表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
跳んで泳いで夏の海

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

31/153

夏がくる

 俺がバイトを始めてから早数ヶ月。日本にも夏が来た。


 梅雨明けのこの季節、本格的な夏に向けて気温も上がり、道端の雑草もぐんぐんと背丈を伸ばし始める。


 この時期になると虫達が騒がしくなると同時に人間達もまた騒がしくなるのだ。


 もう直ぐ海が解禁され、性欲丸出しの男がモテる為だけに鍛えた貧弱な肉体を夏空にさらけ出したり、免許取立てのキッズ達が砂浜に親の金で買ってもらった軽自動車を砂浜に並べて写真を撮ったりと俺としてはあまり好きではない季節が始まる。


 大体なんで暑いのに外に出掛けるのか意味が分からない、部屋にいればクーラーで整備されたひんやり涼しい環境で生活が出来るのに。


 ここ、バー『DEVIL』も酒を取り扱っている為空調が整備されており、快適に過ごせる。


 過ごせるのだが……。


 「うぇーいっ!!!」


 「うぇーい、うえうえーいっ!!!」


 「うえうえ?うえーいっ!!!」


 うるせぇ。


 どうやらクソったれ悪魔共も夏到来にはしゃいでいるようでいつにも増して店内は騒がしくなっている。


 いや、お前らそれ会話になってんの?文明を築く前の人間でもこんな頭の悪い会話しないぞ。


 俺は悪魔共にうんざりしながらもシェーカーを振る。ここ数ヶ月でシェーカーの使い方も様になってきたのでマスターからカクテル作りも仕事に加えられている。


 適度にシェイクしたカクテルをグラスに注ぐ。オレンジ色のカクテルが店の照明に辺りきらりと光る。


 グラスに薄くスライスしたオレンジを添えて、よし、完成だ。


 俺はグラスを持って、悪魔共に運ぶ。


 「お待たせしました。どうぞ」


 「おお、ありがとよ。……兄ちゃんも大分働けるようになってきたな。前までは雛鳥みてぇにピヨピヨしてたのによぉ」


 「あはは……ありがとうございます」


 何だよその例え。お前だって毎日酒を飲んでゲラゲラしてるだけじゃねぇか。


 まぁ、褒められることは悪くない。悪魔だろうとな。


 もう一度頭を下げてからカウンターへと戻る。すると、マスターがなにやら難しそうに顔をしかめながら帳簿を眺めていた。


 「どうしたんですか?」


 声をかけてみると、帳簿から顔を離し、俺の方を向いたから。


 「いや、少々今月が厳しくてな。……というのも割れたグラスや皿の分が響いていて」


 「そうなんですか……」


 割れたグラスと皿というのはマスター不在の日、応援という形で入ったアイニィがことごとく割ってった分だろう。


 俺の脳裏には両手を腰に当てドヤ顔のアイニィが浮かんだ。


 「そこで、だ。少しでも多くの資金を得るために私は考えた。……多田君。海は好きかね?」

 

 海?マスターの真意が分からず頭にはクエスチョンマークが浮かぶ。


 「そんなに好きじゃないですけど。ほら、日焼けとかしたくないし。それに海が好きな連中とはあんまり仲良くなれなさそうで」


 「ふむ、そうか。しかし人間の男は少々日焼けした方がモテると先日テレビでやっていたぞ。む?だけどあれは食パンのキャラクターだったか?」


 マスター、それ完全にあれでしょ、アンパン的なヒーローの奴でしょ。つかそんな幼児向けアニメ見てるのかよ。


 「まぁとにかくだ。明日バーは休みだが来るように。泊まりになるから着替えもな用意しておくんだぞ。あ、水着も忘れないように」


 「あの、マスター。俺全然話についていけてないんですけど。泊まり?水着?」


 話から察するに海にでもいくつもりなのだろうか。しかし海開きにはまだ時期的にまだ早い気がするんだが。


 「明日ここに来れば自ずと分かるさ。楽しみにしておけよ」


 「俺、明日も明後日も普通に講義なんですけど……」


 「多田君。講義の一つくらい受けなくても大丈夫だろ?君は普通の大学生だ。少々サボるのだって普通なんじゃないか?」


 とんだ屁理屈だが、普通と言う言葉に弱い俺を恨みたい。それもそうだと思ってしまった。


 「ひとまずこの件は後で話そう。今は仕事をまじめに取り組むように」




 次の日、俺は言われた通り着替えと水着、その他諸々をキャリーバックに詰めてバーにやってきた。


 全く。こんな荷物持ってこさせてマスターは何をしようというんだ。


 カウンターに座り、隣に荷物を置いてマスターを待つ。


 店内を見渡すとまだ朝ということもあり、朝日が入っていて何時もの薄暗い雰囲気とは違いそれが新鮮だった。


 「すまん。待たせたな」


 そのままボーっとしていると部屋からマスターが出てくる。


 今日のマスターコーデは黒い薄着のワンピースにツバが大きい麦藁帽子。なんだが普段の私服のイメージとは違うな。何時もならTHE ゴスロリという感じだが今日のは小さい女の子って感じだ。


 まぁ黒いワンピースをチョイスする辺りマスターらしいのだが。


 「それで。これからどうするんですか?海に行くって言ったって俺車持ってませんし。電車かバスですか?」


 「いや、違う。そんな人間の文明が造ったちっぽけな物は使わなくていい」


 「え?じゃあどうする気で……」


 俺の問いにマスターはニヤリと口角を上げる。


 「昨日のうちに準備は済ませてある。行くぞ」


 そう言ってマスターは先に店を出る。俺も後に続いた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ