第五話:二年八組 VS 二年七組①
さて、いよいよ二年七組との勝負の時だ。
午後一番の体育の授業。この時間は確かにドッヂボールをやる予定になっている。しかし先生はクラス同士の全力対決になるということをわかっていないだろう。
体操服に着替え、教室を後にする。向かうはグラウンドだ。
体育の時間は始まってしまうと特に先生の方で指導などを行うわけでなく、基本的に生徒主導で行うことが多い。なので先生自身が体育の時間に来ることがあまりないのであるが、今回は先生来てなさそうだな。まあ、それが正解かもしれないが。
グラウンドに着くと既に大きなフィールドが作られていた。手際の良いことである。さて、七組はまだ到着していないようだし軽く準備体操でもしておくか。
「おう原塚、気合入ってるじゃん。俺もちょっとやっとくかな」
準備体操をしているところに彰くんがやってきた。僕に話しかけては彰くんも準備体操を始めた。周りを見渡すと八組生徒しか見当たらない、どうなってやがる。
「おーほっほっほほ――」
「う、この声は……」
後者の方から白河秋姫と思われる声が響いてきたので恐る恐る校舎側へ目をやった。すると七組男子生徒が神輿のようなものを担ぎ、神輿にはあの白河秋姫が乗っていた。完全に七組生徒を使用人か奴隷のように扱ってやがる。
彼女が乗った神輿を担ぐ男子生徒の歩く音がグラウンドに響き渡り、僕たちの前に近づくごとにその音は大きくなっていった。それに伴い、八組の生徒たちはその神輿を凝視するように眺めていたのだ。
僕たちの前に着くと、ゆっくりと白河秋姫は神輿から降り、ふふんとしたようなしたり顔でこちらを見つめる。相変わらず扇子は持ってきていた。もはやファッションの一部なのだろうか。
「八組のみなさんごきげんよう。それでは始めましょう」
そういうと彼女は指をパチンと叩き、その瞬間七組生徒は軍隊のような規律で整列し始めた。今からこいつらを相手にするのか……
「俺たちも準備をしよう。おーい、八組のみんなー集まってくれー」
彰くんが声を出し、招集をかける。グラウンドのあちこちに散らばっていた八組の生徒たちは次々に彰くんを囲むような形で集まりだす。
「まずはキングを誰に設定するかだな」
そう、今回の勝負のルールとしては各組でキングを設定しなければならない。僕の考えとしては、キングはボールに当てられたらそこで試合が終了してしまう。その事を考えれば一番当てられる確率の低い桃香ちゃんあたりだろうか。
「みんな聞いてくれ、キングには俺自身がなろうと思う」
「――っ!?」
僕は驚きのあまり声を失ってしまった。それを知ってか、桃香ちゃんがズカズカと彰くんの元に近づいてくる。
「ちょっと兄貴正気なの? 兄貴がやられたらそこで試合が終わってしまうのよ?」
「ああ、大マジだ。桃香、お前は俺のサポートを頼むな」
「冗談、兄貴のサポートどころかこんなやつらあたし一人で十分よ。ただ兄貴、絶対当たらない自身あるんでしょうね?」
「この世に絶対は無いよ。でも出来るだけ頑張ってみるつもりだ」
桃香ちゃん自体は全く問題なさそうに見えるが、やはり心配の種は彰くんだ。何故運動が苦手な彰くん自身がキングになると言い出したのだろう。だがここは彰くんを信じて進んでみるしか無いような気がしてきた。
「彰くんわかったよ。彰くんがやるというのなら、どうなるかわからないけど、僕はそれに従い必死に守ってみるよ」
「原塚ありがとう」
八組のみんなも納得している者が半分、納得していない者が半分といったところだが、実際に始まったらそんなこと言っていられない。桃香ちゃんもやれやれといった表情をしている。とりあえず僕たちの役目は彰くんを守りつつ、七組のキングを倒すことだ。
「話はまとまったかしら?」
「ああ、今終わったとこだ」
白河秋姫がやってきた。どうやら七組の方では既にキングになるものが決められていたようだった。この軍隊のような規律と異常な手際の良さは気持ちが悪いが、間違いなく驚異になりそうだな。
「ではそろそろ始めましょうか。八組のキングは誰かしら?」
「キングは俺だ」
「ふぅん、あなたがキングになったのね。せいぜい長生きしてちょうだよね。すぐに自滅されてもつまらないから楽しませてちょうだいよ」
相変わらず嫌味なやつだな。彼女はそう言った後くるりと背を向けて七組の元へ戻った。そして扇子で仰ぎながら、続けて話し出す。
「わたしたちのキングは、この子よ」
七組側のキングとして出てきたのは小柄な少年だった。見た目としては特になにも変わりがなさそうに感じるが、一体彼女はどういった作戦にしたのだろう。
ともかく、両者ともにキングが揃い、いよいよ二年八組と二年七組の対決が始まる。みんながフィールドに向かい始めた。僕もフィールドに向けて歩きはじめ、途中彰くんと目があってしまったが、その時彰くんはそっと微笑んだ。
両者ともにフィールドに集結した。計八十人がこの周辺にいるだけあって若干息苦しさを感じる。そしてドッヂボールの開始はジャンプボールからだ。七組の方からは身長が一七〇後半はありそうな程の大男が出てきた。こちら側では誰が適任だろうか。少なくとも桃香ちゃんには無理そうだ。彼女は身長一四八センチしかないわけだし、とても太刀打ちできない。その僕の考えを野生か何かの勘で察知したのか、桃香ちゃんの方を見ると「なによ」と言わんばかりの目で僕を睨みつけていた。
結局八組側でジャンプボールに出るのはクラスで一番背の高い織田くん(身長一七〇センチ)に決まった。
ジャンプボールトス役の七組の生徒が合図を出す。
「ではいきますよー、試合開始――!」
その瞬間ボールが高く打ち上げられ、七組と八組のジャンプボール役は高く飛び上がった。




