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2年8組物語  作者: 比留川あたる
桃香の秘密編
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第十話:桃香の好きな人?

 長い長い五時限目と六時限目が終わり、ようやく放課後を迎えようとしていた。窓から外を見ると傾いた太陽の光が直接僕の眼を焼いてしまいそうなほど眩しかった。


 帰りのホームルームが始まるとクラス内はざわめき始める。もう既に心は帰宅途中だったり、部活中なのかもしれない。本当なら僕だって既に気分が浮つき、家に帰ったら何しようとか考えている頃だろうけど今現在はそんな状況ではまったくない。

 彰くんの方を見ると澄ました顔でじっと座っているし、桃香ちゃんに至ってはふてぶてしい顔をして早く終わってくれと言わんばかりだった。


「はぁ……」


 ふっとため息が出る。放課後が近づくごとに僕の心臓の鼓動が早くなってくるのがわかる。

 田村先生の短いようで長い無駄話が終わり、ようやくホームルームが終わった。そしてクラスのみんなは一斉に帰り始める。僕と彰くんは桃香ちゃんに悟られないようにするためのろのろと帰り支度をするフリをしているのだった。

 そうしていると桃香ちゃんが彰くんの方に近づいて行き、話しかける。


「兄貴―、今日私ちょっと寄っていくところあるし、先に帰っといて」

「ああ、わかった」


 そう言って桃香ちゃんは教室を出ていってしまった。やっぱりあの件でなのだろうか。これで彼女が出ていったあとに教室に残っているのは僕と彰くんのみとなってしまった。

 桃香ちゃんがいなくなったのを確認すると僕は早々と帰り支度を済ませ、彰くんの元へ駆け寄る。


「準備できたか?」

「ああ」


 彰くんも帰り支度を済ませ、お互いリュックを担ぎ、僕たちは教室をあとにした。



◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇



 学校の体育館近くに来るまで僕たち二人は終始無言だった。廊下を歩く音、校舎と体育館へ繋がる道を歩く音、そして周りの生徒たちの声が遠くから聞こえてくる。外に出てからは部活動に勤しむ生徒たちの掛け声やホイッスルを吹く音も聞こえ始めた。

 僕の心臓の鼓動は依然として大きく、そういった雑音を必死に聞き入れて気を紛らわそうとしていた。


「さて、体育館前に来たわけだが、原塚」

「ん?」


 体育館の正面玄関付近で彰くんが僕を呼んだ。真剣そうな目をしているが多少笑みを含んだ顔で話し出す。


「どんな結果になっても泣くんじゃないぞ」

「怖いこというなよな〜」


 いつもどおりの彰くんの脅しの常套句であるが、何回聞いても慣れないものだ。それだけ僕も恐れているということなのかな。

 そんなことよりも、体育館の正面玄関に突っ立っていると間違いなく桃香ちゃんに気づかれる。どこかに隠れないと……

 そう僕がきょろきょろとしていると、彰くんが隠れる場所を案内してくれているのかこっちこっちと手招きをしていた。ちょうど体育館裏の物陰だな、いい場所だ。


「ここなら多分角度的に問題ないだろう」

「うん、あとは桃香ちゃんと六組の東くんとやらが来るのを待つだけだな」


 体育館裏の物陰は薄暗く、春の時分には少々肌寒い。長居していると体が冷えてトイレに行きたくなりそうだった。そんな中で五分、十分と適当に時間を潰し二人が現れるのをひたすら待っていた。

 そんな中、ふと彰くんの方に目を向けてみると不思議そうな顔をしている。何か考え事をしているような――そんな顔つき。


「どうしたんだ、なんか考えてるみたいだけど」

「――いやな、東くんが桃香の彼氏になれる器なのか考えてんだよ」

「おまえなあ……」


 はあ、彰くんは既に桃香ちゃんと東くんを恋人同士にさせる準備をしているのかよ、おめでたいヤツだな。まあ確かに、兄として妹の幸せを願うことが普通なのかもしれないけどさ、もう少し僕の気持ちを考えてくれてもいいと思うのだが。


「ところでさ、相手が桃香の事好きになってもらえそうか、まずそこが肝心だよな」

「ま、まあな。フラれたら先に進まねぇしな」

「お前みたいにな」

「うるせぇ……」


 そう、僕は過去に一度だけ桃香ちゃんに告白をして見事に惨敗している。そんな桃香ちゃんからの告白は相手が断るというのか? そんなことしてみろ、僕がその相手を殴り飛ばしてやる。桃香ちゃんに告白されることがどれだけ幸せなことかわからせてやるんだ。僕からしたら天地がひっくり返るほど幸せな事なんだ。断るなんて絶対に許さないからな。


「んー、まず桃香の性格上どうなのかな。男子に人気がありそうか?」

「少なくとも僕には人気あるぞ」


 僕は盛大に胸を張って主張したが、彰くんはお前の事なんざ聞いちゃいねぇよといった顔をして軽く無視して話を続ける。


「んー、俺が見る限り、頭悪くて乱暴だろ、半分野生化だろ、でもまあスポーツは得意か」

「そして顔がかわいい!」


 そう、桃香ちゃんはとにかくかわいいのだ。彰くんが貶すように言った野獣化やら頭悪いやら乱暴やらを付け加えても相殺しうるくらい彼女はかわいいのだ。僕はとにかくそこを強調したかったのだ。


「顔か……そこで相手が落ちたら相手確実にロリコンだろ。あいつ身長も一四八センチしかないわけだし」

「えぇ――じゃあ僕はロリコンってことかよ」

「そういうことだな」

「……」


 彰くんは笑いながら話していた。冗談のつもりなんだろうけど相変わらず冗談に聞こえないんだよな。僕が桃香ちゃんの事をかわいいと言うのも彰くんが言うただのロリコンなのだからかもしれないけども、それでも僕は彼女を想う気持ちは昔から変わらないんだ。だから他のやつにとられるところなんて見たくないし、僕は認めたくない。


 そもそも六組の東くんがどんやつなのかというのが全くわからないまま話をしてしまったが、桃香ちゃんが気にかけるくらいだ。少なくとも僕なんかより数倍もいい男なんだろうな。そう思うと胸が苦しくて動悸が起こりそうになるが、必死に理性でそれを抑えにかかる。


「む、誰かきたぞ」


 彰くんが静かな声で話しだす。僕はそっと身を潜め、体育館裏にやってくる一人の男子生徒の姿を確認した。

 この男が、桃香ちゃんの――好きな相手?


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