表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/172

僕、豚、狐

 僕は深呼吸してから商業ギルドに入る。受付の人が扉の音に気がついて顔をあげる。そしてじっと見られる。なにかやったかなと思いながら自分の体を見るが何もなってない。

 

「なにか御用ですか?」

 

 呆れているようなどうでも良さそうな冷たい声で訪ねてくる。怖っ。ここが日本だったら逃げてるよ。

 

「え、いや、すみません。国境の販売所の件でお伺いすると先触れを送った者なのですが。」

 

 僕は下手に恐縮そうにして目的を告げる。受付の人はあなたが?と驚くような訝しむような顔して僕を見つめてくる。正直怖いからやめてほしい。受付のひとはベルを手にとって一振りする。リィィンと澄んだ音が響き渡る。

 

「今案内の者が来ますのでお待ち下さい。」

 

 受付の人は変わらぬ口調でそう告げて顔を下げて自分の仕事に戻っている。周りにいた人たちが何事かと僕の方を見つめる。すごく居心地が悪い。朱鷺は朱鷺でこちらを見てくる人たちを威嚇するように気を立てている。それはそれで困る。ふと思いついてきょろきょろしながら受付の人から視線を外さないように見続ける。久しくやることはなかったけどじわじわ文字が浮き出てくるように見え始める。


 ミアーナ  上級商業ギルド員

 STR:160 VIT:100 DEX:178 INT:225 WIZ:256 MND:288 LUK:78

 MV:9 ACT:1.7|1 Load:470 

 HP:200 MP:281 ATK:249|258 MATK:503 DEF:55 MDEF:108 SPR:466

  スキル:剣術Ⅲ 体術Ⅳ 捕縛術Ⅳ 貫通撃Ⅲ

      攻勢魔術Ⅳ 防御魔術Ⅲ 貫通術Ⅳ 高速詠唱Ⅳ

      交渉Ⅵ 商業Ⅶ

 

 ん、ひどいステを見た。これが一般教養レベルだと嫌だねぇ。朱鷺なら勝てそうだけど、僕なら軽く消し炭にされてしまう。やっぱりステの偏りが致命的だ。あまりちらちら見てるものだから気になってきたのかミアーナ氏が顔を上げてこちらを見る。なんか悪いことをしてる気分になって顔をそらす。ミアーナ氏はため息をついてまた仕事に戻る。朱鷺にステを伝えてみるも、まあそんなものでしょうみたいに言われて絶望する。そうこうしている内に案内の人が来て奥に通される。広めの応接間らしいところに通されて少し待たされると太ったデブと付き従う眼鏡の執事みたいな人が入ってくる。僕は立ち上がって一礼する。

 

「本日話し合いに来ました、担当の紺野遊一郎です。」

 

 デブははぁん?みたいな変な顔をして、すごい音を立てながら椅子に座る。やべぇめっちゃ重そう。そしてすごく香水くさい。犬も逃げそうなくらい臭い。朱鷺もものすごく微妙な顔になっている。執事のほうもこちらを見て少し妙な顔をしたがさすがにすぐに戻した。

 

「なん?他国の貴族の道楽か?その国のルールも守らず商売するなぞ侵略行為と思われますぞ?」

 

 デブらしいなんとも醜悪な声というか悪徳商人か何かですかね。執事がちょっと耳打ちをしている。

 

「おっと失礼。わしはミルグレイス市のギルド支部長であるファルガスです。」

 

「ど、どうぞよろしく。」

 

 反応に困る。僕はなんか疲れを感じてソファーに座る。ファルガスはちっと露骨に舌打ちして、めんどくさそうに上体を起こす。

 

「とりあえず貴方は当国の法を犯し、無断で商売をはじめた。そして当市の流通に多大な被害を与えて不当な利益を得た。」

 

 おっと突然の言いがかり来た。朱鷺もちょっとイラっとしてる。どうどう。

 

「帳簿の原本を提出の上、それらの売上から商業登録料と販売課税として7割。そして同業種妨害の違反金として金貨1000枚を収めること。」

 

 おう、暴利ぃ。僕はさすがに顔を引きつらせる。商売させる気があるのか知りたいくらいだ。まあ肉質を考えず平均相場で売ったから違反金についてはやぶさかではないけど。

 

「確かにこの国の法は知りませんでしたが、さすがにそれは暴利でしょう。商売がやっていけませんよ。」

 

 8万近く稼いでいるので税で56000追加で1000?原価が不明だけど普通に設けが出る気がしない。

 

「それが当市のルールですからな。」

 

 デブはにやにやしながら話してくる。うざっ。

 

「私はミルグレイス市では商売しておりませんのでそちらのルールに従う義理はありませんが。」

 

 取り敢えず揚げ足っぽく抵抗だけしてみる。

 

「当郡の領主様より当市が周辺の徴税権を代行しております。そして当ギルドが市長より徴税を代行しておりますので、これは正当な行為ですよ。」

 

 鼻息荒くデブはまくしたてる。んー、デブは真っ黒なんだろうけど市長、ひいては領主とどこまで癒着してるかが問題だなあ。もうひと押しだけしておくかな。

 

「貴方はあくまで代行のようですし、当方としては不当な徴税に見えますのでこの件については一旦領主様のほうに訴えさせていただきましょう。」

 

 デブはめんどくさそうに舌打ちしてから口を開く。

 

「領主様はご多忙ですのでそんなことして、事を大きくすれば貴方も私も手間ばかりで誰も得しませんぞ。」

 

 粉はかけてるかもしれないけど、それほど強いパイプでは無さそうかな。だからどうするわけでもないけど。大体落とし所が見えてるんだけど、不毛だし終わらせるかな。朱鷺が我慢でき無さそうだ。

 

「そうですね。ではどうしろと。さすがにそんな税を払ってはこちらも首をくくるしか無いですよ。」

 

 実際にはなんの問題もない。素材的に損したとは言えるけど払った所で致命的でもなんでもない。でもデブはそれを待っていたと言わんばかりに興奮しはじめて鼻息がすごい。分かったからもう少し抑えろ。絵面が汚すぎる。相対している人間のことも考えてほしいものだ。朱鷺、我慢だぞ我慢。ステイステーイ。

 

「違反金に関しては該当業者に補填しなければなりませんのでこれは払っていただきます。税に関してはそちらの販売ルートをギルドに渡していただければ免除いたしましょう。礼金として利益の1割をお渡ししましょう。」

 

 販路没収かと思ったら利益の1割渡してくる当たりは親切そうに見えるな。本当に1割かも怪しいけど。しかし税金は売上当たりなのに礼金はしれっと利益当たりかよ。大人ってきたねぇ。

 

「んー、少し大きな話になりましたので一度持ち帰って検討させて頂きたいのですがよろしいでしょうか。」

 

 夜逃げも計算のうちだろうけど言うだけ言ってみる。

 

「そう言って逃げられるのも困りますからのう。ここから手紙でやっていただくか手付金を支払っていただくかですな。」

 

 んー、因縁つけて小銭稼ぎたいだけの小物にしか見えなくなってきた。僕はちらっと朱鷺のほうを見る。朱鷺はため息をついてからさっと大きなアメジスト塊を取り出す。でかい。

 

「100キロもののアメジストです。お収めください。」

 

 朱鷺はずんと雑に床に置いて言う。絨毯越しとはいえ床が凹んでそうだね。デブはうぉぉぉと妙な興奮状態で執事を見上げる執事はこそこそ耳打ちしている。デブの興奮状態は更に拍車をかける。

 

「そちらの誠意は受け取りましたぞ。良い返事をお待ちしておりますぞ。」

 

 醜悪だなぁ。見るに堪えない笑顔である。僕と朱鷺は立ち上がって去ろうとし執事が扉を開けようと動き出す。デブは下卑た顔を少し改め、更に下卑た顔で朱鷺の胸元に手を伸ばす。

 

「使用人には珍しい宝石をつけておるではないかそちらも置いていってもらおうかのう。」

 

 油断した。待て、それは調子に乗りすぎだ。執事もはっと主の言動に頭を抱える所に朱鷺が素早く反応する。目を座らせて右手を動かしながら異次元からの抜剣。不意打ち、重撃、貫通撃からの一閃。完全なる全力攻撃。

 

「それに触ろうとするなゲスがっ。」

 

 ジッっと重い音が二度、そしてデブの前で受け止められる剣。執事の半円障壁を二枚貫通し、デブに張られていた個人障壁で止まった模様。僕はほっとしてからすぐに朱鷺を止める。

 

「朱鷺やめるんだ。」

 

 朱鷺は苦渋の顔をして剣をしまう。執事も構えを解いたのを見て少しだけ緊張を解くが警戒だけはやめない。そりゃ武器を持ってないと思ったらなにもないところから出してくれば警戒をやめる選択肢はない。

 

「ファンガス卿。彼女は使用人ではなく私の護衛です。彼女の持ち物は私の物では有りませんので、申し訳有りませんがご遠慮ください。後日お詫びの品を送らせますので、それでよろしくおねがいします。」

 

 と淡々と言い放ち、腰砕けたデブを置いて開けられた扉から出る。やらかしたなーと思いながら後ろから襲撃されないかとびくびくしながらギルドを足早に出る。落ち込む朱鷺を引っ張るように外に出て、通路に出てからは更に加速して門へ走る。慌てるように門番に挨拶して周りの注意を引いている馬車に乗り込み拠点へ帰る。

 

「気持ち悪い生き物だったし、しょうがないよ。よくやったとは声を出して言えないけど朱鷺は悪くないよ。」

 

 朱鷺はほんとに?と子供のように見上げてくる。そっと朱鷺の頭を撫でてやるとにやけて腰に抱きついてくる。そのまま暴れる馬車の中で拠点につくまで頭を撫でてやった。撫でてるかどうか微妙に怪しくはあったが。翌日早朝にお詫びの品として財貨1000くらいにはなろうかという軽く研磨したサファイアをデブ宛に送っておいた。ギルド長ファンガス宛と書いて送ったが、後ほど朱鷺からファルガスですよ、とツッコまれて別の意味でどきどきすることになった。今更修正するできないので白を切り通すことにして訓練に勤しむ。

 

 幸い翌日になっても苦情は来ず、拠点の大まかな運営は朱鷺に任せて訓練に勤しむ。護衛隊のミーバ達と一緒に模擬戦をしながら過ごす。当面は資源を人員拡張とミーバの能力強化に費やす。装備強化に関しては本による魔法金属の知識解放待ちである。あとは攻撃を通すためにも防御を下げる手段として攻勢魔術Ⅳ【劣化防御】【劣化防壁】の構築を進める。この手の弱体化魔法が軒並み攻勢魔術扱いなので一旦魔術師になって覚えてくるかと思う。純粋に防御を無視するタイプの攻撃を探すと殴打攻撃時の【浸透撃】、攻勢魔術Ⅵ【振動波】が該当。最悪体術で【浸透撃】も有りかとそちらは構築を進める。バフ必須環境かと思って後衛戦術師を考えたが、これなら回復術を伸ばしてから魔術師のほうが便利な気がしてきた。そう考えて戦利品は諦めて防具破壊も考慮し攻勢魔術Ⅳ【腐食濃霧】なる無差別攻撃魔法の構築も行う。もっと高くなるとおもったが、範囲が濃霧に限定されるため対処が比較的容易であること、即効性が低いことが考慮されてランクも消費も控えめになっている模様。思考と訓練をぼちぼち進めた後、夕方頃にナーサル市の領主への手土産としてそこそこの竜眼石を用意する。取り出されたのは4cm弱の薄緑の玉。どこから見ても中心に爬虫類の目のようなものが見える。原理不明な魔法石スバラスィ。宝石としての価値よりも魔法道具の材料としての価値のほうが高いとのこと。石材を消費するってことはどっか埋まってるのかね。特に研磨もせずにそのまま木工所の装飾小箱に入れてしまっておく。

 

 翌日吹っ飛ぶ馬車に揺らされながら朱鷺とナーサル市を目指す。前回の反省を生かして別の乗物を考えるべきだったね、と再度反省しながら4時間弱を走る。門番に国境の販売店の関係で来たと伝えると話が通っていたのか案内を呼ばれて通される。入市税が不要だと?それどころか馬車のミーバまで案内される始末。えらい寛容だなと思ったら都市内人口の4割くらいは獣人だった。しかも人の動き、言動からすると獣人のほうが平均的に立場が上のようだ。

 

「外の方からすると不思議ですかな?グラファル王国は獣人を頂点とする国家です。実力さえあれば人族でも徴用されますが、やはり獣人のほうが有利ですな。」

 

 領主に気を回されたのか案内の人は人間だったがきょろきょろしているのを見てそう話しかけられる。

 

「確かに獣人なんて見たこともなかったので。田舎者で失礼をかけます。」

 

 僕はそれとなく返事をして周りを見渡す。朱鷺は黙って着いて来てきょろきょろすることはない。僕が完全におのぼりさんみたいじゃないか。でも僕に奇異の目を向けてくる者を軽く威嚇するはやめなさい。歩くこと5分、立派な建物に案内され、更に奥に案内される。案内された頑丈そうな部屋には二足歩行の狐がいた。後ろに控えている小さ目な人も狐だ。目の前の狐人がもふもふしているがしっかり人間の手のような長さになっている手のひらを上下に合わせてくる。

 

「よく来てくれたね。謎の販売所の人よ。私がこの都市を預かっているヴィルバンだ。後ろにいるのは従者のヒレンだ。まあ、取り敢えず座ってくれ。」

 

 なんか気さくな人だった。ヒレンも同じように手を合わせて僕を見てくる。あれが獣人の挨拶行動なんだろうか。なんとなくヒレンには既視感を感じる。獣人なんか見たこともないのにな。

 

「私は紺野遊一郎です。知らぬとはいえ販売所の件ではお手数かけております。」

 

 相手は気軽だが丁寧に挨拶されたと思い紹介と同時に礼を返しておく。ヴィルバンはその行為をふむといった感じにみるが、見たこともない顔なので感情などわからない。取り敢えず促されるままにソファーに座っておく。

 

「いやー、こちらもお宅の肉には助けられていてね。これからもいい取引をしたいんだよ。ただギルドの連中がちょっとうるさくてね。元々肉を商いしていた奴らは結構な打撃をうけてるんだ。」

 

 こっちも流通に打撃を与えてるんだな。市場価格ちょい下で原価にしたつもりだったのにそこまでのやばい案件だったのか。

 

「不思議そうな顔をしているね。卸価格がそこそこなのになんでかって感じだな。やはり君は商売に関しても商品に関しても素人のようだ。そのくせ商品だけはひたすら垂れ流す。小心者なら経済攻撃されてると思ってしまうだろうね。私も少しは考えたけど。」

 

 ヴィルバンはわからない狐顔ながらもさも楽しそうに会話を進める。声質に悪意はなさそうだが鵜呑みにするのもまずそうだ。ミルグレイス市みたいに露骨に敵対してこないからやりづらい。

 

「ただね、私はこういうことにちょっとだけ既視感があってね。伝令に来た子の様子を聞いてピンときたんだ。」

 

 伝令に来た子?伝令騎兵のことだよね?子って面じゃなかったはずだろ。

 

「そんなに警戒しなくても大丈夫だよ。君の裏事情にちょっと心当たりがあるだけさ。選定者なんだろ君は?」

 

 こいつ、まさかプレイヤーか。僕は警戒レベルを最大限にあげて細工剣を取り出す。朱鷺もそれに合わせて剣を取り出すが僕ほど慌てた様子はない。

 

「んー、思いの外過剰反応だな。思ったより進んでないのかな。だいぶ発展してたと思ったんだけど・・・」

 

 ヴィルバンは抜剣行為を気にもとめずに話を進める。

 

「まあその反応で確信が得られたから武器をしまって落ち着いてくれていいよ。君の事情を知っている最もわかりやすいことだけ言っておこう。私達はいつかの神の盤面の勝者だよ。」

 

 ヴィルバンは楽しそうにソファーにふんぞり返り、ヒレンは黒い触手を4本展開する。

 

「黒藍C型ヒレンです。お見知りおきを。」

 

 えー?まさかこんなん有りかよ。僕は拍子抜けで武器を持ったままソファーに座り込む。朱鷺は武器をしまって待機状態に戻る。

 

「そういうことだ。よろしく頼むよ後輩。」

 

「しらんがな。」

 

 ヴィルバンが楽しそうな言葉に、僕は気だるそうな声で返した。その後ヴィルバンは信用してもらうためか自分の盤面をざっくり説明してくれた。彼は獣王神の選定者として戦い、鬼神と鳥神との戦いに勝利したらしい。

 

「期間は5年だったかな。私はそれなりに戦闘に勝ったつもりだったけど押しきれなくてね。4:3:3で判定勝ちだったんだ。」

 

 途中細かい話はすっとばしたのは話すと長いんだろう。5年だしな。僕は深いため息をつく。

 

「報酬として不老と配下といくつかの報酬をもらってこの世界にとどまったんだ。最も基礎ミーバは没収されたんだけどね。」

 

 前回かどうかはわからないけどこの世界が何度か盤面に使われてるってことか。むしろ盤面の為の世界って可能性もあるな。

 

「君の方は今何年目なんだい?」

 

 ヴィルバンは興味深そうに体を乗り出してくる。

 

「年も何も2ヶ月目だよ。鍛錬所の失敗がなけりゃねぇ。個人的には十日も経ってない。」

 

 僕の答えにヴィルバンは目を丸くしている。あんなのミーバさえ増やせばいくらでも回るだろうに。相手は先輩で領主なのに返答が雑になり始めているのに気がついて少し意識を引き締める。

 

「え?君もしかして経験者なの?」

 

 僕は首を振る。ヴィルバンはソファーに深く倒れて息を吐く。

 

「こりゃとんでもないね。人族圧勝じゃないかな。」

 

「そうでもないですよ。現に僕は一死済みですしね。」

 

「そんな御冗談を。」

 

 ヴィルバンは手をひらひらさせながらちゃかすが、僕が大真面目に見ていると、え?本当みたいに真顔になる。

 

「はー、知識偏重なのかな。体弱すぎんかね?」

 

 さっくり流れを聞いた後ヴィルバンは呆れて言うが、残念ながら精神系ステも同じくらい低かったぞ。

 

「ま、簡単に死なんようにお願いしたいね。さて本題に入ろうか。」

 

 僕の方は気になることがいっぱいなんですけど、後で聞いてくれますかね。

 

「最初にいうと都市に直接肉を卸してほしい。流通と質、価格をこちらで制御したいんだ。今みたいにいろんな商人が雑多に入荷されるとちょっと困るんだ。このまま行くと他の商品の流通も破壊されかねない。」

 

 僕がよくわからないと言ったふうに首をかしげていると、ため息をついて解説される。元々獣人の国ということで肉の消費が他国に比べて膨大であり、質の低いものも流通させてなんとか供給を保っている状態。そこに近場に現れた質が一定で良質の製品がそれこそ無制限に手に入って値段もお得な販売所。気がついた商人が購入販売したら飛ぶように売れたと。噂を聞きつけた商人がさらに駆けつける。そして売りさばく。

 

「知らないと思うけど君の肉、初期の頃は仕入れ値の五倍で売れてたんだよ。」

 

 今でこそ三倍弱に落ち着いたものの、同じ質のものは遠くから運んでくるメリットを失い。質の低いものは暴落したり売れなくなったものもあるらしい。そして肉バブルに湧いたナーサル市の商人たちはこぞって肉を買いつけに走り、他の生活用品などの流通量が下がり始めているのだと言う。

 

「いや、知らなかったとはいえ本当に申し訳ない。」

 

 僕は土下座する勢いで頭を下げて謝罪した。ヴィルバンは行為自体にピンとこなかったようだが謝罪していることは理解してくれて許してくれたようだ。

 

「まあ財貨を稼ぐ手段として資源販売するのは悪くないんだけどね。ただ・・・いや、当事者になるとホント辛いわ。」

 

 ヴィルバンも盤面中で一度やって都市から苦情を受けたことがあるらしい。

 

「盤面が無限に続くわけじゃないし永遠に享受できる保証もないのでね。こちらとしては制限する必要があるんだ。」

 

 僕らも無限じゃないはずなんだけど、異常な速度で育つ畑の回収性から考えたら事実上無限なんだろうな。盤面が終わる事を考えたら確かに依存したら将来的に滅亡するのが見えちゃってるのか。

 

「当面の間は適正価格で私に卸すようにしてほしい。商業ギルドにはこちらから事情を説明して抑えておく。販売所は停止してくれると嬉しいかな。言っても買いに行くやつはいるだろうからね。」

 

「分かりました。ただ販売所の場所の都合で反対側のミルグレイス市からも税金の督促がきてましてね・・・」

 

 と一昨日の出来事を説明する。ヴィルバンは微妙な顔をして天を仰ぐ。

 

「国境線的には微妙なところだねー。関所争い中だったしなあ。」

 

 簡単な経緯を聞くと一年前にナーサル市を条約で奪った後、言った言わないで国境線を引きそこねているらしい。

 

「主様らしくすればよろしいではありませんか。一時的な損(・・・・・)などすぐに取り返せます。」

 

 控えていたヒレンが悩んでいるヴィルバンの首に頭を擦り付ける。ヴィルバンがすごく悪そうな顔をし始める。これは妖狐ですか。

 

「君、日にどのくらい食料つくれるの?」

 

 ヴィルバンに聞かれるが、最近管理してないのでまったくわからない。僕は朱鷺を見上げる。

 

「そうですね日に12万ぐらいでしょうか。」

 

 へースゴイナー。ヴィルバンもちょっと引いてる。

 

「うかうかしてると第三勢力として滅ぼされそうだね。そうならないことを祈ってるよ。それはおいておいて。ナーサルには所定の値の食料を卸してほしい。今の流通量より少し少なくなるので負担は減ると思う。当然対価は払う。通常相場でね。代わりにミルグレイス市の要請も受けてほしい。報酬が雀の涙だったとしてもこちらからの売上金で多少まかなえると思う。」

 

 要請を受けるということは流通を渡せということか。倉庫から入荷してるのにどう渡すか悩むな。眷属しか取り出せないのに。

 

「それに関しては相手が指定する量を君が運ぶか、販売所ではない形式にして取りにこさせるかだね。君を介さないと売れないってことにしとけばいいと思うよ。その場で金を払わずに商品だけ受け渡すならあの馬鹿なら納得するよ。」

 

 ナーサル市との取引価格が2倍弱になるので確かにさほど損はしまい。あのデブが儲けるのは少しイラッとするが。朱鷺のほうは理解しているのか含み笑いすら浮かべている。どんだけあのデブが嫌いなんだよ。

 

「君があそこにいる期間そうやってもらえればいいよ。販売期間が短くても長くても私達にはそれなりのメリットがあるからね。」

 

 うわ、黒ーい。この人真っ黒だ。

 

「分かりました。その提案をお受けします。結果どうなるかに関してはそちらにおまかせします。」

 

「こちらからの提案だからね。悪いようにはしないよ。君も頑張ってくれ。」

 

「親切ついでに盤面の話を聞きたいのですが。」

 

 ヴィルバンとの話がまとまって僕は情報が知りたくて切り出す。

 

「あー、うん。君の期待してる答えを知ってるかはわからないけどね。そもそも君の今の状態が私の2年目くらいの話だよ。」

 

 ん?随分のんびりだな。

 

「君がこの盤面開発に関してはものすごく異常だとは言っておこう。私達の盤面基準から考えても最低1年半は先を行ってるよ。おそらく私が知っていることも君がすでに想定していることの可能性のほうが高い。」

 

 僕は言われたことがイマイチ理解出来ずに首を傾げる。

 

「身体的に強い個体ほど己の力に頼る。ミーバに頼ったほうがよほど早いなどと考えている者は少ないらしいよ。一、二死したところでそういう助言をされる。世話がいらずに疲労もなく動き続ける労働力など今の世界から考えたら恐怖でしか無い。おそらく今君が考えているプランがベストだ。私から何を知ろうともね。」

 

 ヴィルバンは恐ろしいものを見るような目で僕をみつめる。

 

「もう少し語り合って君の疑問を晴らして上げたいところなのだが、私もこの後に予定があってね。これ以上教えてやるにも時間がない。また次の機会にゆるゆると指導してさしあげよう。」

 

 時間を気にしだしたヒレンを見ながらヴィルバンは話を切り上げようとする。

 

「そうですね。ここのでの話も疑問を少しでも晴らす有益なことでした。こちらを今後のことも含めてお受け取りください。」

 

 僕はそっと目の前のテーブルに装飾小箱を置く。懐かしいね、と呟きながらヴィルハンは小箱を取って少し開ける。

 

「私は君が恐ろしいよ。もうこんなものを渡すことすら惜しまないのだね。」

 

 ヴィルハンは竜眼石をチラ見して箱を閉じる。怖がられても知らん。僕にはその価値がいまいちわからないのだ。丁重に見送られてナーサル市を出る。そこで朱鷺がようやく一息ついたように息を吐く。

 

「どうした。めずらしく緊張していたのか?」

 

 僕は朱鷺に声をかける。

 

「いえ、もうどうやっても彼らに逆らいようが無かったものですから。逆に達観してしまうくらいには。」

 

 僕は何それ?と言った感じで朱鷺を見る。

 

「おそらく敵対行動を取ればこちらが動く前に二度三度、突き詰めれば五度は殺せそうなくらいは格差がありました。」

 

 余裕があるのは強さの裏打ち。こちらが何をしても害されないと思っているからだということを今更ながらに知った。

 先輩選定者との出会い。

 ヴィルハンはこの世界の本大陸ではないく少し大きめの孤島で盤面を行っていたので比較的小さな戦場でした。遊一郎とヴィルハンはそのへんのすり合わせをしていないので認識に少し齟齬がありますがお互い気がついていません。


 紺野遊一郎 グループなし 戦術師Ⅲ 

 STR:132↑4] VIT:171[↑6] DEX:160[↑10]

 INT:46[↑18] WIZ:38[↑20] MND:39[↑18] LUK:11

 MV:7 ACT:1.2|1 Load:484 

 HP:432 MP:184 ATK:227+11|222+14 MATK:168+14 DEF:71+5+2 MDEF:15 SPR:194

 スキル:木造建築、貴石研磨、装飾品作成

     弓Ⅰ、体術Ⅱ、貫通撃Ⅰ、貫通射撃Ⅰ

     守勢魔術Ⅱ、強化術Ⅱ、回復術Ⅰ

     条件発動Ⅱ、並列発動Ⅰ、詠唱短縮Ⅱ、消費軽減Ⅰ、貫通術Ⅱ

    (剣Ⅱ、軽盾Ⅲ、守勢魔術Ⅲ、強化術Ⅳ、回復術Ⅲ)

 装備:鋼鉄細工剣、革鎧、小盾、木合成小弓

 特典アビリティ:本

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ