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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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ウイスキーがお好きでしょ?

 俺はミカを椅子に招いた後、自分も席に座る。


 さて、覚悟を決めたのはいいが俺は生まれてこの方女性を誘うなんて行為はしたことがない。理由は幾つかあるが大部分はそう、リスクが大きいからだ。


 一年前俺の大学の奴らのナンパに渋々付き合ったことがある。大学に入学して髪を染めたりピアスを開け始めたりと一番調子に乗る時期、その中でも頭に溶かした純金でもぶっかけたの? というくらいに明るい金髪で派手なネックレスに衣装と明らかに大学デビューだろお前みたいな芋顔をしている奴が夜の街で女の子に声をかけた。


 すると女の子は友達を呼ぶと言って携帯を取り出し電話すること数分。やってきたのは肌が色黒で筋骨隆々、夜なのにサングラスを付けている怖いお兄さん達だ。そいつはお兄さん達に連れられて夜の街に消えて言った。俺達は直ぐその場から逃げ去り、奴は次の日から姿を現さなくなった。


 この通りナンパをする、道行く女の子に声をかけるなんかは非常にリスクが高く、また女の子からすれば不快な行為で世間では『ストリートハラスメント』と呼ばれている。


 異性との交遊に困っていない、というよりそもそも望んでいない俺にとっては何にもメリットのないことだ。


 その為中々俺の口からは言葉が出ずにいた。ミカも緊張のあまり硬直し、傍から見れば造詣深い人形のようになっている。


 「はい、お二人さんお待たせぇ」


 そんな中アスモデウスが俺達の前にグラスを二つ置いた。置いたと同時にカランと軽快な音がなるそれはこいつがいつも好んで飲んでいるウイスキーだった。


 アスモデウスのことだからまたボケに走るのだろうと思っていたが意外にも普通なチョイスに驚く。ウイスキー類はアルコール度数が高いので酒に強い方ではない俺は飲まないのだが、この状況だと酔いが回って緊張が解れた方が良さそうなのでまぁいいか。


 「じゃあ乾杯しよっか」


 俺はグラスを持ってミカに向ける。彼女は(かじか)んだ身体を無理やり動かすようにぎこちない動きでグラスを手に取り俺に差し向ける。


 俺が腕を伸ばし彼女のグラスに触れ合う。グラスの音と中に入っている氷が揺れ動く音、言葉のないこの空間に上品な音色が流れた。


 音のお陰で少しだけムードが出てきた気がする。後は彼女の緊張を少しづつ和らせてあげてだな。


 頭の中で段取りをしながら俺は無意識にグラスに口をつける。


 「げぇ……」


 反射的に声が出て俺はグラスを遠ざけた。


 幾らウイスキーと言えどこれは文字通り度を超えてる。小学校の理科の実験で使うアルコールランプのように火が付けられるくらいだ。


 そんなウイスキーは俺の喉元を焼いて回ってから胃に到達する。身体の内側にホットカイロを貼られたような感覚で温まっていき頭が軽くなってきた。もう酔いが回ってきたようだ。


 そんな様子の俺をみてカウンターが越しに立っているアスモデウスは口に片手を添えて上品に笑うがその顔は悪戯を成功させた子供のようだった。


 どうやらアスモデウスの狙いはこれだったようで酒を振舞う際にあえてボケず、アルコール度数の高い酒で俺をベロベロに酔っぱらせようとしていたようだ。


 恐らく酔っ払った俺が変な行動を起こしたり発言をしたりしている様を見て楽しみたかったのだろうがそうはいかない。生まれてこの方普通に生きる為、物事を正確に判断し的確な行動を取ってきた俺を甘く見るなよ?


 俺は早速話題を振ろうと思い考える。まず初めは当たり障りのない話題から話していって仲を深めるというのが常識で鉄板だろう。


 だが当たり障りない話が難しいのだ。初対面だとまず名前から聞くのがセオリーだが俺とミカではそれは通用しないし女性に対して年齢を聞くのも失礼だろう。前も誤魔化されたしな。


 となると、後は。うん、そうだな。後は、天気とか?


 夜なのに天気の話をするのもどうかと思うがまぁそこから話を発展させればいいと思いミカの方を振り向く。


 すると。


 「…………」


 先ほどまで考えていた安直な発想が一気に吹き飛んだ。


 酔っているせいか周りの風景がぼやけて見える。しかしミカだけははっきりと浮き彫りになっていてまるで彼女にピントを合わせているようだ。


 俺の瞳が捉えるミカは以前として硬直したままグラスを持っている。その佇まいと、遠くを眺める紅の瞳は美しかった。


 そんなミカを見つめていると俺の手はグラスを置いて、自然と彼女に伸びていく。それは李白が水面に映る月を掴もうとしたように。蛍光灯に群がる羽虫のように。美しい物に触れたいという生物的欲求からなるものだった。


 「……多田さん?」


 俺の手が忍び寄る気配を察したミカが少し困惑した表情で俺の顔を覗く。そこで俺は空いている手で伸ばしていた手首を掴み無理やり引っ込めた。


 くっ! 静まれ俺の右腕っ! 等とふざけている場合ではない。もう既に俺は出来上がってしまったのかあろうことかミカに手を出しかけてしまった。今は何とか抑えることが出来たが……いや、待てよ。お題的には手を出した方がいいのでは? いや違う落ち着け俺。


 お題をクリアするにはしっかりと頭を回して冷静に、クールにミカを口説く必要がある。まずは酔いを醒まさなくては。


 酔いを醒ますには水を飲むことが一番だと考えた俺はすぐさまグラスを手にとり、一気にそれを飲み干した。


 すると突然全身の力が抜け落ち、俺の身体はカウンターに叩きつけられる。何が起きたのかさっぱり分からないが何処からか氷のような物が砕ける音が聞こえて察することが出来た。


 

 ――これ、水じゃなくてウイスキーじゃん。

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