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2年8組物語  作者: 比留川あたる
1学期のはじまり編
3/19

第二話:学級委員

 一学期の始業式から数日が経ったある日の事だった。


 四月の春風と温かいような肌寒いような風が廊下を流れていく。教室と外の窓は締め切っていたので僕のところにはその風は届かないが、廊下側や窓側の席にいる人達はいかにも寒そうにしていた。


 そして今日も昼から、いつものように二年八組でホームルームが始まるところであった。


「さて、このクラスではまだ学級委員が決まっていなかったな。男子と女子、一人ずつ出さないといけないのだが、誰かやってくれる人はいるかな?」


 田村先生が話し出す。どうやら今日は学級委員を決めるそうだ。そういえばまだ決まっていなかったな。


 役割が前年と一緒であれば、学級委員というのは半分権力者、半分雑用係だ。なぜ半分ずつに区切るのか……一つずつ説明しよう。


 クラスをまとめる学級委員にはクラスを取り仕切り、提案等を取りまとめる権限を持っている。遠足や社会見学の班組み合わせも学級委員の仕事だ。つまり学級委員の小手先一つで人一人を自由に操れるも同然なのだ。これが権力者という意味である。


 もう一つの雑用係という点、これについては先に少し触れたが遠足や社会見学での班組み合わせを行うということだ。本来であれば担任の先生が行うべきようなことも学級委員の仕事として扱われる。


 また、学期内に一回『生徒代表会議』というものにも出席しなければならないのだ。


 生徒代表会議というのは、各学年各クラスの学級委員が一つの場所に集まり、近状を報告しあい、学校内の秩序を把握しておくというものらしい。なんともまあ聞く限りではめんどくさい役職としか思わないな。さて、今年は一体誰が選ばれるのだろう。まあ、大方予想はしているのだけれども……


「……立候補者はいないか」


 あくまで立候補者を募ろうと数分無言の中でじっと耐えていた田村先生だったが、ついに痺れを切らしてしまったのか静寂を破るかのように話し始めた。


「誰も居ないとなるとそうだな、クラスの中で誰が適任かみんなに決めてもらおう」


 クラス内がざわめき出した。まあそうだよな、立候補者が居ない限りクラスの誰かが生贄になるということを意味するのだから。もちろん僕も例外ではない。


 田村先生は手際よくハガキを半分にしたような大きさの投票用紙を一人ずつ配り始めた。みんなに紙が行き届き、僕のところにも投票用紙が届いた。


「ようしみんなのところに行き届いたな。じゃあこのクラスの中で誰が学級委員にふさわしいか、その紙に書いて提出してくれ。男子は男子の名前を、女子は女子の名前を書いてくれ」


 田村先生は手を叩き、開始の合図を出した。その瞬間鉛筆やシャープペンシルで書く音が教室内に響き渡る。テスト中のような音だな。さて僕も書くか――



「ハイ、じゃあそこまで。一番うしろの人、列の人の分を集めてー」


 三分か五分程経って田村先生が止めの合図を出した。僕は一番うしろの席だったので同じ列の人の投票用紙を回収していく、もちろん全て裏返しにしている。回収している者の特権でこっそり覗き見することもできたが、そんな野暮なことはしない。


 同じ列の人の分を全て回収し、先生に手渡すと颯爽と自分の席に戻る。もちろん自分で自分に投票したわけではないが、こういう瞬間というのはいくつになってもドキドキするものだ。


「ひぃふぅみぃ……うん、全員分集まったな。それじゃあ開封していくぞ」


 そういうと田村先生は僕たちから背を向け、白いチョークを持って黒板に投票用紙にかかれている名前を書き出し始めた。


 最初は男子からだった。一つ一つ投票用紙に書かれた名前を見ていっては無言で先生は『正』の文字を黒板に書き入れていく。半分ほど過ぎたがまだ僕の名前は出てきていないようだ。ただ、驚いたな、予想していたとはいえこうなるとは――


「よし、男子の開票が終わったぞ。黒板を見てくれ」


 さっきから何度も黒板を見つめているが、何度見ても面白い結果であった。


 二年八組四十名、男子二十名中、十七名が彰くんに入れていたのであった。


 最初のうちは彰くんとは違う名前が出てきていたのでてっきり彰くんが学級委員になる流れではないのかなとも思ったが、半分を過ぎたあたりでもはや決定的と言わざるを得ない程の大差が出来ていた。やはり彰くんはこうなる運命あるようだと、そんな気がした。


「見ての通り、男子の学級委員には白河が選ばれることとなった。みんな拍手!」

「うぉぉぉぉーー!!」


 僕は拍手に紛れて熱狂的な声をあげていた。なにせ彰くんはこれで二度目だからだ。前年も学級委員をやっていたみたいだしこれで二回目、もしこれで三年生になっても学級委員になったら完全制覇である。


 彰くんの方に目をやるといかにも気だるそうにしていた。まあそりゃそうだよな。めんどくさい事この上なさそうだし。


 僕はそんな彰くんを横目に田村先生の方へ目を戻し、先生も話を続けた。


「よし、じゃあ次は女子の開票を行うぞ」


 場は再び静かになった。先生のチョークで黒板に書いていく音だけが聞こえ、クラス中が女子学級委員は誰になるのかという期待が渦を巻いた。なにせ、女子学級委員にもし桃香ちゃんが当選したら双子で学級委員ということになる。こんな面白い状況、多分一生に一度あるかないかというところだ。多分みんなもわかってるんじゃないかとは思うが……


「はい、開票が終わったぞ。みんなー、黒板の方を見てくれ」


 うん、まあそうだよな。桃香ちゃんになるわけがないよな。


 黒板の方を見ると、女子で一番得票数が多かったのは『流川 明日美(ながれがわあすみ)』だった。


 桃香ちゃんも候補として黒板に書かれてはいたが、僅か数票であった。多分みんなわかってたんだよ、桃香ちゃんが女子学級委員になったら面白いことになるって。でもそれ以上に、彼女に強権を握られるのを恐怖していたのかもしれない。それだったら別の女性を学級委員にして、桃香ちゃんのストッパーである彰くんを男子学級委員に仕立て上げるのが一番最適解だ。クラスはそう暗黙の中でまとまったに違いない。


「じゃあ学級委員に選ばれた二人、前に出てきてくれ」


 田村先生が選ばれた二人に手招きをし、彰くんと流川が前に出る。彰くんの方は若干嫌な顔をしながらお辞儀をし、流川の方は彰くんとは対照的に嬉しそうにお辞儀をした。そんなに学級委員をやりたかったのだろうか。



 さて、黒板に学級委員の候補として名前が挙がったものの、当選できなかった桃香ちゃんは一体どんな顔をしているのかなと思い、僕は桃香ちゃんの方へ目を向けた。



――――寝てるじゃん。


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