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封じられた魂  作者: 一桃亜季
3/55

封じられた魂3「緊張」

一日一章投稿しています。

機嫌よく九月中は、一日一章を続投します。


12月に国家試験あるんで、これが限界かなぁ。

ですがずっとシリーズ書きますので、引き続き応援よろしくお願いします。


まだ、書きたいことのほんの一部しか書けていなくて、焦ってしまう。


        ※


 ラーディア一族とラーディオヌ一族の往来をつなぐ大路、ベミシロードを東へ逸れて数里行ったところに、レオ・パレスという国がある。国の王は温厚で篤実な人格者で、その人柄のせいか、彼の国は永遠楽土の地とまで言われるダイナグラムに並び、移り住んでくる人が多い。


 観光産業に力を入れており、旅人を歓迎するおもてなしの準備も万端で、神の氏族であるラーディアやラーディオヌ一族の民も、この国で羽を休めるほど豊かな土地である。


 この日も、神の子の氏族、歳のころ一六、十七の少女と、彼女よりも少し年上に見える青年が、デートだろうか? 少しだけ喧騒を逃れた小さな遺跡のそばの叢に腰を下ろして、穏やかな午後の陽光を受けながら話し込んでいる。


 少女は雪のように白い肌に、肩のない淡い若草色の衣を着て、すらりと伸びた華奢な腕には、背中から垂らした、透け感のある細い布を絡めてあった。上質の衣服といい、星の形をした耳の装飾品といい、どう見ても貴族の姫君である。


 今はまだ幼さを残す容姿であるが、整った顔立ちのものが多いと言われる重視族の中でも、類を抜いて美しかった。青みを帯びた銀色の髪、吸い込まれそうな大きな蒼い相貌、薄紅色の野薔薇の蕾のような唇。それらはどんな高価な宝石よりも人目を惹き、後数年もすれば世の男性が放っておかなくなるだろう。


 けれど当の本人には、恵まれた容姿であるという認識はなく、コンプレックスの塊だった。

 それは彼女ーーリンフィーナ・アルス・ラーディアが生まれ育ったラーディア一族が、銀髪の民を不吉なものだと後ろ指差してきたからだ。


 幼い頃からその容姿ゆえに苦境に耐えてきた彼女は、人よりも喜怒哀楽が豊かで、自己表現を得意とした。例え忌み嫌われる容姿でも、自分という人となりをわかってもらえれば打ち解けられるはず、と前向きに努力してきたのだ。


 豊かな表情は、少女の無邪気さを物語るように愛らしい。

 またその横に座る青年も、一瞬女人かと見紛うほどに、類まれな美貌の持ち主だった。


 ぬばたまの髪、闇色の瞳である彼はラーディオヌ一族の血を濃く引いている、アルス家の当主、アセス・アルス・ラーディオヌである。


 陶器のように整いすぎた容姿は、冷たい印象を与え、クリスタルドールの異名を持ち、ラーディオヌ一族の総帥としてその顔は知れ渡っていた。アルス大陸一の美女と誉れ高い女の忘れ形見として、男が見てもうっとりとするような美しさだが、均整の取れた長身痩躯の四肢には、鍛えられた者につく筋肉がのっていた。

 目の効くものであれば、彼が優れた剣士であることも見抜くだろう。


 神経質な、細く伸びた中指の付け根のところには、高位の呪術者にのみ与えられる六芒星が刻まれている。利き手に星伝と呼称される六芒星が刻まれているのは、術士にとって最高に名誉なことを表し、世界でも指折りにしかいない天道士の証である。


 少女と青年は、今、アルス大陸で最も有名なカップルだった。


 他族間で、反対されながらも周囲を説き伏せて、婚約を認めさせるために、あらゆる王族貴族を巻き込んで立ち回った。良く言えば愛を貫いた天晴れな男女、悪く言えば騒動な男女である。


「観光地も巡りたいところですが、目立ち過ぎますからね」

 残念そうに、アセスは言った。

「アセス様は、行ったことがあるのですか、レオ・パレスの温泉街?」

「ありません。リンフィーナは行ったことありますか?」

 リンフィーナは首を振った。


 「意外ですね」と、アセスは言った。

「サナレスなら、貴方をあちこち連れ歩いていると思っていました」

「ーーうん。兄様は、私を色々なところに連れていってくれるのだけれど、レオ・パレスには昔何かあったみたいで足を運ばなくて……。この辺に来ると、いつもなんだか……」

 サナレスが少し元気がないように見えるのは気のせいだろうか。


「アセス様こそ、初めてお会いしたのがこの辺りだから、所縁のあるところかと思っていました」

「いや、私はおそらく貴方よりも出不精で、ほとんど神殿から出ることはありませんでしたので」


 何度目のデートなのだろうか。

 婚約までしているというのに、二人の距離は一向に縮まっていなかった。

 意識しすぎて、会話すら初々しくギクシャクし、お互いのことを知るのに必死である。


 考えて見ると、リンフィーナは婚約者であるアセスのことを何も知らなかった。

 幼い頃に星光の神殿で出会って、強い憧れを抱いて、いつの間にかそれが初恋に変わった。彼がラーディオヌ一族の総帥だと知ったのも物心ついてからだ。


 リンフィーナは未だに、彼の美しすぎる姿が横にいるだけで、極端に緊張してしまう。


 今日だってアセスから誘いを受けて、この場所で待ち合わせをしようと言われた時から、尋常じゃないぐらいテンションが上がっていた。

 疲れるーー。


 ラーディオヌ一族から迎えを寄越そうという、自分の身の安全ばかりを気にしてくれているアセスの心配を他所に、リンフィーナは着ていく服にばかり気を遣っていた。


「アセス様、あのっ……」

 本当に私でいいんですね!?

 何度も確認した言葉だったので、今は飲み込む。

「ん?」

 アセスがただ首を傾げて、少し目を開いただけで、熱で顔がとろけそうになった。


「何もないです」

 俯いて赤くなっていると、アセスは腕を組んで、何か言いたげな目で自分を覗き込んできた。


「リンフィーナ」

 突然名前を呼ばれて、どきっとする。


「ーーなんですか、アセス様?」

 恐る恐る、神々しい彼の顔を見ると、アセスは片眉を少し上げて自分を見つめていた。


 漆黒の瞳の中に、萎縮した自分が映っていて、リンフィーナは恥ずかしくなる。動悸息切れ、ーー本当にこんな調子で、結婚などできるのだろうかと、頭の中がぼうっとする。


「リンフィーナ、あの」

 戸惑いながら、アセスが言った。

「そろそろ、アセス様と呼ばずに、アセスと呼んでいただきたいのですが」

 提案された内容に、頭が噴火寸前の警戒レベルだ。


 リンフィーナは両手で顔面を覆って、意を決して彼の名前を呼ぶ練習をする。

「アセ、アセ、アセ……」

 ス、までちゃんと言いたいけれど、恥ずかしすぎてそれができない。妄想の中では、何度でもアセスを呼びつけにしたのに、現実にラーディオヌ一族の総帥であるアセスを前にして、呼び付けは、はばかられた。


「無理です! 今は無理です。そのうち慣れますから」

 きっと。たぶん。

 リンフィーナはぎゅっと瞳を閉じた。


 そんなリンフィーナの頭の上に、アセスが手を乗せてくる。

 大きな手の中に頭部がすっぽりと収まって、リンフィーナは彼に向き直った。

「ゆっくりでいいのです」

 アセスは微笑んだ。

「封じられた魂3」:2020年9月20日

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