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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
天使と悪魔

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エデンの園

 月明かりの変わりにギラついたネオンが輝く飲み屋街、俺はそこを一人歩く。


 スーツを着崩し頭にネクタイなんか巻いている典型的な酔っ払いのおっさん、そんな髪染めたりピアス開けたりしたら就職無理だろってくらいチャラついた若い男女、顔つきが明らかに『ヤ』のつく職業だろお前って雰囲気のスキンヘッドの男、そんな様々な人とすれ違ってたどり着いたのはネオンの光がぼやけて見えるほど奥にある一軒のビルだ。


 ここに例の天使が集うバーがあるらしいのだが、天使が経営しているにしては廃れた場所だな。これなら悪魔の方がお似合いだ。


 俺は白熱灯が微かに灯っているドアも看板も無い入り口に入る。そのまま一階、二階へと階段を登っていくがテナントも事務所も存在しておらず、ただの空間だけだ。


 最近流行のライトノベルの大人気ジャンル異世界転生では冒頭主人公がトラックで死んだ後、女神にチートスキルなるものを授かって異世界を救うらしいのだが、死んで女神に出会う際何もない真っ白な空間で目が覚めるらしい。今いる場所もそんな感じだ。


 しかし、努力や苦労をしないで無敵能力を授かる、おまけに女の子とハーレム生活なんてものが流行るとはそれを読んでいる中高生達の本心が見えてきて怖いな。団塊世代に怒られるぞ。


 まぁ、楽して偉くなりたいだとかモテたいってのは少なからず理解出来る。しかし急に何も取り得の無い奴が富、名声、地位を手に入れても直ぐ衰えることは人類の長い歴史が証明しているのだ。ほら、兼好法師も三味線弾いて歌ってただろ?


 だから手に余る力など持たない方がいい、結局は普通が一番ということだ。


 そんなことを考えながら階段を登っていくと最上階に到着した。

 

 目の前にあるのは一つのドア。恐らくこれが店の入り口だろう。俺はゆっくりとドアノブに手をかける。


 少しばかりだが心臓の鼓動が速くなるのを感じる、ここには客としてではなく潜入工作として着たわけだしそりゃあ緊張ぐらいするよな。


 なんだかふと、初めてバー『DEVIL』に面接を受けに行った時の事を思い出した。


 あの時は想像もしていなかっただろう、バーの店主が金髪幼女でしかも悪魔なんて。そして今こうして使い走りにされているなんて。


 もしも、俺にチート能力が授けられるのなら過去に戻れる能力がいい。そして面接を受ける前の俺をぶん殴ってでも止める。


 まぁそんなことを考えても無駄なので、ため息をつく代わりに俺はそっとドアノブを引いた。


 すると。


 「いらっしゃいませ」


 俺がドアを開いた瞬間迎え入れてくれたのは爽やかな笑顔と上品な佇まいのバーテンダーだ。


 金髪の肩くらいまである長髪、高身長のイケメン。そして一番目を引いたのは白く、気高い両翼だ。


 一目で天使だと分かった。つか天使格好良すぎだろ、もう既に悪魔の完敗なんですけど。姿形がスライムじゃない時点で悪魔完敗なんですけど。


 「ようこそ、天使が羽を休める場所、バー『HEAVEN』へ。本日はお一人様ですか?」


 「はい、そうですけど……」


 「それではお好きな席へどうぞ」


 イケメン天使はにこやかスマイルで手を指し、俺をご案内した。


 言われるがまま席に着く、なんとなく端の席を選んだ。席はどうやら全て丸いテーブルに背もたれがない椅子のようだ。これは恐らくだが座る際に羽が邪魔にならないように配慮されてのことだろう。


 そのまま店内を見渡して見る。店にいる客は全員美男美女、誰もが慎ましく、お淑やかで品行旺盛に酒を楽しんでいる。


 う、羨ましい。俺が望んでいたバーとは本来こんな雰囲気なんだよ。常識があって、金と心にゆとりがある真の大人がこうして上品に酒を楽しむ、そんな場所に憧れていたのにあのクソ悪魔共ときたら何時も好き放題しやがって……。


 何時ものバーの光景を思い出しただけでも腹が立ち、テーブルを叩きたい衝動に駆られたがこの慎ましやかな雰囲気で怒りに身を任せるのは愚行なのでギュッと拳を握り締めるので我慢した。


 そんな時、先程の店員とは違う天使が俺の方へやってきた。この方は女性だがブロンド美人顔負けの美貌を兼ね揃えている。


 「お客様、ご注文はお決まりになりましたか?」


 金の糸のような美しい髪を掻き揚げて尋ねて来る。


 注文か、正直酒を飲む気分ではないが、やはりバーといえば酒。その味もしっかり調査しないと後でマスターに怒られる。


 俺はテーブルの横に立てかけてあるメニュー表を手にとって開いて見る、が。


 「ほげっ」


 思わず間抜けな声が出そうになったので寸でのところで手で抑えた。


 た、高けぇ……。一杯最低でも千二百円? 何ここ、高級風俗店なの? いや、俺風俗とか行ったことないけど。


 ウチの店なんかちょっとした居酒屋レベルに安いのに倍以上するぞ。天使って普段からこんな高い物食べたり飲んだりするの? もしかして天使って高所得者ばっかなの? だったら就職は天使を希望しよう。


 「じゃ、じゃあこれで」


 取りあえずメニュー表の中で一番安い酒を注文すると店員は文字通り天使の笑顔で注文を承った。


 俺は周りにバレないようにこっそりと一息つき、何故だか額から滴る汗を拭った。


 美男美女で気品があってしかも高収入。対する悪魔といえば馬鹿で間抜けで小汚い連中。ダブルスコアどころかトリプルスコアで天使の圧勝だ。

 やはり、マスターが言っていた洗脳だかなんだかは嘘で本当は皆が思うように天使は良い奴で悪魔は悪い奴なのだ。

 あいつらの良い所を挙げるとすれば自分に素直ってところなんだろうけど。しかし、そんなのは現代社会では良い所なんかとは言わない。ただの自己中心的なやつだと排他されるだけだ。


 無駄な個性もそう、今の世の中必要とされていない。自分の感情を抑えて社会の歯車の一部になる人間以外はいらない。


 だから俺も普通で平凡に生きるために無駄な考えや希望は持たない。それが一番平和で平穏な人生を過ごす条件になる。


 「お待たせしました」


 店員が俺の目の前にグラスを置く。そして礼儀正しくお辞儀をして去って行った。


 俺が注文したのはオレンジの果実酒。橙色の照明に照らされ、オレンジ色がいっそうと引き立つ。


 同じオレンジの果実酒なら以前アイニィとカクテル対決をした時にマスターがお手本として作ってくれたのを思い出す。名前は確かシトラスの貴賓だったはず。


 でもきっとこの酒の方が美味いのだろう。天使が作ってる酒だし。何より高いし。


 グラスを持ち、顔に近づける。反射して映る俺の顔が少し歪んで見えた。


 そのまま唇につけて、喉に流し込む。


 しかし。



 ――あれ? これって……。


 

 「おい! 天使達こらぁっ!!!」


 俺の思考を遮るように突然ドアが乱暴に開かれた。


 びっくりして酒が零れそうだったが何とかテーブルに置く。そしてドアを見てみると。


 「おらぁっ! 好き勝手やってんじゃねぇぞおらぁっ!」


 怒声を吐きながら二人の悪魔が天使が羽を休める場所、楽園(エデン)に進入してきた。

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