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封じられた魂  作者: 一桃亜季
32/55

封じられた魂32「すれ違い2」

一日一章投稿しています。


ー偽りの神々シリーズー

1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

2「敗れた夢の先は、三角関係から始めます。」星巡りの夢

3「封じられた魂」

      本編進行中です。


順番に続いています。

応援よろしくお願いします。

         ※


 泣き腫らしたリンフィーナの目は、不細工にも倍に膨れ上がっていた。


 アセスとやっと心を通い合わせたと思った次の日、アセスから婚約解消を言い渡された。


 兄サナレスに、生涯かけてでも一緒にいたい相手ができたと言いながら、リンフィーナは肝心のところでずっとサナレスのことを考えてしまっていた。


 もし自分がアセス一人に全身全霊で心も体も傾けたなら、ずっと孤独だった兄サナレスはどうするのだろう?

 自分がサナレスを幸せにするのだと思っていた。

 それができなくなった時の、サナレスの孤独は誰が救うのか?


 育ててくれた恩以上の感情が溢れ出てきて、アセスの広げてくれた腕の中に、リンフィーナは飛び込めなかった。


 いや、兄のためなんて、そんなのは偽善だった。

 自分自身が、サナレスとアセスと三人でいる心地よい時間を失うのかと思うと、一歩を踏み出すことができなかった。


 二兎追うものは一兎も得ず。

 そんな言葉がリンフィーナを横殴りにした。

 ーー報いの、婚約解消だ。


「リンフィーナ、さようなら」

 即座に嫌だと縋りつきたかった。


 確かにアセスとの運命を感じていて、誰よりも自分の心を盗んでいったのに、突然すり抜けていく大切な人との関係性。


 憧れを抱いて、胸が千切れるほど好きすぎる人に言われた別れの言葉の強さに、リンフィーナは一言も反論できなかった。むしろ貴方の相手をさせていたのが、「こんな自分でごめんなさい」弱い気持ちで俯いてしまった。


 婚約を解消されてしまい、もう二度と会えないのかな?

 もう彼を見ることはないんだろうか?

 そんな風に考えると、また涙が溢れた。


 初めて経験した失恋は、生命力の全てを失っていくように、辛かった。


 過去に遡り、あの時こうしていたらと後悔ばかりが逡巡し、リンフィーナは自室から出ることもできなかった。


 今すぐにでもラーディオヌ一族に行って、もう一度気持ちを確認したかった。

 何かの間違いなんじゃないか。自分は悪い夢を見ているんじゃないか。

 突然すぎる別れ話に納得できていない自分がいるが、完璧なアセスを前にコンプレックスだらけの自分が、こっぴどく振られたその上で、何を期待できると言うのだろう。


 諦めるしかない。


 出会う前に戻れないから、必死で忘れて、いつもの日常に戻るんだ。


 それなのに自分の部屋にいても、アセスがここに寝そべっていた姿や、自分を抱きしめてくれた腕を思い出す。二人でいた空間に、一人で取り残された寂しさが募る。


「姫様?」

 部屋の外からラディの声がした。

「体調が悪いんですか?」

 リンフィーナは答えることもできなかった。


 心配したラディが、扉を開けて顔を覗かせる。

 布団を被ったまま、膝を抱えベットに座りこんで、ラディを見た。


「何があったんですか!?」

 自分の顔を見て、ラディが駆け寄ってきた。


 何も言えず、泣きながら首を振るのがやっとだった。


 もう終わった。

 もう死ぬ。


 知らなかったのだ。

 一番大切な人を失うのは、世界中が崩壊していくほど悲しい。


 生きていられないほど、苦しい。


 断ち切れない感情が溢れ出して、また大粒の涙が頬を伝った。


 これから先ずっと、二人で見た景色すべてが、ーー二人の想い出すべてが傷となって、じくじくと痛むまま生きていくのだろう。


 忘れることなんて、できないよ。

「封じられた魂32」:2020年10月7日

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