどうしたのか首を傾げる。桔梗は把握していた状況からそちらにいるだろうと判断して動いた。アリアは周囲の喧騒と戦場の勘的なものから移動を始めた。お互い顔を見合わせていやいやいやとお互いの行動を否定する。萌黄はその様子をみて首をかしげているが、萌黄はどちらかいうとアリア側へ足が向いている。萌黄もまた直感的にそちらに行くと感じていたのだ。
「戦況の動きからすればあちらでしょう。」
「周りの様子を見れば敵はもうあっちですよね。」
桔梗とアリアが移動場所で争う。桔梗は埒が明かないのでC型ネットワークを使って無血の位置を探る。やはり桔梗の予想した位置に目標はいた。
「与えられた情報からはあちらにいます。」
「む、そうなのか。」
信頼されたネットワークからの情報を盾にされればアリアに否定するすべはない。だがアリアはそれでも自分の向かうべき方向があちらであると確信するかのように視線を向ける。
「仕方がありませんね。」
桔梗はため息をつく。
「アリアと萌黄はそちらに行ってください。私は重装兵と共に支持の場所に向かいます。気になる場所に無血がいなくてもそちらはそちらで大変なのでしょう。」
桔梗は予想される敵戦力を考慮して援軍を分けることにした。適正な構成をとっているならここで最も強いのは桔梗である。しかもダントツで。アリアと無血は世界的な立場では拮抗する存在ではあるが、最近の修練状況と戦闘のやり方を考慮に入れれば、相性の悪い兵種ということを考慮にいれても向かい合っての戦闘という面ではアリアに軍配があがるだろう。主からの指示も「討伐」となっていることから無理する必要もない。単体でも多数でも戦える桔梗と少数が得意なアリア、狭い範囲で汎用的な萌黄を組み合わせるならこうだと機械的に結論をだした桔梗だった。萌黄は一瞬悩んだがそれでも問題ないと信じてうなずいた。
「ではそちらはまかせましたよ。」
そう言って桔梗は重装兵と共に動き始めた。アリアと萌黄は颯爽と直感に従い走る。桔梗は進むにつれて聞いた情報と現状が著しく不一致していることに気が付く。アリアと萌黄はそこまで深く考えないし多少押し込まれているのだろうですます。
「どういうことですか、これは。」
押し寄せる敵軍の側面に向かってぶつかってしまった桔梗は守られながらネットワークを確認するが情報と現実が一致していない事実に気が付く。鶸に連絡を取っても問題なさそうな返事しか返ってこない。桔梗は即座に何かしらの形でネットワークを阻害されていると推察する。
(勘が当たるというのも馬鹿らしい話ですが、非常時には期待してしまいますね。)
桔梗はおそらくアリア達が当たりなのだろうと推察し、自らの状況と戦局を鑑みて対処を始めることにする。
「すみません。もうひと踏ん張りお願いします。」
桔梗は目の前の兵たちを捌いている重装兵に声をかけて詠唱を始める。重装兵は『問題ない』『お早めに』『うぉー』と思い思いに看板を投げ出して応戦する。重装兵からすれば目の前の民兵など障害物のようなものだが、思いのほか身体能力が高く波のように押し寄せるため乗り越えられないように対処するのが大変そうである。桔梗も民兵からダメージを受けるようなことはほぼないだろうが、それでも十人に組み伏せられれば動きを制限されてしまう。まずは空間を空けると、一秒後に爆破魔法が八連展開され人が宙に舞う。空いたスペースにすぐさま人が押し寄せてくるが、それまでのわずかな時間に少し離れた場所に『超重縮』が二つ展開され、抵抗できない民兵が吸い込まれ悲鳴を上げる。さすがに異質な魔法を前に民兵は足を止め影響がない十数m先から遠巻きに伺い、迂回し始める。普通なら恐慌して逃げだしそうなものだがそれでも進軍は続く。桔梗は敵の精神操作を疑うが悠長に解除して回るわけにもいかず、躊躇された時間を使って次々に広範囲魔法を展開し周辺の敵を駆逐していく。
(討伐と言われたことも分からなくはないですが・・・この影響力。いないはずの破軍がいる?)
魔法で広範囲に強化魔法を配ることもあるだろうが、戦争をする時間からみれば効果時間は短く常時使用するものではない。敵のMPが潤沢だとしてもおかしいと思える。でなければ不明な原理で作用のある英雄的な力のほうが可能性が高いと桔梗は考える。どこから情報が改竄されているのかとため息をつきながら桔梗は味方を有利に導くべく敵兵を駆除していく。
(そちらは任せますよ、萌黄。)
桔梗はその手に大きく魔力を集中し激しく大地を揺らした。民兵は驚き足を止め各所でファイの嘶きが響き渡る。それでも総崩れにはならずにじわじわと歩を進める民兵を眺めどう対処すべきかと主を思う。
直感に比重を傾け戸惑いながらも現場の指示通りに騎兵を対処している自軍の様子を見ながらアリアは最前線の方向が自分の直感で正しいと確信する。おそらく敵陣にまっすぐにぶつかることになる桔梗は大丈夫だろうかと一瞬心配をするがどうにもソレが危機に陥る様子を予想できず杞憂だと振り払う。何しろ一対一ですら一度も勝てたことが無い相手に格下が心配するなど恐れ多いと苦笑する。
「んー、面白い?」
器用に蟹の上に立っている萌黄を横目にアリアは問題ないと首を振る。遊一郎の直属の戦闘兵中で最弱と言われる彼女でさえアリアは五分に戦えない。アリアは周囲を見回し騒ぎの大きそうな方向を見定めファイを動かす。だが前線が押され混戦色が強くなってくるとファイを進ませるのも難しくなる。
「そろそろ走った方が速いか。」
「私はもう少し乗ってる~。」
アリアは軽装兵という枠組みの中では健脚で速い。萌黄は枠組みを当てはめるのが難しい職であるが全職を鑑みてもそこまで速いとは言えない。ファイト違って隙間を縫いやすく減速しづらい蟹のまま進むのもそれほど間違ってはいない。アリアはファイを足場に蹴り出し友軍のファイを足場に戦場を進む。敵味方がいりみだり始め危機の味方を助けながら進むと進行速度が落ち始める。アリアが選択を見誤り危険な友軍を見かけそちらに向かうかと身を固めると狙撃銃がその行き先を阻むように立ち塞がり懸念していた敵兵を穿ち押しやる。急な衝撃で蹈鞴を踏む敵兵に対し危機だった味方は我に返るように追撃しそれを倒す。
「まっすぐ行こう。露払いは私がするから。」
萌黄の明るい顔を見てアリアは一言任せると声をかけ速度を上げる。萌黄はその動きにはついて行けないが、周囲の気になる兵を助けながらアリアの道を切り開いた。アリアの視線に周囲を鼓舞しながら突き進む一団が入る。友軍のファイを優しく蹴り上げ飛び上がる。遠心力をかけるように一回りしながら開山剣を引き延ばす。
-枝落し-
切り上げる枝打ちの変形である切り下ろしの延伸攻撃を集団の先頭に向けて打ち込む。急速に伸びる開山剣は空を切り、天を差し、先頭の騎兵に伸びる。空気の流れ、不自然な音を聞きつけ先頭の騎兵は急減速し音を聞く。急な減速を受けそれを交わすように進み合わせて減速しようと踏みとどまる。英雄は剣を振り上げ反射的に音源から来る飛来物を受けようとする。おそらく将来自分がいるであろう場所に向けて進む刃は歩を緩めた英雄に向けて刃を翻さんとしていた。しかしその反応は遅れ英雄を切る軌道には乗らず歩を止められなかった随伴騎兵が血しぶきを上げることになった。一撃でフルプレートを切り裂きその身に届く攻撃を目にして一瞬驚くが、それができる相手が敵国にいると知っていた無血と呼ばれる英雄は刃の先にいる敵を認識した。
「霧の剣士か。もう一人・・・騒乱の妖精かね・・・手強いな。」
霧の名で知られる英雄と、ルーベラント王国の戦場で幽鬼のごとく武器を操ると噂の少女、通称騒乱の妖精。刃が翻り無血に襲いかかるが無血は冷静に槍を跳ね上げるとともに刃の軌道をずらしその場を動くこと無く回避する。刃は再び襲ってくること無く主の元に帰っていく。
「私が足止めをする。他の者はこのまま予定通り突き進め。」
簡単に納得してくれなさそうな部下ではあるが相手が英雄となれば並んで戦える力も無く指示通りに戦闘を再開する。
「かき集めた兵の割にはよく従ってくれるものだ。」
無血はそうつぶやきながら部下を見送りその行動を邪魔されないように霧の剣士の前に立つ。
「あなたが無血、ですね。」
「次があるかはわからないがお見知りおきを。貴殿が霧の剣士ですね。」
英雄が対峙する際の独特の感覚共有。それが即座に相手が英雄であることを知らせる。アリアは剣を正眼に構え、無血は騎乗のまま半身をずらし槍をアリアに向ける。個人的な性格を除けば英雄同士に恨みは無く概ね立場の違いだけが彼らを戦いに導く。無血の乗騎である黒いファイの足が動きアリアの左側面に回り込むように急加速する。アリアは躊躇無く前に踏み込み無血の背後を狙って切り上げる。無血は乗騎に指示を出し大きく飛び上がる。アリアの剣はファイの尻を叩き大きく跳ね返る。アリアは舌打ちをしながらそのまま駆け抜けるように進む。着地した無血は乗騎を急旋回させてアリアを追う。周囲は混戦模様になっているが二人の英雄が近づいてくれば邪魔にならないように、むしろ巻き込まれないために道を、空間を空ける。直線で走ればアリアもファイに勝てるほど速くなく、無血の駆る乗騎にすぐに追いつかれる。無血の右手の槍がぶれて消えるようにアリアに向かって放たれる。アリアは攻撃の気配を感じ取ると即座に左斜め後ろに回避しすれ違いざまに切りつける。狙うは無血の左太もも。しかしその一撃も無血の乗騎が振り上げた前足に防がれ受け止められる。アリアの力では騎兵の重さと突撃を受け止めきれずそのまま流されるように押し切られバランスを崩す。すかさず無血の左手から短剣が投擲され、アリアの目線に捉えられる。アリアはとっさに首をひねり傾け短剣を回避。振り返った時にはそこに無血の姿は無く背後から迫る影に反応してとっさに我が身を守る。
-護水-
土の球体に守られるアリアを見ても無血はそのまま槍を打ち込む。
「それは悪手だね。」
無血の渾身の一撃である槍の先端が土壁に触るとまるでその場所に壁が無かったかのように穴が開く。しかしアリアも護水の壁に反応を感じるやいなや剣を伸ばしながらなぎ払いの『大木断ち』で応戦しようとする。そのままいけば一拍速く無血の槍はアリアの胸を貫く。しかしアリアの剣も勢いのまま無血の腹を切り裂き致命傷を与えるはずだった。アリアの後ろには託せる者があり一歩も引かなかった。だが作戦の完遂のためには無血はまだ生きている必要があった。無血は瞬時に行動を切り替え腕と乗騎を無理矢理動かし槍を外側に振り回しアリアの剣をはじいた。刃が槍の柄にわずかに食い込み軽い抵抗を生む。刃はその金属を侵食分解し突き進む。刃は柄に沿って動き危機を感じた無血は気合いを入れるように吠えて槍を跳ねあげ、さらに乗騎を跳躍させる。刃は柄からわずかに浮き無血は逃げるように体を横に倒す。剣は無血の鎧ごと肩口をわずかに切り裂いた。無血は護水を飛び越えるように交差し逃げ切る。
「まさかあんな状態から反撃してくるとはね。予想外だったよ。」
無血は息を整え乗騎の位置と向きを調整する。
「反撃で討ち取れると思っていたのですが・・・まさか壁で止められないとは思いませんでしたね。」
逆にアリアは命を拾っているのだが剣をそらされたことのほうが気になっている。
「聞いた話からすると相性はいいはずなのだが・・・思った以上に自力に差があるようだ。」
重騎兵である無血だが本戦いにおいて乗騎のファイは馬鎧をつけていない。その分自身の装備が普段より重厚になっている。人馬一体。この世界の騎兵というシステムにより騎兵は人と乗騎で一つのユニットとして見なされる。乗騎で行う攻撃も防御も参照する項目は騎手に依存する。乗騎がどんなに貧相でも騎手がそれを乗騎として定めている間は騎手の能力により異常な力を発揮する、ように見える。乗騎につけられた装備は追加の防御力にはならないが乗騎に攻撃が当たるまでの障害となる。数値として加算されないが盾の一種のような存在になる。逆に乗騎に依存するのは移動速度と所持重量。騎手も乗騎も自身の運動スキルではなく騎手の騎乗スキルによって運動スキルの代わりとする。個別に分けられているのはHPとMPや状態異常である。システム的に相手を傷つけ防御力を低下させとどめを刺すという手順を踏む関係上乗騎を先に倒すという選択肢はほとんど無いということになる。乗騎をどんなに傷つけ負担を強いても騎手を傷つけない限り乗騎の防御力は変わらないからである。なお騎手だけを強制移動させて分離させるという戦術は存在し、騎兵を倒すためのショートカットの一つである。ここでアリアの能力からすると流派開山剣に騎手を落とす手段がなく基本真っ向勝負になる。本来アリアの戦法は霧に隠れて不意打ちという手段をとることから騎兵相手でもここまで苦労することは無い。今回はすでに味方が多く戦場に絡んでいることから霧の展開を行っていない為基本戦法はとれていない。武器開山剣は金属のような無機物には一方的な攻撃力を誇るが魔力を持つ生き物には特攻が無くよく切れる剣でしかない。がちがちに着込んだ無血本人に刃が通ればそもそも鎧など意味がないのだが、その防御力が乗騎に適用されているため無血が乗っている限り乗騎に刃を立てられないという状態に陥っている。無論アリアもその原理は認識しており決して乗騎を狙うようなことはしていない。無血は巧みに乗騎を操り盾の代わりにしているのである。ただでさえ大きめの乗騎に乗っている無血を相手にアリアが下方から攻撃して無血に直接攻撃できる機会はかなり少ないと言える状態である。しかしアリアはそれほど不安視はしていない。前回遅れをとり今回も勝ちを拾うのが難しい相手ではあるが、本作戦においてアリアに与えられた使命は勝利よりも足止めである。無論個人で勝ちを拾うに越したことは無いが指示された師匠からは今回はそういうもので諦めろと言われている。機会は次回以降にとも言われている。勝てないのは悔しくもあるが師匠が望むものはこの先にあるということもあり欲を表に出さない。逆に追い詰めたつもりで反撃され攻め切れていないのは無血である。霧の剣士には五分以上で勝てるだろうがそれにしても時間がかかる。そして時間がかかれば自分にはない援軍が彼女にはある。霧の剣士は遅延に努めているわけでは無いがそれでももう間に合わないと悟った。幸い霧の速度は自分ほど速くなく逃げ切って作戦を遂行するのは不可能では無いと考える。多大な犠牲を払うことになるが。無血は本作戦の意義と自分の立場を考え、そして武器を構え直した。
「我が名はランドルフ=グレイスター。所持されぬあらゆる障害を排除し守られる者の意思をくじく。故に通り名は『無血開城』。英雄として騎士として人の世界を守り、世界を混沌に堕としてでも、大きな力の元、我を必要としない世界の為に、貴殿を打ち倒す者なり。」
ランドルフは宣誓しアリアに突撃する。ランドルフは騎士だがアリアは戦士。それを知ってかランドルフは相手の返しを待たずに攻撃を再開した。自らは騎士として戦うがそれを違う兵には押しつけない。それがランドルフの矜持の一つであった。無論アリアも宣誓を考えるような頭も無く返すつもりも無かったがランドルフの言い分だけは心に留めておいた。アリアが水しぶきを散らしてランドルフを穿つ。乗騎を跳躍させそれを飛び越える。巨体が地面に落ち周囲に衝撃が起こる。そこからさらにアリアに飛び込むように低く跳躍。迫る槍をアリアが切り払おうと剣を振る。槍がぶれ剣を通過させる。
-ファントムピアース-
アリアが驚き目を見開く。自らの剣と同じく武器が無効だからといってその身を貫かれない保証は全くない。倒れるように身をひねり回避に徹するが槍の穂先はアリアの左肩を貫く。ランドルフはとどめの槍をアリアに打つ。アリアは勢いに任せて転がりそれを躱す。手と足で地面を打ち勢いで立ち上がる。左腕は力が入らずだらりと下がり止めどなく血が流れ続ける。集中して魔力をまわす事で出血は直に止められるだろうが左腕はすぐには動くまいとどちらもが判断する。激痛に顔をしかめながら剣を片手に攻撃に備える。ランドルフは突撃すべく再び槍を構える。そこへ周囲から敵味方問わず叫び声が響き渡る。一瞬そちらに気をとられた瞬間大きな揺れが世界を襲う。戦場の恐怖になれたランドルフの乗騎もなれぬ自然の猛威に恐怖を覚えたたらを踏む。ランドルフもこれほど大きな地震をその身に受けるのは初めてかもしれないと思わず周囲を見回し自軍の様子を確認する。破軍に守られたクラファル王国軍は自らが思うほど混乱に陥っていない。ランドルフが乗騎を落ち着かせ再び攻撃に移ろうとアリアを見た時、意外にも彼女も落ち着きを払って振動に身を任せているのを見る。かの国にはそれほど地震があっただろうか。そもそも地震がそれほど起こっている国など聞いたこともないと頭を振りかぶる。自らは本調子で無く敵は冷静さを保っている。うかつに飛び込んで良いものかと再び躊躇する羽目になる。地震が収まりいざと命令を出す瞬間目の前に巨大な剣が突き刺さる。幅広い二mを超える大剣としても大型のもの。
「おじさんの話だと私たちは守護されない?それとも邪魔者?どっちにしろ・・・アリアをこれ以上いじめるのは許さないからねっ。」
アリアの前にさらに小さな少女が降り立つ。剣、盾、金属の筒を従えこちらを強い目線で見つめてくる。幼い容姿は言葉に説得力を全く与えず戦うことすら躊躇しそうになる。しかし目の前の大剣がずるりと動き少女の元に戻っていくとその考えが全く危険であることを意識させる。
「騒乱の妖精か。」
「ぽ、ぽるたぁがいとぉ?わ、私はお化けなんかじゃないんだからねっ。」
「萌黄殿、そういう場合ではないのだが・・・左腕がうごかん。しばらくは頼む。」
ランドルフの声に萌黄が躍起になって反論する。その小さな怒りを静めるかのようにアリアが萌黄に声をかける。
「ヒールクリスタル使う?」
「いや、それなら頂いた自前のものを使うよ。」
「ふーん、死んじゃだめだからね。じゃ、ヤってくる。」
「可能なら捕縛という話だったのでは?」
向こう側で脳天気な会話がされているのを聞いているランドルフであったが、会話の内容からすると短い時間でアリアが復帰できることを知る。ならば待っている暇はないと乗騎を動かす。
「蒼橙E型萌黄、人形遣い。ご主人様の命によりあなたを・・・討伐しますっ。て、捕縛だっけ?」
萌黄に宣誓を返され笑みを浮かべるランドルフ。そのままその小さな体に向けて乗騎を走らせる。
「萌黄とやら。その噂の力、発揮してみよっ。」
五倍はあろうかという体格差が萌黄に向かって襲いかかる。
思ったより進まず。次回も周囲状況から。




