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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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優しさの紅葉

 ふわふわと浮かんだ風船がパチンと弾けて伸びきり醜い姿になったゴムの残骸が地面に落ちるような感覚で酔いから醒める。満足感、幸せなどは烏の群れが離散するように飛び去り、残るのは残骸と後悔だけだ。


 ミカの為にこのお題を受けた。なんて思っていたが酔っ払ってしまえばこの様だ。己の欲望に身を任せて彼女を自分の物にしようとしていた。


 いや、違うな。そもそもこんな可笑しなお題を受けたのはきっとミカが自分に好意を抱いていることを知っているがために、心の何処かで楽勝だと思っていたのだ。


 ここにきて俺は普通人間どころかただの屑なんだと思い知らされる。そんな俺に彼女の震えを止める権利などなく、俺は回していた腕を離し手を肩に乗せて、そっと彼女を俺から引き離した。


 離れた彼女は俺の前で立っている。顔は俯いて見えなかったが白髪から薄っすらと見える顔色は赤く、依然として彼女は震えていた。


 「その、ごめんな。急にこんなことしちゃって」


 俺は彼女と同じように俯きながら言った。顔を上げて目を合わせることすら出来ない情けない自分に腹が立つがそれでも謝らなくてはいけなかった。


 「い、いえっ! 謝ることでもないですよっそれに私なんか驚いて声も出せずにいましたし」


 面を見て謝罪も出来ない俺に対して彼女はそう言ってくれた。普通の女の子なら絶対に許せない行為をした俺を許してくれた。


 ミカは優しい。これは『お人好し』だなんて言う揶揄でも皮肉でもなく心の底から彼女は優しいのだ。


 だからこそ俺の罪悪感が肥大していく。こんなに素敵な女性の心を利用しようとした俺に心底嫌悪感を抱く。

 

 そして優しい言葉より罵詈雑言で罵ってもらった方が全然楽だったのにと考えている俺に再度腹が立った。


 俺は俺を殺したいほど嫌になったが自分を戒めている時間はない。とにかくもう一度誠意を持って謝らなくてはいけないのだ。


 今度こそちゃんと謝るんだ。そう意気込んで顔を上げた。だが顔を上げただけで、俺は声を出すことは出来なかった。


 果たして俺は本当にミカに謝りたいのだろうか。許してほしいのだろうか。いいや、俺は謝ることで過ちを犯した俺を多田 崇ではないと否定し許してもらうことで謝罪が出来た方の俺が多田 崇だと思い込みたいだのなのかもしれない。


 つまり、この謝罪は俺の自己愛と自尊心を守る為でしかないのではないだろうか。


 この考えが喉にストッパーをかけて、言葉を発することが出来なくなっていた。


 ミカは顔を上げて、目の前にいるどうしようもない俺を見る。その瞳には俺はどんな風に映っているのだろうか。


 中国の俊才は臆病な自尊心と尊大な羞恥心から虎になった。才能もなく、半端な自尊心と羞恥心しかない俺。彼女からはどう見えているのか分からないが、ミカの瞳に映って反射して見えるそれはただのどうしようもない人間だった。


 しかし。そんな俺に対してミカは蔑むことなはなかった。それどころか俺の髪に手を添えてくれて優しく撫でてくれた。一枚の紅葉の葉が、また舞い落ちてきてくれた。


 「大丈夫ですよ。多田さんのお気持ちはもう十分伝わったので。大丈夫なんです」


 ミカの優しさが俺の耳と、撫でられている頭から伝わってくる。それが身体の芯まで浸透していき、先ほどとは違う、清々しい『何か』で俺は満たされた気がした。


 「ごめん。本当にごめん……」


 喉につっかえていたストッパーが外れて、俺の口から言葉が漏れる。無心で出た言葉だが、これもきっと俺の本心なのだろう。


 それを受けたミカは何処か慈愛に満ちた微笑みを浮かべてから撫でていた手をそっと戻す。そして。


 「先程も言いましたが多田さんのお気持ちは私に伝わっています……その証拠に」


 彼女はゆっくりとこちらに近寄ると俺の両股に腰を下ろし、胸に身体を預けた。


 「ほら、私もう震えてませんよね?」


 そう言って、彼女は俺の胸にちょこんと頭を置いた。


 俺はただミカに身体を貸すだけで何もしない。一ミリも動かない俺の腕を横目で見たミカは少しばかり残念そうな顔をしていたが何も言って来たりはしなかった。


 「それで多田さん。お題は結局どうなさるおつもりでしょうか?」


 この件に関しては何も言わなかったがその代わりに本題であることについて聞いてくるミカ。正直お題なんてもう気にしている状況ではなかったのだが、俺の答えはもう決まっている。


 「……俺はミカとホテルには行けないよ。ごめんね」


 俺はきっぱりと宣言した。これはつまりお題の失敗ということになるがそれでいいんだ。幽霊とは最悪一生を過ごすかもしれないが、今はそんなことが些細にすら感じる。


 「そう……ですか」


 それを受けたミカが顔を伏せてあからさまにしょんぼりとした雰囲気を醸し出した。


 だから俺は「ただ、」と語尾に付けてから。


 「その……なんだ、今回はミカに色々迷惑かけちゃったし。その分のお返しはしたいんだよ。だから今度何処か一緒に行って奢るとかじゃだめかな?」

 

 「えっ? それってもしやデートというものでしょうか?」


 「うん。まぁそんな感じ」


 俺の提案を聞いたミカの顔は依然として伏せていたのだがチラリと見える口は笑っているようにも見えた。


 何時ぞやも思った。優しさはギブ&テイクなのだと。今回俺はミカに返しきれないほどの優しさを貰った。だから与えられた分はしっかりと与えたいと思った。


 この所謂デートを持ちかけたのもやましい気持ちからではなく、そんな至極単純は気持ちからだった。


 「うふふっ良かったわねぇミカちゃん。そして崇ちゃん。おめでとう合格よぉ」


 デートの話が成立したところでここまで沈黙を貫いていたアスモデウスが拍手をしながら労いの言葉をかけてきた。


 「合格ってどういうことですか? お題の条件ってホテルに誘うことじゃあ……」


 「確かにミカちゃんはそう言ったわよね。だけど本当のお題はこう、『崇ちゃんは酔っ払った中でも自分を保てるか』……もし本当にホテルに誘ったら私がぶっ飛ばしてたところよ」


 そのままアスモデウスは一枚の紙切れをカウンターに置いて俺に差し出す。それは奴の唇と同じ紫色のキスマークが付けられているお札だった。


 「これで私の番は終わり。本当はミカちゃんの役をあたしがやる予定だったのだけれどそれだと即お持ち帰りされちゃうもんねぇ」


 絶対にありえないことを言い残してアスモデウスはこの部屋を立ち去る。帰り際の高笑いが妙に耳に残った。


 結局最後まで奴のシナリオ通りに事が終わってしまったのには釈然としないがこれはこれでいい経験になったのかもしれない。


 酒は飲んでも飲まれるな。そして酔っても自分を見失うな。とりあえず当分は飲まないことにしておこう。


 色々あったもののこれで第二の間はクリアだ。残る二つの間をとっとと攻略するべく立ち上がるべくまず座っているミカを起こさなくてはいけない。


 だが彼女は何故か神妙そうな顔をしていた。何かを考え込んでいるようだが……。


 「どうしたの? なにかあった?」


 「すいません、一つ気になってしまって。あの『デート』と『ホテル』の違いってなんなのでしょうか?」


 「え?」


 あまりの唐突な質問に困惑の色を隠せない俺。それはミカも同じだったようで俺の反応に不思議そうな顔をしながら。


 「『ホテルに行く』というのは一般的なホテルではなくて、大人の男女が遊べる総合アトラクション施設だとアスモデウスさんにお聞きしたのですが。変わったお風呂や玩具があるとかないとか……って多田さんっ!?」


 俺はミカが一口も飲んでいないウイスキーのグラスを掴み一気に流し込んだ。


 酒は飲んでも飲まれるな。酔っても自分を見失うな。そして純粋(ピュア)な心は穢すな。


 この格言とクソオカマに復讐することを胸に誓いながら、俺の視界がブラックアウトしていく。


 最後にとんだオチをつけて、この舞台は幕を閉じた。

一気飲みは危険ですので真似しないでください。

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