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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

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温もりを感じながら俺は闇に吼える

 「多田さん、『淫魔の間』攻略おめでとうございます」


 部屋を抜けるとミカが出迎えてくれて頭を礼儀正しく下げる。攻略って言っても俺何もしてないんだけど。ただ酔っ払いの性事情を聞かされただけなんだけど。


 「攻略した多田さんにはこれを渡すように言われています」


 ミカが白装束の袖から何かを取り出すと俺に差し出してくる。渡されたそれは神社にありそうなお札で淫魔の間と達筆で書かれた文字の上に『済』と赤い判子が押されていた。


 「予定では攻略した語り部から受け取る筈でしたが何処かへ行かれたようなので代わりに私が授与させていただきます」


 「この札って意味あるの?」


 「はい。今持っている札と残り二枚、合計で三枚の札を手に入れないと姉さんが待っている最終ステージまでは辿り着けないのです」


 だから何で一昔前のバトル漫画みたいな設定なんだよ、というツッコミはもうクドいので心の中に留めておき、俺は札を半分に折ってズボンのポケットに閉まった。


 「それでは次の間へご案内します。どうぞ」


 そう言うとミカはおもむろに、そして謙虚に左手の手のひらを向けてこちらに腕を伸ばす。早く終わらせて帰りたいし断わるのも面倒くさいので黙って握り返してやった。


 握り返すと俺の横までトテトテと寄ってきてミカがエスコートするように足を進める。確かな人肌の温もりを感じながら、俺達はまた闇の中に消え入るのであった。


 そのままミカに連れられて階段を上がり二階にやって着た。移動している間終始無言だった俺達。だがミカは何か言いたげな表情で俺の顔を何度か横目で見ていた。


 「……なんか俺の顔に付いてる?」


 「い、いえ、何でもありません……」


 遠慮ぶっているもののやはり何か言いたいことがあるようでチラチラと視線を飛ばしてくる。


 そして言う決心がついたのかコクリと生唾が飲み込まれる音が聞こえてから。


 「そ、その先程淫魔の間で小耳に挟んだのですが多田さんは童て……異性との初体験は済まされていないんですか?」


 予想の遥か上から放たれた言葉に思わず握っていた手に力が入る。ミカも驚いたのか肩をビクつかせた。


 「……まぁ、その、そうだけど」


 俺は質問に困惑しながらも嘘はつかず、本当のことをミカに言った。


 「ではお付き合いをしたことも?」


 返事をするのが面倒なので俺は縦に頷く。


 一般的な人間なら大抵は家庭を持ち、家族で暮らす。それが世の中の当たり前で言わば『普通』なのだろう。


 しかし俺が目指す普通の人生においてそれは必要ないのだ。以前も考えていたように恋人が出来れば金と時間が無くなる。家庭を持てば尚更のことだ。


 そして子供が出来てしまえば俺の残りの人生はその子供の為に生きなくてはいけない。『俺の日々をただの予告編に』なんて何処かのバンドマンが歌った歌詞のワンフレーズにある通り俺の人生は子供が産まれてくるまでの序章になり産まれてきた子供が俺の人生の主役になってしまい、俺は脇役になる。そんなの御免だ。


 俺の普通な人生における登場人物は俺一人だけでいい。俺の物語は俺で完結すればいいのだ。まぁ今は面倒な奴らが邪魔しているが。


 そんな俺の頷きにミカは「そうですか」と一言。それ以降は特に何があるでもなく、無言で闇の中を進む。


 俺は先程引き合いに出したラブコメの鈍感&難聴主人公ではないためミカが俺に多少の好意を抱いているのは知っている。まぁ流石に俺の写真一枚でこんな役目引き受けている時点でどんな馬鹿でも察することは出来るだろう。


 だがしかし俺はミカの気持ちに応えることはしない、否、出来ないだろう。


 先程言った通り、俺は俺が幸せで無難な人生を送ることが出来ればいいと考えている人間なのでミカを幸せになんて出来ない。


 後はそう、ミカの容姿的な問題だ。


 これは顔が悪いとかではない。見た目が幼いのが問題なのだ。実年齢は姉妹揃って未だに謎だが見た目は完全に小学校低学年だ。仮に付き合ったとしてデートで手なんか繋ぎながら街を歩いてみろ、職務質問どことか警察署まで同行させられる可能性だってある。


 さらに結婚したとして俺の両親にどう紹介させればいいのだ。天使だと言っても普通の人間は信じてくれないだろうしヘタをすれば母親が警察に通報するかもしれない。ミカとの距離が縮まる程俺が牢屋にぶち込まれる可能性も上がってくる。それは勘弁願いたい。


 そんなことを考えながらもミカと手を繋いだまま闇の中を進む。


 すると先程と同様に不気味な色を放っている蝋燭の明かりが見えてきた。違う点を上げるなら光がピンク色というところか。つかピンクって、肝試しなんだからもう少し色のチョイスを考えろよ。


 もう既にツッコミたいが自転車のブレーキを握るようにグっと堪える。


 日頃のバイト疲れ、クソオタク幽霊、そして今日の肝試し大会で俺は既にグロッキー状態だ。これ以上疲れないためにも無駄にツッコんで体力を浪費するのを抑えなくては。

 

 今日の肝試し大会は何時、何処でツッコミ所が出てくるか分からないのでなるべく視覚から無駄な情報を得ないために俺は前方だけを見る。


 するとこれも先程と同様、一つのドアがありそこに筆で書かれた文字が書かれて……。


 視界に映った文字を見て俺の口は開いたまま動けなくなった。今すぐ大声を上げてツッコミたいが喉仏で堪える。


 堪えろ、堪えろよ俺……!


 「こちらが次の語り部が居る間、『淫魔の間マークⅡ』になります」


 ミカが隣で説明し、その透き通る声が闇に沈む。俺は目を閉じて鼻から空気を吸い込んでから。





 「どういうことだちくしょおおおおおおおおっ!!!」

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