挫折感と奇跡
新しい生活
朝に息子を送り出すと風呂の掃除と
洗濯物を済ませ
母の昼食に間に合うように病院に行き
なるべく会話をした。
ある人に言われた
「病人は病院に入ると病人の体になる」
その言葉がずっと頭にあったので
お見舞いと言うよりは普段の会話をしに
母の昼食に付き合う感じで接していた。
ただ家賃収入があるとはいえ
つい先週まではバリバリ第一線で働いて
いたので
気持ち的な焦りというか喪失感と言うか
うまく言えないが30越えて
無職になったという恥ずかしさが
心の中に常にあった。
何か始めないといけないと
思いなるべく在宅で出来そうな仕事なども
いろいろ探しはじめていた。
3週間を過ぎた頃
母は少しずつ元気を取り戻し
70代とは思えない奇跡的な回復で
なんとか歩行器をつけてなら
歩けるまでに回復した。
僕は出来る限り昼食後は母を
歩行器に捕まらせて1時間散歩をさせた。
そしてとうとう
担当医から退院の許可が出た。
もう歩けることは無いでしょうと
言われてから1ヶ月半
お医者さんは
《これはまさに奇跡です!》と驚いていた。
私もこんな親孝行な息子さん欲しいですと
お世辞も言ってくれていたが、
僕の中ではかなり複雑な気持ちになっていた。
期待していた以上の結果となって
母はまた自分の足で歩いて退院出来たが
社会的に僕が失ったものの大きさと
これからの不安ははかり知れなかった。
ただその日はそんなことも忘れて
母の退院祝いでみんなで蟹を食べに行った。
優希の夏休みがそろそろ終わる8月の暑い晩だった。