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第六話 昔ばなしとお月見

「昔々あるところにおじいさんとおばあさんが住んでいました……」


 ショータはその日、学校から帰ってくるなりソファに座り、カラフルな絵本を開いてはきはきと読み始めた。

 今度、小学校で低学年の子に読んであげるための練習らしい。結構上手だね。


 絵本の題名は「かぐやひめ」。

 山でおじいさんが切った竹の中から女の子が出てきて、すくすくと成長し、やがては月に帰っていく……というとても有名な昔話だ。


「『かぐやひめ』の話って、ちょっとナオに似てるね」


 一通り読み終えたところで、ショータは手に持った絵本と、リンと一緒に床に寝そべっていたぼくとを見比べてそう言った。


 え、ぼく? 意味がわからずにいると、キッチンでママさんの手伝いをしていたルカがひょっこりと顔を出す。


「それって、昔ナオを助けたっていうウチの先祖が、『かぐやひめ』のおじいさんとおばあさんってこと?」

「そう。それに、かぐやひめって普通の人間じゃなかったんだよね?」


 月から迎えが来るくらいだから、そうなんだろうね。あやかしや、もしかしたら神さまだったのかも?

 ルカはおかしそうに笑った。


「じゃあナオにも求婚相手が沢山現れないとね」

「もう、茶化さないでよ。僕たちが知らないだけで、実はモテモテなのかもしれないじゃない」

「え~? そりゃあ可愛いけど、ナオってネコにもモテるのかなぁ」


 二人は「そこのところ、どうなの?」と言わんばかりの目を向けてくる。でも、ぼくは興味のない振りでひんやり冷たいフローリングに体を預けたままだ。


「さぁみんな、ベランダに出るわよ」


 家族に声をかけたのはママさんだ。その手には大きめのお皿があって、白いお団子が山の形に積まれていた。一番上には黄色いお団子もある。

 そう、今日は満月、絶好のお月見びよりだった。



 さして広くもないベランダ側の窓を開け放ち、部屋にはみ出す形で小さな椅子を並べて全員が座る。

 ぼくはショータの、リンはルカの膝の上に座らされていた。


 空からはまん丸の月と秋の星が、眼下の町へといつもより強く眩しい光を投げかける。

 ついさっきの話題を子ども達が繰り返すと、タカヤが言った。


「ナオだって色んなネコと出会ってきたと思うぞ」

「えぇ、恋人だって居たんじゃないかしら。ねぇ?」


 ママさんも微笑んで同意し、ぼくを優しくなでる。その感触は、いつだったかに「そばにいる」と言って体を寄せてくれた()()()を思い出させた。


『ぼくはずっと子ネコのままなんだよ? いいの?』

『うん、そんなこと気にしない』


 くれた応えは、まだ耳の奥に温もりと共に残っている。……まるで今見上げているあの月みたいな子だったな。

 そういえば、人間はこんな気持ちの時には「今夜は月が綺麗ですね」って言うんだっけ。


「でも、その『かぐやひめ』に似てるってのは却下だな」

「じゃあ『つるの恩返し』?」


 ショータは首を傾げながら返したけど、タカヤはそれも首を横に振って却下した。どちらにしても最後はいなくなってしまうから駄目だそうだ。


「ナオはパパにモテモテだね」


 あんまり真面目に言うものだから、家族はとうとう笑い出してしまった。

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