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2年8組物語  作者: 比留川あたる
1学期のはじまり編
2/19

第一話:双子兄妹

 僕は始業式が終わり、ホームルームが始まるまで二年八組の教室、自席に座り肘を付きながらのんびりとしていた。


 周りを見渡しても、隣のクラスや同じクラスの友達同士で騒ぐ生徒たちが一杯目に映る。別に僕は友達がいないわけでもないがなんだろう、今はとりあえず落ち着いていたかったのだ。彰くんは彰くんで自席に座って本を読んでいるし、桃香ちゃんは他の友達と楽しそうに喋っていた。


 僕のこの席はちょうど一番うしろの席で、彰くんの座っている席は左斜め前に見ることができる。なので彰くんの顔も半分以上視界に入ってくるわけだが、見れば見るほど彰くんの顔立ちの良さには親友ながら惚れ惚れするね。


 彰くんはああやって暇があっては本を広げては読んでいることが多い。そのせいか、五教科の成績に関しては非の打ち所のないくらい優秀。おまけに顔立ちの良さから女の子には超が付くくらい人気らしい。ムカつく話だけどな、僕にも分けてほしいくらいだぜ。


 桃香ちゃんに至ってはそうだなあ……なんていうか、一言で言って兄の彰くんとは全然違う。

 双子と聞くと普通顔が瓜二つだったり、性格や趣味趣向がほぼ一緒だったりという話はよく聞くと思うんだけど、あの二人はそうじゃないんだよ。桃香ちゃんはなんというか……その……



「ちょっと川口! こっち来なさいよ!」


 はぁ、また始まった。

 川口というのは同じクラスのやつだ。声をかけられて完全に動揺しちゃってるな。ほら、早く行ってやれよ。姫がお呼びだぞ〜。


「川口、あんたねぇ、中二にもなって女子のスカートめくって回ってるってホントなの? あんたいつまでそんな子供みたいなことやってるわけ?」


 桃香ちゃんが川口の胸ぐらを掴んで今にもキレそうな顔をしていた。きっとさっきまで喋っていた女子たちが桃香ちゃんに言ったのだろう。桃香ちゃん、腹に溜めておけない性格だからなあ……


「いいじゃねぇかよ! 大体お前に関係ないだろ! それともお前のスカートもめくってほしいってか?」


 おい、あいつをぶっ飛ばしてきていいか。もし勢いで桃香ちゃんのスカートでもめくってみろ、その瞬間桃香ちゃんに代わって僕が川口に制裁を加えてやる。


「川口サイテーね。あんたの腐ったその根性、叩き出してあげる」


 川口の言葉に対して平然と桃香ちゃんは言い返し、そしてその瞬間桃香ちゃんが大きく飛び上がり、川口の右肩目掛けて強烈なキックを繰り出していた。


「……っ! ――ってぇなあ!」


 強烈なキックが川口を襲い、川口は倒れ込んだ。右肩を左手で抑えているあたり結構痛そうだな。まあ僕も何度かされたことあるんだけど、何日か痛みが消えないんだよな。完全に傷害罪になっちゃうよアレ。


川口は完全に(ひる)んでいた。そして立ち上がりはするが川口自身は全くやり返す気力がなかった。というよりやり返せないのだろう。多分野生でいう弱者と強者の線引きなんだと思う。人間と言っても動物、その動物の勘で悟ったのだろう、この女に手を出したらタダじゃ済まないと。


桃香ちゃんは腕を組み仁王立ちしながら川口を睨んでいたが、周りが桃香ちゃんと川口のやりとりに気が付き始めて騒然となっていたところで――


「おい桃香、もういいだろ」

「兄貴……わかったわよ」


 彰くんが止めに入っていた。桃香ちゃん的にはまだ制裁し足りない不満げな顔をしていたが、兄の静止によりこの場は収まる形となった。


 簡単に言うと、桃香ちゃんは暴れん坊なのだ。一度火がついてしまったら普通の人では中々止めることはできない。それを止めることができるのは彰くんだけなのだ。


 だから彰くんは桃香ちゃんの兄としてだけでなく、ストッパーとしての役目も持っており、前の年もそうだったが、桃香ちゃんが何かやらかすたびに兄の彰くんが呼び出されて必死に桃香ちゃんを宥めていたこともあった。その度に彰くんは大きなため息を付いていたが……いやホントお疲れ様だよ。


 だけど普段の桃香ちゃんは凄く面倒見がいいというか。だからこそ他の女子の話を聞いて桃香ちゃんが怒り出したのだと思う。きっと根は凄く優しいのだろう。


 兄の彰くんは勉強ができて大人しいが、妹の桃香ちゃんは彰くんと違ってがさつで落ち着きがなく、ここだけの話めちゃくちゃ頭が悪い。残念ながら赤点の常習犯だ。それでも体育の成績だけは常に満点というくらいには運動が得意みたいなんだよな。逆に彰くんは勉強ができても運動が全くダメだそうだ。


 ここまで真逆な双子兄妹も珍しい。というか本当に双子なのかと疑ってしまいそうになるが、正真正銘二人は生年月日が全く一緒の双子なのだ。


僕はそんなちょっと怖いけど、凄く優しい桃香ちゃんに恋をしてしまっている。

桃香ちゃんはきっと僕のことをただの幼馴染としか思っていないだろうけど、必ず僕の想いを伝えなければいけないのだ――



「おーう何やってるー。早く席につけ―」


 二年八組担任の田村先生が教室にやってきた。いつの間にかホームルームが始まる時間になってたんだな。


 この後のことは予想が付くとは思うが、川口の右肩が負傷したことにより桃香ちゃんは田村先生に怒られ、()()()に彰くんも怒られてしまっていた。保護者役って大変だよな。まあ、この光景も毎度のことだけども。


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