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2年8組物語  作者: 比留川あたる
二年五組の学級委員編
13/19

第十二話:二年五組の学級委員

 春の陽気と梅雨のような雨が続く日がある今日このごろ、もう少し耐えればゴールデンウィークに突入するのだから頑張らねばと自分を奮い立たせていた。

 ただどうも、休みの日が近づくと気がだれてしまうのか何もする気が起きないというか、心のなかでは休みが待ち遠しくて仕方がないのだ。そんなある日のことだった。三時限目が終わりの休憩時間、僕は大きなあくびをしながら席でへたりこんでいた。昼が近づいてきたせいか腹の音も騒がしい。


 ふと前方の教壇の方へ目を向けると田村先生と彰くんが何やら話し込んでいて、大量の荷物を任されていた。これも学級委員の仕事なのだろうか。

 僕は気怠さから自ら積極的に手伝う気も起きないので精を出して頑張ってくれたまえと心から彰くんにエールを送っていたのだが、そんな彼が僕の視線に気がついたのかどんどんこっちに向かって歩いてくる。


「原塚、いいところに」

「ん?」


 彰くんが嬉しそうに笑いながら話しかけてきた。さっきまでずっと眺めていた僕にとって次何を言われるのか大体予想がついていたが、見つかった以上これは断れそうにないか。素直に寝ていなかった僕の敗因だ。


「田村先生から書類やらなんやらの荷物をたくさん任されてしまってよ。原塚暇そうだしちょっと手伝ってよ」


 ほらきた、予想通りだ。はぁっと一回ため息をつき僕は立ち上がった。ゆっくりふらふらと荷物が置かれている教壇に向かうと、そこにはよくわからない書類が山ほど積まれている。そして回覧板らしきものも中にはあった。何に使うんだこれ……まあいいや。


「よ――っと」


 謎の書類を半分ほど取り、腕に抱えた。それを見て彰くんは残りの半分の書類と回覧板を取って担ぎだす。


「じゃあ行こうか」

「何処まで待っていくつもりなんだ?」

「二年五組まで」


 二年五組か。そういえば中学二年生になってから一度も五組には行ったことがなかったな。いい機会だし、物運ぶついでに覗いていこうかな。

 そう思いながら、二人してゆっくりと廊下を歩き出す。


「ところでこの大量の書類、一体何なんだ?」

「ああこれ? 今度生徒代表会議があるからな。そのための資料だよ」

「こんなにたくさん使うのかよ」


 腕に抱えている紙一枚一枚に文字がびっしりと書かれており、目を背けたくなるような書類ばかりだ。僕に学級委員は絶対に向かないと再認識したかもしれない。



 二年八組の教室から出て廊下をしばらく歩けば二年五組の教室に辿り着く。途中に七組、六組と二つの教室を横目で追い越しつつ、目的地に到着したのだった。

 二年五組の教室のドアは開いており、教室内は八組と同じように生徒たちで賑やかだったが五組はまた八組とは違う空気があった。さながら外国にでも来てしまったかのような感覚だ。

 そんなアウェーなところでさえ平然と歩き、教壇へ荷物を置く彰くんの姿があった。さすがに一年間同じ役職をやっているだけあって手慣れている。こんなアウェーな空間ももろともしないのか。


「原塚なにやってんの。早くここに置いてよ」

「え、ああ、うん」


 そんな彰くんに感心している場合ではなかった。彼は荷物はここに置けと言わんばかりに教壇を指差す。僕はドスンと音を立てて荷物を置くのだった。


「ふー、重い重い」

「おつかれ、ありがとな」

「おう、いいよ別に」


 彰くんから労いの言葉をもらい少し落ち着く、といっても他のクラスでのんびりしているわけにもいかないので、用も終わったしさっさと自分の教室に戻って四時限目の準備をしたいのだが。

 そんなことを思っていた矢先、一人の女の子が僕たちの前に近づいてきて話しかけてきた。


「わざわざ八組からありがとうございます。これが今回の書類ですか」

「うん、今回も中々ボリュームが多いよ。お互い頑張ろうね」


 えっと、この女の子は一体誰なんだ。彰くんは微笑みながら彼女と楽しそうにしている。彰くんと結構親交がありそうな感じだな。

 それにしても彼女、可愛い子だな。名前でも聞いておこうかな。


「きみ、名前は?」

「あ、すいません申し遅れました。私、白河沙希(しらかわさき)と言います。白河くんとは一年生の時にもお互い同じ学級委員でしたのでそこで知り合ったんです」

「へぇ――」


 白河沙希と名乗るこの女の子。背は女子の中では高めだが物腰が低く、落ち着いていて清楚な感じだ。そして凄く可愛い子だな。髪は長くこの子は尻あたりまで黒髪を伸ばしており、前髪はヘアピンで止めていた。桃香ちゃんとはまた違ったタイプで好きになれそうな子だった。

 しかしこの子も名字が白河なんだな。八組の白河兄妹。そして七組の白河秋姫といい、五組の白河沙希ちゃんといい、この学校に一体何人白河姓の人間がいるんだよ……


「そういや原塚はまだ沙希さんとは会ったことなかったんだったな。まさか俺と沙希さんどっちも白河だなんて笑える話だよな」


 彰くんは後頭部に手を乗せてハハハと笑ってみせた。それに釣られて沙希ちゃんもフフっと笑ってみせる。――なんか妙な違和感だな。


「そんな偶然もあるものなんだな。そして沙希ちゃんも彰くんと同じく二年連続学級委員になってしまったんだね」

「ええ、不本意だったんですけど、仕方なく……」


 そこに関しては落ち込んだ顔をする。まあそうだよな、学級委員なんて好き好んでするやつの方がどうかしてる。彰くんの時もそうだったが、一年学級委員を経験するとそれが逆に仇となって連続当選してしまうのではないだろうか。それなら本当に不運というか、負の連鎖というべきか、同情すべきかもしれないな。



――キーンコーンカーンコーン。



 休憩時間終了のチャイムが鳴ってしまった。ちょっと話し込んでしまうと十分間の休憩時間なんてあっという間だな。急いで帰らないと――


「んじゃあ沙希さん。俺たち教室に戻るわ。また今度!」

「それじゃあ沙希ちゃん、またね」

「ええ、白河くんと原塚さん、またいらしてください」


 僕と彰くんは沙希ちゃんに挨拶をして走りながら教室を出た。四時限目の準備をしていなかったから大慌てで二年八組に戻り、次の授業の支度を急いで行った。


 それにしてもなんだかさっきからモヤモヤが晴れないでいるんだよなあ。心の奥に引っかかるこの感じ――なんなんだろう。ま、そのうちわかるか。


 そう思いながら僕は授業で使う教科書のページ開いた。


白河彰、桃香、白河秋姫に続く4人目の白河の人間が登場で、読者の方はそろそろ混乱するのではないかとも思うのですが、この4人でもう終わりのはずです。たぶんw


さて、原塚が感じたある違和感とは一体何だったのでしょうか。


次回でその謎が解けるのか、はたまた解けないままで終わるのか。

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