封じられた魂32「すれ違い2」
一日一章投稿しています。
ー偽りの神々シリーズー
1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫
2「敗れた夢の先は、三角関係から始めます。」星巡りの夢
3「封じられた魂」
本編進行中です。
順番に続いています。
応援よろしくお願いします。
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泣き腫らしたリンフィーナの目は、不細工にも倍に膨れ上がっていた。
アセスとやっと心を通い合わせたと思った次の日、アセスから婚約解消を言い渡された。
兄サナレスに、生涯かけてでも一緒にいたい相手ができたと言いながら、リンフィーナは肝心のところでずっとサナレスのことを考えてしまっていた。
もし自分がアセス一人に全身全霊で心も体も傾けたなら、ずっと孤独だった兄サナレスはどうするのだろう?
自分がサナレスを幸せにするのだと思っていた。
それができなくなった時の、サナレスの孤独は誰が救うのか?
育ててくれた恩以上の感情が溢れ出てきて、アセスの広げてくれた腕の中に、リンフィーナは飛び込めなかった。
いや、兄のためなんて、そんなのは偽善だった。
自分自身が、サナレスとアセスと三人でいる心地よい時間を失うのかと思うと、一歩を踏み出すことができなかった。
二兎追うものは一兎も得ず。
そんな言葉がリンフィーナを横殴りにした。
ーー報いの、婚約解消だ。
「リンフィーナ、さようなら」
即座に嫌だと縋りつきたかった。
確かにアセスとの運命を感じていて、誰よりも自分の心を盗んでいったのに、突然すり抜けていく大切な人との関係性。
憧れを抱いて、胸が千切れるほど好きすぎる人に言われた別れの言葉の強さに、リンフィーナは一言も反論できなかった。むしろ貴方の相手をさせていたのが、「こんな自分でごめんなさい」弱い気持ちで俯いてしまった。
婚約を解消されてしまい、もう二度と会えないのかな?
もう彼を見ることはないんだろうか?
そんな風に考えると、また涙が溢れた。
初めて経験した失恋は、生命力の全てを失っていくように、辛かった。
過去に遡り、あの時こうしていたらと後悔ばかりが逡巡し、リンフィーナは自室から出ることもできなかった。
今すぐにでもラーディオヌ一族に行って、もう一度気持ちを確認したかった。
何かの間違いなんじゃないか。自分は悪い夢を見ているんじゃないか。
突然すぎる別れ話に納得できていない自分がいるが、完璧なアセスを前にコンプレックスだらけの自分が、こっぴどく振られたその上で、何を期待できると言うのだろう。
諦めるしかない。
出会う前に戻れないから、必死で忘れて、いつもの日常に戻るんだ。
それなのに自分の部屋にいても、アセスがここに寝そべっていた姿や、自分を抱きしめてくれた腕を思い出す。二人でいた空間に、一人で取り残された寂しさが募る。
「姫様?」
部屋の外からラディの声がした。
「体調が悪いんですか?」
リンフィーナは答えることもできなかった。
心配したラディが、扉を開けて顔を覗かせる。
布団を被ったまま、膝を抱えベットに座りこんで、ラディを見た。
「何があったんですか!?」
自分の顔を見て、ラディが駆け寄ってきた。
何も言えず、泣きながら首を振るのがやっとだった。
もう終わった。
もう死ぬ。
知らなかったのだ。
一番大切な人を失うのは、世界中が崩壊していくほど悲しい。
生きていられないほど、苦しい。
断ち切れない感情が溢れ出して、また大粒の涙が頬を伝った。
これから先ずっと、二人で見た景色すべてが、ーー二人の想い出すべてが傷となって、じくじくと痛むまま生きていくのだろう。
忘れることなんて、できないよ。
「封じられた魂32」:2020年10月7日
 




