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金髪ロリとショッピング

 俺がこのBARで働いてから一週間が経った。


 相変わらず、悪魔達が馬鹿騒ぎをするこの場所には到底なれたとは思えない。


 今日も顔が三つある奴が同時にゲロを吐くものだから掃除が大変だった。


 「はぁ……もう辞めたい……こんな仕事」


 しかし、辞めると言う事はマスターとの勝手に結ばされた契約に反することなので、違約として魂を抜き取られる。つまり、俺が辞めたときというのは人生を辞めるときだけだ。


 俺は疲れた身体に鞭をいれながら、カウンターを雑巾がけする。店は今、閉店間際、客もいない、これを乗り切れば今日の業務も終わりだ。


 「なんだ、随分と浮かない顔をしているじゃないか」


 洗い物を済ませたマスターが俺の顔を覗き込んでそんなことを言ってくる。


 「そりゃそうですよ、毎日悪魔共の相手をしてれば疲れも溜まります」


 「ふむ、それもそうだな。……そういえば君には毎日働いていて休みを与えていなかった」


 休み……確かにそうだ、俺は働いてからの一週間、休みをもらっていない。


 「明日は丁度、休日だしな。一日くらい休みをやってもいいぞ」


 「えっ? いいんですかっ!?」


 「あぁ……働きづめというのも能率が悪くなるからな」


 「あ、ありがとうございますっ!」


 休みをもらった安堵感からか、涙まで出てきそうだ。何故だかマスターが天使に見えてくる……まぁ正体は金髪幼女の皮を被った悪魔だが。


 「それでは店を閉めるとしよう、いい休日を過ごすんだぞ」


 「は、はいっ!」


 よし、休日は疲れを癒す為に寝よう。


 なんとしても有意義に過ごすんだっ!



 翌日、俺は街中のショッピングモールまでやって来た。


 「ふむ、休日だからか家族連れが多いな」


 「そ、そうですね……」


 俺の隣には青を基調とした黒いフリルつきのドレスを身に纏い、小さなハットと網目状のベールで顔を隠したマスターがいる。


 くそ、どうしてこうなった。


 朝、店から帰って寝ていたら急にマスターから電話がかかりここに呼び出しをくらった。


 「あの、マスター。どうして俺は呼ばれたんですか?」


 「いや、大した用事じゃない。私も人間界のことを知っておきたくてな」


その為に呼ばれたのか、俺の休日を返せ。


 「では、行こうか。ほら」


 そう言って俺の方にその小さな手を差し出してくる。


 「あの、その手は……?」


 「人間界では男性が女性をエスコートするのが当たり前なんだろ?」


 いや、そうはいっても考えてみてほしい、幼女と手を繋いで歩く大学生が普通いるか? 兄妹とかならまだありえるがこんな目立つ格好している奴いないだろ? 周りからどんな目で見られるか分からない。


 「どうした? 早くしたまえ。……それとも恥ずかしいのか? まぁ無理もない。私は傍から見ても可愛いからな」


 そんな事戯言を言ってからマスターはその場でヒラリと一回転する。ドレスのフリルとハットの後ろから垂れる絹のような繊細さがあるポニーテールが揺れ薔薇か何かの気品のある良い香りが立ち込めて着た。


 まぁだからと言って正体を知っている俺はマスターの事を可愛いだとかは思わないが。


 「はいはい分かりましたよ、繋げばいいんでしょ」


 渋々、その手を握り、俺とマスターは歩き始めた。



 歩き始めて数分、やはり行きかう人々の視線が痛い。


 そりゃそうだ、こんなコスプレみたいな格好のしかも幼女と仲良く手を繋いでいたらおかしな目でみられて当然だろう。


 「む? 多田君、あれはなんだ?」


 そんな俺の気も知らない、マスターがちょいちょいと俺の服の裾を引っ張り指をさす。指がさした方向にあるのはアイスクリームやクレープが有名なチェーン店だ。


 「あれはアイスクリームっていって冷たくて甘い食べ物ですよ」


 「ふむ、あいすくりーむ……美味そうだな。買って来てくれ」


 「えっ? 嫌ですよ。自分で買って下さい」


 なんで俺が奢らなきゃいけないんだ。


 「君、私は雇い主なんだぞ。逆らっていいのか?」


 「それ世間一般ではパワハラって言うんですよ……とにかく俺は奢りませんからね」


 ここは一歩も引いてはならない。


 普段こっぴどく言われたり働かされているからな、俺がいつでもぺこぺこ頭を下げると思うなよ?


 「……本当に買ってくれないんだな?君はあくまでもこの悪魔である私に喧嘩を売るつもりだな。いいだろう」


 そういうと俯いて暫し黙り込む。


 こいつ、なにするつもりだ?


 何かとてつもない不安を感じながらも、動向を見つめていると、突然顔をあげる。


 大きな青い瞳に涙をこれでもかと溜めて。


 「ふぇーんっ! お兄たんがあいすくりーむベリルに買ってくれないよぉ……ふぇーんっ!」


 ワザとらしく、大きな声で泣き叫ぶマスター。


 周囲にいる人々の注目が一気に集まる。


 「かわいそうに、アイスくらい買ってあげてもいいだろう……」


 「あらやだ、こんな小さな子を泣かせて……」


 周りがざわつき始め、軽蔑の視線が一気に俺に集まる。


 「ああもうっ! 分かりましたっ! 買いますから泣き止んでくださいっ!」


 なだめるようにそう言うと、マスターは泣くのを止め、口角をにやりとあげた。


 「そうだ。始めから君は大人しく私に従っておけばいい」


 先程の涙はなんだったのか、けろっと何時もの表情に戻り、一足早くアイス屋へ向かうマスター。


 ……俺、泣いてもいいですか?

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