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封じられた魂  作者: 一桃亜季
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封じられた魂2「気持ち2」

一日一章は投稿しています。

連休に入りました。


ロードバイクが欲しい熱がヒートアップしています。

先日は肩こりのため、マッサージチェア熱が暴走しました。


物欲深い間は、まだまだ書いていられそうです。

応援よろしくお願いします。

「どうしてわかったかって? ーー案外お前はわかりやすいんだが……」

 あっさりとジウスにそう言われて、サナレスは不安になった。


 恋愛などほとんど経験のない自分は、この気持ちが恋愛なのか、ただ愛しい妹を取られるような気持ちになって嫉妬しているのか、そんなことでさえわからない。


 百年以上生きてきて、つい最近まで、サナレスは自分の気持ちにすら気づかなかったくらいだ。

「いや、お前とあれが兄妹でないと知っているものなら、簡単に見抜けるかも知れないな」


 息を飲んで、サナレスはジウスを二度見する。

「婚約の儀の間中、苦虫を噛み潰したような顔をして、気付かれないとでも思ったか?」

 ジウスは特殊な能力で、知ったのではない、とたたみかけてくる。


 サナレスはがっくりと膝を折って座り込んで、頭を抱えた。


「気づかないのって、お前以上に恋愛経験がない者くらいだと思うが」

 ジウスから残念な労りの眼差しを向けられ、サナレスは床を見る。


 うーー。

 百歳も過ぎて久しいというのに、指摘された内容の稚拙さに、サナレスは悶々と考えて落ち込んでしまう。


「そんなに私は、ーーわかりやすいのですか?」

「お前は元々、好き嫌いがはっきりしているからな。妹が好き。彼女の婚約者のアセス殿も好き。でも二人には置いて行かれたら嫌だって、顔に書いているが」

 看破された内容と、さくっと集約されてしまった単純さに、サナレスは赤面してジウスを睨んだ。


「気にすることもないと、私は思うが」

 とりなした言葉は、明らかにサナレスをからかっていた。

 完全に上から面白がられた感が否めなくて、サナレスは足元を見てうめく。


「どうして私が、息子の気持ちに気がついたか、真面目に答えるとしたら、同じ境遇になったことがあるという経験だけだ。ーーこれは、偉そうに言えることかな?」

「同じ境遇って、ーージウス。貴方が望めば、拒む女性なんていないでしょう?」

 アルス大陸の筆頭である総帥のジウスの求婚を断る女性などいるのだろうか?

 サナレスは馬鹿馬鹿しいと、耳に蓋をしてしまう。


「お前が私をどう思っているかは知らないが、私の初恋の相手は残念ながら見事に私ではない者が好きで、私は割と不遇な経験をしてきているんだがな」

 どうだろうか、とサナレスはやぶ睨んだ。確かに正室の数は三人、側室五人と、王族にしては決して多いとは言えない。けれど正室を一人も娶っていないサナレスからすれば、ジウスは十分な好色男だ。


 じっとり見ていると、ジウスは軽く笑った。

「若い頃の話だよ。私の恋のライバルは、双子の兄だった」


 サナレスはギョッとして、膝まづいて俯いた顔を上げる。


 ちょっと待て。

 ジウスには単なる恋愛話の一つに過ぎないようだが、その話は紀元前の話で、ーーソフィア・レニスという星が崩壊した話に関連している。今の神子や人の民に神話として語られている、大陸の存亡に関わるような話じゃないか、とサナレスは目を剥いた。


 ヨアズ・アルス・ラーディア。

 ラーディア一族では、この名を口にするのも、はばかられた。


 ジウスの双子の兄として生まれた彼と弟ジウスは、神話によると、一人のソフィアという星の名を持つ少女を奪い合って、一つの星を滅ぼしてしまったという、逸話がある。いや、正しくはその少女が魔女で、そっちが星を滅ぼしたとかなんとか。

 そんな話をさらっと聞かされるこっちの立場になれば、恋愛話として聞くには重たすぎた。


「ーージウス様には双子の兄が実在していらっしゃったのですか? 神話ではなく、本当に?」

 確認する歴史の重みに、サナレスは謁見の間に尻をついて、完全に座り込んだ。


「ああ。千年以上前の話だが、兄と私は一人の少女を取り合って喧嘩してねぇ。私たち、見た目には優劣なかったと思うのだが、初恋の君は私ではなく兄を選んでしまった。難しいね、女心は」


 軽い。

 軽すぎる。

 見た目に優劣がないって、ーーそりゃ双子ならそうなんじゃないのか。


 サナレスはしばらく黙ってしまった。

 ジウスにとっては息子に聞かせる恋愛話の一つに過ぎない。けれど聞いている方が恐縮してしまうというものだ。


「あの……」

 神話では、双子の兄との痴情のもつれで、二人が星を滅ぼしてしまって、大陸暦が始まったことになっているのですが!? それに魔女って実在したんですか?


 このノリでは聞きにくい。喉から手が出るほど聞いてみたい内容なのだが。

 

「私が初めて好きになった人は兄に夢中で、ずいぶん嫉妬させられたものだ」


 嫉妬して星を滅ぼしたのは、父上貴方ですかーー?、とはとても聞けなかった。


「それで、お二人は今どうされているのです?」

 この質問も立ち入ったものだが、父の恋愛話にも興味があって、サナレスは確認した。

 ジウスの表情が一瞬だけ苦悶に歪んだように見えた。


「二人は駆け落ちして、一族を去った」

 要するに面倒ごとを押し付けられて、二人は自分の元を去ったのだと、ジウスは言った。


 ーー駆け落ちって!?

 ここにきて説明が乱暴になる理由は、語りたくないこともあるのだろうと、サナレスは頭を抱え嘆息する。

 自分自身、不遇な恋愛経験しか体験がないため、人のそれにも触れずにおこうという、気遣いだけは持っているつもりだ。


「いったいーー、ジウス様は私を呼び出し、私に何をしろとおっしゃりたいのですか?」

 神話になるようや彼の過去まで持ち出してまで、妹と自分を引き離したいのか。せめてそれだけでも確認したかった。


「いや。お前たちは私の息子であり、娘である。どうしろと指図をするつもりは毛頭ない。ーーあれと離れてみてはどうかと言ったのも、随分とお前がつらそうに見えたからだ。過去の自分を見ているようだった」

 つらくても、一緒にいたいのであれば好きにすればいい。


「あなたはーー」

 そんなことを言うために、自分の経験を話したと言うのだろうか。

 サナレスは父であるジウスの意外性に、目を見張った。


「それで、サナレス。あれは元気にしているのか? 何か変わったことはないか?」

 ジウスが言い終わるか終わらないかのうちに、サナレスはくくっと肩を揺すって笑い始めた。そうしているとなぜか自分の気持ちが晴れていく。


「おや? どうしたサナレス? 父親が我が子のことを心配するのが、そんなにおかしいのか?」


「ーーいいえ……」

 ジウスが可笑しいのではない。サナレスは必死で笑いを噛み殺した。

「その言葉をある者から、もう何十回と聞かされたものですからーー」


 リンフィーナがラーディア一族で稀に見る能力、術者の強力な願いが感情と実態を伴って動き出すというラバースを行使してしまったが故に事件が起こり、彼女が命を危うくし、その上シヴァールという他族の魔道士にまで目をつけられてしまったという悪夢のような一件があって以来、彼女の婚約者であるアセスは、サナレスの顔を見るなり、妹の安否確認をしてくるのだ。


 クリスタルドールと異名を持つ感情の起伏が乏しいあの男はわずか十八歳にして精神的年寄りで、公的なことには一族の総帥としての頭角を覗かせるが、私的なことになるとまるで別人で、心配性を絵に描いたように狼狽えている。


 そういうところを、サナレスはなかなか気に入ってしまっている。懐に入らなければ、彼の面白みというか、不器用さに気づくことはないだろう。


 サナレスはくすくす笑った。

「お前はずいぶん、あれの婚約者殿を気に入っているのだな?」

「ええ」

 ジウスに問われて、サナレスは迷いなく答えた。


「だから困るのですよ。ーーいっそどうしようもない男があれの相手なら、すぐにでもあれを奪い取れるというのに。ーーあれも目が高いから……」

「妹の婚約者には彼がいいと言い始めたのは、サナレスお前ではなかったか?」

 他族の総帥を婚約者にするという異例の采配に、一族内外は騒然となったが、今では反対派もねじ伏せて平和なものだ。


「くだらない虫がつかなくていいと思ったんですがね、最初はーー」

 今では最大の反対勢力が自分自身の嫉妬心という形で心の中に鎮座していることを自覚して、サナレスは複雑な心境だった。


 ーー複雑と言いつつも、思いの外アセスのことを気に入ってしまっている気持ちが勝ってしまい、笑えてくるのだ。


「お前も、つくづく不憫だな……」

 複雑な立場になっていることを察知され、ジウスから同情された。


「私の言ったこと、お前の好きにするといい。あれやアセス殿の側にこのままいるのも、二人から暫く離れてみるのも、お前の生き方だ。案外距離をとってみれば、他に想う女人が現れるかもしれないし……、どちらにしても二度と会えなくなるわけではないのだし、深刻には考えるな」


「ええ、そうですね」

 考えてみます、とサナレスは言った。

「封じられた魂2」:2020年9月19日


なろう系的なタイトルが‘、今回思いつかなかった。

思いついたら、サブタイトルを変更するべきか悩んでいます。


「誰を選んでも、気分次第」← 軽い

「大切な人を見極めるために、メンタルを鍛えます」←重い


結果、本来のサブタイトルが主タイトルに。

むむぅ〜。

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