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第五話 小さな運動会

「ナオ、見える?」

「にゃあ」


 わぁっという歓声があがり、場の温度も一気に上昇する。ぼくはママさんの腕の中で、運動場のコースを必死に走る人たちを眺めていた。


 今日は土曜日。

 ルカの通う中学校では、体育会が盛大に開かれていた。

 最近はこよみが秋になっても暑いからと春に行うところも多い中で、この学校はまだ秋開催のままなのだ。


「みゃあみゃあ」

「おっと。そんなに気になるのか?」


 人だかりから離れた隅っこには、首輪とリードを付けられたリンと、そのリードを握って好きに遊ばせているタカヤの姿もある。


 家族全員が家を長時間あけるから、留守番はかわいそうだと言ってぼくたちも連れてきていて、他の人の迷惑にならないように交代で面倒を見ていた。


 秋の運動場のあちこちには赤とんぼが気持ちよさげにスイスイ飛んでいて、興味をひかれたリンがピョコピョコと跳ねる。

 ママさんと様子を見に行くと、気付いたタカヤが苦笑交じりにいった。


「ふぅ、何回世話をしても子ネコは元気いっぱいで大変だな。ナオとは大違いだ」

「ふふっ、それは当たり前じゃないの」


 そうだそうだ。生まれて間もない赤ちゃんと、何十年どころじゃなく生きているぼくの行動が同じだったらオドロキでしょ?

 でも、リンについては発見したぼくにも責任があるから、一応声はかけておく。


「リン。タカ……じゃなかった、パパに迷惑をかけちゃだめだよ」

「めいわくってなぁに?」

「困らせることをしたらいけないってこと」


 言い直しても分からなかったらしく、きょとんとしている。うーん、リンにはまだ難しいかな。

 元気に遊ぶのは子ネコの仕事でもあるのだし、ここは家族にお任せするしかないみたい。

 そこへ今日の主役であるルカがやってきた。


「あー、疲れた!」

「お疲れ様。さっきのリレー、良かったわよ」

「えへへ」


 ママさんが水筒からスポーツドリンクをコップに注いで渡し、労う。ぼくもにゃあと鳴くと、「ナオも応援してくれたの? ありがと」と頭をなでてきた。


 長距離のリレーを走り終えた今のルカは、部活のユニフォームであるチアリーダ―用の服を着ている。

 上は白で、下は爽やかな青色のスカートだ。このあと、マーチングの隣で踊るのである。


「あっ、みんなここにいた!」


 そうこうしているうちに別の場所で観覧していたショータも戻ってきた。

 すると、ルカが美味しそうに飲んでいるコップに、リンがブチもようの前足を伸ばして取ろうとする。


「みゃ~(それなぁに?)」

「これはだめ。リンには飲めないんだよ」

「みゃあみゃあ(おいしーもの? ちょーだい!)」


 ルカが注意しても聞かず、みんな大慌てでコップとリンを離そうとした。

 タカヤがリードをグイグイ引っ張るところは綱引きをしているように見える。


 秋晴れの下、まるで長田おさだ家だけの小さな運動会を開いているみたいだった。

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