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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
天使と悪魔

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副会長壊れる

 時刻は午前十時半、全国うまいもんグランプリ開催まで三十分を切った。会場にはまだ開催前だというのに恐らく毎年楽しみにしているであろう人々が続々と集まってきた。


 ただその人々の顔を見ると楽しみにしている様子ではない。その表情は曇っており、頭に疑問符でも浮かんでそうだ。


 それもその筈、全国うまいもんグランプリと銘打っているが店はウチとミカの二軒しかやっておらず店員の見た目も幼女。そして最大の理由だが。


 「……マスター、これ何ですか?」


 俺は一本一本丁寧に串刺しにされているそれに顔を引きつらせながら聞いた。


 「先程も言っただろ。今朝地獄で採れたて新鮮の食材だと」


 マスターは二度も同じことを尋ねてくるなこのクソ馬鹿が、とでも言いたいような顔をしている。


 マスターの気持ちもよく分かる。だがしかしだ、こいつらを見て聞き直さない人間はいないだろう。


 目の前で網焼きにされているそれは魚に手足が生えている魚類と両生類の進化の過程を物語っているような奴だったり人面魚ならぬ能面魚や全身に目玉がある奴等など。あれ? これうまいもんグランプリだよな? ゲテモノ天下一武道会じゃあないよな?


 「……絶対売れないだろこれ」


 思わず心の声が漏れる。


 「ふむ、見た目は確かに悪いが味は美味いぞ。よく言うじゃあないか、人は見た目だけではない。問題なのは中身だと。見た目も中身も完璧な私が言うのもなんだがね」


 勝負事にテンションが上がっているのか、浴衣を着れたことが嬉しかったのかいつにも増して自分可愛いアピールをしつつ上機嫌で鼻歌なんか歌いながら全身目玉魚の目玉を楊枝で抉り取るマスター。


 マスターが可愛いかどうかは別としてだな、少なくとも世間一般的に言う可愛い女の子は嬉しそうに目玉を抉ったりはしないんですけど。と言うよりも。


 「なんでさっきから目玉取ってるんですか?」


 「こいつの身はあまり美味くはないだが目玉は酒のつまみに最高だぞ。一つ味見してみるか?」


マスターは抉りたてホヤホヤの目玉を俺に差し出してくる。神経がブチブチと音を立てて千切れ、ヌルヌルとした粘膜が糸を引く。誰がそんなグロテスクなもん食うか。俺は三国志に出てくる魏の眼帯武将か。


 その旨をマスターに伝えるとそうかと一言言ってから小さい口で目玉を頬張り、飴玉のように舌の上で転がした。


 俺はそんなマスターから目を逸らし、対面する形で構えているミカの店を見た。ミカの他に俺を殺そうとした長髪イケメン店員も参加しているようで俺と目が合うと敵意むき出しに睨み付けて中指を立ててきた。お前本当に天使かよ。


 そんな店員からも目を逸らすと会場に設置されているスピーカーからノイズ音が聞こえてくる。時計で時間を確かめてみると既に開催の一分前になっていた。


 スピーカーから聞こえるノイズ音がおっさんの咳払いに変わっていく。壇上には痩せ気味で白髪まじりの眼鏡をかけた中年男性が立っていた。


 「えー、皆さんお早う御座います。町内会副会長の塚原と申します。本日はお日柄もよく……」


 塚原と名乗るおっさんはハンカチで額の汗を拭いながらブツブツと話し始めるが皆の関心はそれほど得られていないようだ。


 「さて、今年度の全国うまいもんグランプリですが、前日に皆『原因不明の腹痛』に襲われエントリーキャンセルが相次ぎ、本日は二店舗のみでの開催となってしまいました」


 マイクを通しているにも関わらず今にも消え入りそうな声のおっさん。そんなおっさんに追い討ちでもかけるようにブーイングが少なからず飛んだ。俺は原因不明の腹痛に引っかかりマスターの顔を見たがしたり顔をしながら目玉を舐めているだけだ。


 しかし、こんな小さなイベントでブーイングが飛ぶなんてな。マスターの所為でもあるしあのおっさんが少し可哀想になってきた。


 「お越しいただいた皆さんのご期待を大きく裏切ってしまったことに対して深くお詫び申し上げます。しかし……」


 一度言葉を切り、タメを作るおっさん。そして次の瞬間着古された無地の白ワイシャツに手をかけたかと思えばそれを縦に思い切り引き裂いた。


 「しかしぃっ! 今回の店員はいつもの小太りのおっさんとは違う! 幼女! しかも可愛いぃぃいいい! こんなの話題作りにぴったりだっ! しかも見ろ私の肉体美! 先程両者の品を味見してからパワーが溢れ出てくる! まるで十台に若返った気分だ!」


 ボディービルダーのようにポーズを決めるおっさん、腹筋やら大胸筋やら上腕二頭筋がボコリと音を立てて隆起した。


 「こんな料理絶対売れるに決まってんだろ! ぐふふっ今回のイベントを大成功に収めた実績とこの屈強な肉体で今度こそ必ず私が次期町内会長にぃいいいいい!!!」


 目を血走り、涎と泡を吹き出しながら熱弁するおっさん。それを複数の男達が取り押さえ壇上から引き下ろした。


 「……マスター、あの人に何をしたんですか?」


 「いや、急遽参加することになったからな。そのお詫びに粗品を渡しただけだ」


 そう言ってマスターはイタズラっぽく下をチョコンと出した。その舌先には先程まで食べていた目玉の黒目が付いていて俺を見つめている。


 やはりマスターには『可愛い』より『怖い』の方が似合ってると思いました。

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