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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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楽園の跡地で悪魔が佇む

 薄っすらと朝日が差し込む廃ビルの中、俺はミカと手を繋ぎながら最上階を目指す。


 俺の身体はもう疲労困憊で先程から視界が霞んで見える程だ。きっと目の下にはミルフィーユ層のようなくまが出来ているのだろう。


 それだけこの肝試しの内容が濃かった。例えるのなら『こってりトンコツニンニク油マシマシ』くらいだなんてしょうもない例えを考えるほど濃厚で疲れた。


 何度も確認するがこの肝試しの本来の目的は俺に取り憑いたクソオタク幽霊の成仏であって恋人の愚痴を聴いたりアホとゲームをして遊びに着たわけではないのだ。


 そんなのはこの肝試しの企画者であるマスターが一番理解している筈。つまりこの一見無駄にしたようなこの時間も何らかの意図があって行なわれたのだと俺は推測している。


 だが今の疲労で脳みそが磨り減っている俺の頭では推測するので精一杯でこの企画の意図や真意を見抜くことが出来ずにいるのだ。もっとも『最近調子に乗っている俺を懲らしめる』方に比重を置いているのならもう十分反省をしたので帰らせてほしいのだが。つか調子に乗った覚えもないし。


 そんなことを考えながら階段を上り詰めるとある一つのドアで進路が途絶える。そこはミカにとっては馴染み深い場所、俺にとっては一度着た程度だが忘れることが出来ない場所だ。ここで殺されかけてるしな。


 「多田さん。こちらがこの肝試し最後の間となります」


 ミカが俺から手を離し、改めて畏まった態度を取りドアの前に立った所で本日最後のアナウンスをする。


 とうとう最終地点まで辿り着くことが出来た俺。しかし口から漏れた息は安堵からではなく、この先に待ち受けている出来事や人物が心底嫌だという気持ちから出た感嘆の息だった。


 

 そのため中々身体が前に進まず、その気品のある黒塗りのドアと金色のドアノブを傍観することしか出来ずにいる。そんな時、俺の疲れきった目と脳みそはある違和感を感じ取った。


 「ミカ、この間ってなんか名前ってないの?」


 俺はそうミカに疑問を投げかけてからもう一度チラリとドアを見る。しかしそこには何時ものように張り紙が貼ってあるわけでもなく一面がただ黒いだけなのだ。


 「ええ、名称なんてありませんよ。この部屋にはもう何もありませんからね」


 「……そうか」


 いつもの調子で平素的に返答するミカ、しかしその声音は僅かながら低く聞こえた。そんな彼女に対して俺は一言だけ返し、元『楽園』だった場所を見て暫し考える。


 ここは以前は天使が羽を休める場であった。しかし今は廃れ、その原因となった悪魔が一人鎮座している。


 一見皮肉に見えるようだが実はそうでもない。『盛者必衰』という言葉がありどれだけ栄えてもいつかは廃れるのが世の常で人間いつかは必ず死ぬことと同じ避けようのない物なのだ。


 それを俺は十分理解している。なのにこうして考えてしまうのはきっと心の何処かでミカのことが可哀想だと思ってしまったからなのだろう。


 もう彼女の店は完全撤廃され元通りには出来ない。彼女の言うとおりこの部屋には何も残っていない。けれどもここにエデンの園が存在していたという事だけは残したい。


 最近の俺の『他人にどうしようもなく甘ちゃん』な所につくづく嫌気が差しながらも待っている悪魔と同じ金色のドアノブをひねって入店する。閉まりかけた扉の隙間から見えたのはミカがこちらにお辞儀をしている姿だった。


 


 『最終の間』そこは部屋の間取りこそ違えども雰囲気は完全にBAR『DEVIL』だ。


 目の前にはテーブル席が数席設置されており、左側を向けばカウンター席となっている。


 そしてカウンターの奥には。


 「やぁ多田君。随分と遅かったじゃあないか。待ちくたびれて危うく眠りかけたぞ」


 マスターがいつものようにバーテンダー衣装に身を包み、いつものように不敵な笑みで迎えてくれた。


 俺は軽く会釈した後、マスターの方へは寄らずに周囲を見渡す。何せここは最終ステージだ。どんな仕掛けがあるか分からない。例えば俺が歩いた途端に照明が降って来るとか床の底が抜けるとかそんな古典的な罠があって引っかかった後マスターが満面の笑みでドッキリ大成功のプラカードを持ってくるとか……。


 「どうやらこの肝試しで相当懲りたらしいな。その疲れ果てた顔と怖がってる姿は実に滑稽だぞ」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みと瞳をこちらに向けるマスター。


 「いや、相手が相手ですしそりゃ身構えますよ。今日だって色々あったし。マスターはドアからモザイクがかかった白鳥とか見たことあるんですか?」


 小馬鹿にされるのも癪だったので俺はそう反論したが「何を言っているんだこいつは、頭おかしいんじゃあないか?」見たいな顔をされるだけだった。正直自分でも何を言っているのか分からないしなんならその出来事事態記憶から抹消したいまである。


 「まぁこの部屋には君の考えているような仕掛けは一切ないから安心していいぞ。ふむ、もう少し君の無様な様子を眺めていたいが時間も押しているしな。こっちにきて席に着きたまえ。少し話をしようじゃあないか」


 マスターが手招きをして俺をカウンター席に座らせようとする。


 実はそこの椅子は座った瞬間に脚が折れて『どっきり大成功!』的な流れになるのではと勘繰り動かないでいるとマスターの大きな瞳が狭くなっていき研ぎ澄まされた包丁のように光ったので俺は細心の注意を払いながら席へと向かうのであった。

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