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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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狼のアホの娘

「ちょっとなんでいきなり閉めるのよっ! 酷いじゃないっ!」


 俺がそっと静かに閉めかけた扉をガツンと勢いよく開いて登場した第三の間『阿呆の娘の間』の語り部であるアイニィ。


 「その、なんというか色々残念過ぎてお前のこと直視出来なかった。ごめん」


 そんな彼女を見ていると居た堪れない気持ちで一杯になったので俺は謝罪をした。この気持ちはあれだ、親に『フランクミュラー』の時計を買って貰ったと自慢していた大学の奴がいて見せてもらうと『フランク三浦』だったときの気持ちによく似ている。


 「私の何処が残念だって言うのよ。ほら、衣装も完璧じゃないっ!」


 そう言いってからもう一度俺に向かって彼女はがおーっ!と吼えた。


 「……これハロウィンじゃなくて肝試しだから衣装のチョイス自体間違ってるからな」


 衣装の尻尾をブンブン振り回しながら怒るアイニィに俺はツッコミを入れる。つかその尻尾どういう構造で回ってるんだよ。


 「はろうぃん……? きもだめし……?」


 そんな彼女は次に口をポカンと開けながら不思議そうに俺が言った名詞を復唱している。


 「お前この企画自体よく知らないで参加してるだろ」

 

 俺の一言が図星を突いたのか彼女は大きく肩を動かした後俺から顔を逸らして笛ラムネなんかよりも雑な口笛を吹いた。


 「知ってるわよ。はろうぃんでしょ? 赤いおじさんを倒して皆でケーキを食べるやつ……だったわよね? うん」


 ブツブツと出鱈目なことを言うアイニィに俺は今日何度ついたか分からないため息をまた一つ吐きだした。


 お前それ赤ずきんとかクリスマスとか色々混ざってるだろ。とか、そもそもハロウィンとは悪霊を追い出す宗教的行事であって悪魔側がノリノリでやるのどうなの? とか色々ツッコミどころはあるがいちいち指摘するのは拉致があかないので止めておいた。


 今回の間はボーナスステージ。早く終わらせるのが一番良い。


 と、いうことで。


 「もう何でもいいから早くお題教えてくれよ。なにすんだよ」


 俺が早く本題に入るよう催促すると今度は着ぐるみの為窮屈そうに腕を組んでから自身満々そうな顔をして此方に目を向けて。


 「お題? 決まっているじゃあない。勝負よっ! 勝負っ! これであんたをボコボコに倒して私がBARで働くんだからっ」


 ビシっとモコモコした指を俺に突き立てて勝負を挑んでくるアイニィ。


 「勝負するのがお題なら別にいいんだけどさ。お前一応マスターに雇われて地獄で広報活動してるんじゃなかったっけ?」


 彼女とは以前にBAR『DEVIL』の店員の座をかけて勝負したことがある。結果として勝負の内容的には俺の圧勝で終わったがマスターの情けもあり地獄でBARの宣伝をするように言われているのだ。


 因みに彼女が宣伝で行なっている主な方法がビラ配りでBAR周辺の簡単な地図とマスターのイラストが描いてあるのだが何故か全部クレヨンで描かれたなんとも稚拙な絵に流石のマスターも顔を手で覆って困り果てていた。


 「そうだけどやっぱり私はBARでお師匠と一緒に働きたいの。だから今度こそ負けないんだからねっ!」


 アイニィが強く意気込む理由も俺は知っているし、それだけ彼女がそれだけマスターのことを慕っていることの現われでもある。だから俺としては店員の座なんて出来ることなら譲ってやりたい。


 だが。


 「分かった。でも俺だって負けらんないからな。手加減しないぞ?」


 そう。俺だって負けられないのだ。幽霊を成仏させたいという問題よりこれまでの道のりで蓄積された疲労度と恥辱を思えば俺はもう引くに引けないところまできた。


 俺が珍しく乗り気な反応をしたので一瞬アイニィは怯んだがそれでも強気な態度は保ちつつ。

 

 「ふん、いいわ。さぁ馬鹿多田、部屋に入りなさい。格の違いってものを見せてやるんだから」


 そう言うとアイニィは後ろを振り向きドアノブに手をかけた。俺と彼女の真剣勝負、何処と無く張り詰めた空気が立ち込めてきて心臓の鼓動蛾少しばかり音を強める。


 そして。


 「あれ? 中々開かないわね……このっえいっ!」


 着ぐるみで上手く握れないのかドアノブを回して開けることが出来ないアイニィはドアノブを猫パンチのようにポカポカと殴りつけている。


 俺は暗闇で見えない 天を仰いでから馬鹿と扉の間に割って入り、そっとドアノブを回した。

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