第十八話:昼休みにて
ゴールデンウィークが流れるように終わって、すぐ一学期中間考査もやってきたわけだが特に記憶が残ってるわけもなく、なんかよくわからない間に終わっていたという感覚だ。
正直一学期の中間考査に関しては全学年の復習と四月少し触れた内容をやるという感じなので実質的には中学一年生の三学期期末考査をもう一度やってるようなものだった。
そのような近況であったので、特に何を思うこともなく今日に至っているわけだ。午前の授業がちょうど終わって昼休みになっていた。僕は窓から外を覗くとすっかり木々が緑々としており、寒い風なんて吹くこともなくなった。だが夏本番はもう少し後だろう、この後に梅雨が控えているからだ。そろそろ梅雨入りしそうな雰囲気ではあるのだが、問題の梅雨前線は沖縄あたりで停滞しているのでもう少し後だろうな。
「オッス原塚。一緒に食うか」
「ああ、いいよ」
窓から外を覗きながらぼーっとしてたところに彰くんから声をかけられた。朝ごはんをいつもより多めに食べてたからそんなに昼になったからといって弁当をすぐに食べようとは思わなかった。
彰くんが僕の前の席の椅子を使って座り、僕の席で弁当を広げ始める。それを見て僕もカバンから弁当を取り出しては机に置いた。彰くんは一足先に食べ始めているところを横目に、教室内で一人焦っている女の子が目に写った――桃香ちゃんだった。
「ん、なんか桃香ちゃん焦ってるみたいだけど」
聞き耳をよく立ててみると、何やら『無い、無い』という声が聞こえてくる。それを感じ取ったのか彰くんは箸を置き始めた。
「あっやべ、思い出したわ、おい桃香!」
「ん、どうしたの兄貴」
彰くんは桃香ちゃんを呼び、何かを思い出したかのように急いで席を立ち、彼の席へ戻って行った。なにやらカバンを開けて底の方を漁っていたがすぐ終わり、別の弁当箱らしきものを手に持っていた。そしてそのまま桃香ちゃんの方へ近づいてゆく。
「今日お前これ忘れていってただろ。行く時母さんが俺に預けていったぞ」
「あー、やっぱり忘れていってたんだ。通りで見つからないと思ったよー。兄貴ありがとー!」
どうやら桃香ちゃんの弁当を彰くんが持っていたらしい。桃香ちゃんは数秒驚いたと思ったら顔をニコニコさせていた。
「よかったらお前も一緒に食うか? 俺たちも今食べ始めたところだし」
「今日は特に誰と食べるとか無いし別にいいよー」
そういうと桃香ちゃんも僕の机にやってきたが、あいにく僕の机というか教室の机は三人分の弁当を広げられるほど大きくないので、隣の誰も座っていない机を拝借することにした。机と机をくっつけてこれで広さは二倍だ。それにしても桃香ちゃんもお昼一緒なんて久しぶりだな。昔は僕と彰くんと桃香ちゃんの三人でよくやったものだけど、これも時の流れだろうか。
桃香ちゃんが着席して嬉しそうに弁当を食べ始めた。適度に三人とも弁当を食べながら雑談を交わしつつ、僕はふとさっき思ったことを口にする。
「そういえば三人揃って昼を食べるって久しぶりだよな」
「そうだな、いつぶりだっけ?」
「さあ。桃香ちゃんは知ってる?」
「わかんない」
だよなあ。凄く懐かしい感じはするんだけど、何か思い出したくないようなそんな感覚だ。しいて言うならば、思い出したことによって別の思い出したくもない黒歴史も一緒に蘇ってしまう。そんなところだ。
「ただ中学に入ってからは初めてだな」
「というよりクラスが一緒になったのが久しぶりということなんじゃないのか?」
そうだな。当たり前といえば当たり前かもしれん。今までクラスが三人とも違っていたり二体一に分かれたりしていたので、クラスを超えてまで弁当を食べに行かなかったということだ。別に彰くんや桃香ちゃんだけしか友達が居ないというわけでもないし、特に気にすることもなかった。
「ただ――以前三人で食べてた時はお互い小さかったというのは覚えてる」
「うん、俺も覚えてる。あの時はそうだな――えーっと……」
彰くんが額に指を当て目えお瞑り真剣に考えだした。桃香ちゃんはというとそんなのどうでもいいという明らかに興味が無さそうな顔でお昼を食べ続けていた。
うーんうーんという彰くんの唸った声が聞こえ続けたが、数秒すると閉じていた目を開けて話しだした。
「――思い出した。小学校一年生の時だ!」
「そんなに前だったか」
小学校一年生というとおよそ七年前か。三人一緒に食べてた時はそんな前だったのか、にわかには信じられんが、すぐ思い出せなかったあたりそうなんだろうな。
「小学校一年生だと……お前と出会った頃じゃないか?」
「ん? その時だったっけ、彰くんと桃香ちゃんの二人と出会ったのって」
「そうだよ。お前覚えてないか」
「ぼんやりと」
そうだったか。小学一年生の時に二人に出会って……これが二人との付き合いの始まりということだったか。でも待てよ、てことは――
「じゃあ思い出させてやるか。お前の恥ずかしい過去のことも一緒にな!」
「あああああああああ」
彰くんは嫌らしい顔つきになり、からかい半分で僕のことを煽った。そして僕は過去の断片的な部分だけだけど、思い出すと恥ずかしくなってしまい、思わず叫んで彰くんの口を塞ごうとした。
「なになに? 面白い話?」
「あ、流川さん。いいところに来たね」
流川もやってきた。こいつがどこでアンテナを張ってたのかはわからないが、謎の嗅覚で僕たち三人の前に現れては眼をキラキラとさせていた。
「今こいつの面白い昔話をしてやろうと思ってたところなんだ。流川さんも一緒に聞いていくかい?」
「えぇ、原塚くんの面白い話なら是非聞きたいわね」
「くんな!」
僕は流川に聞いて欲しくなくて追い払おうとしたが、僕の言葉はまるで無視。机を二つくっつけた空いてる場所に椅子を持ってきて座り始めた。なんでこいつはこんなに嬉しそうな顔してるんだよ。
「諦めろ原塚」
「ぐぬぬ……」
彰くんが僕の肩をポンと叩いて諭して来たがイマイチ納得ができない。そもそも羞恥心でこの場から退場したい気持ちで一杯なのだが、それだと僕が不在の間に有る事無い事無い事言われそうな気がしてならないからやはり僕も一緒に聞くしかなさそうだ。というより止めても絶対に話すだろうしな、彰くん凄く話したがってるし。顔を見たらわかる、なんというか、何人たりとも寄せ付けないようなにこやかな顔だが、その裏にはとんでもない魔物が住んでいるかのようだ。
桃香ちゃんの方を見るといつの間にか昼を食べていた手を止めて、彰くんの話を聞きたがっていた。そんな面白い話でもないんだけどな。
「ああわかったよ。話していいよ」
「さすが原塚!」
僕はもう観念した。羞恥心を堪えつつ、一息ついて彰くんの方をじっと見つめる。二つの机に四方四人が座る形になっており、三人が黙り込み、彰くんが口を開く。
「じゃあ始めるよ。この話は俺たちがまだ小学校に入ったばかりの事だった――」
聞きたくないが、聞くしか無い。懐かしいけど懐かしみたくない、僕の過去の話がこうして始まるであった――
前の投稿からだいぶ日が空いてしまいましたが次の話を投稿することが出来ました。
ひょんなことから原塚の過去を振り返る話となってしまいました。一体原塚は何をそんなに焦っていたのか。
この章ではそういった過去の話を書いていきたいと思います。