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バイト先で金髪悪魔幼女とかを相手している俺ですが、それでも普通な人生を過ごしたい  作者: 天近嘉人
襲来のアホの娘

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彼女はポツリと語る

 「ふぇえええええんっ!!!」


 アイニィの泣き声が狭い路地に反響する。


 ああもう面倒くさい。


 「泣き止んでくださいよ。ほらハンカチ貸しますから」


 俺は常備しているハンカチを右ポケットから取り出し、それを差し出す。


 アイニィは大きな涙を拭く。そして思い切り鼻をかみやがった。


 「……ありがと」


 涙と鼻水で濡れたハンカチを返される。


 俺はそれを指で摘み、それからポケットには……入れない。汚いから。


 「さ、もう帰りましょう。いい加減店に戻らないといけないし」


 俺が再度手を差し伸べる。


 だが彼女は俺の手を弾いた。


 「嫌よ。私は負けられないんだから、絶対に」


 涙目を軍服の袖で拭きながらこれだけ負けてもまだ勝負を続ける気のアイニィ。


 どうして彼女はここまで頑張ることが出来るのだろうか。


 なにがここまで彼女を動かすのか。


 俺には分からない。何故ならそこまで頑張るだとかをしてこなかったからだ。


 以前も話したが、頑張りや努力が必ず報われるとは限らない。むしろ叶わない方が圧倒的に多い世の中でどうして人間というのは頑張れるのだろうか。


 努力なんて無駄な労力なのだ。その癖に困難だとか色々な苦難が襲い掛かり、そして挫折する。


 そんな非生産的な行動は俺の人生には必要ない。


 しかし俺は努力する人間を否定したり馬鹿にしたい訳ではない。


 だから俺は知りたいのだ。彼女が頑張る理由を。

 

 アイニィは顔を俯かせて、考え込む。


 そしてそのままポツリと語り始めた。

 

 「私、馬鹿だし力も弱いから昔から回りにからかわれたり馬鹿にされて生きてきたの。辛かったし、反抗出来ないのが何より悔しかったわ」


 力のないものが淘汰される、それは人間も悪魔も同じらしい。


 「ある日、私はいじめっ子達にいびられていたわ。……そんな時に助けてくれたのがお師匠なの。お師匠はいじめっ子達をぶっとばした後、私を優しく介抱してくれたわ。私よりあんなに小さいのに、お師匠はすっごく強くてかっこよかった。それから弟子入りしてお師匠の為に頑張ったわ。少しでも恩返しできる為に。少しでも近づける為に」


 アイニィは顔をあげ、立ち上がる。その瞳には決意を灯して。


 「だからあんたには絶対に負けられないわ。この勝負に勝ってマスターに認められるのは私なんだからっ!」


 両拳を握り締め、俺を睨みつけるアイニィ。


 彼女の言いたいことは伝わったし、よく分かる。


 俺は少し後悔した。本気で必死に挑んできた彼女に対しての敬意が欠けていたし、負けようとしたのも恥じるべき行為だと思う。


 俺も彼女の力になりたいと柄にもなく思った。しかしこのまま勝負を続けても彼女に勝ち目はないだろう。


 それなら。


 「……分かりました。取り合えず一旦バーに帰りましょう。俺に考えがあるので」


 

 俺達二人はバーに戻る。時刻は午前の四時を回っており客は居なく店内はガラリとしていた。


 カウンターにポツリと立っているマスター。俺達二人はマスターの前まで行く。


 「ようやく戻ってきたか。それで勝負はどうなった?」


 マスターが尋ねて来る。隣にいるアイニィが歯がゆい顔をした。


 「マスター。アイニィから話があるそうですよ」


 俺がそう言うと興味深そうな顔をするマスターと驚くアイニィ。


 「ちょっとどう言う事?私は別になにも……」


 「ほら。いいからお前の気持ちをぶつけてみろよ」


 マスターは悪魔だが、性格まで悪魔な訳でない(俺に対しては限りなく悪魔だが)


 なので、アイニィが心から話せばきっと分かってくれる筈だ。


 「ほう、聞いてやる。話してみろ」


 「う、うぅ……」


 行き成り話を振ったので何を話せばいいか分からず困惑しているアイニィ。


 全く仕方のないやつだな。


 俺はアイニィに近づきこっそりと耳打ちで。


 「ほら、さっき俺に話したみたいに言ってみろって」


 「そ、そうね。やってみるわ」


 コホンと咳払いをし、大きく深呼吸をした後で。


 「お、お師匠。私は助けてもらったときからずっと貴方を慕っててずっとお傍にいたいんです。だから、私を雇って下さいっ!お願いしますっ!」


 頭を下げるアイニィ。マスターは腕を組んで考える素振りをとってから。


 「……君の気持ちはよく分かった。だがな、ウチにはもう多田君と私で充分なんだよ」


 「そ、そんなぁ……」


 「だけどまぁ、私ももう少し集客率を上げたくてな。そこで地獄で広報活動してくれる人材を探していたんだよ。どうだ?やってくれるか?」


 「お師匠……っ!はいっ!わかりましたっ!是非私がやります。いえ、やらせていただきますっ!」


 「そうか。それではよろしく頼むぞ」


 「お師匠ーっ!」


 カウンターを飛び越えてマスターに抱きつくアイニィ。


 「……暑苦しいぞ。離れてくれ」


 「えへへー。お師匠。大好きですぅ」


 マスターの頭に顔を(うず)めて精一杯の愛情表現をする飼い犬のように顔を擦り寄る。


 マスターも困り顔だがそこまで嫌がっていないようだ。


 俺はそんな二人を見てなんだが頬が緩む。


 努力は決して結果に直結されるわけではない。


 だけど、ちょこっと、ほんの少しだけ、ご褒美は貰えるらしい。


 だからと言って俺がこれから努力をするわけではないが、それでも頑張った奴が少なからず報われたのは嬉しかった。


 次の日。


 「馬鹿多田っ!また私と勝負よっ!」


 勢いよく開けられたドアから勢いよく馬鹿が入ってきた。


 「ちょっとまたかよ。言っておくけど何回やっても俺は負けるつもりないからな」


 「うっさいわねっ!私はまだ店員の座を諦めてないんだからっ!さぁ今日はベーゴマで勝負よっ!」


 ポケットからベーゴマと紐を取り出すアイニィ。


 「ベーゴマとか俺やったことないんだけど。選択が昭和なんだよなぁ。……まぁ受けて立ちますけどね」


 「今日こそ絶対にギャフンと言わせてやるんだからっ!さぁ席につきなさいっ!」



 やれやれ、またバーに変な常連が増えたな。

三章完結ですっ!

次回はバーに崇が一人だけっ!?

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