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僕、治める。

 借り物である騎士達が進軍に意見が傾き正直悩む。最終決定権は僕にあるとはいえ思考しうる生物の内九十%は進軍に傾いているわけである。これを上から押さえつけては不満が溜まるだけだし、僕が知りうる敵の情報を公開したところでそれを信じる者がそもそも少ない。正直な所過信して攻めてきた敵と何も変らないのである。

 

「立場が逆転すると滑稽なことこの上ないな。」

 

 僕はぼやく。

 

「そもそもアレ等の命を貴方が守る必要があるんですの?」

 

 鶸は浮ついた騎士達を横目に見ながら辛辣である。

 

「押せる時に押せ、という考えは分からんでもないであるがなぁ。どこまでいってしまうやら。」

 

 紺も苦笑いを浮かべながら呆れている感じである。

 

「うちは一緒にがーっていくほうが楽なんけど。」

 

 蘇芳はもしかしたら萌黄よりも考え無しなのかもしれない。割と脳筋のような気配がする。功績を稼ぎたい気持ちも分からなくも無いが無駄死にもして欲しくない。しかも死ぬのは発案者ではなく命令される兵たちである。

 

「本来やるべきでは無いけど・・・全体に事情を説明して志願制にしよう。」

 

 僕らは最後尾で拠点を維持し補給を行う。軍全体に敵の状況と裏に潜む脅威を説明しそれでも踏み込む者達で進軍して貰う。国家の軍としてはやってはいけないことだろう。指揮官が戦略の半分を投げ出している状態だ。

 

「それでも過半数は進軍するでしょうが・・・そこまで馬鹿なら救うのは最後でもよいでしょう。」

 

 菫は雰囲気を鑑みてそこまでは救えないだろうと諦めている。内輪で話す内容を決め推敲する。その上で指揮官を集めまずその考えを説明する。

 

「ここまで来ておいて責任も取らないとおっしゃるか。」

 

 少数派である反王家系派閥の貴族が取りあえず難癖を付けてくる。

 

「そもそも僕はこの先に進みすぎることは罠であると考え慎重に進むべきだと考えている。それを軽んじて進軍して押し切ってしまおうというのが君らの意見だよ。責任を取るとか言う段階じゃ無いと思うんだけどね。それでも攻めたいという君たちの意見も聞いて、その妥協案ということだよ。」

 

 決定的に話が合わなさそうな髭貴族にきつめに言い放つ。そもそも命令違反で全体を罰してもいいんだよ、と暗に含める。

 

「ですが閣下の軍を使えないとなると進軍に支障を来すと思いますが。」

 

 進軍派に傾いているエドモンドが困るなーと言わんばかりに意見する。そもそもミーバ兵を当てにして功績だけかすめ取ろうとすんなと、僕はため息をつく。

 

 

「守備と治療の最低限は派遣する。無駄に死者を増やすつもりもないからね。補給線の維持もこちらで万全を期して行う。ただ、そこまでだ。戦闘における攻撃の部分は君らで行え。記録にもそうつけるし、そのかわり成果の功績はすべて君らのものだ。尤も失敗の責もいつも以上に負って貰うけど。」

 

 どうかな?と視線を巡らせる。支援が存分に受けられないとなると足踏みを始める者がちらほら。反対派は鼻息が荒くこれを機に僕を追い落とそうと張り切っている。エドモンドは僕の説明と支援内容を聞いてようやくその先の危険を感じ取ったようで、進軍に関しては慎重に検討するようにと立場を転換し始めた。八人の将校の内五名は進軍を決め、残りは後方支援に回ると諦めるように発言した。あわよくば安全に支援部隊で功績を地味に稼ごうという気配を感じる。

 

「では将校の賛否は伏せた状態で騎士全体に同様の話をして志願者を募る。その後将校に兵を割り振る形にする。進軍将校が公開された後に志願を取り下げた場合には原則認めるように。元々志願しなかったものが志願した場合は応相談だな。」

 

 僕はそう話を締めた。

 

「最初から参加将校を公開すればよかろう。」

 

 声のでかい将校は何を面倒なと叫ぶように発言する。

 

「そんなことしたら貴下の騎士は否応なしに従うしかないだろう。志願の意味がなくなるじゃないか。君だってそんな士気の低くなりそうな兵を連れて行きたくは無いだろう。」

 

 僕は用意しておいた言葉で、あえて煽るように言う。

 

「我が騎士隊にそんな臆病者はおらんわっ。」

 

「勇気と無謀、慎重と臆病にはかなりの隔たりがある。少なくとも僕は自殺同然に兵を送るつもりは無い。」

 

 僕は対抗するように睨みを効かせるが、鶸に念話で効果はいまいちですわよとツッコミを入れられる。

 

「志願について方法を変えるつもりは無い。後志願についても圧力は掛けないように。発覚した場合は許可を出さないからな。」

 

 僕は立ち上がり話を打ち切る。ただ後々将校が公開されれば元の教育(・・)次第では言われなくても志願する者は出てくるだろうとは思う。それらについては事情を聞いてからかなとは思う。わざわざ死地に挑むことはあるまいと。騎士達には僕から変って菫に説明して貰う。こういう時は総大将が行うと事実上の強制参加に思われるだろうという鶸の考えからであった。菫でもあまり変らないと思うが、鶸はそれで良いのだと僕を押さえる。ミーバ兵の中継器などを利用して三十万の野営地全体に菫の声を届ける。内四万は補給専門か治療術士であり実質戦う騎士は二十六万。その内志願した者は十八万と存外多かった。

 

「鬱憤が溜まってるのかチャレンジャーと言うべきか・・・」

 

「状況が理解出来ない馬鹿と言っても構いませんのよ。」

 

 残りの八万からも案の定追加志願兵は出る。三万の内一万だけ上官に対する遠慮が見えるような意志薄弱な意見ではないので追加を認めた。十八万の先志願兵から脱落したのはわずかに三千だけだった。

 

「保護兵の編成は如何しますか?」

 

 金糸雀が随伴を申し出てミーバ兵を編成する。

 

「重装兵を一万、重装騎兵を一万、治療術士を二千。あとは斥候兵を三千と魔術師を一千くらいかな。」

 

「お優しいことで。」

 

 僕がざっくり数を決めると鶸が横やりを入れる。金糸雀は特に反対するでも無く了承の意を示して去る。

 

「最悪全部失われますのよ?」

 

「全滅するまでには補填できる・・と思いたいねぇ。」

 

 敵の侵攻も弱いがこちらも強気にでるわけでもなく不毛な消耗戦が予想された。状況が決まってから今後の予定を本国のトーラスに報告。

 

『ふむ、それは世話をかけたな。エドモンドが思いとどまったのは良かったが。まだまだ馬鹿は多いな。とはいえその決定もいかがなものかと思うがね。』

 

 なんだかんだでトーラスも自軍に対して辛辣だった。

 

『こちらからも予想される事に対して手を打っておく。ついでにもう少しましな代わりも送っておこう。』

 

『これ以上世話しきれんよ。』

 

『私としては君の世話のほうが大変なのだがね。』

 

 僕はぼやくがトーラスは僕を出しに有無を言わせなかった。

 

「貴方は政治をしませんからね。」

 

 鶸に愚痴っても返ってくるのは追い打ちだけだった。例の反対派貴族がどういう根回しか劣勢の中侵攻指揮官選ばれる。意気揚々と死地に挑む騎士達を何とも言いがたいと笑顔で見送る。いくら面倒な状態になったとしても補給線だけは確保してやらねばならんと既存の補給兵を交えて支援計画を構築する。相手が引き気味なこともあって見かけは連戦連勝が続く。相手の軍へのダメージを考慮するとこちらの被害は決して良いとは言えない。焦る必要もないのに無茶な指揮が窺える。連勝報告を聞いていると待機兵から若干不満も出てくるがそちらはエドモンドがどうにか押さえている。一般兵にかんしてはお任せして僕らは本来対処しなければならない事柄への検討に戻る。

 

「格上を一撃で対処しようとはさすがに無茶かと思います。」

 

 アーツの検討についても菫の意見は順当だ。ステータスにおける防御を突破するのですら中々難しいこの世界でさらに見えない防御をかいくぐるのは至難の業である。

 

「ふ、この目に射貫かれたものは・・・死ぬっ。」

 

 萌黄が如何にもな格好と台詞で菫を指差す。

 

「それは実現できるのですか?」

 

 菫が萌黄の手のひらの隙間から人差し指で目を貫こうと手を進める。萌黄はその指をさっと挟み受け止める。菫も本気で貫くつもりは無かったので萌黄の力でもどうにか押さえつけられているようだがかなり辛そうだ。

 

「そもそも即死は初期条件が厳しく設定されているのにコストが高いであるよ。」

 

 紺はアーツを所持しているらしく、支援部隊の指揮を執っている金糸雀に代わりアドバイザーとしてこの場にいる。紺としては同格に対して確実性を上げる、もしくはわずかに格上の相手に最後の一撃を加える為にアーツを構成しているという。金糸雀は様々なアーツを身につけることで多様な場面で対応出来るようになっているらしい。ただ本来なら多くの場面で対応しようと思うなら素の能力を上げるか、有用なスキルを身につけた方がいいと紺は感じているし、金糸雀も普通にやれるならそちらのほうが良いと断じている。特定の場面に引きずり込みそこで確実に勝つための力として使うのが一般的だと両者は語る。ただそれだけ理解させておきながら金糸雀の構成は少し疑問が残るが本人がその胸の内を明かすことは今の所無い。

 

「菫の言ではありますがアーツ一撃で片づけようというのはさすがに虫がいい話であるな。なにも一対一で解決出来ずとも三名で嵌め倒すというのも手であるよ。」

 

 ある一つの定番ではあるが一人が防御を崩し、続いて拘束し、最後に攻撃を畳みかける。これらを同時に行える連携力があれば理論上どんな相手でも倒す余地がある。

 

「三対一で戦えればいいけどねぇ・・・」

 

 準備しておくべきではあるが、やはり一人でも対抗できる手段は欲しいところだ。

 

「時間がたらんであるよなぁ。」

 

 紺は苦笑して検討にはいる。三時間そこそこ討論を重ねても結果は出ないまま終わる。何か別の何かが無ければ解決出来ない気はする。相手の情報が著しく少ないのだ。何をしても対抗手段を思いつく以上は不安が抜けず、相手の攻撃を回避することすら今は困難であるからだ。相手の攻撃が即座に理解出来ればいいのにと願う。魔力視覚も戦闘経験も未知のものには及びにくい。この先どれだけ格上がいるか分からないが、いることを前提にしていないと生き延びることすら難しいと思い始める。ふと考え直してまさかと思いアーツ構成を念じる。

 

-指定対象を知る。百万-

 

 根本的な答えが用意されていた。しかし恐ろしく高い。まぁこれを使えるようにすればいいだけだ。僕は拠点に引きこもり思索を始めた。何事かと回りに人が来ても気にせず一心不乱に昼食も夕食も取らずに寝落ちして翌朝になるまで。

 

「さて、あれだけ心配させておいて何か良い結果は得られたであるか?」

 

 僕は神谷さんを含めて皆に囲まれて正座させられている。珍しく責めるような目線を紺に向けられながら厳しい口調で詰問される。

 

「ま、まぁ・・・直接的な解決にはならないけど、根本的な解決には至った・・よ?」

 

「ほう、それは行幸でありますな。」

 

 目線の圧に押されながら僕は答えたが紺は許すこと無くさらに目を細くする。回りの目線の圧も決して小さくない。僕は察して観念した。

 

「ごめんなさい。ご心配おかけしました。」

 

 見事な土下座だった。

 

「さすがに根を詰めすぎであるよ。気をつけてくだされ。」

 

 紺は肩の力を抜いて圧も落した。周囲から思い思いに文句が飛び交う。心底心配されていたと知り心から反省する。だが後悔はしていない。

 

「それで解決とは、どのように。」

 

 紺は話を戻すように尋ねてくる。

 

「簡単に言うと知りたいことを知るアーツかな?」

 

「なんと?」

 

 僕はそう答え、殆どのものが想定ににない攻撃ですらない方法に意外な声を上げた。鶸だけが呆れるようにため息をついている。

 

『全知』

 

 目の前の紺に向かってアーツを使う。突然の宣言に紺が慌てる。

 

「あ、主殿・・・突然何をっ。」

 

 知るべき情報を指定しなければ得られるのはステータス結果だけだ。

 

「そこまで慌てなくてもステータスしか見えんて。」

 

 僕は笑いながら紺に声を掛けるが、珍しく紺の視線が強い。僕には紺が何を警戒しているか分からなかったが、ステータスに視線を落しないはずのものがありそこに疑問を持つ。そして紺はその気配だけでどうなったかを理解したようだ。

 

「知ってしまった・・・であるな?」

 

 紺は後ずさり警戒する。紺の気配が変ったことで周囲に緊張が走る。真っ先にユウが武器を構えて斬りかかる。

 

「ユウ?やめなさいっ。」

 

 紺はユウの剣を寸前で回避しバランスを崩す。そして蘇芳に支えられるように掴まれる。

 

「おっと、どうしたんだよ。」

 

 蘇芳は紺を支え持ち上げるようにして立たせる。そして面倒くさそうにユウに向かって盾を構える。

 

「よーわからんけど・・・相手になるよ。」

 

 急に仲違いが始まったと思ったのか蘇芳が低い声でユウを威圧する。

 

「そいつはクソ野郎の配下だっ。身内においてもろくな事がねえっ。」

 

 神谷さんの前に移動しつつ取りあえず攻撃は止めたが、叫ぶように周囲を諭す。紺は苦虫を噛むように顔を歪める。僕はユウの激昂する様子を見て何を言い出したのか理解する。そして紺もその事実を隠していた事も態度とスキルで理解した。【審判】と【絶断】。【審判】に心当たりはないが【絶断】はベニオのスキルだったろう。それらが正常なスキルとして機能している以上【神託】と同様にシステムの庇護下にある。

 

【審判】:指定された集団内での訴訟権を得る。制限、停止、移譲、接収、解除を指定項目に対して執行する。執行には集団内において審判者以外の多数決で決定する。

【絶断】:振り抜くことで接触した対象を破壊する。影響力はATKと時間に依存する。

 

 割と普通に見えもするが拡大解釈が出来ると異常に見える。神託のように次元を超越する。絶断が空間を切り裂く、審判はスキル、ステータスに作用するのだろう。ただ審判に関してはかなり不自由に見える。

 

「紺は・・・僕の敵か?」

 

 紺に、そして全体に問いかけるように声を出す。静かに自分でも冷たい、抑揚の無い声と感じた。菫、桔梗の視線が僕に向く。萌黄と蘇芳はあまり気にしていないようだ。ユウは怒りに燃え、トウも神谷さんを守るように動く。そんな中クロだけが何かに怯えるように立ち尽くす。紺はどう答えるか少し悩んでいるようで苦悩が見て取れる。正直即答されないだけ良かった一安心してしまう。少なくとも悩む余地があるのだ。

 

「・・・ご主人様は主殿を敵とは見ていないであるよ・・・すべては駒であり、我々は駒を誘導するための自由が効く駒であると。」

 

 紺は蘇芳に支えられながらポツポツと重く話し始めた。一瞬何を言っているか分からなかったが、言葉の意味を考え直すと納得がいった。それらは明確に区別されていたのだと理解する。紺は視線を僕に向ける。僕は態度を変えないまま紺に続きを促す。

 

「でも紺は直接的な指示出ない限り主殿に敵対するつもりはないであるよ。他の者もそうであるがあくまで主殿の配下であるよっ。」

 

 紺は悲痛な声で叫び訴える。紺を見、そして空を仰ぐ。さてどうするか。

 

「ベニオを倒したのは紺だね?」

 

 僕は尋ねる。

 

「ご主人様の指示もあったであるが・・・かなり暴走気味で上層に関与が疑われる可能性もあったゆえ・・・仕方なく。」

 

「あなたがあの子をっ!?」

 

「だからアイツは敵なんだっつーのっ。」

 

 紺の告白に神谷さんが叫び、ユウが声を荒げる。

 

「他の関係者は?と聞くまでもなくなったのだけど・・・クロ以外にいるの?」

 

 僕は紺を見た後視線をクロに移す。見られたクロはビクッとして身を固め後ずさる。

 

「やっぱりおめーもかっ。」

 

 どうにもチェイス神へのヘイトが常時最大値のユウは関与が疑われるたびに吠える。話が進み辛くなるから縛って転がしたい。僕が頭を抱える中紺が口を開く。

 

「伝令役の鈴、執行役のベニオ、監視役のクロ、監査役の紺。本来ならもう一人の選定者にも送る予定であったであるが・・・あのエルフ趣味一直線で進化体を作らないであるよ・・・」

 

 独白する紺だが途中からチェイス神の愚痴を吐露するかのようにもう一人の味方であろうエルフとやらの事情を付記する。

 

「そこまで暴露されると逃げようがないのですが・・・貴方も一体どういうつもりで。最悪盤面が止まってしまいますわよ。」

 

 クロが諦めるようにため息をつく。

 

「主殿がその結果に至ってしまったのなら公開しても良いと、元からの予定通りであるよ。調整はご主人様がするであろう。隠蔽を見破るという監視条件であるらしいであるからな。」

 

 紺がクロに向かって少しだるそうに答える。

 

「そう言えばステータスの隠蔽はどうやってたんだ?」

 

「よもやアーツで貫通されるとは思っておらんだのですが、審判の制限機能でありますな。特定のスキルに対して閲覧制限を掛けておりました。」

 

「ああ、なるほど。制限って幅が広いんだな。」

 

 僕の質問に紺は隠すこともないと素直に答える。そうすると気になるのが。

 

「現在の指定グループは?」

 

「ご主人様と先の四名ですな。この場だとクロだけに見えますが・・・」

 

 質問に答える紺は指を空で刺しくるくると回す。意図は見えずらかったが続く言葉でなんとなく理解する。審判の判定には必ず鈴が含まれるのだろう。そして鈴が含まれるとチェイス神も必ず含まれる。

 

「鈴には主体性がないであるからして、往々にしてご主人様の意思に反しないものは審判が自在に通るということであるよ。」

 

 全四票の内基本的に半分は自在ということである。かなりずるい。制限があるようで事実上無いといってもいいスキルだった。

 

「ということは・・・審判の対象がステータスに及ぶという事になるので・・・」

 

「主殿の想像の通りであるよ。接触さえできれば事実上必殺(・・)のスキルであるよ。」

 

 これは恐ろしい。審判の効果を理解していない回りの面々が首をかしげるような感じで話を聞いているが、僕は鳥肌が立ってしょうがない。今、理不尽な力と庇護意識で蘇芳が紺を捕まえているが、これを一度審判の対象とされれば蘇芳の命を停止する、すべてのHPMPを接収する、ということが自在ということだ。鈴の意識が真に鈴である場合は味方に不利なことはしないだろうが、鈴がチェイス神の支配下に入ればそれすらも覆り、チェイス神の意図にそぐわないものは必殺し放題とも言える。表記以上に危険なスキルだ。

 

「結局そいつはどうすんだよ。」

 

 かなり毒気を抜かれたユウが待ってられないと結論を急かす。今ならチャンスだと思っているのだろう。ただ一度紺が本気で仕掛けてくるなら残念ながら勝ち筋が細い。『全知』を使っても犠牲者が出ることを避けることは難しい。

 

「紺、今のそのスキルならチェイスとの関係を断てるんじゃ無いのか?」

 

 どう支配下に置かれているか分からないが絶断使えばあらゆるものが切れる。それこそ知っているなら縁すら切れるように思える。

 

「残念ながら、個体ではなく神託を通して行われているのでそれは難しいであるよ。」

 

 紺は現在の状況を伝える。

 

「紺に神託を統合すれば問題無い気もするけど。」

 

 僕は原因がそれならと提案する。

 

「神託は鈴でないと耐えられんであるよ。あの体の頑丈さを持ってしても上層からの負荷から耐えるのには若干の余裕が残されているだけであるからして・・・」

 

 紺はさすがに無理だとトーンを落す。

 

「そもそも神託に対して審判が成立しないであるな。これらのスキルの接触は必ずチェイス神の知るところになるであるよ。」

 

「それであのうさんくせぇ感じがするのか。」

 

「お主のそれはもはや特殊能力であるよ。」

 

 紺が肩を落してユウの直感を褒め称える。ユウはよく分からんけど良いことかと首をかしげる。ユウもほだされやすいというか欺されやすいというか・・・

 

「まぁ・・・そういうことならいつも通り様子見だなっ。」

 

「はぁ?そりゃねぇだろ。こっちの話全部筒抜けだぞ。」

 

 僕の決定にユウが反論する。ユウの言葉を聞いて笑いながら紺を見る。

 

「さすがに常に聞き、監視するほどご主人様は暇でないであるよ。盤面以外にも無数に仕掛けを施しているが故に・・・」

 

 紺が視線を受けて答え、僕はだよねとユウに視線を戻す。

 

「かといって見逃す理由にもならねえだろ・・・」

 

 ユウはどうしても気に入らなくて食い下がる。

 

「その実・・・情報がどうたらとかいうならクロのほうがやばめだし、そもそも鈴がいる限り回避不可能なんだ。」

 

 僕がユウに解説しながらクロを見る。ユウは理解できないと首をかしげながらクロを見る。突然話を振られたクロは怯えるように身を固める。神谷さんはそれを見かねてクロを抱え、僕に抗議の視線を送る。理解してないと神谷さんも危険なんだけどなぁ。

 

「どこまで該当するか分からないけど・・・クロが与えられているのは同調するか複写するタイプのスキルだよね。」

 

「貴方やっぱりおかしいですわ。どうやったらそういう結論に・・・」

 

 クロが諦めてがっくりとうなだれる。菫がなんとなく偉そうにしてるのはよく分からないけど視線がクロに集まる。

 

「私が持っているのは【借受】ですわ。知っている対象の状態を自分に複写するものです。」

 

「監視役なのとヨルがいたせいかな。ただ予想より範囲が広そうだね。」

 

 クロが自らの持つスキルを公開する。

 

「便利なやつよね。でも監視役なんだよね?」

 

 神谷さんが不思議そうにクロを見ながら尋ねる。

 

「だからこそ同時にヨルがいたんだ。ユウの疑いを躱すためにおいたんだろうけど。スケープゴート的な?」

 

「そうですわね。スキルや状態変化、心臓の鼓動や視線に至るまで自分の中に複写できますのよ。」

 

 心臓の鼓動を複写してどうするのかは甚だ疑問だがヨルのスキルや、視線、記憶を複写できるなら監視役としては申し分ないほど情報を得られるだろう。そして情報云々においてクロに対して隠せるものは少なく、それを鈴に伝えられる魔術師である以上情報漏洩など考えるだけ無駄なのだ。

 

「な、なんだってー。」

 

 ユウがオーバーリアクションで落ち込んでいる。まさか怪しんでいたとはいえ身内のほうがもっとまずい相手だと悟って若干の混乱に陥っている。

 

「よし、全員倒そう。」

 

「よし、ハウスだ。」

 

 ユウが悟りを開いたかのように武器を構える。それを石壁で囲って隔離する。まぁすぐ出てくるだろう。

 

「どういう意味か分かればそれなりに利用のしがいがあるし、無意味に使われるつもりも無い。鈴と同じで使えるように使っていくよ。害が無い限りはね。」

 

「鈴に至っては害すらありましたしね。」

 

 僕がそう締めくくると、桔梗が少し感情を強めに出しながら笑う。怖い。


「対策とかはしなくていいの?」

 

「するだけ無駄だからね。むしろ不定期に何をしたか聞くだけで良いと思う。」

 

 神谷さんが不安そうだが、そもそも超常能力過ぎて手を出しようが無い。逆に考えれば紺が配下の中で突然パワーアップしたと考えれば儲けものとも言える。

 

「はは・・・前向きであるなぁ。」

 

 紺は両手を挙げながら苦笑いを浮かべている。

 

「あ?で・・・戦闘は無し?」

 

 蘇芳はどうにも戦いたかっただけのようだ。話の流れは認知していないようにも思える。

 

「お詫びにあちらで紺が相手するであるよ。」

 

「お、やってくれんのか。よし、いこうぜ。」

 

 蘇芳が紺を引きずるように広場に向かう。紺は僕を見てひらひらと手を振り首だけ倒して礼をする。多分謝っているつもりなんだろう。

 

「手加減してやれよ。」

 

「おうよっ。」

 

 僕が声を掛けると蘇芳が元気よく返事をした。君じゃ無いけど、まぁ頑張ってくれ。

 

「つってもどうやってあれを出し抜くつもりなんだよ。」

 

 小さいながらもヤンキーのようにユウが僕に向かってくる。

 

「どうだろうね。まだまだ理解しなきゃいけないことがあるかな。」

 

「その前に終わっちまわないようにしてくれよ。」

 

「努力する。」

 

 ユウはまだ消化不良と言わんばかりに叫び、そして広場に走って行った。ただ、この状況は僕にとって吉であるとおもう。秘密のスキルを二つも得たのだ。最悪紺だけで状況を打開できる可能性すら出てきた。さすがに大っぴらにするとチェイス神から制限がありそうだし、なにより盤面が止められかねない。僕からチェイス神に届くまでに機会を取り上げられては困る。取りあえず全知から得られたことを元に対策を考えようと回りの子に呼びかける。

 

「あっちはいいんですの?」

 

 鶸が親指を刺しながら言う。

 

「紺はともかく・・・いるか?」

 

「いりませんわね。」

 

 僕の答えに鶸が一瞬止まった後辛辣な言葉を吐いた。

 

「取りあえずそのアーツ聞かせて貰いますからね。」

 

 鶸が何かを不安視するかのように鋭い目で僕を見た。中々鋭いから困る。後でまた怒られることを覚悟して僕らは歩みを進めた。

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