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封じられた魂  作者: 一桃亜季
54/55

契約の代償15「本心」

一日一章投稿しています。


ー偽りの神々シリーズー

1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

2「敗れた夢の先は、三角関係から始めます。」星巡りの夢

3「封じられた魂」「契約の代償」

      本編進行中です。


順番に続いています。

応援よろしくお願いします

        ※


 観音開きの片側の扉を押すと、重厚な扉が軋みながら開かれた。

 この奥がアセスの執務室だとナンスから聞いていたので、リンフィーナは扉の前に立った時から、心臓の鼓動がうるさくて足が震える。


 以前ラーディオヌ邸に来たときから比べると、この館が変化していることを、リンフィーナは目にしていた。前は低級精霊を閉じ込めて発光させていた館を照らす明かりの一部が、電気に入れ変わっているのだ。

 これはサナレスに出会って起こった変化だと思った。


 以前のラーディオヌ邸は、夜になるといくつもの丸い灯りが薄明く点灯するだけで、廊下などは薄暗かったが、前よりも明るくなっている。

 アセスがラーディア一族の文化を受け入れてくれたのだと嬉しくなった。


 ーーそれなのに執務室の中は暗かった。

 眠っているのだろうかと思うほどの灯りしか、灯っていない。


「アセス?」

 背丈よりも大きい、テラスに出るためのガラス窓から月明かりが降りて、背丈の高い椅子にアセスが腰を下ろして、机の上に指を組んでいることだけはわかる。けれど肝心のアセスの顔が影になって、その表情が見えない。


 リンフィーナはもそっと近寄った。

 拒絶されはしないかと思うと、一歩づつでも近づいていくのには勇気がいったけれど、アセスの顔を見たかった。


「アセス」

 声をかけると、闇の中に吐息が漏れた。

「ーーなぜ、来たのだ?」

 久しぶりに耳に心地よいアセスの声が聞こえてきた。

 天は二物を与えずなんて言うけれど、アセスには二物どことか十物ぐらい与えているのではないだろうか。その一言ですら、彼のため息の呼吸ですら、自分を魅了して離さない。


「しばらくこの地を去るお別れに来ました」

「貴方を捨てた私に?」


 また一歩近づくと、アセスの口元まで確認することができ、その口の端がアルカリックに笑っているのが見えた。


「どうしてももう一度お会いしたくて」

 リンフィーナは飾り気のない本心で対話しようと思った。


 もしこの先、アセスの人生と自分の人生が交わらないようなことになったとしても、後悔が残らないように、ちゃんと気持ちを聞いてもらおう。アセスがどう思うのかは、また別の話だった。


「お慕いしています」

「私がラーディアの皇女であれば誰でもよかったと言っても?」

「それでもです。今まで兄のことしか見えていなかったのに、ーー貴方だけは違ったから」

 初めて会った時から、鮮烈に自分の瞳にその姿を焼き付けて、一瞬で心を奪っていった。


 ため息と共にアセスは立ち上がった。

「貴方はいつも私の容姿がお気に入りのようだ」


「違います!」

 コンプレックスだらけの自分は、確かに最初美しいアセスに憧れを抱いていたのかもしれない。

 けれど今はもうそれだけじゃなく、アセスという人を見つめていた。


「ラバースを使って現れた私の分身の最後を、貴方は看取ってくれた。兄がラーディア一族を発った後、私を励まそうと毎日水月の宮に通ってくれた。異形の物に襲われた時に、身を挺して守ってくれた。ーーこんなにもアセスとの思い出があるのに、見た目だけで私が貴方を大好きなんだって言っていると思うの?」

 そう思っているなら、アセスは女心がわからなすぎる。


「私を拒絶した後も、精霊ジルダーラを側に残してくれた。なのになぜ、そんなにもそっけなく振る舞うの?」

 アセスは答えなかった。


 だからあえて、質問してみる。

「魔道士に落ちたってどういうことなのですか?」

「ーー誰がそれを?」

「誰でもいい!」


 リンフィーナは更にアセスに近寄る。

「私のせいなのでしょう? ーー私が貴方に、絶対に死なないでと約束したから、アセスは選択を迫られた?」

 選択を間違えたとは言わなかった。

 自分はアセスに守られて、命を繋がれて、危険な場所にアセスを一人にした。

 そして身勝手な自分は、アセスに必ず生きて戻らなければ、自分も死んでやると脅しをかけたのだ。


 リンフィーナは手を伸ばす。

 その手がアセスの頬に触れた。


「優しい人」

 どんなふうに言われても、心変わりしたと拒絶されても、自分の愛情は変わらない。


「私はアセスに、死が二人を別つまでを誓います」

 漆黒のはずのアセスの瞳の中に、赤い炎のような妖艶なものが見えた。

 アセスは見られないように、自分から視線を逸らせるが、アセスの目が闇夜に光る。


「暗くても見えているのね?」

 だから灯りは必要なかった。


 ラーディア一族の電気を取り入れたのに、皮肉にも魔道士に落ちて、彼の視覚が変わってしまった。


「他にも変化が?」

 人ではなくなっていく恐ろしい状態を、アセスが一人で耐えているのだと知ると、胸が張り裂けそうである。

 痛くて。


 知らなくて一人にしてしまった自分を悔いて、かける言葉が見つからずに、ただ彼の体を抱きしめた。


「ごめんなさい」

 アセスの頭を抱きしめるように撫でる。


「リンフィーナ」

 アセスは自分の名前を呼んだ。

 アセスはリンフィーナの体を退けた。


「私はサナレスを殺した」

 アセスは信じられないことを伝えてきた。

「ラーディア一族のサナレスの隊を、ナオズの谷で打てと命じたのは私です」


 苦渋に歪む顔とは、今の自分のようにひどい顔なのだろうか?

 リンフィーナは、そんな表情でアセスを見つめた。


「嘘だよね?」

 アセスが、サナレスを殺すなんてあり得ない。自分がヤキモチを焼くほど、サナレスとアセスはわかり合っている二人だった。


 そんなこと、絶対ない。


「嘘じゃない」

 冷たい言葉だった。


「私はサナレスが邪魔で仕方なくて、彼を殺した。ーーねぇリンフィーナ、だからお別れだ」

 アセスは自分を突き放した。

「封じられた魂15」:2020年10月15日


やっと、クライマックスを迎えそうです。

ここまでの話が「封じられた魂」前「契約の代償」後

で構成されてきたストーリーで、

おそらく週末にでも、この章は完結しそうです。


また感想・評価お待ちしています。

後半、誤字脱字が増えてすみません。

夜は晩酌をお供にして、小説を書いているので、朝見返すとほんとやばくて。

察して呼んでいただけると幸いです。

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