表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
封じられた魂  作者: 一桃亜季
20/55

封じられた魂20「鱗」

一日一章投稿しています。


ー偽りの神々シリーズー

1「自己肯定感を得るために、呪術を勉強し始めました。」記憶の舞姫

2「敗れた夢の先は、三角関係から始めます。」星巡りの夢

3「封じられた魂」

      本編進行中です。


順番に続いています。

応援よろしくお願いします。

          ※


 漁業と貿易で栄えた黄的を統治する王は、十三代目になる。

 プルセイオン王は先代から受け継いだこの国を、こよなく愛していた。


「王様、今日もいい魚が入っていますよ」

「おう。後でその自慢の魚、宮殿に届けてくれ」

 明るい笑顔で民に答えた。


 けれど民からの次の言葉が、王の心に引っかかった。

「王様、最近少しお疲れなのですか?」

 何を言う?

 その逆なのだ、と言いたかった。


 じっとしている我慢ができずに、毎日のように朝から黄的の市場に顔を出す。そして民の暮らしを目に入れたかった。愛する国を統治したい気持ちで、ーーみなぎる力でいっぱいになっていた。

「少しも疲れていないぞ。一緒に漁に出たいくらいに元気だ」


 漁師の民は大きな声で安心したように笑って、「それは頼もしい」と言った。

 何もおかしいところはない。理由もなく体重が減ったことなど、とるにたらないと思っていた。

 大丈夫。

 民の前で、豪快に笑ってみせた。


 それなのに不安要素を拭えないでいるのは、更に不安に思うことができてしまったからだ。


 指がおかしい。

 体重の減少以上に気になってきたのは、指先と指の付け根だった。

 指先については、皮膚が荒れ、捲れ始めた。接触性皮膚炎かとも思ったが、爪が不自然な形を形成し始めた。爪の表面がガタガタになり、指先が僅かな痛みとともに皮が捲れ続ける。


 突然どうしたことかと、精気みなぎる体で考えた。これが老化というものなのだろうか?

 みなぎる力と反比例するように、局部的に老いていくのは、当たり前のことなのか?

 プルセイオン王にはわからなかった。


 けれど、指の付け根に感じ始めた異変は、不安では止まらずに、背筋が寒くなるような事態まで発展した。


 何だ、これは!?

 指と指を繋ぐ部分、人にはない水掻きの部分が大きくなった。

 そして皮膚が水分を失い、指で掻くとカサカサと剥がれ落ちる。

 気になって指で掻く。すると硬い皮膚が白い小さな粉のように、周囲に落ちた。剥がれかけた皮膚を、歯で挟んで引っ張ると、更に皮膚が荒れていった。


「王、最近体調がすぐれないのでは?」

「うるさい!」

 心配して声をかける王妃に、声を荒げてしまった。


「すまん。ーー大丈夫だ」

 押し殺した声で、手指を見つめた。今までであればこの手で王妃を抱き寄せたが、汚く汚れた不自然な手を、王妃に見せたくはないと思った。手袋をはめ、なるべく手を人目に晒さないように気をつけた。


 手の先から醜くなっていき、その醜悪な手では、愛しい人を触ることが躊躇われた。

「気にするな、少し疲れているだけだ」

 背を向けたまま、プルセイオン王は言った。無用な心配をかけたくはないし、変化している体を隠したかった。


 70キログラム。

 更に体重が落ちているのを確認し、ごくりと唾を飲んだ。


 誰にも相談はできないが、いったい自分の体はどうなってしまったと言うのだろう?

 ーーいや。しかし何か重大な異変ではないはずだ。床に伏すこともなく、元気なのだから、体重の変化や皮膚の荒れなどさしたことではないのだ。そう思おうとする。


 それにしても手指が痒かった。

 手袋の上からでも、血が出るほど手をかきむしってしまった。剥離する皮膚が硬くなり、めくっては血が出て、更に硬い皮膚ができた。

 水かきのように指と指の間に面積を広げる皮膚は、いったい何なのか!?


「王様、最近悩みごとでもあるのですか?」

 王妃が自分の肩に手を置いたが、自分はその手を取らなかった。

 少し前までは性欲が盛んになったが、今はただ目が冴えて眠れす、深夜でも徘徊せずにはいられないほど、神経が冴え渡った。


 痩せてギラついた眼差しは、不思議なことに闇の中でも視界を見渡した。


 数日後ーー、体重計に乗ると60キロになっていた。

 身長190センチ近い体でのその体重では、体の細さが際立った。窪んだ目は寝不足のためか、赤く血走る。


 その頃、痒みは全身に広がった。

 バリバリと腰を掻く。血が出ては、皮膚が硬くなる。


 もしかすると重篤な皮膚病なのだろうかーー?

 医師を呼んでも、首を横に振られ明確な答えは出ないままだった。


 血で固まった手袋を、ゆっくりと引き剥がした。

 固まった皮膚が手袋に付着して、痛みが走る。

 プルセイオン王は、手袋を脱いだ自分の手を見て、愕然とした。


 何だ、これは!?

 気持ち悪さに、震えがきた。

 手の甲から剥がれた皮膚の下に、硬い皮膚ができていた。


 ーーけれどそれは決して人の皮膚ではない。びっしりと張り付いた魚の鱗のような銀色に光るものが、自分の手の甲を覆っていた。


 嫌悪感に吐き気を催した。


 何だ、これは!?

 必死で自分の手を擦り合わせ、掻きむしるが、鱗のようなものは自分の手から落ちなかった。


 プルセイオン王を恐怖が支配する。

 私は異形の物になったのか!?


 これが神子への変化!?

 そんなわけはないと頭を振ったが、何度瞬きしても手に張り付いた鱗が撮れることはなかった。

「封じられた魂20」2020年10月2日

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ