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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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対なる二人

 オセロとは裏表に白と黒の色がある駒(石)を使うボードゲームだ。相手の駒を挟むことで駒が裏返り自分の持ち駒になる。それを交互に行い最終的に自分の色の駒が多い方が勝者となる。


 子供からお年寄りまで簡単に楽しめる単純なルールだが戦術や展開には計り知れない程のパターンがあり『覚えるのに1分、極めるのは一生』というキャッチフレーズまであるそうだ。


 始めオセロを出してきたアイニィを小馬鹿にしていたがやってみれば中々頭を使い多少は楽しむことは出来た。


 そう、多少は楽しむことは出来たが。



 「ぶぇええええんっ!!! ぶぇええええんっ!!」


 狭い『阿呆の間』にアホの娘の泣きじゃくる声が木霊する。


 俺は涙で顔がグチャグチャなアイニィから視線を逸らす。逸らした目が次に映し出したのはひっくり返った盤とこれもまたグチャグチャになったオセロの駒だ。もう何も見たくは無いので目を閉じてギュッと目頭を摘んだ。


 事の経緯を説明しよう。まず余裕たっぷりなアイニィは俺に先手を譲ってくれた。彼女曰く『あえて不利な条件を自分につけた上で勝つのが本物の勝者よ』とのこと。


 恐らく漫画やアニメで敵キャラクターが言っていた言葉を引用したのだろう。それをさぞ自分が考えましたみたいな顔と口調で言い放ったので腹が立ったが俺は何も言い返さずに駒を置いた。因みにだがこれらの台詞を吐く敵キャラは大体負けるからな。分かってんのかこいつ。


 俺が一手目を置いて数分、彼女はもう既に次の手を打つことが出来なかった。


 それも。


 「ぐぬぬ……」


 オセロの駒を眼前にして手をワキワキとしながら動けないアイニィ。


 そう、張り切って着用した狼の着ぐるみのせいで上手く駒が掴めないのであった。


 「……もういい加減脱げばいいじゃんそれ」


 何気ないアドバイス程度に言った言葉に頬を赤くしてうろたえるアイニィと隣で小突いてくるミカ。俺は別に変な意味で脱げって言ったわけじゃないからな? 後、手に持ってるピンク色の奴で俺を小突くな。


 「でも後ろのチャックに手が届かないから開けれないし……」


 ムーッと唇を尖らせ何処かしおらしい態度のアイニィ。これでは勝負にならないと思った俺は席を立って彼女の後ろに回った。


 

「……変なところ触ったらただじゃおかないからね」


 背中越しにそう言ってくるアイニィ。変なところって触れるところチャックしかないんだけどな。それ以前に俺が変な所なんて触ると思ってんのかこいつ。


 俺は唯一触れることが出来るチャックに手をかけ、それを下ろす。狼の皮に裂け目が出来て、サナギが羽化するようにモゾモゾと蠢きそこから華奢な両腕が生えてくる。


 後は自分で何とか出来るだろうと判断した俺は席に戻る。その間に「…………ありがと」と消え入りそうな声でお礼を言われたが敢えて気づいていない振りをした。


 「ぷはーっ! これで百パーセント本気の私で勝負出来る状態になったわ。多田、脱がせたことを後悔しなさいっ」


 アイニィは被り物を両手で外した後そのまま大きく背伸びをした。着ぐるみの下に来ていたのは迷彩柄のタンクトップなので背伸びをすると同時に無防備な腋とお腹がチラ見えしている。おい、はしたないぞ。それと俺に百パーセント本気使わないで勝とうとしてたのかこいつは。


 「それじゃあ私のターンっ! 神の一手はここよっ!!!」



 ターンっ! とアイニィが白石を置くのを最後に意識は回想から現実に戻されてしまった。


 流石の馬鹿でもオセロのルール自体は把握していたようでゲームはすんなり進行することが出来た。


 しかし目先のことしか頭にない彼女はとりあえず自分の駒を多くすることに専念するあまり俺に四つ角を取られ結果的に黒一色で俺の勝ちになったわけだ。


 「う……うぇ……また馬鹿多田に負けたぁ……悔しいよぉ……」


 アイニィはそう言いながら両手で流れ出る涙を拭く。しかし拭いても拭いても悔しさの雫は止まる気配はなかった。


 見かねた俺はポケットから四つ折で入れていたハンカチを無言で差し出す。彼女はそれを受け取ってまた「ありがと」と小声で呟く。俺はまたそれを敢えて気がついていない振りを……。


 「う……うぅ……ブーッ!!」


 しようと思ったが俺のハンカチで思い切り鼻かみやがったなこの野郎、後でもう一度泣かせてやろう。


 「……じゃあ俺もう行くからな。ハンカチは後で洗って返せよ」


 大方の予想通り呆気なく俺が勝利しこの間のお題もクリアした。もうここに残る必要はなくなったので席を立ち退出することにした。


 「ふぇ? もう行っちゃうの?」


 そしてこれも大方の予想通り俺が早くこの部屋を出ることに驚くアイニィ。


 「ああ、まだ肝試し終わってないからな。しかも一番最後が一番厄介そうだし……」


 恐らくこの肝試しのラスボスであろう人物の不敵で腹黒な笑みと笑い声を頭に浮かべながらアイニィに言った。

 

 「でもっ!でも、まだ勝負は終わってないし……このままあっさり帰られるのも納得いかないし」


 そう言ってくるアイニィの口調は竜頭蛇尾、いや狼がチワワくらいに語尾が小さくなっていき最後は口がもごもごと動く程度になる。


 彼女の性格から勝負が一回で終わるはずがないのは予め分かっている。だが何度も言うように俺は早いところこの肝試しを終わらせたいのだ。


 ここは無視して部屋から出るのが最良の方法だろう。しかし翡翠色の瞳に大粒の涙を溜め、赤くなった鼻を啜り、口を震わすアイニィを見てしまったら流石の俺でも良心が痛む。別に俺の心は鬼でも悪魔でもないんだけどな。


 「アイニィさん。多田さんは今お忙しいのでお遊びでしたらまた機会を改めてください」


 重くなった扉と足取りのせいで前に進めない俺。それを見かねたミカが俺の空いている方の手を握ってからそう言ってくれた。


 しかしアホは簡単に引き下がってはくれない。

 

 「うるさいわね。あんたには関係ないじゃないっ!」


 「関係はあります。私は案内役でもありこの企画を円滑に進行させるのも役目の一つです」


 冷静に、それでいて姉譲りの何処か冷淡な口調で返すミカ。そして先程の泣き顔は消えうせ喉を低く鳴らしミカを睨み付けるアイニィ。薄々感じていた仲の悪い二人が対峙することによって辺りの空気もどんどん重くなっていく。


 この状況を四字熟語で『一触即発』と言い何か一つでも双方の琴線に触れてしまえばまた面倒なことに巻き込まれるのだ。俺は以前ドキュメンタリー番組で見たことがある爆弾処理班のように細心の注意を払い丁寧に、迅速に部屋から出ようと試みた。


 しかし。


 「ほんとうるさいわねっ! この、この白チビ女っ!」


 アホが放ったまったく幼稚で仕方がない一言。しかしこの小さい火種は爆弾を爆発させるのには十分過ぎるほどだった。


 「…………分かりました。ではこうしましょう、私と貴方で勝負をして貴方が勝てば多田さんと再戦出来る権利を差し上げます。ルール等は全て貴方が選択していいですよ」


 「なんか私が有利な条件だけどいいわっ! ボッコボコにしてあげるから覚悟しなさいっ!」


 「いや、ちょっと待ってくれ。俺時間ないって言ったよな?」


 とんでもない展開になってきたので俺は一旦会話を止めに入る。


 「今まで遅れていた時間もここで巻くことが出来ましたし大丈夫です。それに勝負だってすぐ終わらせてきますから」


 口に手を当て背伸びをしながら小声でそう囁くミカ。そして去り際に天使が呟いてはいけないであろうことを言いながらアイニィと体面する形で座った。


 ミカとアイニィ。天使と悪魔、秀才と阿呆。対なる二人の戦いの火蓋が静かに切って落とされたのであった。

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