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僕、突き進む。

「ご主人様御思索中のところ申し訳ありませんが・・・」

 

 桔梗に腕を引かれて強めに呼びかけられたところではっとなって周りを見る。知らない風景が広がっており何処?という思いに包まれる。

 

「ごめん、行軍中だったか。」

 

 僕が謝ると桔梗がにこりと微笑む。

 

「クラファル王国軍が制圧している都市ストーマン五km手前で停止しております。報告に寄りますとこの街道沿いの北門に五万の兵が展開しております。その他西門に三万、東門に二万が展開しています。都市内に八万の兵が残留している状態で九万の民間人が残ったままになっています。」

 

「十八万か・・・籠城されると若干手間がかかるくらいかな。敵の構成は?」

 

「外は民兵と騎兵が半々となっていますが西と東門のほうが騎兵は多めです。内部は貴族兵が多いと言うことで能力には波がありそうとのこと。民兵は六割だとか。」

 

 敵は北側からくると予測しているが、そもそも戦力的には勝負にならないレベルで圧勝できる見込み。

 

「そもそも勝負する気があるのかよく分からないけど・・・まあ・・・食い破る方向でいこうかな。」

 

「つまり・・・いつも通りですね。」

 

 民兵は戦闘力対象外で実質正面は二万と少し、両側合せても五万くらいの騎士級兵士。もし一人二人の英雄を隠していても、よほど強くなければ十万で押しつぶせるレベルといえる。桔梗は少しだけ笑みをこぼして頷いた。

 

「北門は騎兵を前面にだして主に近接兵で押さえる。銃兵、騎兵を両翼展開して西東からの奇襲、増援に備える。桔梗は両翼の指揮を任せる。」

 

 桔梗が頷く。萌黄が微妙な顔つきで僕を見上げてくる。

 

「萌黄の出番はその後かな。北門を押さえたら内部の菫と呼応して制圧戦を行うからね。」

 

 萌黄が満面の笑顔で頷く。

 

「では・・・進軍。」

 

 僕は静かに言葉を切って全軍を動かす。全体から見れば銃兵の数は一万八千とそう多くは無い。使用されていると分かってから時が経つにつれ対策がされていることが多くなった。もちろん敵軍が必ずしも潤沢に魔術師を準備できるとは限らないので一定の効果は上げられる。ただそれももう少しすれば万全に対応されるだろう。効果がある、そして配置すること自体が敵に余分な対策、消耗を強いる。現在はそちらが主な目的でもある。クラファル王国軍がどれだけ対策を講じているかはわからないが半分に割って両翼に置く。こちらとしては効けば儲けものそうでなくても消耗があり、最低でもショットガンは効果がある。一方的で無くなったとしても配備すること自体は無為では無いのだ。被害を軽くするなら重装騎兵を前面に立てるところだが今回敵はそれほど強くなく数が少ないことから軽装騎兵一万五千で攻めきる方向で行く。銃兵と弓兵で民兵を散らし、そのまま騎兵で押し込むという単純な蹂躙である。十分ほどして敵軍が見え始め、兵科を分離し、歩を進めながら陣形を整える。敵軍はそれなりに警戒していただろうが、こちらの止まらない陣展開に戸惑い焦っているようだ。これでは尚更勝負になりそうに無い。

 

「蹴散らせ。」

 

 合図と共に軽騎兵が加速し突撃を始める。焦っているのだろうまばらに矢が飛び始めたが軽装とはいえそれなりの防具に覆われている軽騎兵には全く効果が無い。軽騎兵が敵に接触する前にこちらの矢の雨と銃弾の嵐が襲いかかる。民兵が次々に倒れていき過剰な威力に吹き飛ばされていく。慣れた物だがあまり気分の良い物では無い。包囲されることも気にせず行軍の穴だけ開けさせ、そこに軽騎兵がなだれ込んでいく。案の定準備が遅れている敵騎兵と重装兵と接触し打ち倒していく。

 

「相変わらず初戦は無様なもんだな。」

 

 いつも通りの展開に僕は苦笑する。ミーバ兵の軍としての速さはそろそろ周辺に知れ渡ることになっているのだが、それでもまだ殆どの下位士官はそれを眉唾物だと信じない。その結果がこれである。この辺りの情報も戦いを重ねるにつれて信憑性が増し、最近では良くても第三戦くらいまでしか通用しない。それでも初戦から防ぎきる軍が未だに以内のも事実である。案の定油断した敵軍は瞬間的に崩壊し本陣が壊滅し後は残党狩りという流れになった。都市内の指揮官の対応が早ければ両翼ぐらいは助かるだろうが、銃兵の射程距離は長く援軍に来ようとする騎兵を次々脱落させてゆく。多少の期待感あってか都市側からの撤退指示が早く被害は与えたものの致命的になる前に西東の軍は撤退していった。接敵から四十分弱で第一戦の戦いは終結した。しかしミーバ兵の真骨頂はこれからでもある。悠々と北門前で待機していた僕らは後続の軍を待つ間に都市壁上の兵士を遠距離攻撃で押さえ込み撤退に追い込む。これらは倒す目的では無く追い散らすだけなので問題は無い。人間と違ってミーバ兵は疲れを知らず休む必要が無い。程なく待っていると北門が開き始める。

 

「お待たせいたしました。」

 

 北門の閂をぶった切り力いっぱい蹴り開けた菫が恭しく礼をしている。

 

「菫、萌黄は軽装兵と斥候兵をつれて本陣を落せ。騎兵の八割は都市周辺の警戒と包囲を。桔梗は北門の維持と騎兵の指示と対応。残りの兵は都市内を制圧する。」

 

 僕は指示をだし、各自速やかに動き出す。菫が一度だけ僕に振り返り、そして駆けていった。桔梗は北門前に止まりミーバ兵に指示を出していく。

 

「行ってらっしゃいませ。私達はまだ大丈夫ですよ。」

 

 桔梗は僕が不安そうな顔をしているのを感じたのかそう言って軽く手を振って送り出そうとする。

 

「わかった。まかせたよ。」

 

 僕はそれに答え主要路を進んでいく。菫達が駆け抜けていったせいか路地は混乱に満ちており、追撃を阻もうとする者、菫を追いかけようとする者、それらに翻弄されて右往左往する兵士達でごった返していた。しかしながらそれなりに訓練された兵ゆえかこちらの姿を見るとこの場の指揮官らしい騎士が声を上げ、僕への攻撃を指示し混乱を治める。

 

「よい指揮官だろうが・・・距離が近い、目立っちゃいかんだろ。」

 

 確認の為狙撃銃を浮かせてたいした狙いも付けずに銃口を向けて発射する。指揮官に近い位置でねじ曲げられて石路の隅に穴を開ける。敵指揮官は驚いたようだがその凶弾を防ぎきったことで少し余裕の笑みをこぼす。

 

「まぁ・・・蹴散らせ。」

 

 目の前に迫り来る民兵と騎士に対し、軽装騎兵をけしかけて押し切る。十分な加速が無いため威力はそれなりでしか無いが民兵相手には十分。騎士が相手だとしても二体目からの攻撃であっさりと膝を落す。

 

「ひ、ひきょうな・・・」

 

 騎士が苦し紛れに何か言っているが聞き流す。乱戦で一対一とかどんなお花畑よ。民兵が数いるせいか騎兵もうまく進めず速度を殺されただの槍兵と化す。敵指揮官はうまく民兵を動かし、こちらの移動を妨害してくる。そして後方から矢と魔法を打ち込んでくる。正攻法であり、こちらの流れを見てうまく方向を流しながら自分たちだけが高い効果を得ようと戦場を動かす。うまい指揮だなと思いながらのんびりしているわけにもいかないので打開策を選択する。

 

「斥候兵。」

 

 言葉と共に指示を意識してミーバに流す。ある者は壁を走り、またある者はフックロープを架け上方を越えていく。

 

「撃ち落せぇ。」

 

 敵指揮官が動きを見て叫ぶ。弓兵と魔術師の矛先が動き出した斥候兵へ集中する。

 

「付き合おう、いらんと思うけど。」

 

 魔術師を動かし障壁を展開する。見た感じの質だと放置してても大丈夫そうではあったけどここは無敵感を演出せずに守る為に防いだとしておく。斥候兵は次々に投入され敵司令官に襲いかかる。盾や身を挺して指揮官を守っているが、数体の斥候兵を倒せなかった時点で相手の能力的には詰んでいると思わせた。案の定飛びかかる斥候兵に集中しすぎて、早めに群衆に紛れた斥候兵に背後を突かれ指揮官はあっさり命を落した。暗殺が成功したことを斥候兵から連絡を受けて、即座に音が大きな爆薬を投げ込みさらなる混乱を起こす。民兵は衝撃で倒れたり耳を押さえてふらついている。騎士達も面を喰らったように周囲の把握に努めている。

 

「この場の勝敗は決した。降伏するなら武器を捨てて道を空けろ。」

 

 降伏戦術をとることはそれなりに伝わっているのか民兵の殆どは武器を投げ捨て転がりながら通路の隅や路地に逃げ込む。一部の騎士も武器を投げ出しのろのろと道を空けるが、殆どの騎士は激昂しめまいで目標定まらないながらも檄を飛ばし戦うことを止めない。

 

「では・・・死ね。」

 

 魔術師二十体による【火炎放射】が自軍前面に打ち出され継戦の意思を示した騎士を炭に変える。射程五十mを越えた先にいた抵抗の意思を持っていた者達の半数は武器を投げ出し逃げた。

 

「まだ、間に合うぞ?」

 

 僕は威圧をかけながら数歩踏み出す。敵対者、投降者いずれも心折れた者達は恐慌して逃げだし、残った者達も体を震わせ身動きを取れずにいる。僕は威を殺さないまま軍を進め先の地区へ向かう。主要路でいくつか戦闘を行い制圧していく。道の広い主要路を騎兵で押し切り広場までたどり着く。広場で敵集団と向かい合う。相手は広場で幅広く展開している中、こちらは主要路出口付近。敵はこちらの姿を見るやいなや矢と魔法を浴びせかける。ある程度予想できたことなので魔術師の氷壁で受け止める。数秒の停止の後、壁の削れ具合を確認し問題無いと判断する。

 

「弓兵放て。」

 

 敵が前面に攻撃を集中しているため、まだ敵の矢は壁を越えてきていない。竜の目を使って敵の配置を確認しそれをミーバ兵と共有する。弓兵は錘矢を早撃ちで乱射する。配置が見えているので狙い撃てなくもないが面制圧を優先し数を減らす方針でいく。こちらからの矢に反応して敵は障壁で対応しようとしている。まあ攻防一体にしようとすれば選択肢はそれしかないだろう。こちらの予想通りの防御に、それに合せた攻撃を行っている。障壁に当たって矢が爆発する。爆発と同時に障壁が削れ失われていく。空中での爆破の連鎖は敵の視界を阻害し矢の勢いも殺す。

 

「何が爆発しているっ。」

 

 敵軍からの声がやかましい。相手からしたら比較的高価な地獄土(ヘルソイル)だが僕から見たら安価な爆薬であるともいえる。単体なら衝撃で急速に燃え上がるだけだが、粒状の物を鉄やいくつかの鉱石と混ぜ合わせることでこの世界ならではの爆薬に仕上げた。【障破射撃】とあわせて敵の障壁はみるみるまに崩れ去る。障壁でじり貧になったのなら次の手順は別の防御壁に切り替えるか、もしくはスキルによる攻撃力低下を見越した強引な突撃である。広場の指揮官は安定よりも速やかな解決のためか後者を選択し障壁が壊れる前に騎兵、そして歩兵が突撃を敢行する。氷壁が弱っていると見越してなのだろうがこちらの力を見誤っている。騎兵が次々にその身を焼かれながら氷壁を打ち破らんと打撃を加える。さながら攻城戦のようだ。数度の打撃で氷壁にヒビが入ったのは少しだけ意外な結果だった。ただその手では少し遅い。魔術師達が追加の魔法を準備し終えて撃ち放つ。氷壁が敵軍に向けて爆発し鋭利な氷刃を作り出して突撃してきた者達を切り刻みながら吹き飛ばす。叫び声と鳴き声が広場にまき散らされる。敵の遠距離攻撃が消え、矢による煙幕が残っている中、氷壁が消えたと同時にこちらの軽騎兵と軽装兵が突撃を行う。敵は状況を把握しきれないまま突撃をもろに受けて半壊し包囲。降伏勧告を行い受諾される。降伏した兵士はまとめて都市外に追い出す。都市のほぼ中心を落したことで一端陣を張る。ここから四分の一ずつのミーバ兵を西と東に送り大きな敵勢力を削りにいかせる。たいして疲れてもいないがとりあえず一服して各自の状況を確認する。桔梗は問題無く、捕虜の隔離も予定通り進んでいる。菫と萌黄は領主邸に侵入し敵司令部を模索中。概ね予定通りかなと腕を伸ばして気を楽にする。その隙を狙ったかのように空が陰る。見上げた空には巨大な岩。既視感を覚える光景だがその岩から感じる魔力の気配は以前のそれとは全く違う。

 

「【虚空落し】?」

 

 ゲームの中ではメジャーといえるメテオストライクに類似する、この世界における落下系魔法の最上位。攻勢魔術Ⅹ【虚空落し】。【巨石落し】に比べ大きさはわずかな差しかないが重量は数十倍、性質も地獄土(ヘルソイル)に類似し落下と共に衝撃と熱を周囲にばらまく。

 

 

「まずは挨拶よ。生き残って見せなさい。」

 

 凜と響く聞き覚えのある声。そして動き出す巨石。声の方向を特定しようとするが建物の反射が思ったよりあり方向性を狂わされる。対象を探すのは諦め、各員に状況を伝達し防御行動を行わせる。自分だけならなんとかなる。都市を守れるか、自軍を守れるか、条件を並べ選択肢を模索する。巨石を魔力視し解析も並行して進める。時間が迫り焦りが出始める頃にあからさまな誘いを見つける。

 

「術式の穴?」

 

 露骨に導かれた術式のほころび。それが瓦解すればすべてが崩れる。そうなっているように見えるまさに穴。普通に考えたら明らかに罠であろう細工。

 

-まずは挨拶よ。生き残って見せなさい。-

 

 先ほどの言葉が思い出される。声の主が記憶の片隅に出てきた者ならば、誘導でも罠でもどちらでもあり得る。ただその先にいる人物を思い起こすなら、と僕は心を決めて術式の穴に向かって【解呪】を試みる。魔力の流れを切る、切る、さらにつながる流れを切りよどませる。巨石は揺らぎ現実感を失い、それが元々無かったかのように魔力となり霧散する。そして霧散した魔力は虚空に拡散すること無く一点に向かって収束し始める。

 

「第一試験は合格よ、少年。十年ぶりくらいかしら。」

 

「十年か・・・それぐらいたったかもな。ヒレンっ。」

 

 あの時ヴィルバンの脇に控え、朱鷺をして抵抗するだけ無駄と称された黒藍型ヒレン。その狐顔も変わらず、楽しそうに屋根の上から僕を見る。見下す。

 

「ご主人様がせっかちでの。そなたの噂を聞きつけてここまでたどり着きましたえ。」

 

 口角を上げころころと笑うヒレン。

 

「あちらのほうも一人手配しましたが・・・平行してそなたの試験の続きもな。ご主人様は大層うらやましがっておられたが・・・その目に叶う力ぐらいはつけたもうな?」

 

 ヒレンが楽しそうに語りそして緩やかに指の先を僕に向ける。

 

「舐めるな。そっちから来たなら話が早い。その命・・・おいてけぇ。」

 

 僕は力強く大地を蹴りヒレンに飛びかかる。

 

「猿はやはり野蛮よのぅ。」

 

 ヒレンは僕の行動を見て楽しそうに笑いながら嘲る。指先から放たれる光、いや熱線。白く輝くそれは障壁越しにも熱を感じる。

 

「良い良い。」

 

 ヒレンは迫り来る僕という肉弾を躱すように屋根を蹴り宙に躍り出る。そのまま落ちるかと思えば宙を滑るように平行移動していく。僕は魔力視を強化しヒレンの術式を探っていく。

 

【光の槍】

 

 僕は魔法を二重発動し、最速の攻撃が十四本ヒレンに襲いかかる。

 

「ほうほう、中々鍛錬を詰んでいるようだの。」

 

 ヒレンは障壁を展開するわけでも無く腕を円形に動かし光の槍を受け止めてみせる。光の槍は円形に吸い込まれるように効力を失う。

 

「さてはて、どうします?」

 

 ヒレンが手を伸ばすと即座に衝撃が襲いかかり僕は吹き飛ばされる。

 

「それでは先が思いやられますのぅ。」

 

 続けて二打、四打打ち付けられて僕は広場を転げ回される。意味不明な速度の打撃が止まり僕はゆっくり立ち上がってヒレンを見上げる。

 

「もう少しまともに抵抗して欲しいでありますなぁ。」

 

 ヒレンは若干退屈そうに手加減をしたままであろうその姿で僕を見下している。

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