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2年8組物語  作者: 比留川あたる
1学期のはじまり編
1/19

プロローグ:中学二年生のはじまり


 ――――僕は目が醒めた。特になんてこと無い何気ない一日のスタートだ。

 家の窓から覗かせる景色にはまだ肌寒い空の下に裸の木々が立ち並んでいるが、中には既にピンク色の桜を咲かせている。


 そう――季節は春。今日、僕は中学二年生としてスタートを切ったのだ。


 二年生になったからといって特に何か変わることもなく、ただ平凡に日々を過ごすのだと、そう思っていたし僕自身特異な人間でもなければ非日常を求める人間でもない。そう、ごく平凡でいいのだ。


 今日から二年生最初の登校日である始業式なのだが、起きてきてもやることは常に同じ。ベッドから起きてきたら洗面所で顔を洗い、台所に行くとお母さんが朝ごはんを作ってくれている。僕のお母さんは看護師なのでたまにご飯だけ置いて仕事に行っていることがあるが、今日は家に居るようだった。


聖司(せいじ)おはよう」

「お母さんおはよう」


 台所の炊事場で調理器具を洗っているところを一瞥し声をかけてきた。僕は顔を洗ったとはいえまだ完全には目覚めてはおらず、寝ぼけたような目をしながら返事をした。


 特にこれといってお母さんと話をすることもないので黙々と朝ごはんをがっつき、登校の準備をする。昔ながらの黒の学ランにそそくさと着替え、八時前には家を出る。


「じゃあ行ってくるわ」

「はーい、いってらっしゃい」


 ここもいつもどおりのやり取り。僕は現在通っている私立聖林(せいりん)中学校に向けて足を進めた。


 僕の住んでいる街――阪和市(はんわし)は人口五十万人ほどの日本の中では大きな部類の都市になるのだろうか。そんな街の片隅の朝の住宅地を練り歩く。風が通り抜ける音と木の葉が舞い上がる音と、そして遠くの車道から聞こえる自動車の走行音だけが僕の耳に入ってきた。


 五分程歩くと、とある家にたどり着くのだが、ここは多分僕の学生生活……少なくとも中学校の中ではとても重要な場所となるだろう。


なぜなら――。


「おはよ」

(あきら)くん、おはよう」


 まるで僕を待っていたかのようにその家の前で立っていたのは僕の幼馴染で親友の白河彰(しらかわあきら)だ。ポケットに手を突っ込んで家の塀にもたれかかっていた。


「僕を待っててくれるなんて彰くんは優しいなあ」

「勘違いすんなよ。桃香(ももか)を待ってるだけだ」

「だよな」


 一瞬で納得した。彰くんの性格は温厚なんだが、冗談が通じないというかいつも正論で返されることが多い。今回も僕のボケに対して躊躇なく正論をぶつけてきたのだ。


「兄貴おまたせ〜、遅くなっちゃった。あっ、原塚(はらつか)くんも一緒なのね。おはよ〜!」


 少しすると家から小柄な女の子が出てきた。腰の長さまである長い髪を揺らしながら僕たちの方へとやってくる。


「おはよう桃香ちゃん」


 この女の子――――白河桃香(しらかわももか)といって彰くんの同い年の妹なのだ。そう、彰くんと桃香ちゃんは二卵性双生児の双子であり、二人とも僕の幼馴染なのである。


 桃香ちゃんが“原塚くん”と言っていたがそう、僕の名前は原塚聖司(はらつかせいじ)という名前なのだ。僕にも妹がおり、残念ながら双子ではないのだが、そんなことはどうでもいい。


「じゃあ行くか」


 彰くんはそう言うと学校に向かって歩きはじめ、釣られるように僕と桃香ちゃんも歩き始めた。桃香ちゃんとは違いクールな奴だなあ。ま、もう慣れっこだけど。


 僕たちはこうして、中学二年生最初の登校を行うのだった――――


◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆


 私立聖林中学校は阪和市の北西部にあり、生徒数一〇〇〇人を抱えるほどのマンモス校だ。そんな学校だけあって校門前は生徒たちの歩く音や話す声で騒がしい。


 そんな学校の正面玄関前にでかでかとクラス発表の大きな紙が張り出されており、生徒たちはその紙に食い入るように見つめていた。まるで大学の合格発表時に受験番号を探す受験生のようだ。


 この瞬間だけは一年に一回の楽しみ。なんとも言えない高揚感に満たされ、自然と足が軽くなり、早々と動いてしまう。一方の彰くんは特に心変わらずというところか、マイペースに歩いていたので僕だけが先に到着してしまった。


 二年一組から順番に僕の名前があるか目で追っていく。そして二組、三組、四組……と移動させてゆき、ついに七組を見終わっても僕の名前がなかった。となると八組か。


 二年八組の方に目を向けると案の定僕の名前があったが、更に驚くことがあったのだ。


「おう原塚。お前も八組になったんだな」

「彰くんも八組みたいだね」


 そう、彰くんの名前も二年八組に載っていた。中学一年生の時は別々のクラスだったから今回一緒になれて素直に嬉しかった。自然と笑みが溢れた。


「あー! 兄貴と原塚くんも一緒なの!? やったー!」

「え!?」


 元気な大きな声でこちらを指差しながら叫んでいるのは桃香ちゃんだった。男子のところばかり見ていて女子のところは見ていなかったが、すかさず目を二年八組の女子のところへやると、確かに桃香ちゃんの名前が記載されていた。


「と、い・う・こ・と・は……」

「ああ、俺たち三人一緒のクラスだな」

「――――よっしゃー!」

「オーバーな……」


 彰くんが今日はじめて笑った。とても嬉しそうにしていた。僕だってとても嬉しい、彰くんと桃香ちゃんと一緒になれる機会なんて多分これが最初にして最後だろう。その時はそう思うくらいこの運命に感動し、僕も思わず叫んだ。


 彰くんはオーバーだというが、実際それくらい嬉しかったのだ。

「原塚くん、今年一年よろしくね!」


 桃香ちゃんが微笑みながら高揚している僕の顔を覗き込み、挨拶をしてきた。気を利いた返事が出来ればよかったのだが、突然覗き込まれたことと、気分が高揚していたこと、そして――僕が彼女に片思いをしているということが僕の口元を硬直させてしまい、ただただ無言で桃香ちゃんの方を振り向くだけだった。


「……ももかちゃ――」

「じゃあ、また後でねー!」


 ようやく返事をしようとしたところで、桃香ちゃんは行ってしまった。僕はその瞬間またやってしまったという自己嫌悪に陥っていたが、その時僕の肩を軽く叩くやつが居た――――彰くんだ。


「お前相変わらずだな。態度がわかりやすすぎるぞ」

「それが簡単にできたら苦労しないよ」


 そう、以前から彰くんは僕が桃香ちゃんに片思いをしていることに気付いている。それを知っていてか、前々から僕と桃香ちゃんをくっつかせようと嫌がらせ染みた事を何回もやられたことがあるが、いらんお世話だ。


「まっ、とりあえずこの一年俺達と一緒だし、じっくり考えてみたらいいんじゃねぇの?」

「そうするよ」

「じゃ、早く行こうぜ二年八組に。桃香のやつ先に行っちまいやがって」

「まあ桃香ちゃんはいつもああだからな」


 僕と彰くんはやれやれといった表情で校舎内に入り、二年八組に向かった。



 果たして僕の一年はどうなってしまうのだろう。楽しみと不安が交互にやってくるが、ただ一つ言えることは――――いつもの平凡な日常が変わる。そんな気がした。


みなさまはじめまして。


比留川あたると申します。

今回このサイトにて小説を投稿させて頂きました。

やり方がまだよくわかっていない状態ですので、ミス等が多く見られるかもしれませんが、あたたかく見守ってもらえればと思います。


さて、小説についてですが、物語のタイトルにもなっています2年8組というのは私が中学二年生の時に所属していた組になります。

そして舞台である阪和市や、中学校も当時住んでいた場所をモデルとしており、当時を思い出しながら執筆させて頂きました。


10年以上前にも同じ題名で別サイトで投稿させて頂いていたのですが、ハードディスクがクラッシュしてバックアップを取っていなかったり、そのサイトが閉鎖されてしまったりで作品自体がほぼすべて無くなってしまった状態となりましたので、もう一度作り直す形で投稿させて頂きました。


拙い小説となりますが、見ていただければと思います。

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