第二話 ブチもようの拾いもの・前編
その日もぼくはショータと朝の散歩をしていた。
足元には落ち葉が目に付くようになり、通りのあちこちでコスモスのピンクや紫が優しく出迎えてくれる。
近寄ってかすかな匂いを楽しんでいると、ショータが隣にしゃがみこんで、「あとで摘んで帰ろっか」と言った。
うん、お家でも楽しみたいし、みんなも喜ぶかもね?
「ナオ、どうかした?」
そんな時だった。何かが聞こえた気がして、ぼくの片耳がピクリと動いた。
どこからだろう、……あっちかな?
「えっ、待ってよ、どこ行くのー?」
30秒もしないうちに、ぼくは音の発生源を見付けた。近所の公園の草むらの奥だ。
がさがさと落ち葉をかき分けながら進む。
あわてて追いかけてきたショータにも「にゃー」と鳴いて居場所を知らせると、汗ばんだ顔を覗かせた。
「もう、急に走り出さないでってば……え、これって」
木の影には段ボールがポツンと置かれている。中では「にぃにぃ」と鳴く一匹のブチもようの毛玉――仔猫が居て、こちらを大きな瞳で見上げていた。
◇◇◇
「にぃにぃ」
「ひどいことをする人もいるものね」
ママさんはショータの腕の中の小さな命を見るなりため息をつき、ぼくに「ご苦労さま」と声をかけてくれた。
そう、ちびネコを放っておくわけにいかず、連れて帰ってきたのだ。
おまえもチビだろうって? ぼくより小さいから良いんですー。
今回が初めてのことじゃない。
ぼくはこれまでにも時々こうやって捨てネコを見付けては長田家へ連れて帰ってきた。田舎でも、この町に引っ越してきてからもね。仔犬の時もあったかな。
「軽く体をきれいにしてからミルクをあげてくれる?」
「わかった」
ショータが神妙な顔つきでうなづいて、おフロ場にちびを運んでいく。あちこち汚れていたから、濡れタオルで拭いてやるのだ。
ぼくはぼくでママさんに抱えられ、足を拭いてもらった。
ちびは汚れを拭くとだいぶキレイになった。
最初は慣れない場所への不安からオドオドしたり、おフロ場でも少し暴れたりしたみたいだけど、ミルクを出してやるとあっという間に飲み干した。
「よっぽどお腹がすいていたのね。……さてと、これからまた忙しくなるわ」
ママさんはそう言いながら、スマホを取り出して構える。画像を撮影して、貰い手を探すためのポスターに使ったりするためだ。
撮られる本人はというと、お腹がいっぱいになって安心したのか、電池が切れたみたいに部屋の隅のクッションの上で眠ってしまった。
その頃にはタカヤやルカも起きてきて、ちびネコを見て驚いたり、捨てた人に怒ったり、今後について話し合ったりしていた。
とりあえず、日中に動けるママさんがちびを動物病院に連れていったり、必要なものを買いに行ったりするらしい。ネコ用のごはんやグッズはあっても、ぼくは普通のネコとは色々と違うからね。
ちびはすぅすぅと寝息を立てている。
早く、優しい飼い主が見付かると良いな。