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封じられた魂  作者: 一桃亜季
31/55

封じられた魂31「すれ違い」

一日一章投稿しています。


ー偽りの神々シリーズー

1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

2「敗れた夢の先は、三角関係から始めます。」星巡りの夢

3「封じられた魂」

      本編進行中です。


順番に続いています。

応援よろしくお願いします。

        ※


「アセス?」

 次の日もアセスは水月の宮を訪れた。

「おかしいところはない? 傷口は痛まない? 膿んだりしていない?」

 リンフィーナが問うと、アセスは笑った。


「昨日、貴方が調べていました。それ以上の変化は何も感じませんが」

 ほっと胸を撫で下ろす幼い人を前に、アセスは少し口の先を歪めた。


「もっと時間をかければ、貴方は必ず私を選ぶでしょうね」

 昨日際どいところまで体を重ねたが、すんでの所でリンフィーナの様子を見て、アセスは引き下がった。


「すみません……」

 一線を超えることができなくて、リンフィーナはアセスの優しさに感謝していたが、アセスの受け取り方は、自信のなさも相まって最悪の結論に達している。


 もっと時間があれば。

 負け惜しみの言葉だった。

 恋愛に対して命の駆け引きをしても、得られることができなかった、たった一人の少女の気持ち。


 魔と契約した、ーー魔道士に落ちた自分は、束の間だけ彼女と生きる時間を伸ばしたが、彼女をモノにすることができなかった。

 これほど純粋で、サナレスが大切にしている人を、魔道士に落ちた自分が望んでいい一瞬は、瞬く間に過ぎていった、とアセスは思っていた。


 チャンスの神様は前髪しかない。

 彼女が自分が居なくなったら後を追うといい、彼女を生かすために自分は生きた。


 歪んでいく前に、彼女と心も体も通い合わせたかった。

 けれど、リンフィーナからサナレスを追い出すことなんてできなかった。


「リンフィーナ、婚約を解消しましょう」

 アセスは全ての感情を無くした、完全な無表情で言った。


 一瞬で、リンフィーナは顔つきを変えた。

 息を呑んで、アセスを見つめる。

「理由を聞いていい?」


 そんなことを言うのが精一杯の彼女は、少しだけ苦笑しながら、アセスを見た。


 魔道士に落ちて、不確定要素の自分より、今まで貴方を守ってきたサナレスを選ぶ方が、君が幸せになるから。

 答えてやる実直さはなく、アセスは兄妹二人の関係性をやっかんでいた。


「面倒になっただけです。所詮違う一族ですから」

 そっけなく言った言葉は冷たくて、自分の心が凍えていくようだ。


「嘘だよね?」

 リンフィーナがすがるような涙目で問いかける。


 抱きしめたい。

 誘惑があっても、アセスはこれ以上彼女に関わることを諦めないといけないと思った。

 魔道士に落ちる前、自分は彼女といる未来を諦めていた。


 死ぬのだと諦めながら、死んでしまったら彼女はどうなる。

 そんなことばかりを考えていたのだ。


 自分が死んだら、彼女は後を追うと言った。だからその瞬間だけでも、彼女が命を絶ってしまわないように誤魔化さなければならなかった。


 大切だからこそ、綺麗にわかれなければならないと思った。


 それなのにリンフィーナは、アセスに向かって飛び込んでくる。

「私は、ーー遅いかもしれないけれど私は、ーー死が二人を分つまでの相手をアセスだと思った」

 貴方は違うの?


 真実だけを見据えたいという、まっすぐな眼差しだった。


 魔と契約した将来は、必ず斬首刑。

 そんな将来がわかっている状態で、リンフィーナの婚約者を名乗るわけにはいかなかった。


「所詮、他族の王族同士、無理があった」

 アセスは彼女を退けるように、わざと冷たく口にした。


 どんなに抱きしめたくても、時の悪戯には逆らえない。

 昨日、彼女が自分を受け入れることを迷った時に、自分たちの運命は、また迷路に迷い込んだ。


 ただ彼女の幸せがどこにあるのか。

 自分ではなく、彼女の幸せがサナレスとの未来にあるのなら、

 ーー喜んで、命を落とそうと思った。

「封じられた魂31」:2020年10月6日

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