僕、準備を開始する。
現在推定される相手の最低戦力と今後の計画をトーラスに伝える。現状の僕らでは相手にならないという事実はトーラスですら絶望を覚えるレベルではあったが、まだ遊ばれているという点では猶予があると仮初めの安心感だけは伝えておく。予定されていた地点に神谷さんの中級拠点を建築し二十三万のミーバという物量で三日で要塞を作り上げる。環境的に木材が貴重になってしまったので石材、金属を中心とした強固な作りになっているのは偶々である。作戦の一部として戦線を膠着させるという意味もあり、他国の土地でありながらさらに自国から騎士を三十万呼び込む。さすがにレイスタン王国が黙っていないと思ったがトーラスが手を回していたようであちらからの干渉は無い。
『レイスタン王都に近づくのは無しだ。そこまではフォローができん。制圧された地域、隣接する地域に関しては自由にして構わない。』
トーラスから得られたレイスタン王国からの最大の助力は何を差し出したか分からないほどおおらかな対応であった。レイスタン王国としても最大限の譲歩といえなくもないが地図的には若干穴がある。ヴィルバンが気がつかないと言うことは無いだろうが、僕との遊びに集中してくれていればいいのだが。契約の穴をついて更に北側からクラファル王国が回り込んで進軍してくることをこの契約はフォローをしていない。そこまで動けばさすがに奇襲を受けることは無いと思うけどレイスタン王国が即死しないことを祈るばかりである。
「本遠征隊の総司令官であるエドモンドだ。建国の英雄殿と一緒の出来ることを光栄に思うよ。」
久しぶりに低姿勢な貴族を見たなと思うくらい、子供にしか見えないだろう僕に敬意を払う壮年の男だった。
「我がトライスフィール家は貴方のおかげで出世したようなもんだ。余所の連中みたいに恨んだりはせんさ。」
豪快に笑いながら僕の背中を叩くこの男、他人との距離を計り間違えてるんじゃ無いかと思うくらいには踏み込んでくる。状況を理解出来ずに受け身になっている僕を見て怪訝そうな顔をしてのぞき込む。
「昔は上の機嫌を取りながら面倒くさい謀略をする日々だった。今でも謀略がないとは言わんが少なくとも上役にこびへつらう必要はなくなった。地位に対する責任が問われ貴族の正しいあるべき姿へと・・・」
「あ、そういうのはいいです。」
うっとりと語り始めるエドモンドを僕ははっきりと言い切って話を止める。
「む・・・そうか、残念だ。」
心底残念そうに顔に影を落す姿を見て少し同情気味になるが、許せば話が長くなるだけなのでぐっとこらえる。
「派閥が全く無いわけではないので申し訳ない軍の半分超は王族派で固まっている。私が支持する形にはなるが基本的には貴方の指示に従おう。」
エドモンドは気を取り直したように笑顔になり、そして礼をとり膝を突く。彼自身は少なくとも僕を王族、もしくは王に準拠するものと扱うようだ。
「助かるよ。正直地味で侵攻する気のない準防衛戦になるからね。最低でも上が従ってくれるのは有り難い。」
僕は礼に対して受け入れと返礼動作を返す。しかしエドモンドは少し怪訝そうな顔をする。
「防衛戦ですか?破竹の勢いで追い返しこれから侵攻という雰囲気ではありましたが・・・」
「そうか、編成される時はそういう話だったろうなぁ・・・」
取りあえず僕はエドモンドにこれまでの経緯と相手に飛び抜けた強さの英雄が最低でも三人いるという説明をして、倒せる算段がつくまで一進一退を繰り返す事になるだろう説明を行う。
「そういう理由でしたか・・・しかし背景も分からずそのような事になると士気に影響が出ますなぁ。」
「公表は・・・難しいか。」
「自軍の中だけに止めようとしてもかなり早い段階で相手にばれてしまうでしょうからのう。まぁ公表しても自分の命を対価に遅延行為を行うとなると・・・士気は愚か信念的にも大問題ですな。」
エドモンドが渋い顔をしながら悩ましげに首をかしげる。
「これまで以上にミーバ兵を前面に出して騎士達には安全重視でやって貰いたいとは思っている。」
「そこまで過保護にされるとまたプライドの問題もあります故・・・」
僕としても無駄に死者を出したいわけではないので換えが効くミーバ兵を前面に進めたいのだが、以前から多少問題になっていた騎士としての活躍の場を奪いがちであることが重くのしかかってくる。末端の兵士からすると敵を倒すことが戦功を得る行為といえるので、戦う機会を奪うことは不満の種であった。安全に楽して報酬が貰えればいいとは思うのだが民兵はそれで十分でも、騎士達は出世したいということもあり直接戦うことは安全よりも重要なことであるらしい。
「その辺りはどうにか調節していこう。取りあえずこのまま力任せに進軍すると確実に敗北して滅亡する未来しかない。そこだけは心に留めておいて欲しい。」
「貴方の直下の英雄を軽々と越えてくる者がいるとはにわかには信じられませんが・・・しかも古い国とはいえクラファル王国に。そんな力があって帝国のように統一に動いていないというのも不思議でなりませんが。」
エドモンドは難しい話であると納得し、相手の状況が不思議でしょうがないと考えている。
「出来ることを当然のようにやっても面白くない。出来なさそうなぎりぎりで突破していくのが面白いと思ってる口なんだよ。魅せでも縛りプレイでもいいけどさ。」
「はぁ・・・私にはとんと難しい話ですな。」
エドモンドが考えるのを放棄してため息をついた後、今後の配置や侵攻を決めるために鶸たちと一緒に話会った。配置を決めるのは一日もかからず済むのだがこれから三日間で騎士達の再編が始まる。浸食された地域の境界を五カ所で区切り、それらに基礎兵力としてミーバ兵三万、騎士四万を割り振る。現在拠点となっているグランド要塞を待機場所とし騎士達の交代と補充を管理する。前線が押し進められればその先に追加で要塞を立ててそこを基点に前線を維持する予定である。敵の行動に合せて要塞から援軍を派遣するという段取りである。
「取りあえず体裁は整いましたわね。」
再編はエドモンド達に任せ、僕らは現状打破の為の打ち合わせが続く。鶸が最初の形を作ってあとはルーチンで回していけばエドモンド達だけでも前線は大丈夫だろうと踏んでいる。人間的な不測の事態が出てくるのは少なくとも半年は先だろうと鶸は見積もっている。
「まず形として見えている脅威であるヒレンの件ですが・・・」
本日の議長である菫が第一目標であるヒレンの対抗策としての案を求める。基本的には相手が魔法使いであるので魔法に対してガッチガチに対策すればいいという話が中心なのだが、魔法に対する対策が基本的に魔法になり、補助として対魔法物質による妨害、軽減となるのだが、何せ相手の強さの上限が分からず何処までそれらを積み上げるかという話になっている。時間の限り組み上げても構わないが、すべての攻撃に対して積み上げれば最大値が低そう、そして絞るにしても情報が少なく、それらを効率よくどう積み上げていくかが話し合いの中心である。少なくとも術聖と名乗る以上はこの世界の基本的な魔法には対策があると皆が思っており、新規の魔法に関しては完全に本便りともいえる。望めばそれらしい魔法は作れもするが魔法を遮断する魔法など絶対的なものになると消費も莫大で存在時間も短い等運用の欠点が目立ち、油断しているところを一撃でと考えても相手の隠された防御を無視して一撃で倒せるかなどと課題は多い。議論は堂々巡りとなり、結局次に持ち越される。
「こちらも情報が少ない黒い狐の件ですが・・・」
和平会合をぶち壊してくれた推定暗殺者型の狐人。都市戦では隠れながら菫達を足止めするという器用なこともやってのけている。正直攻撃力も性能も未知数過ぎて議題に挙げるのもどうかと思うのだが。ただこちらに関しては概ね萌黄が中心となり補助に誰か付けるか、萌黄単独でとなるかが話の中心となっている。【危機感知】という見えない相手からの防御力が高い萌黄はこういったタイプにはうってつけである。正し萌黄自体の戦闘力は決して高くなく勝てるかというとなかなか微妙な線なのである。舞台が嵌れば完勝も難しくないがそこにはめ込むまでに逃げられるということもありそうで難しい。ネタが割れると萌黄の勝ち筋は著しく狭く悩ましさに拍車がかかる。そしてこの暗殺者というヤツは勝てるまで戦うという事には違いが無いがそのスパンは一日でも一年でも相手が倒せるまで逃げ続けるということが面倒なのだ。完全に萌黄がメタという訳ではないのでそこに補助を付けるかどうかが話の中心である。尤もヒレンよりも悲観的には見られておらず菫のスキルを参考に対策を積み重ね、実行が可能かどうか実演する萌黄が苦労をしているというのを生暖かく見守る時間でもある。
「そしてヴィルバンという首魁の件ですが・・・」
ここまできて全く戦えない参謀タイプだったら面白いのだが、自身が魔剣士であると公言しており弱くは無かろうという。世界で一般的な職では無く元は彼の世界の職なのだろうということは本から得られる情報が雑なことで推察できる。剣も使える魔法も使える自己強化型の剣士という推定しか得られなかった。僕らの能力関係から分かるとおり部下とは絶対的な主従関係で結ばれているため必ずしもヴィルバンが一対一最強とは限らないということもあり強さは全く計れない。よって予測に対する対策という若干不毛な話が続く。想定するのが悪いわけじゃないけど、正直な所無限に想定は難しいのでヒレンとは別の意味で対策がはてしないのだ。
「本日もあまり進みませんでしたね。まぁ仕方ありませんが。」
時間いっぱいまで話し合って会議は終了する。あとは各々訓練を進めたり、研究、生産補助を行う。僕はもっぱら研究が中心である。装備の強度、道具の開発などである。ただ訓練も行わないといけないので時間の調節が難しい。
「貴方は本当に変りませんわね。」
研究を手伝ってくれている鶸がため息を漏らす。
「感情と興味のまま突き進んでうまくいってきたのは本当に運がよろしくってよ。」
ジト目で睨まれて少し困る。
「ま、その辺は申し訳ない。」
反省はするが後悔はしていない。陽光石を伸ばし薄くしながら答える。鶸はまたため息をついて作業に戻る。
「で、アレはどうなってるんですの?」
「アレってどれだよ。」
鶸が魔法で金属を操作しながら聞いてくる。声はまだ少し怒っているのか暗い。裏で平行している作業が多くて鶸に何か頼まれたか、そもそもなんの話か検討がつかない。
「・・・魔法に関しては開発作業中。あとは体をどうするか、かな。」
僕は別件で得た情報からの状況を説明する。
「何?何の話ですの?」
その話じゃ無いのか。そもそも鶸に話した覚えもないな。鶸が知らない話を振られて逆に驚いている。
「北のドワーフに関しては進展ない。」
「それも知りませんわ。ドワーフと何をするんですの?」
これも違うのか。鶸に追求されてしまった。
「主に技術交流。鍛造技術が欲しかった。孤月組からの情報だけど、越後屋に任せてる。さすがに信用がなぁ・・・」
「そもそも技術を渡せっていうのは無理難題じゃないかしら・・・」
それは思ってる。渡せる技術もたいしたことが無く、山ほど素材渡したら頷いてくれないかとか、酒でも渡したらどうにかならんかなとか物語のようにうまくはいかなかった。ウォッカどころか工業用アルコールでも投げ込んでやりたい。
「アレですわよっ。」
「萌黄のつまみ食いが止まらない。」
「あの子は何をしているんですのっ、てだーかーらー。」
僕の雑な返しに鶸の辛抱が爆発して立ち上がって叫ぶ。
「新しい進化体の話ですわ。そろそろなんとかなる頃でしょうっ。」
最初からそう言えば良いのにと思いながら色々暴露してしまった。主に萌黄、すまん。
「そうだね。いける、とは思うよ。」
意図的に気にかけているY型。こちらは萌黄に変る確実な僕への防御手段としての要望がありその為に管理していたともいえる。その後、順当なアタッカーとしてM型に粉をかけている。最初の個体はいつの間にかいなくなっていたので現在は二代目だ。ユウとトウのイメージがチラつくせいでどうにも希望する方向性がだぶる。神谷さんにも僕と同じで根っこの部分としてミーバを失いたくないという思いがあるからだろう。どうしても防御より、生存力重視になりがちである。Y型はそれでもいいのだが、M型はそれだと若干問題がでてくる。ユウは個体として悪くないが決め手に欠ける器用貧乏ともいえる。M型に求めたいのは突出した瞬間火力でありツェルナのほうが能力的には理想である。ただM型は死からの救済が困難でやはりためらいが強い。Y型だけでも生み出せばいいと思うのだが、現状を考えると真っ先に死にそうで逆に怖い。それでなくても将来的に見れば真っ先に死ぬのが役どころなのである。
「お互い過保護すぎるのも考え物ですわね・・・」
鶸が悩む僕を見て自嘲気味にため息をつく。僕らの剣であり盾であると鶸は説いたことがあり、それに加えて鈴は使い捨てることを前提とした道具であることを示した。意思疎通が出来、自らと同じような姿を持つものをさすがに使い捨てる気にはなれない。この話は平行線でありいつしか話題にもならなくなった。
「それでも今は生み出すべきだと思いますわ。今は少しでも戦力を増やすべきかと。」
先の見えない対策で少しでも選択肢を増やすべきであると鶸は語る。思いを反映する進化がふとした対策に転じる可能性が高いとも見ている。
「そうだな・・・やってみるか。」
消極的にはなるが、対策になれば、ならなくても戦力としての幅がでるのは助かる。僕は重い腰を上げてミーバを呼び出す。暇じゃ無いのに呼び出すのも何なのだが仲間はずれにされたと思われても困るので皆を呼ぶ。気恥ずかしくもなるが神谷さん達にも声をかける。紺はさすがに呼び戻せなかったのだがそれでも結構な人数がぞろぞろと教会へ赴く。拠点は神谷さんベースなので教会の形も少し見慣れない構造になっている。
「なんか変な発表会みたいな感じでアレだな。」
「私はちょっと楽しみですよ。」
神谷さんは自分のことのようにウキウキしているように見える。後ろでクロはため息をついているし、菫や鶸も微妙な目線を送っている。その意思たるや・・・僕は気を取り直して偶像に向き直り進化体にするための作業を指示する。久々とも思える光がミーバを包みそして輝く。もしかしたら足りないかもと期待もあったが要件は満たしてしまっていたようだ。
『人の子よ。その想いに祝福を。』
凜とした威厳のある声が頭に響き瞬間的に強めの頭痛を受ける。顔をしかめた先には跪く二体の進化体。
「Y型改めまして柑茶C型となり配下に入ります。」
「M型改めまして朱褐D型、よろしくねっ。」
柑・・茶?Bが混じって物理より魔法よりになったか。同じく朱褐でBが混じっている。んー・・・色どうしよう。後ろでは菫と鶸が何やら難しい顔をしている。桔梗は読めず、萌黄は何でもかんでも歓迎ムード。トウは地味に興味なさそう、ユウは興味はありそうだが他と方向性が違いそう。クロは無表情だが少し口角が上がっている。総合的に見ると難ありといったところか。ちらっと跪いている二体を見る。じっとしているようで朱褐は我慢が出来ていなさそうだ。
「柑茶は金糸雀、朱褐は蘇芳でよろしく頼む。」
「承りました。金糸雀、命続くまでご主人様と共に。」
「蘇芳がんばるよっ。」
金糸雀は立ち上がると長めの金色にも見える細い髪は手でそっと流す。絵になるけど・・・なんか違和感を感じる動きと言葉だ。蘇芳は快活な元気っこ。八重歯がチャームポイントな昔の準ヒロインって感じか。萌黄と並んで頭が悪そうにも見える。変化瞬間に聞こえた言葉が少し気になると思いながらもステータスを確認する。
金糸雀 グループ:本隊 重装兵Ⅵ
STR:311 VIT:921 DEX:702
INT:622 WIZ:645 MND:604 LUK:15
MV:11 ACT:1.1|6 Load:1793 SPR:1347
HP:1862 MP:1267
ATK:662|857 MATK:1226 DEF:324 MDEF:249
スキル:荷運び、頑健、守護、追従、再生
短剣Ⅶ、投擲Ⅶ、鞭Ⅵ、体術Ⅶ、重盾Ⅵ、軽盾Ⅶ、防護Ⅶ
障破撃Ⅵ、障破術Ⅵ、神撃
・追従:防護対象を防護範囲内から出ないように移動、もしくは押しとどめる。
・神撃:物理攻撃を魔法攻撃として行う。信仰に応じた効果を得る。
腕力低っ、足遅っ。何が理想系なのか分からない。逆に色々夢想してしまった結果なのかこれと言ってすごいという点は認められない。トウを見てると守護に特化したわけでもなく希有な能力を持っているわけでも無い。神撃は腕力の無さを補う能力ではあるが、信仰ってどういうこと?追従はまぁ足の遅さをカバーできる能力としては良い。名前に反して押しとどめられるのも面白いが。というか行動回数がやたら多い。
「金糸雀の信仰って・・・何?」
「ご主人様は神を信じていないので?」
金糸雀は首をこてっとかしげて逆に質問してくる。僕の信仰?神谷さんと違って大多数の日本人らしく特定の信仰などない。初詣にもいくし、お盆もあればクリスマスも大晦日もある。サマータイムも無ければクリスマス休暇も無い。
「一番信心の深い方が対象になるようですが、はぁどうしましょう。」
思った以上におっとり系だ、この子。検証と問題は後にしよう。
蘇芳 グループ:本隊 軽装騎兵Ⅵ
STR:1121 VIT:657 DEX:859
INT:544 WIZ:675 MND:587 LUK:76
MV:15 ACT:3.3|2 Load:2949 SPR:1534
HP:1314 MP:1219
ATK:1550|1419 MATK:1131 DEF:303 MDEF:252
スキル:命剣、剛力、根性、応報
剣Ⅶ、槍Ⅵ、軽盾Ⅶ、軽弓Ⅶ、体術Ⅶ
騎乗Ⅶ、強行Ⅴ、突撃Ⅶ、召喚Ⅶ
貫通撃Ⅶ、障破撃Ⅶ、破砕撃Ⅶ、高速詠唱Ⅶ、消費軽減Ⅶ
・命剣:受けているダメージを武器攻撃に加算する。瀕死行動を可能にし瀕死時に行動するとダメージを受ける。
・応報:ダメージを受けた相手に対してタメージを武器攻撃に加算する。
蘇芳は話を聞くこともなく陽気に周りに話しかけに行っては微妙な空気にさせているが萌黄とは話があってそうだ。軽く聞くだけだとお互い理解しているとも思えない内容ではあったが。懸念材料であった自爆スキルが消えて、別のスキルに変っている。性能だけみると気が狂っているとしか思えず、しかもその後の応報と効果内容がほぼかぶっている。瀕死時に冗談みたいな攻撃力になるんだが・・・所謂背水構成といった感じか。B型要素がなんだか分からなかったが召喚スキルを持っている。概ね何をするかは理解出来る構成といえた。金糸雀と攻撃回数が真逆だが恐ろしく処理が早い。ある意味願った一点突破タイプのアタッカーである。
「よりにもよって・・・」
鶸が何か難しい顔のまま呟いている。
「何か問題でも?」
「いえ、あれでD型というのが少し。」
「自分の事は棚上げか。」
「棚に上げてないからこそですっ。」
鶸がムキになって反論している。性格的な問題は自覚しているのか?治せば良いのに。
「ご主人様。職と性格の組み合わせが厄介だなと少し感じましたので。」
菫が補足説明を入れる。
「C型は良くも悪くもご主人様と自己が同列になります。主人を守る者は少しは下の方が献身的ともいえますので・・・価値が同じの場合どちらをとるかという状況の際に自己を取る場合もありますので。」
解説を聞くとなるほどと思う。守護対象よりも命を惜しむのはSPとしてどうなん?という事なのだろう。僕が死ぬよりも菫達に死んで欲しくないという願いがある意味叶えられているともいえる。ゲーム的には確かに問題だろうが。
「D型は良かれと思えば指示を無視して行動する場合がありまの。自己判断が確かな場合はよいのですが・・・蘇芳は少し・・・いえ大分頭が残念そうなので。悪く言えば猪突猛進ですわ。」
鶸がそう解説を追加する。
「蘇芳、大丈夫。馬鹿じゃ無いよ。ちゃんと話聞いてるっ。」
「地獄耳ですわね・・・」
あちらで話が弾んでいるかと思えばこちらの話もちゃんと聞いているようだ。その様子はなかなかやかましく、そしてこちらは聞かせるつもりも無く抑え気味で話していたにもかかわらず蘇芳はその声を拾っていた。鶸がぼそっと毒づいている。
「むー、命令も守るし、注意も聞くし、大丈夫だって。」
蘇芳は胸を張って自信満々だ。そこまで自信満々にいわれると逆に信用できないヤツだと思っちゃうやつだ。要注意だね。さて装備はどうしようかな。
「む、まさかこれは引けない弓の出番?」
「引けない弓?まさかネタで企画した不壊鉛の弓を使うつもり?」
僕の思いつきに鶸が馬鹿なの?と言う顔でみる。
「え?そんな面白いのがあるの?やってみたいっやってみたいっ。」
冗談のつもりが本気になりそうな話になってきた。鶸も勝手にしなさいと言わんばかりである。金属が発見された瞬間から企画設計された弓ではあるが、なにせ金属の剛性が高すぎて引けない。当時の推定でも必要STR1200いう数値上は強いが誰も使えないというオチになった一品である。僕はもう少し頑張れば引けるようになりそうだけど、蘇芳なら今すぐでもいけるかもしれない。そして試験運用へ。
「あはははは、めっちゃおもーい。」
軽々と持っているように見える蘇芳だが感想としては重いらしい。弦を軽く引いて感触を確かめているが、少し眉をひそめているところを見ると結構辛いみたいだ。蘇芳は矢をつがえ姿勢を正し、弓を・・・引いた。制作時どうにも出来なくて資源ゴミとも言われたあの弓がついに日の目を見る時が。野太い弦の音を響かせ矢が放たれ、その矢は遙か彼方明後日の方向に飛び要塞の壁に当たって乾いた音を立てて砕け散った。
「あはははははははは。」
蘇芳の滅茶苦茶楽しそうな声の中、見学者がその結果を呆然と見る。
「これ重弓じゃーん。カテゴリ違うしー。」
蘇芳は笑いながら地面に弓を突き刺し文句を言う。撃つ前に気がつけよ、とその場にいた萌黄以外の者が口を出さずに思った。まあノリで渡してしまったが確かに蘇芳のスキルは軽弓だ。用意した弓は和弓のような大型の弓だったので確かにお門違いであったろう。
「確かにそうだ。蘇芳に合った弓を考えよう。」
「ありがとー。」
近くにあった練習用の弓で遊び始めていた蘇芳が元気よく返事をする。楽しそうに軽く撃っているように見えるがその動作はすさまじい。手打ちに関わらず収納から出しているかと思わせるほど動作が速い。ただ行動回数の制限があってか撃つ回数自体は少ないのだが。残心が長い?システムにおける不明な点の一つとはいえるだろう。処理が早くても時間当たりの数がこなせるとは限らないのだ。ただこの作業速度と回数は確かに蘇芳たらしめる要素だったのだ。
僕らの仲間に不思議ちゃんと陽キャが増えた。そんな日である。
※背水:背水の陣の故事に例えた言葉で、殆どのゲームにおいてHPが減るほど攻撃力が増す




