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2年8組物語  作者: 比留川あたる
二年七組との対決編
8/19

第七話:二年八組 VS 二年七組③

 この場が静寂に包まれた。いや、そうなったように感じられただけなのかもしれないが、ただ一つ確かなことは、彰くんの言う通りに動いたところ僕が相手の投げたボールを受け止めていたということだ。


「原塚くんやるぅ!」

「桃香ちゃん……」


 さっき僕がしでかした失態に対して怒っていた桃香ちゃんだったが、今度は態度を一変させて僕を褒めてくる。まったく調子がいいんだから。


「ふん、まぐれで受け止めただけなのに妙に誇らしげだな。それで勝ったつもりか?」


 確かにその通りだ。まだ相手のボールを一回受け止めたに過ぎない。これで勝った気でいるならばそれこそ相手に笑われてしまうだろう。とりあえず今は気を引き締めよう。さて、今度はミスしないように投げないと――


 僕の投げるボールは相手陣地の左辺あたりを流れていった。しかし遅くもなく速くもないボールはあっけなく相手に受け止められてしまう。あちゃー、やっぱり。


「今度こそ終わりにしてやる!」


 またしても七組から剛速球が僕目掛けて飛んでくる。相手もしつこいなあ、僕以外で狙えそうなやつ一杯いるだろ。そう思いながらも僕は当たらないように行動しなければならないわけだが。


「原塚、今度は左足を後ろに一歩出して構えろ!」

「……わかった」


 またしても彰くんからの指示が飛んできた。咄嗟に僕は言われた通りに左足を一歩後ろにずらし、受け止める体制を整えた。すると――



――バン。



 またしてもボールを受け止めてしまった。ここまでくるとまぐれではなく、何かしらの根拠があって彰くんが指示を出してるように感じる。ただそのタネがさっぱりわからない。


「また受け止めたのか? なんなんだ……」

「いい加減僕を狙うのはやめろよ。僕を狙ってもリタイアにはならないよ」


 こうなったらハッタリでも何でもいいから七組には僕を狙うと損ということをわかってもらうしかない。二回ともボールを受け止められて七組が怯んでいる今がチャンスなんだ。

 そう思いながらボールを投げ返すが残念ながら攻撃力は無いので相手を倒すほどの力は無い――かと思いきや。


「ぐっ――」

「お、当たった」


 これまたまぐれだった。いや、相手が怯んだおかげなのか僕が投げたボールが七組の男子の一人に命中した。これで更に僕の強者感が醸し出されることになるだろう。思い知ったか七組め。


「まあいい、標的を変更だ。別のやつを狙うぞ」


 そういうと七組主力陣は僕に照準を合わせることをやめ、別の八組メンバーに狙いを定め始めた。


「そーら、次はお前だ!」

「いや、やめてぇー!」


 八組の女子生徒が狙われている。彰くんが必死に指示を出しているようであるが、女子生徒はパニックになり丸で指示が耳に入っていないようであった。そしてやはりそれでは当たってしまう。また一人リタイアだ。


「ふっふっふ、また一人っと」

「くそ……」


 彰くんが悔しそうにしていた。指示は出せるが、それは自分自身ではなく相手に動いてくれないと丸で意味がない。そう思うと僕が動けたのは奇跡のように感じてしまう。

 そうこうしている間に、女子生徒が当たったボールが跳ね返り桃香ちゃんのところへ流れ着いた。そしてそのボールを掴んだ桃香ちゃんの顔は、まるで闇に堕ちた天使のような……それでも心が燃えているように感じる。女子生徒が狙われた憤りからだろうか――


「こいつら絶対に許さない……」

「ああ……桃香、頼んだぞ」


 兄妹揃って怖い顔をしていた。二人の本気を見れる、そんな予感がした。

 そして彰くんがボソボソと桃香ちゃんの耳元で何かを話している。作戦だろうか、少し離れている僕の耳にはとても内容が聞き取れなかった。そして終わったのか、彰くんが桃香ちゃんから離れた。


「宣言してあげるわ。私はこの一発で、あんたをぶっ倒してあげるわ」


 桃香ちゃんはそう言いながら泉くんを指差した。


「え、冗談だろ? 本気かよ。さっきボール止められておいて一発で倒す宣言とは恐れ入ったよ」


 泉くん含め、七組全員があざ笑っていた。しかし桃香ちゃんの目は本気だ。とても冗談で言っているようには見えない。どうするつもりなんだ桃香ちゃん……

 僕の手にも力が入る。そして桃香ちゃんが構えの姿勢に入った。そしてかすかだが、桃香ちゃんの呟くような声が聞こえる。


「……ボールを鷲のように力強く掴み、勢いよく振り上げる。振り上げたボールを今度は力いっぱい回転させながら投げる――」


 その投球姿勢はいつものものとは違っていた。桃香ちゃんは勢いよく鷲掴みにしたボールを力いっぱい回転させて全身の力を押し込むような形で投げた。


「いっけぇーーー!!!」


 桃香ちゃんは叫んだ。ボールは風を切り裂くような音を発し、円形をしていたボールが楕円形に変形してしまっている。それほどまでに桃香ちゃんの投げる力が強かったということなのか。

 しかしボールは目標である泉くんとは全く違う、右方向へ飛んでいってしまっている。そっちには誰もいないぞ桃香ちゃん。


「あはは、何処投げてんの。頭に血が上りすぎてマトモに投げれなくなっちゃったのか」


 泉くんは嘲笑っていた。やれやれといった表情をしていたが、桃香ちゃんの方に目をやると桃香ちゃんは失敗したという顔は見せず、むしろしてやったり――そういう顔をしていた。その時――



――ヒュゥゥゥゥゥ。



「な、なんだ」


 僕は驚いてしまった。右側に逸れていたボールが大きく左に進路を変え、泉くん目掛けて向かっていく。まさか桃香ちゃん、これを狙っていたのか。


「ん、あー―あぁ?」


 泉くんもようやく気付いたのか。咄嗟に腕を構えようとするが、もはや手遅れだった。

 体をボールのある方へ傾けようと左腕を回したところで曲がってきたボールが到着。泉くんの左腕に直撃し、ボールの回転で勢いよく九十度の角度で飛び込んでいく。泉くんは体の向きを変えていたのでボールが当たった後のボールを受け止めることができず、そのまま八組側フィールドへ、そしてそのボールは桃香ちゃんが受け止めた。まさか自分が投げたボールをブーメランのように地面に着く前に自分自身で受け止めてしまうとは……こんな芸当、多分桃香ちゃんにしか出来ないだろうな。


 そして、キングであった泉くんがボールを当てられ、受け止められなかったわけで、つまりこれはどういうことかというと――



――ピピィィィィィィ。



 試合終了を告げるホイッスルの音がグラウンド全体に響いた。七組は現実が受け止められていないのか茫然自失となっており、僕自身も突然の事で呆気にとられて声にならなかった。しかし、ホイッスルが鳴り止み、数秒すると嬉しさが湧き上がってくる。そして八組全体がざわざわとし始め――



『やったあーーー!!!!!』



 八組全員で叫んだ。七組は未だに声を出せておらず、白河秋姫も驚きのあまり開いた口が閉じなくなってしまっていた。

 なにはともあれ僕たちは勝つことが出来たんだ七組に、そして彰くんと桃香ちゃんを奴隷同然にさせることもなく、今まで通り学校生活を送れるんだという安心感に僕は満たされ、クラスみんなで喜びを分かち合う。そしていつの間にか胴上げが始まっていた。わっしょいわっしょいという掛け声のもと、桃香ちゃんをクラスみんなで胴上げしていた。桃香ちゃん凄く嬉しそうにしている。


 ところで気になっていたんだが、彰くんは一体桃香ちゃんが投げる前に何を言っていたのだろう。


「彰くん」

「なんだ原塚」

「さっき桃香ちゃんがボールを投げる前、桃香ちゃんの耳元で何か喋ってただろ? あれなんて言ってたの?」

「ああ、あれか。いやな、このボールって意外と柔らかいんだ。そして曲げようと思えば投げるやり方が異なる。桃香の馬鹿力ならきっとこのボールを曲げることができると思ってさ、そっとアドバイスしてやっただけだよ」


 そういうことだったのか。全て彰くんの計算通りということだったのか。相手のボールが飛んでくる場所や位置の特定、そして桃香ちゃんへの的確なアドバイス。なあ彰くん、なんで君は運動が苦手なんだい。ホントそこが不思議でしかたないよ。

 グラウンド内は終始八組の歓声に包まれる、その中で七組側から二人――白河秋姫と泉くんがやってきた。


「――っ」


 うわぁ、このお嬢様凄く悔しそうな顔してるよ。声にもならないほど悔しいのか、葉を噛み締めてばかりで声を発しようとはしなかった。余程勝負に自信があったんだろうな。

 そしてそれを見た彰くんは泉くんに近づいてゆく。泉くんはなんだかしょんぼりとした顔をしている。相手が悪かったとはいえ、女の子に負けたことがショックだったのか、それとも白河秋姫と同じく自分に自信があったが故の落胆だったのか、それはわからないが、彰くんはそんな泉くんに近づき、そっと手を出した。


「いやぁ、君はホント強かったよ。あの桃香のボールを普通に受け止めるなんてさ、今まで見たことがなかったから本当に驚いた。ナイスファイトだったよ、ありがとう」


 彰くんは微笑みながら泉くんに声をかけ、そのことに対して泉くんは若干照れながら差し伸べられた手を掴み、握手をかわしていた。

 これこそ青春って感じがするな、うんうん、一件落着。――ってなんだか一方的な展開すぎやしないか、なんかあっという間に終わった気がしたのだが、なんというか都合よく終われたと言うか……なんだろう、夢のような――



――夢?



「……」


 ここはどこだろう、何処か見覚えがあるような気がするのだが、少なくともさっきまでいた学校のグラウンドではなさそうだった。というより、ここは屋内か。天井が見える。そして僕は仰向けになって寝ている……保健室にでも運ばれたのか? 顔を左に向けると窓から太陽の光が差し込んでいて眩しい。そして我に返った。


 いや違う、ここは僕の家だ。そして自分の部屋のベッドで寝ていた。もしかして今の今までのことって全て夢だったのか? うわあ、背中が汗でびっしょりだよ。余程うなされてたんだろうな。でも不思議なことに夢って都合よく改ざんできるからな。結局あんな結果になっちゃったんだろう。


 あれだけ盛り上がってたのに夢オチとは酷いものだよな全く。なんか人間離れした話だとは思ったんだよな。その時点で疑えって……といっても夢の中に居ても現実のように感じて中々夢であると気づかない事が多いんだよね。

 そんなことは放っておいて、あれが夢で……今が家の中で、起きたとすると……今何時だ?

 そっと時計を見ると八時五分を回っていた。


「やっべ、遅刻だ!!」

 学校の始業ベルが八時半なのであと二十五分、急いで行かないと――――



◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



「よう原塚、今日はえらくゆっくりだな。寝癖すごいぞお前」

「お、おはよう彰くん――ハァ、ハァ……」


 始業ベル三分前に二年八組の教室へ駆け込んだ。急ぐのを重視したため髪はボサボサで制服もクタクタな状態であった。ずっと走ってたので息も絶え絶えで苦しい。あまりにも苦しかったので自分の席に着き蹲っていた。


「お前大丈夫かよ」

「ああ、うん、なんとか」


 彰くんが半分笑いながら心配してくれていた。まだちょっと時間あるし聞いてみるか。


「なあ彰くん、一つ聞いていいか」

「ん?」

「もし八組がドッヂボールで他のクラスと勝負することになったとしたらさ、どっちのクラスが勝つと思う?」


 今朝見た夢の話はせず、ぼかした形で聞いてみた。彰くんは運動苦手でスポーツも出来ないだろうから、勝つなんてことは考えてなさそうだけど……


「そんなの当たり前だろ――うちのクラスだよ」


 彰くんは笑いながら即答した。そうかと返事したかったけど疲れでそこまで声が出なかった。ただ昼休みに、夢の話をしてやろう――そう思った。


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