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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
マスターがいない日

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馬鹿に塗る薬はない

 俺は何とか淫魔の誘惑に打ち勝ちカウンターの方へ向かう。


 すると、目の前に広がっている光景は。


 「どひゃあ……」


 辺り一面に散らばっているガラスの破片、そしてその中央に両膝をついて泣いているアイニィ。


 「一体どうすればこんな惨事に……」


 「ぐす……だって石鹸つけたらあわあわでぬるぬるになるじゃない。ひぐっそんなの滑って落とすに決まってるわよ……ぐすっ」


 嗚咽まじりにそんな言い訳をしているがそんな事を言ったら皿洗いが出来ないわけで。


 全くこいつは皿洗いもまともに出来ないのか。


 俺は破片を踏まないよう慎重に歩きながらアイニィの方へ向かって。


 「ほら、手を貸すから掴まって」


 「……ありがと」


 アイニィが手を握り引っ張り上げる。


 「破片は俺が片付けておくからその辺でくつろいでて……ん?」


 手を離そうとしたところでアイニィの手に何かしらの違和感を感じだ。


 「お前、指切れてるじゃん。ちょっと見せてみろ」


 「だ、大丈夫よこれくらい舐めとけば治るってっ」


 そう言って俺の手を振り払いパクりと指を咥える。


 「それ迷信だから。……一旦治療するから部屋行こうか」


 「嫌よっ!多田と二人きりなんてっ!……それにお店が……」


 「店は少しの間だけアスモデウスさんにお願いすればいいから。大丈夫ですよね?アスモデウスさん」


 アスモデウスに聞いてみるとキラりと白い歯を見せグットサインを出す。そしてその後左手で輪を作り右手の人差し指をズボズボ抜いたり刺したりと謎のジェスチャーをしてくるがそれは無視で。


 

 俺は嫌がるアイニィの手を引いて再びマスターの部屋に入る。


 すると。


 「……ムウマさん、何やってんですか?」


 入り口付近で恥じらいの笑みを浮かべながらもじもじと芋虫のように地面を這っているムウマがいた。


 「あの、その。躓いて転んでしまって……でも無理やり立とうとするとお洋服が破けそうで……」


 俺の口からため息が漏れる。まぁ俺が着させたのもあるし、仕方がないといえばそうだが。


 「じゃあ今立たせますからね」


 「あ、はいぃ……お願いしますぅ……」


 俺はムウマを立たせようとするがここで問題だ。俺はどこを触ればいいんだろうか。


 胴体に腕を回して起こすのが一番正しいのだろうが相手がムウマだし触りづらい。


 まぁ緊急事態だし、そこは気にしない方向でいこう。


 「じゃ、じゃあ起こしますよ」


 少し緊張しながらも俺はそっと彼女の胴体へ腕を回した。

 

 彼女の柔肌が俺の腕に食い込み、心地の良い暖かさが伝わってくる。


 いかんいかん、早く起こそう。


 そう思い少し力を強めたところで。


 「んん……っ!」


 ムウマから色気のある声が漏れる。


 「どうかしましたか?俺何かしたんじゃあ……」


 「いえ、なんでもないですっ!……ただちょっとお腹に食い込んで……えへへ」


 なんだよ、淫魔はどこでも性感帯なのかよ。


 何とか何事もなくムウマを起こして。


 「じゃあ俺はアイニィの手当てするんで悪いんですけどアスモデウスさんと二人で店の方お願いします」


 「はい、分かりました。任せて下さいっ!」


 ビシっとあざとく敬礼のポーズを取った後、ムウマはパツンパツンになりシルエットが浮き彫りになったお尻を向けて部屋を後にした。


 なんとかまず一難去った。そして次は。


 俺はベットで座っているアイニィに顔を向ける。


 彼女は何か意味深な顔でジーっとこちらを見つめていた。


 「……何?」


 溜まらず聞いてみる。


 「……別に」


 アイニィはそれだけ言うとそっぽを向いてしまった。


 ……なんだよ、俺なんかしたか?


 どこか納得はいかないが俺はテレビ台の下に置いてある救急箱を持つ。


 そこから絆創膏と消毒液を取り出して。


 「アイニィ、手出せよ」


 「んっ」


 素っ気無く差し出す手を俺は掴む。改めて見ると彼女の手には肉刺(まめ)が出来ており彼女の努力の証がある。


 アイニィはドジで間抜けでアホだがそれでも頑張れる娘なのだ。俺もそこは認めているし密かに応援もしている。


 「じゃあ消毒するからな。ちょっと染みるけど我慢しろよ」


 コットンに消毒液を垂らし染みこませて彼女の指にそっと当てる。


 「……っ!」


 傷口に染みたのか彼女の表情が曇った。


 「大丈夫か?」


 「……別に平気よ」


 優しく尋ねたが相変わらず彼女の態度は素っ気無い。俺嫌われることでもしただだろうか。


 消毒が終わった後、絆創膏を指に貼り付ける。これで処置は終わりだ。


 「よし、じゃあ俺は先に戻るからお前も少し休んでから来いよ。……あっ次皿割ったら許さないからな」


 「そんなの分かってるわよ。馬鹿……」


 俺にいつも通り軽く罵声を浴びせたところで顔を俯かせるアイニィ。


 やはり何か様子がおかしい、一体どうしたというんだ。


 「アイニィ、なんだか調子悪そうだけどどうかした?具合でも悪い?」


 再びアイニィの前でしゃがんで聞いて見る。


 彼女は俯いたままこちらを向かずに。


 


 「……あのさ、なんで多田はそんなに優しいの?」

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