熊さんパンツと弾けるボタン
「ビール一つお願いします」
ムウマが注文を受け、それを俺に伝えてくる。
店を手伝ってくれた中で一番役に立つのは彼女だ。
どこかのオカマのように馬鹿なことしないでまじめに働いてくれるし、ヘマもしないし。
「ふぎゃあああっ!」
カウンターの奥でガラスが割れる音とアイニィの叫び声が聞こえる。
ほら、一番ムウマがまともだろ?取り合えずあの馬鹿は後でシメる。
しかし、一つだけ彼女にも問題があって。
「ムウマさん、ちょっとこっち来て下さい」
俺は世話しなく働くムウマに呼びかける。
「えっと、私何かしちゃいましたか?」
「いえ、そういう訳ではないんですけどね。その、ちょっと服装が……」
「えっ?服装?」
俺の言葉の意図が分からないのかムチムチグラマーな身体をくねらせながら考えている様子。
だから、それね、原因。
彼女の服装はブラジャーの役割を辛うじてなしている超マイクロビキニ。そして熟した下半身に食い込んでいるガーターベルト。
こんな格好で働いても色々やっかいだ。
まず、俺の目のやり場に困る。その所為で先ほどから斜め前を見ているので首が痛い。
そして何より客のクソ悪魔共が先ほどから性欲全開のだらしない顔で彼女を見ているのだ。
もし、暴走でもして手でも出そうものなら大惨事になる。
そうなる前になんとかしなくては。
「ちょっと、着替えましょうか。多分制服余っていると思うんで」
俺とムウマはマスターの部屋に入る。
この部屋に二人で入ると前の事を思い出してなんだか緊張するな。
「制服は、確かこの辺りに……」
壁に隣接しているクローゼットを漁り、制服を探す。
そういえばマスターに私の部屋がどうとか言われていたが、これは決してマスターの下着とか普段着とかを物色している訳ではないのでセーフ。つか第一俺はロリコンじゃないし。
クローゼットにはマスターの派手な私服が綺麗に整頓されており、それらしい物は見当たらない。
となると、下にある棚か?
クローゼットに設置されている三段の棚のうち、一番上の棚を開けて見ると。
「あっ」
そこはどうやら下着入れのようで、私服同様フリル付きの派手なショーツが色とりどり綺麗に整頓されていた。
その中でも特に目を引いたのはマスターの趣味らしくない真っ白なショーツ。
気になるな。……いや、マスターのパンツなんか微塵も興味ないが派手好きのマスターがこんなのを持っていることが気になる。一体どんなパンツなのか。
恐る恐る摘むようにショーツを持ち、広げて見ると。
「げ、げぇ……」
広げてこんにちはしたのは例の顔つきが怖い熊が大きくプリントされていた。
やっぱあの熊気に入ってんだな。
「あの、多田さん?なんでおパンツなんか漁って……」
ここで俺はハッと気づきムウマの方を見る。
ムウマは物凄く微妙な顔で俺を見つめていた。
「いやぁ、あはは、これはその……」
俺は熊さんパンツをそっと戻し棚を締める。……ロリコン扱いされるのはほんと御免だ。
そのまま制服を探し、色々漁ってみたがあるのはマスターの制服だけ。
流石にこれは着れないだろう、背も胸も大きさが違うんだし。
そうとなれば。
「あの、俺のスペア貸すんで着て下さい」
俺は自分の鞄からもう一着の制服を取り出し、それを渡した。
本当はアスモデウスにぶっかけられたから俺が着替えたいが。
「分かりました。あ、あの着替えるんで後ろ向いて頂けますか?」
「ああ、そうですね。分かりました」
俺は彼女に背を向け着替えるのを待つ。
つか、俺が部屋から出ればいい話だがまぁいいだろう。
ゆさゆさと服が脱ぎ捨てられる音とジッパーが降りる音が聞こえてくる。あの服装にジッパーがあったかは不思議だが。
「き、着替えました。」
着替えが終わったようなので振り向いてみる。
着替えたムウマはなにやら恥ずかしそうに身体をくねらせる。
シャツのボタンが今にもはち切れそうで悲鳴を上げており、彼女の曲線を隠せていないピチピチのズボン。正当な格好をしているのだがそれが逆にエロくなっている。
なんだろう、俺はコスプレの風俗にでも来たのだろうか。
「ど、どうでしょうか?」
ムウマが前かがみになってポーズを取る。
前かがみになった事で余計胸が強調されて、ボタンが危ない。
そして。
「どわっ!」
彼女の胸から放たれたボタンが俺の額に直撃。その衝撃で俺の体勢が崩れ、そのまま倒れた。
「多田さんっ!大丈夫ですか?」
俺に駆け寄り顔を覗かせてくるムウマ。
そうすることによってボタンが弾けた所から見える素肌、そして男性を惑わす禁断の二つの果実が……。
くそっ!またこのパターンかっ!
落ち着け、落ち着けよ俺。悪魔なんかに惑わされるな。
何か別のことを考えろ何かないのか……。
何かを考える為に考えるというなんともお間抜けな事をしていると。
「多田さん?本当に大丈夫ですか?」
ムウマが顔を近づけてくる。
まずい、まずい。彼女の吸い取られるような唇が段々迫ってくる。
早く脱出しないとっ!
人間、パニックに陥ると動けなくなるもので身体が思うように動かない俺と、迫りくる淫魔。
その距離約五十センチ、誰か助けてくれっ!
その時だった。
「ほぎゃあああっ!!!」
カウンターからまたアイニィの絶叫と皿が割れる音が聞こえてくる。
「あっ!またあいつやらかしやがったな。すいません。俺先に戻ってますっ!」
俺は早口で捲くし立て、起き上がってそそくさと部屋を後にする。
アイニィ、よくやったぞ。でもヘマしたから後で絶対にシメる。




