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僕、トばされる

「一方的な抽選の結果、君は私達の争いの尖兵にされたのだ。」

 

 僕、紺野遊一郎(17)の前に現れた軽薄そうな顔をした偉そうな男がそう宣告した。古代ギリシャのトーガを纏いニヤニヤしながら僕を見ている。

 

「僕はそんなに運動が得意な方ではないので役に立たないと思いますが。」

 

 真面目に運動したことはない。インドア派でゲーマーなのだ。

 

「一方的な抽選で決まったと言っただろう。多少はできたほうが良かったかもしれないが大差はない。」

 

 男は変なポーズをとりながらそう答える。動きがうざったい。厨二病みたいなやつだ。

 

「これから君はとある神が管理する世界に落とされる。そこで部下と協力しながら生き抜いてほしい。」

 

 いちいちくねくね動くなと言いたい。

 

「む、そう思うなら真面目に対応するとするか。君の趣味に合わせたつもりだったがお好みではないようだ。」

 

 こちらの考えをさらっと読んでくる辺り高次元の存在か。何をさせられるやら。

 

「私は第18世界の神の一柱。君の知識に当てはめると自由と遊戯の神。チェイスと呼んでくれたまえ。」

 

 うざい動きから一転、神々しい雰囲気を纏いながら丁寧に紹介される。

 

「ではチェイス様。拒否権はないようなのでこれから行うべき作業とその環境の説明をお願いします。」

 

 僕はもう細かいことを投げ捨てて、やらなければならないことを確認することにした。

 

「そうだね。まずはその世界と出来ること、やってほしいことを説明するとしよう。」

 

 その世界は三大陸と多数の島々で構成された世界でゴブレットに浮いた平な世界であるらしい。え?世界丸くないの?興味本位で世界の端にいくと奈落に落ちて死ぬから注意するように言われた。海の水はゴブレットの端から流れ落ちて下から吸い上げられて湧き水のように海底から再供給されるらしい。太陽も一年かけて徐々に経路を変えながら周期するので四季のようなものがあるようだ。しかしながら殆どの天体は動かないので一年を通して見られる星の位置はほぼ変わらないらしい。現地には文明があり人間ではない種族も多数いて、それぞれ友好関係がある模様。詳細については後々の条件があるらしく教えてはくれなかった。文明の程度としては地球で言う産業革命の手前くらいだけど、各国それぞれ機械技術を秘匿しているので得意不得意がある。魔法も存在していてこれも各国様々ということらしい。僕も努力次第で使えるらしい。少し楽しみだ。言語は種族と地域でいくつかあるけど、そこは一括で違和感なく意思疎通が取れるようにしてくれるとのこと。色々聞いてみたけど説明条項に引っかかるので後でと言われた。

 

「その世界に君を送り込むので、そこで君に生き抜いてもらう。」

 

「サバイバルは愚か台所にも立ったことがない高専生に言うことじゃないですね。」

 

「まあ、そりゃそうだ。そこでこちらの部下を通してやってもらう。」

 

 チェイス様は多少砕けた顔をして手を払うと僕の足元には自分の膝くらいまでの赤、青、黄の気味の悪いうねうねしたものが3匹現れる。軽く悲鳴を上げた僕はそんなにひどくはないと思うのだけど三匹はなんとなくしょぼくれたように触手を垂れる。

 

「ちょっと君の感性には合わなかったようだけどこれらはミーバという君を補助する魔導生命体だ。まあ確かに現地にもいない生命体なので殆どの種族からは敵対行動を取られるかもね。」

 

 チェイス様は説明しながらちょっと明後日の方向を見た。微妙な形状なのは認知済みか。

 

「そのうち慣れて可愛く思えてくるよ。見た目のわりに相当愛嬌があるからね。そこそこの知能はあるのだけど自ら動くという意志は持っていなくてリーダーの指示でしか動かないし、指示がなければ何もしないくらいには自主性も無い。君はこれらを手足のように動かして作業すればよいというわけだ。」

 

 このうにょうにょが可愛くか・・・確かに僕の足元で目もないのに見上げるような姿勢をとっているのはなんとなく可愛く感じなくもない。

 

「この赤くて触手が二本あるのがM型。物理攻撃、破壊性能に優れている。反面精神性が低くて意志が弱くて良くも悪くも魔法にかかりやすい。青くて触手が一本のがC型。行動、移動速度が速いけど耐久や積載が低くて見ての通り多重作業ができない。最後に黄色の触手が三本のがY型。耐久が高くて持ち運び性能が高く、その他の能力が全般的に低い。その他にも何種類かいるけど今説明できるのはこれだけかな。」

 

 条件で徐々に開放される感じか。多重作業がよくわからないけど。

 

「多重作業は指示してる作業が同時に出来る場合それを触手の数だけ同時にできる能力だね。例えばM型が団子を1の速度で作れるならC型は1.4、Y型は0.8で作ることが出来る。1個作るだけならM型は1単位、C型は0.71単位、Y型は1.25単位かかる。ただしM型は同時に2個、Y型は3個作ることが出来る。100単位時間が過ぎた時M型は200個、C型は140個、Y型は240個作ることができる。攻撃面でみてもM型は武具を2つ持たせられるから剣を二本、剣と盾でもいい。でもC型はいずれか一つしか持てないという面もある。理解できたかい?」


 なるほど単一は早いけど同時進行出来るものかどうかで作業量に差がでるのか。  

 

「その他に道具を持たせたり職業付することで性能を変化させたり強化させたりできる。ミーバは主人に紐付けられていて、この場合は君になるんだけど200m以内なら詳細な位置を知ることができて、彼らの視界を見ることができる。それを離れると10km以内ならどの方向にいるかがだいたい分かる。更に離れると位置はわからなくなるけど、距離に関わらずミーバ達の状態を知ることができて指示はできる。ただしミーバから返信は受け取れない。離れたミーバの情報と経験は200m内に戻ってくることで君の知識に反映される。という性質がある。あとミーバは環境の様々な状態からエネルギーを得るので基本食事は必要ないし疲れもしない。少しだけ例外はあるけどね。」

 

 それぞれ得意分野が有るので使い分けろということか。

 

「とりあえず今いる子達に指示を出して動かしてもらえるかな。声に出さなくても念じるだけでいいよ。」

 

 チェイス様の指示に従ってM型を自分の後ろにC型を右にY型を左に移動するように指示する。するとM型は後ろにC型は左手側にY型は右手側に移動する。全員が元気よく『できたっ』と看板を掲げる。あれ?なんか可愛いことしてるけど指示通りに動いていないような。

 

「思ったように動かなかったかな?ミーバに両手の概念は無いけど方向や形状などは主人の認識次第なんだ。右とか左とかだと自分中心の主観になるから行動指針は指示したり認知しておかないと時折思ったとおり動かなくなるよ。今のケースだと君の右側と左側の配置が反対になったんだろう?進行方向に対して右か左かだから君たちが向かい合っていた結果そうなったんだよ。」

 

 なるほど。必ずしも自分が思っている基準にミーバもなっているかは限らないのか。

 

「あとは現地でミーバ達に指示を出してなんとか生活してほしい。現地についたら君が何が出来るかは認識出来るようになっているから今は割愛させてもらう。ミーバが出来るできないはその都度確認できるので聞いてみるといい。そして何をしてほしいかだけど・・・」

 

 チェイス様は少し思案するように言葉を止める。その間がちょっと怖い。

 

「今私はとある権利を求めて他の三柱の神と争っている。実際に私らが直接やりあうと非常に大変なことになるので、話し合いで決まらない場合は代理人を使って争う事になっている。つまり君だ。君のが行動を起こすたびにそれが点数に加算され50年かその他の勢力が屈服したときに一番高い点数のものが勝利して権利を得ることになっている。」

 

 これはひどい完全に巻き込まれた感じだ。しかも最長50年って。拉致されといて割ときつい展開だ。

 

「人間基準だと50年はなかなか辛いよね。ただまぁここに来た以上はやってもらうしかない。今回は特に大きな盤面になってるのでね。君と同じ立場の者が後11人。全員で12人、一柱につき3人が選定されている。君以外に二人味方がいるけどその味方を教えることもルール上できない。過去の例をみるとそれらも必ずしも君の味方になるとは限らない。」

 

 さらにひどい情報がきた。やばい。挫けそう。

 

「一応君の性格と趣味を見込んで話したつもりだ。これでもこの後の条件次第では君はしっかり働いてくれると信じているからだ。」

 

 僕は顔を上げてチェイス様を見る。

 

「この戦いを通じて君の活躍次第ではいくらかの報酬を出すことが出来る。私の勝ち負けに関わらずだ。勝ったほうがより大きな報酬を出すことが出来る。私の出来る範囲に限られるけどね。君たちの世界における願いなら概ね叶えられると思っていい。」

 

「つまり報酬に地球に戻ることを望んでも可能なんですね?」

 

 僕は確認するが、チェイス様は少しだけ渋い顔をする。

 

「生き残るか、勝利すれば可能だと言っておこう。今の年齢に肉体を戻してあげることもできる。ただしそれはおすすめしない。」

 

 僕は何故と言った感じでチェイス様を見る。

 

「少し衝撃を受けるかもしれないが、君はここに拉致されてきたと思っているかもしれないが実はそうではない。ここに来ている君は地球における君の完全な複製品だからだ。君が同じ時間軸に戻ってきても君が二人になってしまうのでね。さすがに僕らの都合で他所様に迷惑はかけられないよ。ハハ。」

 

 チェイス様は乾いた声をだすけど、じゃあ報酬は何のために?と悩む。

 

「ここに来た時点で君は過去の君と別人だと思っていい。過去の盤面を例にするとすべての報酬をここに来た自分のために使ったも者もいれば、コピー元である自分に還元した者もいる。元の自分と成り代わった者すらいるよ。そういう意味では報酬の願いは多岐に渡っている。」

 

「あまり元の自分のことは考えなくてもいいということなんですね?」

 

「そう。具体的な内容としては若返り、知識や能力を持って元世界、別世界に転移、転生。追加の財宝や力をもらって盤面世界でそのまま生活。報酬のランク次第で複数や強力なものまで有形無形問わず様々なものが得ることができる。盤面が終了するまでに整理しておいてくれればいいよ。」

 

 地球に何の迷惑もかけてないとなると気軽なものだね。

 

「そう考えてくれるといいけど、ただしだ。」

 

 チェイス様が強めに念を押してくる。

 

「過去に盤面に呼び込んだ神を殺したいと願ったものがいる。」

 

 確かに勝敗抜きにしても突然こんな事をされたら恨む者もいそうだ。

 

「報酬はあくまで私が叶えられる範囲だ。まぁ一柱、二柱ならやれなくもないかもしれないけど・・・私はそこまでしてやる義理は無いと思っている。そもそも私達が直接争わないためにこんな盤面をつかっているのだからね。」

 

 確かに。僕は元の自分とは切り離されているというのによほどでなければ神を叩こうとは思わないだろう。

 

「そしてあまり経験したくはないだろうとは思うけど、君たちは3度生き返る事ができる。」

 

 はい?

 

「死んだらそれまでの資産を失って、死んだ時点においそれと戻れない距離の場所に飛ばされて再出発となる。ただし肉体や知識の経験は残る。肉体も五体満足に回復する。希望があれば欠損したままにもしておけるけど選ぶ人は極稀だね。その後転移環境を三択で選ぶことができるけどその他の参加者からはある程度離れた場所になる。盤面が詰まってくると参加者にかなり近くなる可能性はあるけどね。」

 

 ある程度死は恐れなくてもいいけど・・・4度目はどうなるんだ?

 

「4度目の死を迎えると盤面から強制的に除外される。といっても除外された瞬間、本人にとっては盤面が終了するまで停止状態になるから、4回目の死を迎えてここに来たら結果発表になるよ。ただ、過去にはこれ以上死の恐怖に耐えられないと4度目を待たずに盤面を放棄したものもいる。生き返ることができる(・・・)と言うことはそういう意味だと思ってくれていい。」

 

 勝ち目が無いとか、精神的に耐えられないと思ったら放棄もありなのか。

 

「今回は参加者陣営三人の合計点になるのでなるべく長く活動してほしいけどね。精神的に病んでしまったのならやむなし・・・だけど。」

 

 チェイス様は少し寂しそうな顔をしてから気を取り直したかのように向き直る。

 

「そして転移前にあたって贈り物がある。この中から一つ選んでほしい。」

 

 チェイス様が腕を振ると目の前に剣、杖、盃、本が浮かび上がる。

 

 剣は力と破壊を与える。本人の素質に関わらず最低ラインの武技を得て時間と共に徐々に強くなる武器を得る。

 

 杖は魔法と守りを与える。本人の素質に関わらずあらゆる魔法を使える能力があり、時間と共に魔力と遠視阻害が向上する。

 

 盃は健康と命を与える。頑強になり耐久力があがる。餓死、毒、病気抵抗が大きく向上し、時間と共に生命力と再生力が向上する。

 

 本は知識と技術を与える。この世界の知識と発想力を得る。時間とともに知識が自動的に知識が収集され、技術力が向上する。

 

 また悩ましい選択だなあ。

 

「剣は剣に限らずあらゆる武器になることができて、いかなる武器でも同じ武器であるなら1対1で標準的な相手なら余裕をもって打ち負かすことが出来るレベルだ。そして訓練しなくてもその技術は向上していき、武器も徐々に強くなる。杖も似たようなものだけど魔法に限定される。ただ各魔法の知識使い方は自分で見つける必要がある。遠視阻害というのは有効範囲外から範囲内のものを見ることができなくなる能力だ。盃はひたすら死ににくくなる能力だね。初期状態でも3日は飲まず食わずでも健康を保てるし、毒や病気の効果も半減する。本は世界の知識と技術、それを見出す力と作り出す能力を与える。製造に関しては思いついても材料も道具も準備する必要はあるけどね。」

 

 十分くらい悩んで僕は本を選んだ。

 

「本か。面白いところを選んだね。この辺のアドバイスができないのもルールなのでね。では最初の場所を選んでもらおうかな。」

 

 チェイス様が促すと、街道沿い、森の側、山の麓の映像が頭に浮かぶ。軽く悩んで森の側を選ぶ。

 

「では遊一郎くん。健闘を祈る。」

 

 僕の視界はブラックアウトして次の瞬間には平原と森の境目にいた。この時僕はまだこの世界を軽く考えすぎていたのだと後々深く反省することになる。神々の盤面は開始されたのだ。

しばらく細かいデータ込で進みます。

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