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封じられた魂  作者: 一桃亜季
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封じられた魂1「気持ち」

やっと回想の「破れた夢の先は、三角関係で始めます。」星廻りの夢を書き終えました。


本編主人公、リンフィーナの物語に戻ってきて、更に書き進めます。


一日一章続けられるといいなぁ。

皆様の反応を励みに頑張ります。

応援よろしくお願いします。

 遥かなる太古の昔、大陸暦が始まる前、人によって定められた神々の氏族が繁栄していた。

 最初はほんの些細な能力しか持たなかった、人と少しだけ違う特性があった彼らは、人との交わりを禁じられたことから独自の文化を築いていく。


 水の中に生きる、神秘と謎に包まれた、銀髪、血色の瞳のラン・シールドが氏族。

 黄金の髪、青い炎の瞳は光の子、赤銅色の肌が特徴的な、キコアインが氏族。

 漆黒の髪と闇色の瞳、呪術を生業にする夜の民、ラーディオヌが氏族。

 そして、それらの頂点に立つ、広大なアルス大陸に根を下ろした、神でありながら呪術に対して否定的な立場をとる、ジウス・アルス・ラーディアが統治する、ラーディアが氏族。


 これらの氏族は大陸暦が始まった後、他の多くの神々の氏族が人の子の争いに巻き込まれ、ことごとく滅亡の時を迎える中も、絶大な繁栄を誇り、滅ばずに残った氏族である。


 人は彼らを貴族と呼び、4つの一族を重氏族と呼称し、崇拝を止めず、一方で異質なものであると区別しながら、神々の存在を認めていた。


        ※


  豊かな水と大理石の都、王都ダイナグラム。

 一年を通して春の陽光に包まれ、賑やかで活気あふれる王都では、様々な特産物が流通する。行き交う多くの職業人を吸い寄せる魅力のある都市だ。


 神殿を中央にして、背後の山脈から流れてくる水を貯水する大きなダムが、左右にひとつづつあり、街中に網の目に引かれた水路に、水の恵みをもたらし、さらさらと流れる水の音はさながら慈愛に満ちた歌声のように、人々に安らぎを与えていた。


 広大なアルス大陸の最西端、五分の一の面積を占める、ラーディア一族の首都である。


 一族内で呪術は禁忌とされ、神子の氏族にしては人との共存を歓迎し、科学によって一族を豊かにしようとする、異色な一族である。


 一刻ほど前、神殿の西門を一人の金髪の青年が、艶やかな漆黒の青毛の馬を飛ばして神殿内に入っていった。


 その者の名はアルス大陸広しといえど、知らぬ者は少ないはずだ。ラーディア一族総帥ジウスの後継者、サナレス・アルス・ラーディアである。

 彼は神殿の西側の棟に自室があり、ジウスの片腕として執務を行うので、神殿からの出入りは珍しいことではない。


 けれど敏捷で力強い、フリージアン・ホースという種の漆黒の馬を全力で走らせる姿は、嫌でも人目を引く。

 人々のかたわらを風のように疾走するサナレスを見て、人々は皆一様に振り返った。

 白金の長い髪を後ろで一つに束ねたサナレスは、王都でも次期総帥として期待され、その親しみやすさから人気者である。


 憧憬の眼差しを向けられながらも、今日のサナレスはそのいっさいに気が付いていなかった。


 それだけ動揺していたのだ。

 ちょうど妹のいる水月の宮を訪問していた最中に、彼の父であるジウスの使者から、ただならぬ事を聞かされたからである。


        ※


「父上、ーージウス様! あれから離れよ、とは……、いったいどういうことなのか、ご説明頂きたい!」

 急いで駆けてきたこともあり、語気が荒くなる。


 サナレスは乱れた呼吸を整えながら、神殿の中の謁見の間に鎮座しているジウスに向かって、真っ直ぐに視線を向けた。

 どんな時も泰然としていて、ほとんどのことを笑ってやり過ごすような常のサナレスらしからぬ慌てふためきぶりに、ジウスは面白いものを見たとくすと笑った。


「ーー揶揄っていらっしゃるのですか?」

 焦りを含んだ口調で、ジウスの真意を確かめようと、サナレスは身を乗り出す。


「あれから離れよ、と命じたわけではない。離れた方がいいのではないか、と助言したまでのこと」

 サナレスはグッと奥歯を噛み締めた。


「それが、ーーどういうことなのか理解できないから、こちらに参りました。ジウス様、あれは私の妹です。例え血が繋がらなくとも、貴方がそうせよと、お命じになったのではなかったですか?」

 感情を抑えようとしても、今のサナレスには難しかった。怒りにも似た思いが胸中を締め付け、声すら震えてしまいそうだ。


 ジウスは相変わらず冷めた眼でそんな自分を見下ろしてきた。その態度がいっそうサナレスを苛立たせる。なぜ父は、自分にこんな突拍子もない話をするのかと、殺気すら覚えてしまった。


 妹リンフィーナを、自分がどれだけ可愛がってきたのか、知らぬわけではないはずだ。

「ジウス様、確たる理由もなしに、あれから離れることなど、私にはできません!」

 断固とした意思を伝え、サナレスはジウスを睨んだ。


 元々父であるジウスとは折り合いが良いわけではなかった。

 一千年の寿命を生き続けるジウスは、サナレスと同じ歳くらいにしか見えず、下手すると年下にすら見えるほど若々しい。その容姿に反して、瞳の奥は感情が全く伺えない底知れぬ無である。


 常に一定のコントロールされた感情で、起伏することを見たこともない。ジウス相手に怒りをぶつけたところで、暖簾に腕押しなのは分かっていた。


 悔しい。

 サナレスはグッと拳を握って眼差しを尖らせる。


「サナレス……。私はあれを妹として育てよと言ったはずだ。お前も忘れてはいまい?」

 抑揚のない声で、ジウスは言った。サナレスはゆっくりと首肯する。


「確かにお前は、お前の妹としてあれを育てた。誰が見ても、お前とあれば仲の良い兄妹。ーーけれど、アセス殿と彼女が婚約してから、お前の気持ちはどう変化している?」


 痛いところを突かれて、サナレスは言葉を失った。

 瞬間、自分の気持ちの変化を見透かされ、かっとなって俯いた。


「アセス殿が現れてからのお前は変わった。表面上は兄妹として振る舞っているが、そのせいでお前はどれほどその胸を焦がした? ーー私がお前を妹として育てよと言ったがために、何を我慢しているんだ? もっとお前を早くにあれから解放してやればよかった」


 今一番神に近い存在に後悔を口にされ、サナレスは眉根を寄せた。


「一度あれから離れて、距離を置いた方がいい。お前も、もう自分を、あれを、そしてあれの婚約者のアセス殿を偽り続けることに疲れているのではないか?」

 言い当てられたことに、サナレスの表情が苦悶に歪んだ。


「私があれを妹として育てよなどと命じなければ、お前はあれに、好きだと告げることもできただろう」

「……」

 重くて長い沈黙が下りる。


 誰かがいつか、自分の妹に対する想いを見破ってしまう日が来るのだろうとサナレスは恐れていた。

 自分はずっと、ーーずっと長い間、それを恐れていた。


 だが本当に、恐れていただけかというと、それだけではない。

 サナレスは心の片隅で、ジウスのように自分の心を看破してくれる存在を待ち望んでいたのかも知れない。鉛を詰め込んだような重くて硬くなった心が、少しだけ軽くなったように感じる。


 幼い頃から成長を見守ってきた愛しい妹、その想いはいつの間に違うものへと変質したのか。


 自分ですら気づかずに進行したこの病魔は、ジウスの手によって救われようとしているのか?


「なぜ、私の気持ちに気づかれたのですか? あれと私とジウス様、親子といえど交わした会話もほとんどない。そんな状態でなぜ?」

 悪戯を見破られたような顔になって、サナレスは苦笑した。

「封じられた魂」:2020年9月19日



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