表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
BAR『DEVIL』主催ドキドキ肝試し大会

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

63/154

丑三つ時に現れる天使

 時刻は午前二時。俺は飲み屋街を歩いていた。


 この時間帯は丑三つ時と呼ばれ古くから怪奇現象が起きやすいとされている。尤も、俺が今目の当たりにしているのは飲んだくれのおっさんか千鳥足の若い連中だけだが。


 俺はそんな連中を横目にポケットから一枚のハガキを手に取り、煌くネオンに照らした。


 差出人不明のそのハガキには新聞の見出しの文字を一文字づつ切り貼りされた文章で『地図の場所まで来い。来なかったら殺す』と書いてあった。俺はいつから昭和推理ドラマの世界に巻き込まれたのだろうか。インターネットが普及したこの時代でこんな脅しされても誰も従わないって。まぁ今回のケースは差出人も分かりきっているし、その差出人ならこの文章が脅しではないことくらい理解しているので行くんだけどさ。


 白黒で印刷された地図を見ながら俺は目的地を目指す。歩いていくとドンドン灯りと人の声が遠くなり、廃れたビルが立ち並ぶようになってくる。……この通りって確か……。


 スマホを懐中電灯の代わりにしながら地図をもう一度確認してみる。本来カラー印刷なら赤いだろうピンが刺されているその目的地は俺の記憶が正しければ一度行ったことのある場所だ。


 目的地に辿り着く。俺の目の前にある三階建てのビルは間違いなくミカが以前BAR『HEAVEN』を経営していた場所だった。


 楽園(エデン)の園からただの廃ビルと化したこの場所でマスターは何をしようとしているのだろうか。


 「…………こんばんは」


 闇夜の中不意に聞こえるか細い声。俺はそれにドキリとして背筋が跳ね上がった。


 またあのクソオタが現れたのだろうか? あいつはほんと空気読めないからな。時間帯を考えろよ。こんな夜中のしかも丑三つ時に現れるなんて幽霊だと勘違いするだろ。あ、そういえばあいつも幽霊だった。


 「おい、お前居なくなったかと思えば急に声かけやがっていい加減にしろよ」


 俺はそう言いながら後ろに振り返る。そこには白装束を纏とい、三角巾を被ったいかにもな人影が立っていたが俺の知っている幽霊ではない。


 背丈は小柄というよりまだ幼い子供だ。そしてこの暗闇でもその繊細さが際立つ白肌に白髪……なんだか俺の知人にそっくりなんですけど。


 「……誰だ?」


 頭の中である人物を思い浮かべながらも俺はその人影に尋ねる。すると人影はゆらゆら揺れることはなく、真っ直ぐとした足取りで俺に近づいてから。


 「誰ではありません。ミカです」


 頭の中で想像していたシルエットが浮かび上がるように、暗闇の中からミカが姿を現す。


 「多田さん、お久しぶりです。そして姉さん主催の肝試し大会へようこそ。本日は私が案内役を務めさせていただきます。よろしくお願いします」


 ミカが訳のわからないことを言いながら深々と頭を下げる。頭に付けていた三角巾の天辺もそれに連動してペコリと頭を垂れた。


 「えっと、肝試し大会? 俺何も聞かされてないんだけど……」


 当然の疑問をミカに聞いてみる。彼女は顔を上げて垂れた三角巾を両手で直してから。


 「この肝試しは姉さん曰く『最近調子に乗っている多田君を恐怖のどん底に叩き込んでやる。後ついでに幽霊とやらも成仏させてやるか』とのことです」


 ミカが顎に手を添えてマスターの真似をしながら教えてくれるがさっぱり訳がわからない。


 俺が調子に乗っているから痛い目遭わせてやるという時点で謎だ。そもそも調子に乗った憶えもないしな。


 まぁこの手の展開にも慣れてきたので別にいいが、それよりも気になる点がある。いや、慣れるのはまずいのだが。


 「幽霊を成仏させるってどうやるんだ? 最近あいつ姿見せないし」


 一番肝心の幽霊だがここ最近姿を現していない。居ない幽霊をどうやって成仏させる気でいるのだろうか。


 「幽霊は魂が具現化して生る存在、それが回収されるのを拒んで野放しになっている。ここまでは姉さんからお聞きしたんですよね?」


 「一応聞いたけど……」


 「私達天使は幽霊の回収に失敗はしません。逃げられるのは大抵下級悪魔達、その不始末さえも天使か別の悪魔が行なっています。つまり幽霊の個体は人間が思っている以上に少ないんです。通常の人間からは見えない、声も聞こえない。触ることも出来ない。幽霊というのは寂しい存在なのです」


 「……つまりあれか? よく心霊番組なんかでやってる怪談とか肝試しをやってると本物が出てくるとかそういうノリなのか?」


 俺の問いかけにミカは頷いて答えた。


 要はひとりぼっちで寂しい幽霊が心霊的話題や遊びをやってる人間を見掛けて『あっ今僕・私の話してる! ちょっと行ってみよ!』みたいな軽いノリでひょっこり現れるってことだろ?


 なんか胡散臭いんだよなぁ。話も適当にこじつけた感が否めないんだけど。


 「なぁ、それ本当なの? マスターがまた変な理由つけて俺を虐めたいだけなんじゃないの?」


 「はい、本当の話です。ほらその証拠に後ろを見てください」


 ミカが腕を伸ばして疑心暗鬼な俺の後ろを指差す。振り返り指の方角を見てみると例のクソオタク幽霊がひょっこり立っていてスマホを横持ちにしながら画面を眺めていた。おい、それ俺の携帯だろ。いつ盗ったんだよ。


 やはりあの幽霊には早く成仏させなくてはいけない。その為にはこの肝試しに参加するを得ないのだが、きっと参加をすればまた碌でもないことが起こるのは火を見るより明らかだ。


 何か良い方法はないか模索していると丁度俺の視線にミカが映った。


 「……あの幽霊、ミカなら成仏させられるだろ。ミカも天使なんだし。だったら今すぐやって欲しいんだけど」


 目の前で幽霊のコスプレをしているミカも天使、それに才能も実力も十二分にある。ミカならちゃちゃっと成仏させるくらい簡単に出来る筈だ。それならこんな肝試しなんかやらずにミカに成仏させて貰えばこの話は終わるだろ。


 「すいませんがそれは出来ません。私は姉さんから前もって報酬をいただいているので。先に言っておくと報酬の内容も言えません」


 俺の要望にミカは依然として平然な表情を崩さないが何処か早口で捲し上げた。きっちりと仕事をこなすという意味ではミカらしいが報酬でマスターの言う事を聞くのは彼女らしくない。そんなに良い報酬を貰ったのだろうか。


 報酬について気になるところだがミカの口ぶりからして答えてくれなさそうなので黙っておこう。


 「それでは日が昇る前に早速始めたいと思います。私についてきて下さい」


 ミカが歩き初め、俺はその小さな背中についていく。


 これから始まるマスター主催の肝試し……字面からしてもう恐怖しかないのだがこれを乗り切れば幽霊とはおさらば出来るのだと自分に言い聞かせながら自然と鼓動が加速していく胸を擦る。


 その時。


 「あっ」


 前を歩くミカが短い声を出したかと思えば一枚の紙がひらひらと俺の足元に舞い落ちてきた。


 彼女が落としたであろうその紙を拾い上げ見てみると。


 「げぇ……」


 思わず潰れた蛙のような声が出てしまう。その紙は一枚の写真で写っていたのはカウンターで頬杖をしている俺。しかも斜め上からとおかしな角度から撮られているのだ。


 「ミカ、報酬ってもしかして……」


 不穏な事が頭によぎりミカに尋ねると彼女は俺から写真を素早く奪い去り、白装束の袖に仕舞い込んでから。


 「こ、これはですね……趣味、そう趣味ですっ! 私写真を撮るのが趣味なんですよっ! 報酬なんかじゃありませんし、保存用と観賞用と実用に後で三枚コピーしようなんて思ってませんからね」


 一気に顔を赤くしながら目をバタフライ泳法のように激しく泳がせるミカ。良い訳が苦しすぎて自分の首絞めまくってるんだけど。つか実用って何に使うつもりだよ。


 俺が疑いと(なか)ば呆れながらミカを見ると彼女はバツが悪そうに咳払いを一つしてから赤く染まった顔を逸らし、再び俺に背中を向ける。


 「……で、では参りましょうか。しっかり私についてきて下さいね」


 まるで先程の事柄が無かったかのように同じ台詞を言ってから歩き出すミカ。それでも声音は何処か恥じらいを感じた。


 俺は頭を搔いてからミカの後ろを歩く。この先何が待ち受けているが分からないが取り合えず後でこっそり写真は回収しておくことにしよう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ