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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
跳んで泳いで夏の海

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迷子の迷子のアイニィちゃん

 さて、アナウンスを聞いた俺には三つの選択肢がある。


 一つ、アイニィを探しにいく。


 二つ、誰かが見つけてくれるのを願ってこのまま仕事を続ける。


 三つ、そもそもこのアナウンスごと無視。現実は非情である。


 俺としては是非とも三を選びたいところだ。そもそもこの手のアナウンスで協力してくれる人なんて相当なお人よしか暇人しかいないだろう。


 俺はお人よしでも暇人でもないしこんな広いビーチの中人を探すのなんか御免だ。


 しかし、迷子が少なからず顔見知りとなると話は変わるよなぁ。


 だってあのアイニィだ。きっと馬鹿をやらかして迷子になっていることに違いない。


 もし、もしもだ。ナンパ目的で海に着ているチャラい男共に絡まれていたらどうしようか。まぁあの馬鹿だから絡まれる心配もないし、声をかけた男は女を見るセンスがないことになる。ビーチでナンパしようとしている時点でナンセンスなのだろうが。


 でもアイニィの事だからアメちゃんあげるからついて来てとか言われたらノコノコ着いて行きそうだからなぁ。


 腕を組みどうするべきか考える。いや、きっと俺はどうすべきか答えを知っている筈だが面倒なのでしないだけだろう。


 俺は考えを纏め上げマスターに言った。


 「すいません。ちょっとだけ店を抜けていいですか?」


 カウンターの奥で佇んでいるマスターがこちらに顔を向けて。


 「ああ、今は客も居ないし構わないが。」


 「すいません。直ぐ戻ってくるので」


 俺は海の家を出てアイニィを探すことにした。


 俺が選んだ選択肢は四つ目、あいつを見つけ次第ぶん殴るってことだ。




 海の家を出てだだっ広いビーチを歩く。


 すれ違うのはどれも悪魔達。人間のような姿をしたものもいれば顔が馬や羊等の輩。四本足で歩く奴らや最早これ生物なのかって輩がビーチを楽しんでいる。


 まぁ、バイトで嫌というほど悪魔を見ている俺からしたらそれほど珍しい光景ではないのだが、本当にここは地獄なんだなと再確認した。


 そんなことを考えながらビーチを歩いていると。


 「おい、こっちこっち!すっごいのが取れたぜ!」


 キャッキャとはしゃぎながら俺を通り過ぎる男の子二人組み。


 すっごいのとは何だろう。子供だし珍しい蟹か貝でもゲットしたのだろうか。


 今度は若い男女カップルが俺を通り過ぎる時に。


 「あたし、なんか怖いんですけどぉ。なに?『砂山から足が生えてる』って」


 「なんか知らねぇけど面白そうだから行ってみようぜ。もしものことがあったら俺が守ってやるからさ」


 砂山から足が生えている……?一体どういうこと?後男の方。お前スベッてるぞ。


 ただまぁ地獄では珍しくなさそうだけど、悪魔共がこぞって見に行くくらいだから珍しいのだろう。


 でも本当にどういう状況だそれ。例えばそういう不思議生物なのか。はたまた誰かが砂山に生き埋めになっているのか。


 まぁ生き埋めになるなんてまずありえないし。そんなことをする奴なんてよほどの馬鹿なんだろうな。見世物にまでなって可哀想だ。


 ん?待てよ。よほどの馬鹿……?


 俺の脳内でなにかが弾けぐるぐるとある嫌な思考が駆け巡る。いやぁ、流石にありえないだろう。何を考えてるんだ俺は。


 こんな馬鹿な考えは捨てようと何か別のことでも考えようとしたが俺の頭の中はそれで一杯になる。


 ……一応、俺も行ってみるか。こんなアホくさい考えを否定するって意味でも現物を確認した方が早いし。


 俺はじっとりと出る嫌な冷や汗を拭いながら行きかう悪魔の波に乗りながら砂山に生えた足を見に行くことにした。


 現場に着くと既に人だかりが出来ていて、写真を撮る者や動画を撮影する者がちらほら見える。


 俺はそんな群集の群れを器用に掻い潜りながら現物を見ようとした。


 するとそこにあったのは。


 ピクピク……。


 確かに砂山に足が生えていた。その足は地面と垂直に立っていて時折痙攣しているかのように動いている。


 足は綺麗ですらっとしており男性の足ではないと一目で分かる。これは女性の足だ。


 となると俺の嫌な考えの正解率がかなり上がるのだが。


 俺はその砂山に近づき、足を持ってみる。不意に掴まれた為ビクっと大きく反応する足。


 俺は意を決してその足を引っこ抜くことにした。どうか俺の考えはあたりませんように。


 「よっこらせっと」


 大きなカブを引き抜く老人のように踏ん張り引っこ抜く。


 すると。


 「ぶえっ!!!」


 砂が中を舞い、太陽に当てられキラキラと光る。そして間抜けな声と共に姿を現した足の主は……。


 「ゴホっゴホ……ふぇええええん助かったああああ!!!」


 俺が引っこ抜いたことにより湧き立つ群集。そして(むせ)ながら大声で泣き喚くのはアイニィ。俺の嫌な考えは的中したみたいだ。


 「うぇっうぅ……多田ぁ……私死んじゃうところだったぁ……」


 嗚咽まじりで泣きじゃくるアイニィ。


 「…………お前、何してんの?」


 素直な質問をアイニィにぶつけてみると。


 「ぐすっ砂浜に綺麗な貝殻が並べられてて、それを一個一個拾ってたの。そしたら最後に大きな貝殻があってそれを拾おうとしたら突然地面が崩れて……気がついたら埋まってて……」

 

 成る程訳が分からん。アイニィの話についていけず俺は一度視線を外すと群集の中で先程すれ違った男の子が気難しい顔をしていた。


 確か何かすっごい物を取れたとか言ってたよな……もしかして。このアイニィのことか?


 だとしたら少年よ。こいつは大物なんかじゃないぞ。綺麗な貝殻で釣れる大人なんて馬鹿でしかないからな。

 

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