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ロリータは街を歩く

 初めてのバイトが終わった翌日、帰宅途中のサラリーマンや学生達が賑わう街中を春の穏やかで優しい夕日が照らす。そんな何とも平和で日常的な風景の中、俺は目の下に真っ黒なクマを作り重い足を引きずるように歩いていた。


 昨日は散々な目にあった。


 終始騒いでいた悪魔共がゲロを吐き、臭い匂いと酒のアルコールの匂いが組み合わさり軽いゲロのテロとなった店内を掃除、更には掃除途中に酔っ払った客からのウザ絡みをくらい身体はくたくた状態だ。


 それでやっと閉店の時間がきて家に帰ったのも朝日が昇り始める時間、ろくに寝ることも出来ず気だるい身体に鞭をいれながら講義を済ませた。


 こんな生活がこれから続くのだから憂鬱になる。


 辞めてぇ……マジ辞めてぇよ。


 しかし変な契約の所為で俺はあのクソバイトを辞めることが出来ない、もし辞めようものなら俺はあの金髪幼女の面を被った悪魔に魂を抜き取られる羽目になる。


 全く、どうしてこうなった。


 俺は普通にバイトをして普通に生活をしたかっただけなんだ。なんなんだあの客共は? そもそも悪魔って何だよ。あんなの昔の暇人が作った想像上の生き物じゃないのかよ。


 しかし、昨日実物を見たためなんとも言えない。


 くそ、マジでどうなってんだ。


 「たかちゃん? たかちゃんだよね? どうしたの? 道端でうずくまって」


 余りにも辛い現実から道端でうずくまっているところに声をかけられた。


 聞き慣れた女の声だ、顔を見なくても誰だか分かる。


 「たま子か……久しぶりだな」


 振り向き彼女の方を振り向く。相変わらずキョトンとしている顔だな。


 彼女の名前は近藤 たま子、彼女とは所謂幼馴染という奴だ。


 栗色のロングヘアーに大きな二重の目、長い睫毛がピンと伸びていて遠めで見ても美人だと分かりスレンダーな身体に決して主張しない胸もまた日本人らしいおしとやかさを彷彿とさせる。


 見た目だけでも目立つ彼女だが性格もドジっ子属性を持ち、彼女といると色々苦労が絶えないのだ。因みにドジっ子属性なんて可愛げな表現をしたがコーヒーに砂糖と間違えて洗剤を混ぜるなんて常軌を逸した事をやりだす奴だ。俺はそれで中学生のとき一週間程入院したことがある。


 普通をモットーに生きてきた俺とは言うなれば彼女は正反対。だからなるべく関わりたくないので距離を置いて接してきたがどうにもこの女、人よりも距離感が近くすぐ俺に寄ってくる。


 俺の目標とする普通な人生を送るうえでは金髪幼女クソ悪魔と匹敵する程の厄介者といえよう。


 「ほんと、久しぶりだよねぇ。たかちゃんは大学生だっけ?」


 「そうだ。お前こそ地元に就職したんじゃなかったのか?」


 「そうだよ、今日はこの辺りに買い物に来たんだけど……道に迷ちゃって」


 タハハと申し訳なさそうに笑うたま子。そして何かを頼みごとを訴えるように上目使いで俺を見てくる。


 ほらな、また厄介ごとに巻き込まれそうだ。こいつは他人に頼みごとがあるときは口では言わずこうやって仕草や表情で訴えかけてくる。小学生の頃、夏休みの自由研究でダンゴムシとワラジムシの違いを考察すると言ってきた際、研究する為に実物を見たいと言った時も同じ顔をしていた。渋々俺が採りに行ったのだが途中で毛虫を触ってしまい全身に赤いブツブツが出来た事がある……こうして振り返ると普通の人生を歩んでいない気がしてきた。


 なので。この場合はこいつを無視して帰るのがベストな選択だろうけど、普通の男ならそんなことはしないだろ?


 だから俺も普通に。


 「わかったよ。駅まで送ってやる」


 「ほんと? 助かるなぁ。ありがとう、たかちゃん」


 「はいはい」


 

 俺は重い足取りの中、たま子と言う荷物を背負いながらフラフラと日常を生きる雑多の中に紛れ込んだ。


 すれ違うおっさんや見るからに非リア充な奴からの視線をビンビンに浴びながら歩くのはどうも気持ちが良くない。


 男女が二人で歩いているとカップルにも見間違えるだろう。


 これだからこいつは嫌なんだ、良くも悪くも顔がいい所為で目立つからな。


 彼女が目立つだけならまだいい、しかし隣を歩いている俺の身にもなってみろ。きっと通り過ぎる奴らからはなんでこんな冴えない男が一緒に歩いているんだと不思議がったり妬んだりしているんだろうな。


 目立ちたくない俺からすればいい迷惑だ。


 「こうしてたかちゃんと歩くのも久しぶりだねぇ」


 俺の気も知らないたま子が辺りを物珍しそうに眺めながらのんきにそんな事を言っている。


 「ああ、そうだな」


 「そういえばたかちゃんはバイトとかしてるの? ほらやっぱり大学生だから」


 バイト、と言う単語に俺はドキリとして身体がビクつく。


 お陰で嫌な事を思い出した。


 「え、えっと一応昨日から始めたんだ。BARでバイトしてるよ」


 「へぇーBARかぁ。なんかお洒落でいいね」


 「あはは……」


 お洒落というかお酒を飲んだ悪魔達がどんちゃん騒ぎして暴れまわっている職場だとは言えない。そして店主が金髪ロリッ娘のクソ野郎だとは口が裂けても言えない。


 そんな事を考えて歩いていると、前方を歩く人ゴミに目がいく。


 前からやってくる少女は思わず目が向いてしまうような並々ならぬオーラを放ち日本ではありえない、赤を基調としたフリルつきのドレスに小さいハットを頭に被り、ドレスと同じカラーの日傘を差している。


 俺はなるべく気づかれないよう視線を逸らし、彼女に言われたよう映画のエキストラの気持ちでやり過ごそうと思った。


 が、しかし。


 「む? 多田君ではないか、奇遇だなこんなところで会うなんて」


 日傘とドレスのフリルが揺れ、俺の方に近づいてくるのはクソったれマスターことベリルだ。気づかれたよちくしょう。


 「はははっマスターこそお出かけですか?」


 俺は乾いた笑い声でマスターにそう返す。


 「少々買出しにな。それより多田君、女遊びに興じるのは勝手だが今日も仕事があるのを忘れるなよ?」


 「わ、分かってますよ」


 ちくしょう、ぶん殴りてぇ……だけど殴ったらこいつに殺されるかもしれない。


 「たかちゃんこの娘は?」


 目の前に居るのが悪魔だとは知らないたま子は隣で冷や汗をかいている俺に何の気なしに訊ねてくる。


 「あ、ああ。近所の子供だよ、な? な?」


 俺はたま子にそう言い聞かせながらもマスターに顔を向け話を合わせて貰うよう差し向けた。


 頼む、話に合わせてくれよマスター。


 「ふむ、まぁそういう設定にしてやるか。……このお兄ちゃんには色々教えてもらってるんだー。おままごと以外の遊びも、ね」


 マスターはワザと幼い声をだしてそんなことを言いやがった。


 このガキっ!余計な事を……っ!


 しかし、たま子に意味は通じなかったのかキョトンと不思議な顔をしている。


 「そっかぁ、これからもたかちゃんと仲良くしてあげてねぇ」


 「え? ああ、えーっと、うんーっ!わかったーっ!…………チィっ」


 マスターの苦すぎるブラックジョークはたま子に通じず、一瞬困惑の色を見せる。おい、今舌打ちしただろ、なぁ?


 「では多田君私は一足先に戻っているぞ。今日も契約分は働いてもらうからなくれぐれも遅れないように」


 興が冷めたのか、演技を辞めたマスターはそれだけいい終えると雑踏の中に紛れ込んでいった。


 「今の娘ちょっと変わってるねぇ。でも可愛かったなぁ。お人形さんみたいで、肌もすべすべでもちもちしてて」


 たま子が顔を蕩けさせてそんな事を言っていた。


 …………あいつ悪魔なんだけどなぁ

 

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