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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
天使と悪魔

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ミカちゃんお手製のカツ丼

 雪のようにひらりと現れたミカに店内の視線は一気に集まる。


 「ミカ様っ!? 何故貴方がこんな所に?」


 店員が慌てて俺達から弓矢を下げ、ミカを見る。え? 今ミカ様って言った?


 ミカは周りの空気など気にせず、普段通り落ち着いた声音で。


 「まず、弓を収めなさい。そして業務に戻るの」


 「し、しかし!」


 納得がいっていない店員が声を上げてミカに食い下がる。


 「これは命令よ。大人しく従いなさい」


 表情を暗くして氷のように冷たい声で彼女は言った。


 「ぐっ」


 店員はこちらに振り向き、歯軋りしながら俺達を食い殺す勢いで睨み付ける。だがその手に握っていた弓矢はまた発光したかと思うと一瞬で光が収束していき、形が無くなる。


 そして踵を返すとそのままホールへと姿を消した。


 俺は両膝に手をつき、大きく息を吐いた。


 取りあえずは助かった……助かったんだよな?


 「貴方達も早くこの場から立ち去って。次着た時は命の保証はしませんので」


 「は、はいっす!」


 子分が倒れている蛙の肩を担ぎ、ドアを開けようとする。さて、俺の任務も完了したよな。第一正体がバレたんじゃあ潜入の意味ないし、そろそろ帰ろうっと。


 担いだままじゃあドアが開けられないので俺が変わりに開けてあげると。


 「多田さん。貴方は残って下さい。少しお話があります」


 で、ですよねー。



 俺はミカに連れられ店の奥に行く。ドアをくぐり向け階段を何段か降りてたどり着いたそこは窓が一切なく、一面コンクリートがむき出しになっている小さな部屋。中央にはテーブルとパイプ椅子が対面する形で設置されている。まるで刑事ドラマに出てくる取調べ室のようだ。


 俺はそこに座らされる。ギシリと無機質な音が鳴った。


 「ここで大人しく待っていてください」


 ミカはそう言い残し、部屋から出て行った。


 くそ、どうしてこうなった。俺が昼に考えてたことが的中してしまったじゃないか。


 逃げようにも経路はドアしかなく、そのまま進んでも店に戻るだけだ。


 このまま俺は尋問されてしまうんだろうなぁ。そしたら速攻洗いざらい吐いて土下座して許してもらおう。


 それでも相手はあの天使だ。俺が全て話した後にでも殺されるかもしれない。


 もう辛いよ。辛過ぎて涙も出ないよ。


 頭を押さえ、絶望から机に突っ伏しているとドアが開く音が聞こえてくる。ミカが帰ってきたようだ。


 そのまま椅子を引く音、そして何かを机に置く音がした。


 俺はうつ伏せのまま顔を上げて見てみると。


 「……あの、これは?」


 俺の前に置かれていたのは茶色いトレーに乗っているカツ丼と水だった。


 ミカはきょとんの不思議そうに首を傾げて。


 「取調べする際にカツ丼は必須だと教わったので作ってみたんですが」


 誰から教わったんだよそれ。ちょっと教えたやつ呼んで来い。つか、ミカの人間界の情報が色々偏りすぎだろ。


 当然カツ丼を食べる気分ではないので俺は座り直してミカに顔を向けた。


 「あの、食べないんですか?」


 ミカが尋ねて来る。


 「いや、流石にこんな状況じゃあ食欲も湧かないっていうか……」


 「そうですか……頑張って作ったのですが」


 肩をすくめ、ションボリした顔をするミカ。小さい彼女が一段と小さく見える。そんな顔されたら食べるしかないんですけど。


 俺は頭を搔いてから箸を持ち、カツ丼を無理やり頬張った。ふわとろな卵と揚げたてのジューシーでサクサクなカツ。普通に美味いな、うん。


 「お口に合いましたか?」


 「う、うん。美味しいよ」


 俺がそう言うと彼女は少し恥ずかしそうにはにかんだ。


 そう、彼女が作ってくれたカツ丼は普通に美味い。しかし、店で果実酒を飲んだときも思ったが俺の中である一つの考えが確信に変わった。やはり……。


 

 そのまま無言でカツ丼を食べる。ミカは俺が食べる姿を行儀よく座りながらジーっと見つめていた。


 なんなんだよこの時間は。殺されかけたかと思えば変な場所に連れられて、そこでカツ丼食ってるって俺は一体何をしているんだ?


 もしかしてこれが拷問なの? 確かに幼女に見つめられながらカツ丼食うって結構恥ずかしいことだけれども。


 「な、なぁ。俺に聞きたいことがあってここに連れてきたんだろ? それならさっさと質問して欲しいんだけど」


 堪らず俺の方から質問をするように催促してしまった。完全に立場が逆転してるんですけど。


 「いえ、多田さんが食べ終わってからでいいんですよ。時間は沢山ありますから」


 そう言うとテーブルに両肘を乗せて両手で頬杖をついて俺を見つめてくる。


 俺としては早く開放されたいのだが、逆らえば何をされるか分からない。ここは彼女に従っておこう。


 ミカに見つめられながらカツ丼を完食し、水を飲み干した。


 俺はコップを空になったコップをトレーに置いて、ミカに無言で早く話せと催促する。


 が、ミカはそれに気がついていないようで、まだ俺の顔を眺めていた。


 「あの、食べ終わったしそろそろ話してくれないかな?」


 俺の声で我に返ったのか、ハッとした表情を見せてからその場の空気をリセットするようにコホンとワザとらしく咳払いをして。


 「そうですね。本当のことを言ってしまえば話すことなんて特にないのです」


 「は?」


 思わず口から間抜けな疑問符が出た。


 「と言うのも私は初めから分かってたんですよ。貴方が悪魔と交流があることも。近々このお店に偵察として来ることも」


 「えっと、どうして……?」


 訳が分からない。何故彼女に素性がバレているのだろうか。そういえば初めてあったときも俺のことを知っているような口ぶりだったことを思い出した。


 彼女がただの人間ではないことは初対面で何となく分かっていたし今更天使だと言われてもなんてことはないのだがこればかりは驚きだ。


 俺の問いにミカは間をゆっくり開けた。不思議と額から汗が滴る。その汗を拭い、生唾を飲み込む。俺の喉が鳴ってから彼女は口を開いた。


 

 「だって偵察なんて姑息なこと、いかにも『姉さん』が思いつきそうだもの」


 「え? 姉さん?」


 本日二度目の間抜けな疑問符が零れ、行き場を失くしたそれはコンクリートむき出しの無機質なこの部屋に溶け込むように消え入った。

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