第十四話:わたし、がんばります
いつもは原塚視点でのお話ですが、この話は白河沙希視点でのお話となります。
私の名前は白河沙希。ここ、私立聖林中学校二年五組の女子学級委員をやっています。
中学一年生の時も学級委員になってしまったので、これで二年連続……担任の先生からよく仕事を任されることがあっても、私一人でやることがほとんどなんです。
もちろん、他のクラスと同様に二年五組にも大西くんという男子の学級委員はいますよ。でも彼はちょっと学級委員に向かないというか、仕事もろくにせず遊んでばかりで、そのしわ寄せは結局私に来てしまうんですよね。
先生もそれをわかっているのか、私にばかり頼み事をしてくる始末。私がすぐ何でも言うことを聞いてしまうからいけないのでしょうけど、でも学級委員だから耐えるしかないんでしょうね――ハァ。
「白河さん、ちょっと手伝って」
「あ、はぁーい!」
今日も休憩時間にクラスの男子に呼ばれてしまいました。今度は次の授業で使用するプリントかしら。ふぅ、休憩時間もこの調子、OLじゃあるまいし休憩時間くらいゆっくり休ませて欲しいものです。
そう思いながらも私はそのプリントを一人ひとりの机に置いていきました。テキパキと私は動いていくのですが、手伝ってくれと頼んできた男子の方を見るとのろのろと動いておりなんだか頼りない……これだったら全部私が引き受けたほうがよかったかしら。
プリントを配り終え私はふぅっと一息つきました。いつもこんな感じです。私がお人好しなのでしょうか。それとも私が人から物を押し付けられやすいタイプなのでしょうか。それはわかりませんが、一息ついていると今度は教壇にいるGさんが私の方に寄ってきました。
あ、えーっとGさんというのは私のクラス――二年五組の担任の先生のことですが、私としたことが、担任の先生の名前を忘れてしまいました。何故かみなさん『Gさん』と呼ぶんですよね。まあ還暦が近い見た目も老いてしまっているお爺さんの様な方なのでGさんと呼ばれるのも仕方がないのかなとも思います。昭和の古臭い考えを持っている先生ではあるのですが、結構優しいところもあるんですよ。
「白河さん、今日もご苦労さまだね。プリント配りくらい他の男子に任せて君は休めばいいのに」
「いえ、頼まれましたので途中でやめるわけにはいきません。それにこれも学級委員の仕事ですから」
Gさんは私に気を遣って配慮を示してくれましたが、私にはもう慣れてしまっていたので特にどうこうしようなんて思いもしませんでした。当たり障りのない返答をして私は作り笑いをします。
「そうか、じゃあしっかりな」
「はい」
そういってGさんは教室を後にしました。さてと、そろそろ次の授業の準備をしないといけないですね。そう思い私は教室の自分の席へ歩き始めていた時でした。
「こんちゃーっす。沙希ちゃん頑張ってるねー」
「やあ沙希さん。こんにちは」
「あっ、原塚くん。と――白河くん!?」
急に教室の入口から私を呼ぶ声が聞こえたと思ったのですが二年八組の原塚くんと白河くんでした。妹の――桃香さんは居ないようですね。私少し、あの方が苦手で……いつも萎縮しちゃうんですが今回は居ないようで安心しました。いったい二人してどうされたのでしょうか。
私は二人の前に近づいていくと、白河くんが右手を出して私に何かを渡そうとしていました。
「沙希さんこれ、手を出して」
「これは?」
白河くんが微笑みながら手を出した私の手のひらに一つのヘアピンをそっと置いてくれました。これ――私のヘアピン。どうして白河くんが持っているのかしら。
「沙希さん、この前廊下で歩いてる所でこのヘアピンを落として行ったの覚えてないかな」
「えっと、無くしたのは知ってましたけど。まさかこれ――」
「そう、これその時のやつだよ。拾って君に返そうかと思ってあの時声かけたんだけどさ、何だか慌ただしかったし沙希さん気づかずにそのまま行っちゃったんだよね」
何だか恥ずかしくなってきちゃいました。そうでしたか、私が忙しいばっかりに……白河くんにはお手間を取らせちゃいましたね。
「ありがとうございます。とても助かりました。また今度お礼させてください」
「いいよお礼なんて、それより次の授業が始まるしもう行くね。じゃあまた」
私は嬉しくて満面の笑みで白河くんを見ました。それを見た彼はいいよいいよと両手を振ってれて、二年五組を去っていきました。ふふ――やっぱり白河くんはとっても優しい。
去年も私が学級委員の仕事で苦労していた時も、自分のクラスの仕事があるのにも関わらず私の仕事を手伝ってくれたり、落ち込んでいるところを励ましてくれたり、凄くお世話になってしまいました。
今の私があるのはもしかしたら、白河くんのお陰かもしれないですね。いつも彼に助けられています。私――あの人のことを慕っているんです。優しくて頭が良くてかっこよくって気が利いてて、多分どんなに私が背伸びしても彼には追いつけないのかもしれない。けど私が白河くんに頼ってばかりじゃなく、私も彼に頼られる存在に――そして彼にありがとうと言ってもらえる人になりたいの。
そしてふと気付いてしまいました。なぜ私はこんなにも働こうとしてしまうのかわかった気がしました。
不器用な私ではありますけど、彼に相応しいと思える存在になるために、今日も私、がんばります。
そう思い、手のひらのヘアピンを前髪に付けて私はそっと微笑みました――