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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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はくちょうモザイク

 「おい、どういうことだ。どうなってんのこれっ!?」


 俺はドアに貼り付けられている紙をミカに突きつける。


 「どうと言われましてもここが第二の間『淫魔の間マークⅡ』としか……」


 ミカが普通にそう返してくるが俺にはそれが理解出来なかった。


 先程淫魔の間ならクリアしたばかりだろう。クリアした証の札ならポケットにしっかり入っている。それなのにまた淫魔の間に入らなくてはいけないのか。


 しかもなんだ『淫魔の間マークⅡ』ってパワーアップして帰ってきたの? 今度はムウマとクソオタが乳繰り合っている姿でも見せられるの? そんなんだったら俺は速攻帰る。


 そして後なんだよ『マークⅡ』って。『肝試し』、『間』、『語り部』とかここまで和風で来てたんだから統一しろよ。


 脳内で一頻りツッコミを終え、俺は額から滴る汗を拭った。肝試しに着た筈なのに流れる汗は冷や汗ではなく、体育の後に流れる汗と同じ部類でそれが余計腹が立つ。


 苛立ちを抑えるよう一旦目を閉じて腹の底に溜まった嫌な空気を鼻から抜く。そして開きたくない扉のドアノブに手をかけた。


 「……こちらの部屋の説明がまだお済ではないのですがよろしいのでしょうか?」


 ミカがそう尋ねてくるが俺は右手でそれを制する。


 先程ムウマがなんたらと言ったが俺はこの部屋の語り部については大方の検討はついている。


 ミカ曰く、この『間』と『語り部』は四人存在するらしい。恐らく最後の語り部がマスターなのは断言出来る。


 そしてこの語り部はBAR『DEVIL』に関わりのある連中で構成されていることから人数は絞られていき後はそこから消去方だ。


 たま子という線はまずないだろう。彼女はBAR『DEVIL』に関わりがないからだ。ムウマも淫魔の間で登場したから無し。アイニィに関しては淫魔要素の欠片もない。


 となると残るのは一人だけ。それは今俺の体力とテンションで最も関わりたくない悪魔で……。


 俺は頭の内側から響いてくるあの野太い高笑いが聞こえてくるのに嫌気を感じながらもドアノブをそっと右に回し扉を開く。


 すると。


 「あらぁたかしちゃーん。いらっしゃーいっ」


 俺はそっと開けた扉を全力で閉めた。


 「……ミカ、あれは一体なんだ?」


 俺は扉の向こうに見えた光景を否定したいが為にミカに確認を入れる。


 「なんだと聞かれてもこの『間』の語り部であるアスモデウスさんとしか答えようがないのですが……」


 至極妥当な答えを言われ返す言葉が出ない。


 この『間』の説明を俺は省いた。それは語り部がアスモデウスだと分かっていたからだ。ミカがそう答えるのは当然だ。


 けれども、しかし。それでも、どうしても俺は納得が出来なかった。


 「……なんつーもんぶら下げてるんだよあいつは」


 部屋で待ち構えていたアスモデウスはいつも通り白のレオタードに身を包んでいた。違う点を上げるのなら股間部分に首の長い白鳥らしき生物の頭部をぶら下げていたからだ。


 ここで白鳥だと断言出来ないのは頭部に謎のモザイク処理がかかっているから。どんな原理でモザイクがかかっているのかは分からないがなんなのあれ。レオタードと白鳥で「お前バレリーナかよ」というツッコミが欲しかったの? それともまた安直な下ネタかよって言われたかったの? 本当なんなの?


 「んもぅ、どうして急に閉めちゃうのよ」


 ガチャリと扉が開き、そこからひょっこり出てくるのは白鳥の頭部もといモザイク。


 「なんですかその格好は。何がしたいんだあんたは」


 俺は疲れ果てた声を捻り出しモザイクに言った。モザイクと会話してるってこの絵面相当ヤバそうだが。


 「うふふっこれは見ての通り白鳥ちゃんじゃあない。ほら、ピヨピヨしてて可愛いでしょ?」


 そう言いながら上下にピクピクと動くモザイク。おい、その動き止めろ。可愛くもなんのねーよ。ただ卑猥なだけだよ。つか白鳥はピヨピヨ鳴かないだろ。


 俺は冷徹な眼差しでモザイクを睨み付けた。その視線はまるで冷凍ビームだ、こんなことを思うくらいに俺の心は冷えている。


 再三言うがこれは肝試しなのだ。肝試しとは深夜に幽霊スポットに行き恐怖とスリルを体感する物であって彼氏の愚痴を聴いたり仮装大賞なんかではない。尤もマスターが考案し、悪魔バーの面子で構成された肝試しが普通でなないことくらい想定出来たがここまで酷いと正直呆れる。


 もう、本当に帰ろうかな。そもそも厄介な幽霊以前に俺は厄介な悪魔を相手している。それも幽霊より達が悪いのな。今更一人くらい増えたってどうでもいいのではないのだろうか。


 俺が本気で帰ろうとしているのを察したミカがオドオドし始め、モザイクがピクピク動き始めた。ミカは分かるけどお前はおかしいだろ。


 モザイクには特に触れないがミカの気持ちは何となく分かる。姉であるマスターから指名されたのもあるが、本来の性格上彼女は真面目で与えられた役割は最後まできっちりとこなしたいのだろう。


 しかしミカには悪いが俺はもう無理だ。着た道を引き返そうと後ろを振り向こうとした。


 その時。


 ――ビクンっ!


 扉から見えていたモザイクが突如勃っ……いや、おっ勃った……待て、表現的によろしくない。何かいい表現は……もういいや、疲れたし。突然勃起した。


 何事かと思い立ち止まる俺。そんな中扉の奥から野太く、低く、それでいてお嬢様口調の笑い声が聞こえてくる。


 「……ミカちゃん、ちょっといいかしらぁ?」


 「は、はいっ!」


 その不気味な声にビクリと背筋を伸ばしたミカが恐る恐る部屋に入って行った。

 

 そして待つこと数分。


 「ミカ大丈夫? あのクソオカマに何かされなかった?」


 部屋から戻ってきたミカが心配だったので聞いてみる。俯いていた彼女はゆっくりと俺に顔を向けてから。


 「多田さん。私は案内役です。この肝試しを円滑に進めるのが私の責任ですのでこれからは帰る、放棄する等と言った行為は許すことが出来ませんので」


 そう言ってミカは一礼をする。


 「み、ミカ? どうしたの急に改まって……」


 先程までとは人が変わったようなミカ、いや、俺が出会ったときのミカに戻ったという印象だろうか。


 「無駄話をしている暇はありません。さぁ行きましょう」


 ミカは俺の後ろに回り、小さな両手で背中をグイグイと押してくる。人間状況や環境が急に変わると混乱するもので、俺はなすがままにあのオカマが待っている部屋へとそのまま押し込まれていった。

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