母との別れ
優希はおばあちゃんの死を受け入れられなかった様でまるでドラマの話を聞くように淡々とただ黙って頷いていた。
そのまま優希の身支度だけ待ち一緒にタクシーで病院へと向かった。
受付に案内され昨日の病室ではなく霊安室へと通された。
静まりかえった部屋の中で母はゆっくりと眠っていた。
拘縮して曲がったままだった膝は立てた状態で寝かされていた。
優希に言葉は無かった。
しばらくするとお通夜を取り仕切る葬儀会社の人が母の遺体を引き取りにきた。
僕達は深々と頭を下げ母を移動させる為の車へと一緒に向かった。
「おばあちゃん、死んでんなー、、」
初めて優希が呟いた。
「そやなーなんか実感ないやろ、俺は全くイメージつけへんわ」
正直な気持ちを打ち明ける。
「おばあちゃん苦しんだん?」
「いや心配してた心筋梗塞は起きなくて心不全でゆっくりといったわ 」
「そうかーなら良かったな」
そうこうしてるうちに車を出発させる準備が整い母は葬式をしてもらうお寺へと運ばれた。
夕方からお通夜の席に行った。
もし10年前に母が亡くなっていたらきっと盛大なお葬式になったんだろうなと思い浮かべながらほとんど弔問客のないひっそりとしただだっ広い広場で優希と母の思い出話をしていた。
僕のタイムラインを見た数名の常連様からは立派な献花を頂いた。
しばらく他愛もない話をしていると幼なじみや高校時代の友人、そしてお世話になった常連様がいらして下さった。
みんなそれぞれにそれぞれの思い出話をしながら
悲しみ笑い母の生きた思い出を語った。
てっきりお寺で一晩過ごすと思っていたが22時に閉門との事だったのでそのまま帰路についた。
次の日の朝
優希は既に支度を済ませていた。
昨日までの雨とは打って変わって綺麗な青空だった。
お寺に到着するとまず住職に深々とお辞儀をし席についた。
優希は僕の右斜め後ろに少し深めに腰掛けた。
しばらくすると昨日のお通夜に来てくれた人に加え母の仕事で仲良くしていた人達が来てくれた。
住職の読経が始まる。
後ろから優希のすすり泣く声がずっと聞こえていた。
「おばあちゃん、おばあちゃん、おばあちゃん、、」
おばあちゃん子だった優希にはよっぽど辛かったのだろう。
涙が止まらない様子だった。
僕は何故かお葬式の最中にも関わらず母の死を無かったかと思うかの様にただ
ぼーっと静まりかえった境内に響く住職のお経を聞いていた。
やがて出棺の時
全員で花を母の周りに飾った。
最後の一本を優希は持ったまま母の傍らに置こうとはしなかった。
「どうしたん?」
「だってこれ入れたらおばあちゃんもう見られへんねやろ」
涙を隠さず優希は言った。
「おばあちゃんしっかり送りだしたろ」
「、、わかった」
「おばあちゃん、おばあちゃん、ありがとう」
優希がそっと最後の花を置いた。
母は火葬場で骨と灰になった。
施設に入る要因となった両足のボルトが焼け残った。
小さな白い箱に収まった母を僕達は我が家に持ち帰った。
母にとっては待ちに待った帰宅だったに違いない。
そう思うのは僕のエゴかもしれないが母にとって九年振りの我が家だった。
「おかえりお母さん、ありがとうお母さん」
優希に聞こえるのは恥ずかしかったので小さく呟いてお線香をあげた。
令和元年5月27日の晴れの日だった。




