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封じられた魂  作者: 一桃亜季
22/55

封じられた魂22「懐妊」

一日一章投稿しています。


ー偽りの神々シリーズー

1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

2「敗れた夢の先は、三角関係から始めます。」星巡りの夢

3「封じられた魂」

      本編進行中です。


順番に続いています。

応援よろしくお願いします。

        ※


 気味が悪いと、陰で囁かれるようになった。


 大きな体は腹周りを中心にげっそりと痩せ、かろうじて残った肩と脹脛の筋肉だけが不自然に目立つ体になり、眠れずに深夜徘徊する姿は、王宮の女官の目には不気味に映った。


 血走った目で目にする視界は、夜でも鮮明だったが、逆に昼間見る景色に色彩を失っていった。ずっと水の中にいるような、少し暗い視界が当たり前になって来た。


 体重は55キロまでに落ち、筋張った骨格が浮き彫りになり、人ではないモノに変容しようとするように肩甲骨が不自然にせり出し、背筋が曲がってくる。緑みを帯びた黒髪は、頭の天辺から色が抜けて、白髪に変わってきている。


 自分の変わり果てた姿を見て、王妃ですら恐怖の色を表情にのぞかせるようになってしまった。怯えた子供達の視線と、腫れ物に触るような気遣いが、プルセイオン王を苛立たせた。


 この頃になると王は、海に潜ることを日課にしていた。

 陸の上でいることが息苦しく、奇妙なことに水の中にいる方が息が楽だった。

 水掻きが大きくなり、体の所々に鱗が生えて、腕と脚には生え揃ってきているようだ。


 気持ち悪さと恐怖が染み込んでくるのは、最初のうちだけだった。


 海に呼ばれているような気がしていた。

 ーーいったいなぜ、こんなふうになったのだろうか?


 水の中に生きる、神秘と謎に包まれた、銀髪、血色の瞳のラン・シールドが氏族。

 この神々の存在を強く感じるようになっていた。


 海の近くに住む人の民は、ラン・シールド一族の神々を崇めて、供物を捧げた。穏やかな天候を祈り、海での水難が起きないように、漁師の民達は彼らに祈った。


 大陸暦が始まってから、彼らは地上に姿を表すことは無くなった。すでに滅んだ一族だと噂する民もいるが、黄的の民はそうではなかった。


 自分の体に変化がもたらされて以来、彼らのざわつく気配を水面に感じるようになった。


 魚群のように動く、キラキラと光る数十名の人の影を、度々海の中に確認した。泳ぐ速度が速くて、その姿をはっきりと見極めることはできなかったが、大きく揺らぐ人の影と気配、そして自分はいくつもの視線に晒された。


 海の中で何が起こっているのか、想像することもできなかったが、時折暗くなった海に響き渡る鳴き声のような歌声は、頭の中に直接聞こえてくるようだ。


 悲しい歌声。

 四六時中海に誘われているようだ。

 水辺を見るだけで、体を水に浸したくなった。


 空気中では鱗が乾いて痒みが増した。


「王よ、王妃様がご懐妊なさいました。ーーおめでとうございます」

「ああ」


 もしかすると自分は狂ってきているのかもしれないと思った。王妃が妊娠したと聞いても、なんの感慨も湧いてこない。


 王妃は気弱になっているようで床に伏せることが多くなったが、自分の姿を見て寒気すら覚えるようで、王は王妃を見舞わなかった。

「封じられた魂22」:2020年10月3日

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