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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
プリズン&マルコシアス

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君の名前は

 「いやぁ助かったよ。流石の僕もあの暗闇の中に閉じ込められたときは生きた心地がしなかったからね。差し詰め巨大アナコンダに丸呑みされた気分ってところかな? フフっ」


 ベットの下から引き抜いた声の主は灰色の壁にもたれ掛かり腕を組みながらそんなことを言う。今自分上手い事言ったみたいな顔をしているがその例え全くピンと来ないし差し詰めの使い方も間違ってるからな。


 俺は再びベットに座り直し、そいつを見る。


 少年、少女両者とも捉えられる中性的な顔立ち。性別を断定出来ないのは漆のような黒髪で右半目が覆い隠されているからだ。


 しかしもう半分の瞳は黄金色、そして何より頭の上に生えている三角型の大きくてフサフサしている狼のような耳と尻尾がこいつは人間ではないことを証明していた。


 さて、こいつから聞き出さなくてはならない情報が山ほどあるのだがとりあえずまずは。


 「お前は誰だ?」


 「誰? 他人様(ひとさま)に名前を訊ねる前にまず自分の名を語る筋ってものじゃあないかい?」


 そう言ってヨットの帆のように筋がよい鼻で一瞥される……本当に面倒くさいなこいつ。


 「……多田 崇だよ。で、お前は誰なんだ?」


  「ただ たかし……うん、いい名前だね。シンプルで覚えやすい。ハンバーガーも一番美味しいのはチーズバーガーみたいなシンプルな物だしね。」


 いやだから例えが分かりづらいんだよ。でもまぁ名前を褒められるのは悪い気はしないが。


 名前は両親から最初に貰うプレゼントだなんてロマンティックなことを言うつもりはないが生きていくうえで重要性の高い物であるのには間違いない。


 本来物質、物体等に名前などはない、人間が区別し分類するためにつけた名称である。


 例えば動物、犬、猫、猿なんてのは勝手につけられた物であって当人達は当人達の呼び名をちゃんと持っていてそれを鳴き声で呼び合っている可能性だってあるのだ。


 ここで大事なのは区別するために名前があることだ。


 また犬で例えて話すとここに全く同じ犬種の犬を三匹いると仮定する。その三匹にそれぞれ名前をつけてあげるのだ。ポチ、花子、ダニー、イギー、太郎丸何でもいいがつけてみるとそれだけで先ほどまで見分け出来なかった三匹がちゃんとした一匹として、独立して見分けがつくのだ。


 つまり名前をつけられることによって『人間』から『個人』になることが出来る。そして初めてそれぞれの人生を歩むことができるのだ。


 そう考えると多田 崇という名前は実にシンプルで普通な俺らしい良い名前だ。


 俺の名前がもし『光宙(ぴかちゅう)』や『騎里土(きりと)』だとしたらもうその時点で普通の人生なんて送ることが出来ない気がする。ここは二つの意味で普通の価値観を持っていた両親に感謝をしなくてはならないな。


 今は遠く異界に居る両親に僅かながら思いを馳せていると壁にもたれている狼耳面倒くさい野郎は腿の丈程ある艶やかな黒光りのジャケットのポケットに手を突っ込んでからこちらに向かってきて。


 「改めてよろしくと言っておこうか、崇…………僕の名は『マルコシアス・(るい)・アセンシオ』好きに呼んでくれて構わないよ」


 …………お前が一番ややこしいのかよ。


 「おや、その様子からして既に何かを察しているようだね。流石崇、感づいてしまったか……僕の生まれながらにして背負う『罪』を」


 何ともコメントに困っていた俺に妙な勘違いをしているマルコシアス……アセンシオ……いやもう長いので泪は神妙そうな顔を作り再び腕を組む。


 「いや別に聞きたくはないんだけど。それよりここが何処なのか教えてくれ」


 「おかしいと思っただろう? 僕の名前に日本人の名前が入っていることに。君も知りたい筈だろ? 僕の禁断の黙示録ってやつを」


 「だから興味ないから。全く一ミリも知りたくないから。早くここが何処か教えろって」


 話が大幅に逸れそうなのでここは主導権を譲らないように強引に軌道修正をする俺。


 すると。


 「…………思う」


 「え? 何?」


 「そうやって自分の話ばっかするの、ずるいと思う……っ」


先ほどまでの自身たっぷりな口ぶりは何処へ。下を俯き唇を尖らせ、人差し指をつんつんと合わせるというあからさまにイジけた態度をとる泪。


 一方的に自分の話したいことを話した挙句、少しでも聞いてなさそうな素振り、話を断ち切るために別の話題を振った途端に私の話興味ない=私に興味がないと直結し勝手にヒステリックを起こす典型的クソ面倒くさい女のパターンである。


 もしも俺がこういうタイプの女と付き合うとすれば一ヶ月と持たず別れるだろう。この手の女は会話やメールなんかで少しでも素っ気ない態度をとると私の事を好きではないとのた打ち回る。


 このような主観的な愛を押し付けてくるのだ。俺の俺だけによる普通な人生を送る上でこの上ない弊害になるだろう。


 しかし、そんなクソ面倒女に優しくする男も少なくはない。


 恋愛経験に乏しく彼女が出来るチャンスを逃したくない先走り野郎。とりあえずキープ要員の一人として口説いておくクソチン男。最後に、本当に彼女が好きな男。


 そして俺は。


 「分かった。分かりました。聞きたいです是非お聞かせ願いたいです」


 降参だと言わんばかりのため息を一つ出して、俺は泪の話を聞くことにした。


 そう、俺は先ほどのどれにも属さない『時には折れ、面倒な被害を回避するローリスク男』でした。

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